54 【半再演RP】異世界温泉物語【R18】
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視点:人 狼 墓 恋 少 霊 九 全 管
| ……。 (0) 2020/12/28(Mon) 10:00:00 |
―とある少年のXX―
[学校指定のランドセルなんてものは、
たしか、年齢が二桁に届いた頃にはもう、
背負うのをやめて、部屋の飾りにしてしまっていた気がする。
珍しく仕事を早退したらしい父に連れられて、
病棟の廊下を歩く。どこかの病室から、泣き声が響いていた。
難産だった、と聞いたのは、このときだったか、
それとも父方の祖母からだったか、はっきりしない。
ただ、母子ともに危険な状態、というワードだけが、
鮮明に記憶に残っている。
死にかけて、命を懸けて、こどもを産んだ。
生も死も、頭では理解している年齢だった。
だから、こどもなりに、大変だったんだな、と慮る。
ベッドの上の母は、点滴の管を繋いだまま、
やさしく、赤子に語りかけていた。]
「迅、ほら、妹ちゃんよ」
[招かれるまま、母の腕の中の子を見下ろす。
ドキュメンタリーかドラマかで見た生まれたての赤ちゃんは、
しわしわでまっかっかだったけど、
母に抱かれた妹は、家族と同じ肌の色をしていた。
言われるままに母の腹に触れたり、声をかけたりしたけど。
そこからこれが出てきたのだ、と言われても、
すぐにはピンと来なくて、じっと見下ろす。
両親に促されて、そっと指を伸ばしてみる。
筆箱の中の消しゴムと大差ないくらい小さなてのひらに、
きゅ、と指先を握り込まれて、慌てて引っ込める。
微笑ましげに笑い合う両親とは裏腹に――
そのちいささが、おそろしい、と思った。]
[妹と母が家に帰って来てからも、
この頃は、積極的に世話をするなんて考えはなかった。
触れたら壊れてしまいそうで、
人形じゃなくてニンゲンなんだから、それは即ち死で、
かあさんが目を離している間に、そっと顔を覗き込む。
息をしている。動いている。……生きている。
それだけを、確かめるように眺める毎日だった。
母の薄くなった腹と赤ん坊を見比べては、
あの中にどうやって入っていたのだろう、と不思議に思って、
余計にこわくなった。
ニンゲンの身体の中にニンゲンが居る。
生命の神秘、と今なら一括りにしてしまうそれが、
小学校卒業を目前に控えた身分では、
どうにも得体のしれない何かという印象が拭えなくて。
ひとりで座るようになる頃には、
自分の膝の下までしかないこの子を、
うっかり蹴ろうものなら死なせてしまうのだと、
その事実がひたすらにおそろしかった。]
[赤ちゃん言葉で話しかける父や母を、
どこか冷めた目で見ていたし、
自分から妹になど、ろくに声をかけた記憶もない。
ちょっとしたことですぐ泣く赤ん坊という生き物が、
鬱陶しいとまではいわずとも、
自分の世界に組み込むまでもない存在だったことは確かだ。
部屋にこもって、ヘッドフォンをMDプレイヤーに繋ぐ。
音楽をかければ、一人の世界は簡単に出来上がった。
そうやって一切を遮断して自分を切り離していたように思う]
[その意識が変わったのはいつだっただろう。
自分ひとりで歩き始めた妹は、
父でも母でもなく、よく兄を追いかけるようになった。
なんでもないカーペットの段差で転んで、
まあるく驚きを示した目と、視線が合う。
この頃にもなれば、ああ、泣くな、と
此方も赤ん坊の相手に慣れてきている頃だった。
腹が減っては泣き、眠くても泣き、何もなくても泣く。
――けれど予想に反して、すっくと立ち上がった妹は、
必死で泣くのをこらえながら、ひしと足にしがみついてきた。
泣いている間に、兄が泣き声を避けて二階にあがることを
学習したのか、はたまた偶然だったのか。
思春期と反抗期とで気が立っている兄に、
そうとは知らずにしがみついて、
にぱ、と笑ったのだ。
目に、大粒の涙を浮かべたままで。]
[転んでも抱き起こしもせず、
近寄りもせず、ただじっと見ていただけの兄が、
そこに居てくれたことが嬉しいのだと言わんばかりに。]
マリ、……真里花、
えらいね。
泣かなかったね。
[そっと、頭を撫でた。
はじめて自分から抱え上げた妹は、ずっしりと重く、
――とても、あたたかかったことを、覚えている。]
―― 少女の小さな世界 ――
[ 物心ついたときには、家には兄が居た。
父、母、兄、妹のよくある家族。
父母が忙しくしているから、
兄が甲斐甲斐しく世話をしてくれた。
それもよくある話。 ]
にいちゃ まりか なかなかったよ
えらい?
[ どこに行くにも、カルガモの親子よろしく
兄のあとをついて回った。
年頃の兄からすれば、うっとおしかった事だろうに。
私の知る兄はいつも、優しい顔をしていた。
転ぶよ、と注意されていたにもかかわらず
蝶々を追いかけて転んだ日も
迷子になってしまった時も
――泣かないから見つけられなかったとは
ある程度成長してから聞いた笑い話だが
怖い夢を見た時も。
――どう見ても泣いていたとしても、
口癖のようにそう言っていた。 ]
[ 大きな兄の手がすきだった。
どこにいても見つけてくれる兄がすきだった。
絵を描いて、粘土を捏ねて、踊って。
それを見せて、報告したら
上手だねって褒めてくれる兄がすきだった。
兄さえいれば、この先もずっとずっと
幸せなんだって、思っていた――。
しかしそんな幼い幸せは、あの日派手な音を立てて
脆く崩れ去っていった。 ]
りこん?おとうさんとおかあさん
バイバイするの?
[ 真里花はお母さんと一緒に行こうね。
そう言った母に、不思議顔のまま、頷いた。 ]
おとうさんお仕事で遠くに行くの?
はやく帰ってきてね
[ 未就学児に"離婚"の真意までは伝わりようがなく。 ]
まりか お兄ちゃんとはっぴょうかいの
練習するやくそくしてるからまたあとでね
[ あの日、物言いたげに顔を顰めた父の思いに
気づいたのは小学校を卒業する頃だった。
妹が、あの時の私と同じような年頃に
なった頃。
手紙はときどき返事が来る。
誕生日には電話も来るし、電話もする。
そうして少しずつ、いつでもそばにいてくれた兄が
会うことはできない兄に変わっていくのを
渋々、受け入れた。受け入れるしか、なかった。 ]
『遠足は水族館に行くんだって
お兄ちゃんはどこに行った?』
『ねぇあのね ――……なんでもない
そろそろ寝ないと おやすみお兄ちゃん』
[ 電話の先で兄は私の話をちゃんと聞いてくれたし
父母の愛情を感じないではないけれど、
生まれたばかりの妹には、甲斐甲斐しく面倒を見てくれる
兄は居ない。
その代わりに、あまり手のかからない姉がいたものだから。
父母は真里花の事を「手のかからないおりこうなお姉ちゃん」
だと囃し立てて、甘ったれを封殺した。無意識で。
気持ちの上では兄がしてくれたように、
妹の世話を焼きたいと思ったけれど。
小学校に通い始め、環境も大きく変わり
それに一生懸命だった私は、そこまでは手が回らなかった。 ]
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