205 【身内】いちごの国の三月うさぎ
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[大きかった一房が、さらりと流れるようになれば。
温風を切って、見上げ。
いつもの表情が覗いたら。]
うん、格好いい。
[……と、満足気に仕上がりに頷いただろう。]
[そんな穏やかな時間を過ごして、どちらともなく。
布団に入り込んだ。
二つ並んだ布団を、隙間なくくっつけて。
枕を隣り合わせ直して、床に入り。
待っていたように伸ばされた腕に、身じろぎ。
腕の中に身を収めると、閉じ込められる。
睡魔が訪れるのは思いの外、早く。
数度背中を叩かれるだけで、うと、と瞼が落ち始め。
ぬくもりに包まれながら、船は眠りへと旅立っていく。]
[疲れ果てた身体は、睡眠を求めていたのか、
朝まで目覚める気配もないまま、ぐっすりと眠っていた。
瞼の向こうが少し、明るくなったような気がするけれど、
瞼はまだくっついていたいと、言うから。
逆らえないまま、言うことを聞いていた。
ただ、眠る前にあった温もりが、無いような気がして。
少しだけ、重い瞼を持ち上げて、姿を探し。
その背中を見つけたら、もぞ、と身動いで。]
…………んぅ、……、
[ぬくもりを求めるように、
ぴと、と両手と額を彼の背中に擦り寄せた。
夏が近づいているとは言え、まだ朝は春眠暁を覚えない。
要するに、もう少し寝ていたい。]
[無くしたものが確かに埋められて、
とろ、とまた瞼が落ちてくる。微睡みに落ちるのは早い。
寝乱れて浴衣が肩から少し下がり落ちている分、
ぬくもりと求めてしまうのは仕方がない。
腿まで覗いている脚も、
冷えた足先を温めるように、足首をすり、と絡めて。*]
[ 出会った頃よりすんなりと抱きかかえることが
出来るのは、多分、抱えられる側に心得が
出来たから、と思う。
協力的だと自分よりも大きな体であっても
持ち上がることがあるのだから。
信頼して首に手を回してくれるなら
前よりずっと手慣れた風になっても、おかしくはない。
温風を浴びて眠たげにする君が変わる、というから
ドライヤーを渡して、前から乾かしてもらうことにした。
世話を焼かれるっていうの、とても心地よかったから。
――弟妹はおらずとも、門下生は多く。
どちらかといえば兄の顔をしている期間のほうが、
長かったから。
髪が乾いて告げられた言葉には、
僅かに照れて、頷いただろう。 ]
[ そうして溶けるように眠ったため、
夢を見ることはなかったかな。
起きるか起きまいか、悩んでいると
側に在ったぬくもりが離れたことに、
気づいたのか、僅か数センチの隙間を
埋めるように、ぴたりと擦り寄ってくる君は、 ]
ん?起きる?
[ まだもう少し、眠っていたいようで。
体を起こすどころか、微睡みのなかへ
落ちていきそうだが。一応声を掛けて、
振り返ると――。
うわ、絶景。
声なき声で呟いた。 ]
そうだね、もう少し寝よう。
こっちおいで。
[ 浴衣で寝ると、そうなるだろうと昨晩
予測はしていたけれど。
寝乱れて肩からずり落ち、緩んだ合わせから
腿まで露出していて。
実際目にすると、大変悩ましいお姿で。
眠たげな姿もまた、あどけなさの他に、
壮絶な色気を感じて、長いため息をついた。
――これ以上見ていると、昨晩の反省すら
吹っ飛んでしまいそうなので。
あと三秒、と決めて、眺め終われば
布団の中に招き入れるように寄り添って。 ]
[ ――それが間違いだったと気づくのは
慌ただしく、着替えを済ませた朝食の直前。
布団の中に招き入れて、擦り寄ってくる
ぬくもりに、僅かな眠気が勝てるはずもなく。
と、いうか――、自分の節操の無さに、
呆れてしまわれても、致し方なく思う。
触るだけ、一回だけ。
それを遵守はしたけれど、今までにはない
起こし方をしてしまったことは、否めない。
朝の光を浴びて、浴衣の合わせから覗く
赤が鮮やかで、とは言い訳に違いないだろう。 ]
――ええ、とても
[ 浴衣を着直そうとしたところで、
それでは見えてしまうからと、慌ただしく
私服に着替えたところで、ドアノックの音がして。
布団の上げ下ろしと、朝食の準備に
伺いましたという仲居さんが、
よく眠れましたかと、問うのでそう答えたあと。
――……あら、と小さく零した仲居さんが
恥ずかしげに目を逸らしたところで、
頬のそれ、に気づいたけれど。
朝食を終えて、合流する際には、
マスクをつければ、隠れてしまうだろうから
特に何を言うこともなく、ごゆっくり、と
彼女らが去れば、何食わぬ顔で、熱いお茶を啜った。* ]
[ぬくもりを求めるみたいに擦り寄った時、
彼が起きているのかどうかは、確かめていなかった。
眠っていたなら問題なかったし、
起きていたら、もう少しと布団の中を長引かせたかも。
だから、降り掛かる声には、]
……んー…… 、
[ぐずるように返事とも否定ともつかない反応を返して、
身体はより、近づけるように額を擦りとぶつけて。
絡めた脚を、もぞ、と動かして。
脚に挟んでもらって、ぬくもりを求め。
もう少し、うとうとと船を漕いでいて。]
[誘いの声に、ン、と寝ぼけたまま頷いて。
眠ったときと同じように向き合う形になれば、
もぞもぞと、胸の内に身体を落ち着けた。
包まれる温かさが好ましい。
身じろげば尚更、浴衣がずれて肩を露出して。
腰元には帯が纏わりついている程度。
邪魔な裾は後ろに残した分、
顕になった腿でぴとりと片脚を挟み込んで、
抱き枕のようにすれば。
瞼を下ろしたまま、夢見心地にふにゃりと、笑んで。
抱き込まれた安心感に満足して、
くぅ、とまた眠りに誘われていく。]
[揺蕩うようにゆらゆらと、眠気に誘われるまま。
しばらくの間、寝息を立てていた。
もぞりと、動く手は抱き直すものだろう。
その手が、悪戯に動くのに気づかないでいたら。]
……ン、
[鼻から抜けるような甘い声が溢れる。
一度だけじゃなくて、数度。
胸元がすぅすぅして、くすぐったくて。
顕になった腿の間に彼の太腿が割り入れられて、
朝の兆しを見せていたものを、下から押し上げられて、
吐息混じりのあえかな声が、喉を突く。]
[約束していた朝風呂は、予定していたよりも、
少し短く、慌ただしいものになったかもしれない。
寝乱れた布団を仲居さんに直してもらうのは、
とても居た堪れなくて。
対応は彼に任せてしまって、少し長めに湯に浸かり、
脱衣所でそのやりとりを聞いていた。
何食わぬ顔で対応しているその人。
朝から悪戯を仕掛けてくるような人です。
仕事慣れから来ているのか、そもそもの性格なのか。
今はその対応に助けられながら。
彼女たちが部屋を後にしたタイミングで、
ようやく脱衣所の扉を開けて、
様変わりした部屋の眺め、タオルで口元を抑えながら。]
……上がりました、
[湯気を立ち上らせつつ、彼の向かい側に
腰を下ろして、朝食を共にする。
いつもとは、少し、――――違う朝。*]
[ あたたかさを求めて、擦り寄って
いるのは知っていたし、眠たげな声が返ってきたから
二度寝にしけ込む、つもりだった。のに。
ぐずるような反応をして布団の中へ入ってきて。
脚を絡めてくるのも、ぬくもりを求めての
行動だとは分かっていた。
寝ぼけたままで、頷いて、胸にぴたりと
張り付いて、ほとんど意味を成していなかった
浴衣が更にずれ込んで、布団の中で
剥がれていく。露出した腿が、挟まるように
脚を割って、抱き枕よろしく抱き込まれれば
あちらはほっとしたのか、ふんにゃりと笑うから。 ]
[ 一方的ではなく、共犯に興じるつもりに
なってしまってからは、だいぶ手が早かった筈。
なにせ、たっぷり寝て、目覚めもすっきり
してしまって、こちらも兆しが見え始めていたから。
赤い花のほど近くにもう一輪、それを咲かせて
撫でさするだけでも、摘める程度に尖ったそこを
きゅう、と摘めば、愛らしい声があがって、
漸く状況を察した君が、焦ったように名前を呼ぶ。 ]
うん?なに、おはよう。
[ 不釣り合いな挨拶を投げやって、そっと勃ち上がった
それに手を伸ばしたところで、ばか、と
可愛く罵られただろうか。
――可愛い文句を聞いていてもいいのだけど、
焦らされる前に、その口をあまく
塞いでしまうことにして――。 ]
[ 昨晩に比べれば、さっくりと事が済んだとしても
半分布団の中で、事に及べばどうしたって、
熱は籠もるし、汗もかく。
時計を眺めて、彼女らが来る前に
風呂へ促して。
あたかも、そういうことがありました、
という風に見えない程度に布団を畳み、
着替えを済ませて、彼女らを迎え入れた。
無論、窓を開け放ったままで。
彼女らとのやりとりを聞いていたのか、
準備が整った段階で、脱衣所から
出てきた彼に、おかえり、と声を掛けて。 ]
朝食も、美味しそうだね。
いただきます。
[ 穏やかな時間を始めようとする。
――つい一時間前まで見せていた顔とは
別人みたいに、にこやかに。 ]
朝からこんなに沢山の種類があるって
贅沢だよね。
[ 夕食もそれは見事なものだったが、
朝食とて、引けは取らない。
朝採りであろう野菜をたっぷりと使った
和え物、炊きたての御飯、温泉卵。
貝柱で出汁を取ったであろうスープは
お茶漬けのようにしても、良さそうだ。
普段であれば、これほどの量を食べることは
ないけれど。諸事情で、なかなか空腹だったので。 ]
お味噌汁、おいしい。
[ 今日の予定はどうだったか、昼食はどこかで
取る予定だったかもしれないけれど、ぺろりと
平らげてしまいそうだったし、 ]
ご飯もうちょっと いこうかな
[ 炊きたてのつやつやした米があまりにも
美味しくて、おかわり、も視野に入れていた。* ]
[共犯と呼ぶにはすっかり熱を上げられて、
緩やかな高まりが収まらなくなっていたのは、
すっかり彼の手によって、作り変えられて
甘く柔らかくなってしまった身体のせい。
おはよう、なんて平然と挨拶を交わしていても、
手は布を押し上げる下肢に伸びていて、
そっと握り込まれたら、息を詰めて、
ぴくんと跳ねるみたいに、腰が疼いてしまった。
かろうじて返せた言葉は、悪態一つ。
腰がぶつかって彼も兆しているのが分かったら、
小さく唸りながらも、降りてくる唇を受け入れて、]
……ぅ、
ンッ、 ……
[とろ、と眠気よりも彼に溶かされるように、
瞼が降りていく。瞼の裏に浮かぶのは、彼の姿。
その後は、もう、――――言うまでもないだろう。]
[仲居さんたちが朝食を用意する間に、
ドライヤーを使う時間は十分にあったから。
半分以上乾いた髪は、軽く水気を残したままだった。]
……ただいま。
[おかえり、というから反射で応える。
やっぱりその表情にさっきまでの艶を帯びた姿はなくて。
ギョーカイジンってみんなこうなのかな。
みたいな、余計な考えた浮かんだけれど、
それを口にするのは辞めておこうと思う。
知ったところで、俺の知っているギョーカイジンは、
彼の一人なので、何の役にも立たない。]
[並んだ朝食の前に腰を下ろせば、
ほわりと仄かに炊きたての御飯の香りがした。
食事を目の前にしてしまえば、
そんなことも忘れて、表情が綻ぶ。]
いい匂いですね、……美味そう。
[自身でも朝食はそれなりに作るけれど、
これほど数は多くはない。
手抜きでピザトーストにする日もあれば、
休みの日には時間を掛けてブレックファーストも。
彼と朝を一緒に過ごすようになってからは、
和食が好きな彼に合わせて、
朝食を日本食にすることが増えてきている。]
[ほうれん草をツナを和えたものは
砂糖と醤油で甘くもさっぱりとしていて好みの味だった。
それだけ食べても美味しいけれど、
炊きたてのご飯に乗せて米と一緒に食べれば、
熱さと甘さが相俟って、より美味しく感じる。
一般的な味噌汁ではなくスープなのは少し珍しい。
昨夜の海鮮も美味しかったし、貝柱が使われているなら、
海もそう遠くはないのかもしれない。
スープを一口飲んで、ご飯を運んで。
貝類の出汁が十分に効いている味を堪能する。
焼きたての魚は、焼き鮭。
温泉卵の他に、定番の厚焼き玉子。
鮭の身をほぐして、口に運べば程よい塩気が
口内に広がって、鮭の旨味を引き立てる。]
旨い。
[シンプルに、一言。それだけでいい。]
[ 朝食を済ませ、合流までの時間。
外を散歩しようと言い出したのはどちらだったか。
川のせせらぎに混じって少し遠くに、
水の流れる音がする。
自分たちの居室の他にも部屋に備え付けの
温泉からか、それとも足を踏み入れる
ことがなかった家族風呂や、大浴場の方か。 ]
蛍って見たことある?
随分昔に、祖父の家で一度だけ
見たことがあるんだけど、
夏はそういうとこに行けたらいいなって。
[ 約束を口にすることへの戸惑いや罪悪感を
消してくれたのも、君だったから。
なんて大げさな理由なんか、いらない。
ただ君と、見たことのないものを、一緒に見たいだけ。
これが最後ではなく、これが最初なのだから。
これから何度だって、そういう機会は作れるのだ。 ]
[――――これは余談の、蜜月の話。
翌日の休みが合えばいつもの流れで
彼の家に尋ねることになり、その日も。
少し遅めに帰宅した後、
二人で珈琲を飲んで休憩を入れて、
先に風呂を促されたので、遠慮なく汗を流しに向かった。
泊まる日に、何もしないで抱き合って眠る日もあれば、
互いにどちらともなく熱を求める日もあった。
そういう"準備"をするのは、出来るだけ。
彼には見つからないように密かに浴室で済ませることも
度々、あって。]
…………、
[今日も後ろに伸びていった手は、
相変わらずぎこちないまま、自分の身体を解す為に、動く。]
[『俺で勃つのか?』という考えは、
以前にもあったけれど、これもまた。
『俺で興奮するのか?』という疑問符はあれど。
求められていることは把握してしまった。
エプロンと彼の前にしゃがみこんで、
エプロンを拾い上げた後、布面積の大きさを確認しながら。
少し、躊躇い。]
……服の、上からで、いいなら。
[ぽつ、とこちらも零すように返した。
さすがにエプロンだけを身に纏うのは恥ずかしいが過ぎる。
……し、料理人の手前、
どうしてもエプロンというものが意識的に制御をかける。]
[そうして、立ち上がったなら用意された
エプロンを拡げ、頭から被って後ろ手にリボンを括る。
エプロンの裾より少し短い丈のパンツが前掛けに隠れるが、
上はTシャツの上に胸当てをつけるという、
何ら不思議はない、エプロンの形。
女性のように胸の膨らみもない。
それでも気のせいか、最近胸筋周りが
肉付きがよくなってきている気はするけれど。
汚れのない、何の変哲もないエプロンを装着して。
くるりと、半身を回して。背中側を見せれば、
後ろはリボンだけで少しずり上がったハーフパンツと、
Tシャツが覗いているだろうか。]
……これで、い?
[首だけを後ろに向けて、彼の様子を伺いながら、
これから、いたします。というのなんだか少し恥ずかしい。*]
[ その姿を今から、自分が
欲望の赴くままに、汚すのだ。
理想が期待になり、
期待が現実に変わった瞬間、
ギラついた視線が、君の全身を舐める。 ]
あぁぁ……… やばい、予想以上、………
[ 様子を伺うようにされて、
たった二歩の距離を焦るように詰めて。
ぎゅう、と後ろから抱き締めた。 ]
もう、勃ってる……
[ 抱きしめればゆるりと、どころか
ぐわっと、熱を蓄え始めてるそれが、
体に当たる。当たれば、どうしたって
気づかれてしまうだろうから、口に出して。 ]
すごい、興奮する……
[ 今夜、寝られなくても諦めて欲しい。
明日は休みで仕事もない、昼まで寝てても
構わないから。
ぴたりと隙間なく、抱き締めたなら
興奮気味に、熱い息を、聞かせながら
悪い手が、するりと、Tシャツと肌の間に
割り込んでいく。* ]
[エプロンを身に纏うのにそう時間は掛からない。
たった布一枚、紐で結んで留めるだけ。
それがキッチンのあらゆる助けになることを知っている。
後ろ手に紐を結んでいるとき、
ふと視界の端でそわそわしている姿に苦笑を零して、
そこまで期待されていると、完成度の低さに、
笑われてしまうかなと思ったものだったけど。
いざ、お披露目するように半身を翻せば、
想像以上に色欲の色の付いた目を向けられて、
少し、ドキリと心臓が跳ねた。
時折見せる堪えきれないような雄の顔に、
これまでも何度、狼狽えさせられたことか。
下から這い上がるように向けられる視線が、
身体の隅々まで、見られているようで。]
……いつも通り、ですけ、どっ……
[普段通りを装うとして、手を伸ばされ、
後ろから抱き竦められたら勢いに、語尾が跳ねた。]
[ぎゅう、と隙間なく抱き込まれて。
意識せずとも腰元に硬いものが当たる。
抱きしめられている分、身動きが取れなくて。
興奮して掠れた声が、耳朶にちょうど当たって。]
……ンッ、 ……、
[それだけでぞく、と期待に身が甘く震えた。
とくとくと、早まっていく心臓が収まらない。
前に回った腕に、そっと手を添えて。
もう一度、改めて後ろを振り向いたら、
首を向けた先に、溜息を漏らす彼の顔があって。]
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