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人狼物語 三日月国


161 完全RP村【こちらアンテナ、異常アリ】

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【人】 生物学者 アマノ


>>347

────そう、か。

[不在がちで、でも事あることに自分の仕事場を見せてくれた父親。父親の不在を寂しく思う母親。

どちらも俺にとっては御伽噺の登場人物のように遠く朧げだ。

無愛想ながらも人に愛されるラサルハグの原点が見えた気がした。]
(352) 2022/07/23(Sat) 16:42:30

【人】 生物学者 アマノ


………………。

[お父さんが亡くなったのは事故か何かで……?と問う前に、淡々と、でも穏やかな口調で、ラサルハグの家族の歴史が語られていく。

そういえば奴は大学でいつでも一番安い定食だったな、とか。教本も先輩から譲り受けたのを使っていたか────とか。

人の身なりにそう気づく俺ではないが、思い返せばいつも似た風な出立ちだったようにも思う。]
(353) 2022/07/23(Sat) 16:43:27

【人】 生物学者 アマノ


正直、な。

お前が心から納得して船を降りるのなら、俺も無理矢理宇宙に引きずり出そうとかは思ってなく、て。

ただ、その義足を理由にして諦めると言うなら、それは違うだろ、って────腹が立った。

俺、怒りすぎてたよな。
…………すまん。

[ラサルハグがあまり素直に己の事を語るものだから、俺も釣られてしまったんだろうか。

常になく、思うことが素直に口から零れていた。
だから強がることもせず、]

────正直、すごく緊張はしてるけど。

変に格好つけようとかは……思わないようにする。

[まあ、腹は括ったよ、と、小さく笑い。

うっすら空に赤みが増えてきたら、”朝っぱら”はもうすぐだ*]
(354) 2022/07/23(Sat) 16:44:39

【人】 生物学者 アマノ


>>355

────その報告は要らなかったぞ……。

[まじかよ……と、ラサルハグに背を向けるように身体を捩ってシートに頬を押し付ける。

マスコミのカメラの前であの啖呵はないだろう、俺。冷静になった今振り返ると、肝は冷える一方で。

で、アレ見て俺に会いたいとか。

ラサルハグの母親なのだからと信じてなければ、俺を憎んで刺したい気持ちで呼んだのかと勘繰りたくなるくらいだった。

────まあ、それは杞憂だったのだけど。]
(367) 2022/07/23(Sat) 17:28:43

【人】 生物学者 アマノ


[こんな突然に、手土産もなく申し訳ないと頭を下げる俺に、気にしないでとラサルハグによく似た蒼い瞳が細められる。

昨日の深夜に決まった訪問だったと言うのに食卓には絵に描いたようなこの地方の──つまり俺の故郷でもある──朝食が用意されていた。

懐かしい、と言う感覚とも少し違うのだけど、実家の家政婦が良く作っていてくれた献立。記憶の中のそれよりも、今日の食事は数十倍も美味しかった。」

────この茄子、すごく美味しいです。

[味噌汁と漬物に使われていた茄子があまりに美味しかったから呟けば、庭で育てているのだと。

食後には、気に入ったなら持って帰れば良いと家庭菜園を案内してくれた。

いつの間にか、ラサルハグの姿は消えていた。]
(368) 2022/07/23(Sat) 17:29:54

【人】 生物学者 アマノ


────心配、ですか。
ラサルハグがまた宇宙に行くのは。

[別に、このタイミングを狙ってたじゃない。
けれど、ぽつりと言葉が落ちて行った。]

あいつ、最初はもう飛ぶ事を諦めてました。

それを俺が「飛びたい気持ちが残っているなら飛べ」と怒鳴りつけてしまって。

今の義足がハンデなのなら、ハンデにならない義足を俺が作ればいいだろ、って……。

[でもそれは俺のエゴかもしれなくて。
悩んでます。

少し俯きがちに呟くように言った俺に、彼女のふわりとした微笑みは崩れなくて。

纏う雰囲気も顔立ちも全然違うのに、俺はどこか、チャンドラを思い出していた。 *]
(370) 2022/07/23(Sat) 17:31:07

【人】 生物学者 アマノ


>>372

[籠に山盛りの茄子やきゅうり、トマトにピーマン。]

ええ、あいつピーマンちょっと苦手みたいですよね、ドライカレーに入れたら渋い顔してました。

[────なんて。

常の俺なら初対面の相手にここまで口が回ることはまずないのに、自然と言葉が出てしまう。

それは良く知るあいつの雰囲気で、あいつの眼差しで、でも少し違う温かな雰囲気を持っているこの人の前だからこそで。

ありがとうございますと口にした麦茶は、これまで飲んだどんなコーヒーよりも美味しく思えた。]
(389) 2022/07/23(Sat) 20:45:36

【人】 生物学者 アマノ


そう、ですか。

[馬鹿なんだからと言いつつ、彼女はとても嬉しそう。

仕方ないわねと、それは諦観でも悲嘆でもなく、ちらりと見た瞳は憧憬に近かったように思えた。]

────俺、ラサルハグが好きです。
学生の頃から。ずっと。

[意図せず”例の動画”と似た言い回しになったことには気付かない。

でもその口調は全く異なり、緑の庭に静かに落ちた。]
(390) 2022/07/23(Sat) 20:46:36

【人】 生物学者 アマノ


最初は、あいつの右脚になろうと思いました。
…………でも、それはあいつに失礼な話で。

今は共に歩きたいと思っています。
置いていかず、置いていかれず、いつでも横を見たら互いが見える距離と速度で。

[縁側に前屈み気味に腰を下ろし、決意するようにぽつりぽつりと呟いたら、”貴方、良い子ね”と、いう声と共に頭を撫でられた。

カサついて節ばった、働き続けた女性の手。

それでも俺は、サロンだのネイルだので磨かれた、綺麗に整っているだけのあの母親の指よりも余程に綺麗だと思った。

いつの間にかラサルハグも近くに居たが、どこから聞かれていたとしても、まあ構いやしないさ。*]
(391) 2022/07/23(Sat) 20:47:45

【人】 生物学者 アマノ


>>398

ぃ、せい…………。

いや……。

[さすがに口籠もる。

あの動画を見て"カッコよい"とか言える人間は早々いないと思う。今から思えば、単に過剰なる逆ギレだったわけで。

それでも、もうなんだかこの人には頭が上がらなかった。

仕方ないだろ、ただでさえ"お母さん"という存在に不慣れなうえに、その女性ひとときたらラサルハグにそっくりなんだから。]
(404) 2022/07/23(Sat) 21:59:51

【人】 生物学者 アマノ


ああ、と……正直、"お母さん"というものが俺にはよく、わから…なくて。

両親は存命だけどいつの間にか勘当されていたし。
それ以前からもずっとそんな風でした。

だから俺には、"家族"というものの在り方も理想もわからない。

けど、ラサルハグは誰より大事にしたい。
そしてラサルハグが大事にしている人やものも、大事にしたいと思っています。

[伝わっただろうか。伝えられただろうか。

失礼な言葉になっていやしないかと、常の己の口の悪さを省みても今更なのだけど。]
(405) 2022/07/23(Sat) 22:01:44

【人】 生物学者 アマノ


それでも彼女は笑ってくれて、そうして俺は"二日程度の休暇"を求められた意味を漸く理解したのだった。

視線の先には、休暇を求めて来た張本人。]

────なあ、俺、花火したことないんだが……?

[ふ、お前、その格好、クルーの皆に見せてやりたいよ。

まるで夏休みの少年みたいだな。*]
(406) 2022/07/23(Sat) 22:02:13

【人】 生物学者 アマノ

>>407

[ラサルハグの母親は、正しくラサルハグの母親だった。

表情が違うだけ──ラサルハグは真顔でやる、そして彼女は笑顔でやる──で、することは同じ。

保存したのだという悪魔のオプションつきで例の動画を目の前で再生された俺は無事に死亡し、なんでお前だけ緩い格好してんだよ俺着替え持ってきてないんだからなと取り繕う事なくラサルハグに言い募り、そしてラサルハグと似たような格好になって。

することと言えば大学生どころか小学生まで巻き戻ったような"夏休み"な2日間だった。

機関士長と生物学者の熱愛報道は、目付きの悪い2人組の方や制服組、方や白衣の専門職というその見た目も騒動を大きくしたところがあった(らしいと後に知った)のだけど、ジャージ着てスイカ食ってるこの様見たら、案外、その騒ぎは一瞬で鎮火したのかもしれないな。]
(410) 2022/07/23(Sat) 22:56:46

【人】 生物学者 アマノ


いや大丈夫。
俺、研究所のソファとか床の寝袋ででも寝られるし。

[布団は初めてだけれど、ベッドよりは固いとはいえふかふかだし、太陽の匂いがするし。

昼も夜もない宇宙空間を漂い続けた4年強、半ば以降はほぼ意識が無いままで居たものの、自覚のないところで摩耗するものがあったのかもしれない。]

……なんだか、ここに居ると色々悩んでいたのが馬鹿らしくなってくるな。

[久しぶりに太陽の光をこれでもかと浴び、瞬く星空を地上から見上げた俺は、なんなんだこの謎のデトックス効果はと、くすくすと笑いを零したのだった。]
(411) 2022/07/23(Sat) 22:58:39

【人】 生物学者 アマノ


────ところでラサルハグ、明日の帰り道だけど。

[並べられた布団、身体をラサルハグ側に向けて横たわりながら秘密を打ち明けるように囁く俺。]

…………ラブホ寄らない?

[あとは寝るだけの深夜にそんな事言うかと思われたかもしれないが。

今言わないでいつ言うんだよ明日車乗ってからだと帰路の計算とか色々面倒になるだろうが。]

したい。お前に触れたい。お前が欲しい。

[ストレス解消の効果(あるいは成果?)だろうか、どうにもムラムラが止まらない。

慣れてないの何ので極一部のクルーには大変にご迷惑をおかけした一連の件は、生還後早々 >>-973 に落着を経て、以来、まあ、(50)20n50位はヤッてるんじゃなかろうか。知らんけど。

さすがに慣れたし、気持ちよさも、まあ、相当に?

欲しいものは欲しいと言うことにしたんだ。
だって、お前の全ては俺のもの、なんだろう?*]
(412) 2022/07/23(Sat) 23:01:46

【人】 生物学者 アマノ


【帰還後 1ヶ月少し経った頃】

ルヴァ…………。

[最後に顔を見た記憶は、コールドスリープ中。
精神体がふわふわしていたあの不思議な空間で、簡単な会話を2つ3つ交わしたあたりで途切れている。

地上で再会したルヴァは、意識はあるようだったものの、どこかぼんやりと遠い目をしていて >>393 医師の話によると、ストレスがピークを迎えた >>179 のが大きな理由だと言うことだった。

それほど良くない状態なのかと、俺とラサルハグが目を見合わせるも、あの快活な揶揄いの声はかからない。

くるくるとよく動いていた瞳が焦点を合わせぬまま1点を見つめ続け、俺らの問いかけに関してもごく僅か頷くか、囁き声のような不明瞭な音が喉から零れるばかりだった。

────この馬鹿。
バーナードやサダルたちが心配するだろうが。

ルヴァと親しかった──と俺が認識していた──者の名を心の中で挙げたけど、その中にゾズマの名は入らなかったくらいには、未だに俺はルヴァの事をそれほど知ってはいなかった。]
(413) 2022/07/24(Sun) 6:17:43

【人】 生物学者 アマノ


いや……別に、仲が悪かったというわけでもないし。

[俺の側からルヴァの見舞いに行こうと言い出したからか、ラサルハグは少し不思議そうな顔になり、そんなに仲良かったかと言いたげだったから、そう返事する。]

ルヴァ、何かと人のこと見透かすような事言ってきたからな、
船に居た時は、それを少し鬱陶しく思うところはあったかも……だけど。

[同じ調査員ということで、なんとなく"組"として捉えていたバーナードがやけに人懐こくて不思議と気に障らなかったのも大きかったと思う。

比較対象的にルヴァは遠い存在になりがちで、そも、ルヴァはラサルハグと共に最初のコールドスリープ者に指定されてしまったから会話する機会も失われてしまっていて。]

でも、お前は寝てる時にルヴァと船内歩き回ってたんだろ。
けっこう仲良くなったと聞いたぞ。
(414) 2022/07/24(Sun) 6:19:28

【人】 生物学者 アマノ


[俺としては、ルヴァはスリープルームでのあの珍事を一から十まで見ていた(もとい、見させられていた)わけで、それについてはずっと謝罪したいと思っていた。

スリープ中の精神体で彷徨っていた時もなかなか2人になる機会もなく、心の隅に宿題を残したまま帰還してしまったという次第。

その宿題は結局今日も終わらせられなかったわけだけど。]

────日常は、なかなか戻らないものだな。

[チャンドラの意識は戻らない。スピカも精神ケアの療養施設に入っている。ゲイザーも入院期間が長引いていると聞いていたし────そしてルヴァも。

けれど生きて動けるものは前に進まないと。俺には目下、やりたいことが山積みだ。]

この後、目星つけた物件見に行く予定だったんだけど、お前も来るか?ラサルハグ。

[キッチンが立派で居間が広いんだ。
個室、つか寝室は1つだが、それで問題ないだろう?*]
(415) 2022/07/24(Sun) 6:21:57

【人】 生物学者 アマノ


【〜1年後と少しの頃〜】

…………あのクソが、"僕に、拒否権はない" >>335 とか。
なんでああいう言い方しか出来ないんだ。クソ馬鹿。

[苛々と罵声を噛み潰しながら濃いめのコーヒーを啜る。

解ってる。俺が「お前には使い道がある」>>326 なんて言い回しをしたから、お前はそれに応えただけ。

手元に届いたバーナードの"健康診断"データがまた、それまでの凄惨さを窺わせるもので、俺の眉間の皺は更に更に深くなった。

どれだけ血だのなんだの抜かれてんだよ。なんで抵抗しないんだよ。できないんだよ。

この世の中は本当にクソの吹きだまりだ。]
(416) 2022/07/24(Sun) 7:11:34

【人】 生物学者 アマノ


これ、お前の部屋の鍵な。
1ブロック離れたところに俺とラサルハグが住んでるから。

夜は飯食いにこい。朝は自分でなんとかしろ。

[室長自らそんな事をしなくてもと部下にはやいやい言われたけれど、プライベートの部分まで研究所の人間に託すのは職権乱用が過ぎるというもので。

いつだったかサダルに言われた、"一緒にすぶずぶ沈んでしまうかも" >>0:199 などという危惧は俺には当たらない──帰還後の回復の早さは精神面肉体面共に頑健であると証明されたようなものだったしな──のだから、なら、伸ばせる手は伸ばすだけだ。最後まで。

かくして、少し不思議な共同生活もどきが始まった。

研究所の人間には、バーナードをくれぐれも"実験体"としては扱うなと伝えてある。

契約上、微生物研究の一助にはなって貰いつつ、実態は研究助手兼雑務係のような体で働いてもらった。

最初のうち、"仕事”ってそんな事で良いのかと、俺にコーヒーを差し出しながらものすごく怪訝な顔になっていた気がするけれど。]
(417) 2022/07/24(Sun) 7:13:23

【人】 生物学者 アマノ


[いずれは──奴の出身星の人間が奴に未来永劫手を出せない状況になれば──いつしかバーナードがそう希望していたように、船乗りとして生きる道に戻らせる心積もりでもいた。

その頃にはラサルハグの脚についてもいくらかの見通しがついているだろうしな。]

バーナード、金曜は夕飯食ったらすぐ帰れ。

[なんでと問われ、察しろよ馬鹿、と眉根を寄せる。]

────っ、ラサルハグと"する"日なんだよ!
こっちは新婚家庭みたいなもんなんだ。察しろ。

[憮然と言うも、「いいよぉ気にしないで」 >>-1221 じゃないわ。

もうそろそろボタンを押したら俺の肉声の"馬鹿"が再生されるマシンを研究所で作ってもらって良い段階かもしれない。

ラサルハグはラサルハグで案外バーナードが気に入りらしく、俺が無理矢理奴を叩き出す方向に動けば困り顔になりやがるし。]
(418) 2022/07/24(Sun) 7:16:47

【人】 生物学者 アマノ


[最後には「なるようになるだろ」>>-1239 なんて、3人暮らしの提案まで飛び出てきて、俺はがっくりと肩を落としたのだった。

別に、構わんけどな。
大型犬が1匹増えるような、そんな感覚ではあるけどな。

でもお前ら、"夜"の方はどうするつもりだ。
俺の側に控える気などさらさら無いし、好んで見せたり聞かせたりの悪趣味はさすがに無い。

こうなったら持ち金にものを言わせて最高レベルの防音設備と最新鋭の鍵を寝室につけるしかないのか?と、俺は真剣に資料を眺め始めたのだった。*]
(419) 2022/07/24(Sun) 7:19:07

【人】 生物学者 アマノ


【1年後から、そう遠くない未来】

おかしな光景だよな。
ここにお前の"右足だけがある"って状況は。

[爪もあるしなんならきっちり体毛まで生えてる。

左足と並べても、当人でなければどちらが"偽物"かを見分けるのは難しいレベル。

青緑色に淡く輝く培養液カプセルの中、揺蕩っているのはラサルハグの新しい足だった。

そろそろ最終段階だから見てみるかと研究所に連れてきたラサルハグと共に、俺はそれを見つめていた。]
(438) 2022/07/24(Sun) 11:20:53

【人】 生物学者 アマノ


[チャンドラの遺産 >>3:18 は莫大なものだった。
と共に、脱実験体搾取の流れに乗る星や国、企業からの支援もこの5年で飛躍的に進んでいた。

技術的な面で言えば俺の専門の方向は幸いにも見事に合致していたし、バーナードの細胞提供による理論革新は期待以上に役立った(それはもう、奴があの1年間弱切り刻まれていた"有用性"を納得できてしまうくらいには)。

結果、奴の免許更新に間に合う形で、ゴールは目前に近づいている。]

あの船で研究していた微生物がRUKKA-Vだったろ。
今、お前の足を繋げようとしているのは、RUKKA-Z。

"RUKKA"の意味、お前に話したことあったっけ。

[無菌培養室から出て、廊下を歩く。]

遠く失われた言語でな。

────"希望"って意味。
(439) 2022/07/24(Sun) 11:21:11

【人】 生物学者 アマノ


[それは最初は、俺一人が抱えこんだ希望エゴでしかなかった。

あの船で過ごしたあの時が教えてくれたのは、繋ぎ紡ぎ伝えることで未来に続く希望があるということ。]

だからお前の足は、皆の希望ってわけだな。

…………昼飯食べに行くか。
近くに新しいカレーライス屋が出来たんだ。

[再び宇宙そらへ云々なんて話は、あえてせずに日常に紛れさせる。

きっとお前が好きな味だと思うけど、と言いながら研究所の外に出れば、足元に落ちる鮮やかな光。

頭上にはチャンドラを見送った、あの時のような青空が広がっていた。*]
(440) 2022/07/24(Sun) 11:22:16

【人】 生物学者 アマノ

【〜1年とほんの少し後〜】

[青い空の下、チャンドラを見送った。

それは終わりと始まりの1つの区切りの日で、特に"所属"を移ることになったバーナードとその身柄を預かる身になった俺はそれから暫くは多忙な日々、落ち着く暇も無かった。

チャンドラの事を思い出す余裕もないまま、幾日かが過ぎたある日。

ミスティックアンテナ号の運航会社から私物の残りを引き取りに来て欲しいとの旨の連絡が入った。]

────残り?

[俺のものは特にこれというものは無いはず。

お前は何か連絡があったかと、傍らのラサルハグと顔を見合わせる。

研究用機材の類は所有者が明確とのことで比較的早々に返却されていたし、歳月を経たことで既に壊れたもの──残念ながら愛用のコーヒーサーバーは壊れていた──は処分して貰っていた。

書類か何か残っていただろうかと、翌日、指定された場所を訪れたわけだけど。]
(534) 2022/07/24(Sun) 21:42:57

【人】 生物学者 アマノ


[渡された紙袋には、幾冊かの医療書籍が入っていた。

あの時 >>2:235 に貸して貰った再生医療の専門書。
チャンドラが、俺に譲り渡すよう、遺書に記していたそうだ。

そのうちの何冊かはタイトルを覚えていたから帰還してから改めて購入したものもある。

あれから5年以上経っても時代遅れになっていないその教本は、未だに再生医療従事者が指南書として扱う極めて専門的な内容も含まれていて。
チャンドラという医師の聡明さ、真面目さがそのまま現れているような蔵書だった。

勿論いただいて帰ります、と受け取ったところ、こちらの本は貴方の私物で宜しいですか────と、もう1冊の本が渡された。

家のキッチンに置いてある、買い替えた新しい本とは違う、表紙の端が少し折れて黄ばんだ、中のページあちこちに染みがある、『はじめての一人暮らしごはん』 >>2:236。]
(535) 2022/07/24(Sun) 21:44:01

【人】 生物学者 アマノ


────いえ、これは、

[チャンドラの本ですと言いかける前に、眼前の担当者から謝罪され、言葉を飲み込んだ。

曰く、サインがあったものの共通言語での記載ではなかったから選定が伸びて返却が遅れた、申し訳ない、と。

それなら尚更チャンドラのものと判るだろうと首を傾げた視線の先には、慣れない筆致での俺の名が──滅多には使わない、母国語での名前が──記されていた。天野大海、と。

それは、チャンドラからのメッセージ。

"ノーコメントで"持って行って欲しいという、無言の、秘密の形見分け。

確かに俺のです、ありがとうございます、と呟いて、汚れのない白い表紙の医学書が詰まった袋にそれも詰めた。

その後は、どう帰宅したのか、あまり覚えていない。]
(536) 2022/07/24(Sun) 21:45:05

【人】 生物学者 アマノ


[玄関に辿り着いて、閉じた扉に背をつけるまでが、限界で。]

────だ、から、嫌だったんだよ…………っ。

[扉に凭れるようにずるずるとしゃがみ込むと、床にいくつもの水滴も落ちてきて、なんだ、これ、と思いながら、呟いた。

先に帰宅していたラサルハグが何事かと出てきてくれたけど、俺は、"ただいま"の一言も言えないまま、ラサルハグに向かって口走る。

畜生、泣くのは嫌なんだよ。やたら疲れるし、ラサルハグ曰く"ひどい顔"らしいし。

けど、涙は全然、止まらなくて。]

知らない奴が勝手に死んだのなら、こんなに辛くなかった。

親しくもない奴が、コールドスリープの"椅子取りゲーム"に負けただけだったら、こんなに苦しくなかった。

こんな気持ち、全部要らなかった……っ。
(537) 2022/07/24(Sun) 21:46:52

【人】 生物学者 アマノ


[要らないから。こんなの要らないから。

────どうかチャンドラを返してください。

支離滅裂な事を口走る俺に、全部わかってるから、という風にラサルハグの手が触れてくる。

ああ、もう俺は、チャンドラの手の温かさも知ることが出来ないんだ。
もう二度と。

そう思ったらまた泣けてきた。

大事なものが増えるのは嬉しいこと。失うのは悲しいこと。

情緒13歳は、そんな至極単純な事をこの日初めて思い知ったのだった。*]
(538) 2022/07/24(Sun) 21:47:35