【人】 アジダル[ 柔らかな拒絶を示しても縋る手はなかった。適切な距離に近まった二点の隙間を眺め、これで『人の気配があっても熟睡する』練習にはなるだろうと、薄く笑んで首肯する。 ] それでいい。 おやすみ、……シグマ。 [ 認識に齟齬があるなど少しも考えないで、黒髪を乱すように手を滑らせた。そうして呼べない名の代わりにとなる就寝の挨拶を告げる。 ……告げられることは幸福なことだ。本当に。手を取って共に踊れるような日は当たり前にあるものじゃないのだから。 彼が来る前にはシャワーを済ませていた体は、冷えた空気に晒されても未だ熱持っていた。アルコールに浸った胸は距離感における喪失など一切合切感じ得ずに天井を向いて、 ] (22) 2020/09/30(Wed) 6:07:13 |
【人】 アジダル[ 次に眼を開いた時、その部屋の中は 静まり返ったダンスホールだった。 熊を追いかけて辿り着いた森の奥、 カスタネットを鳴らし合って踊り狂った彼らは やがて疲れ果てて朝露の中に伏せていた。 しとどに濡れた黒衣より したたり落ちる温い赤滴。 嗅ぎ慣れた硝煙の香りに眼を見開いて 強烈な既視感に襲われて、 背中を引いていた筈の重力が突然下に落ち、 強烈な眩暈に額を押さえて踏鞴を踏んだ。 ……その背中に声がかけられることを知っている気がする。 揶揄いの主は自分と違って汚れの一つもなく、 文句を言うはずだった唇を閉ざすしかないのだと、 知っている、気がした。 ──これは制圧の日だ。 ] (23) 2020/09/30(Wed) 6:07:31 |
【人】 Cucciolo アジダルcucciolo はいはい、どーせ僕はグズですっとろい仔犬ですよーだ。 ボスみたいに真っ白なまま帰るなんて夢のまた夢だぜ。 [ 不貞腐れた感情を隠しもせず歯を剝き出しにする。 銃創が散乱し穴だらけになった床を、倒れ伏した人間から 溢れる血が静かに覆い隠していった。 その溜まりを強かに踏みつけたというのに、ボスの靴は 少しも汚れることなく艶めいたままだった。 己にはその姿が穢れない救世主のようにも見えていたが、 彼女の手が血と罪で真っ黒に染まっているのを知っている。 疵 モ ノ の 小 悪 党 軽い笑い声を洩らしたブロンドのスカーフェイスは 獣道を進むかのように奥の小棚へ近づいたのだ。 よく覚えている。 覚えて、いる? ] (24) 2020/09/30(Wed) 6:09:47 |
【人】 Cucciolo アジダル[ 20にも満たないような姿の青年は、その小屋の中で 困惑したように首を擦った。 ふと入口の方を、……観測者の姿を目にすれば、 手にした拳銃を躊躇いなく向けただろう。 ] 誰だお前。 どうしてこの場を知っている? [ ひどく情熱的な敵意に満ちた視線の先、 彼の背後の扉を潜る前は なにか、べつのことを考えていたような気がするが ───もう一度通り抜ければ思い出せそうな気がするが、 塗り替えた今はそんな思考に至らないまま、 長い金髪を括った女を庇い立てるように 血だまりで靴を汚した。 夢の中、靄の中で、 ]*この奇妙な景色を目にした時の事、 夢を夢とも知る事なく、彼に背を向けたまま 寝惚け眼で迂闊に足を踏み入れたこと等は すっかり頭から抜けていた。 (25) 2020/09/30(Wed) 6:13:18 |
Cucciolo アジダルは、メモを貼った。 (a7) 2020/09/30(Wed) 6:20:59 |
【人】 Cucciolo アジダル[ 暗色の目元や体格をじろりと確認したが、その人物は 事前に把握していた面々の内に存在しなかったはずだ。 けれど自分たちが踏み入ったのは、人里離れた森の奥。 ハイキングの一般人が偶然立ち入るような場所でない。 一見して堅気で無さそうな体躯の男が 銃口を向けられて平然としている様が 場馴れかそれ以外の理由なのか、 力量を推し量る事も出来ない程度に 未熟な頃の青年には読み切れず。 ] Sigma? ……何だそれ、コードネームか。 浮浪児でももっとマシな言い訳するぜ。 僕は「どうしてここを知っている」って聞いたんだが? [ 聞きなれない響きの名を舌先で転がした。 偽名にしては疑わしすぎる音と、毅然としながら剣呑な瞳、 降伏の両腕が紐づかない。 無暗に牙を剥く幼さは見抜かれやすかった。 奴もまた青年の青さを察したのかも知れないと 勝手に奥歯を噛み締める。 ] (62) 2020/10/02(Fri) 6:46:19 |
【人】 Cucciolo アジダル[ 目撃者は処理するのが通例。不運にも通りかかった人や 動く事なかった家無したちが片付けられるところは 幾度となく見てきた。 けれどどこか甘さの捨てきれない青年は その理不尽さに都度眉根を寄せていた。 ] どうあれ、そのまま帰すってわけにゃいかないな。 [ 明らかに疑わしい人物を相手にしてもこの時もまた。 添えるだけでトリガーの指を曲げる気にはなれず、 無表情の奥底にある策略を探りながら まだ重く感じるグリップを握り直した。 軽く上げた顎を傾け後方に声を投げようと、した時だ。 背を向けていたブロンドの女はライターで目当ての紙を焼き "空虚"に武器を構えていた彼の背後に近づくと その項のあたりでフリントホイールをジャッと回す。 ] (63) 2020/10/02(Fri) 6:46:49 |
【人】 Cucciolo アジダルあ゙っッづ、ぁ!? なにしやがんだあんた!!?? [ 飛び散った火花に纏わりつかれ、項を押さえて飛び上がった。 まだオイル入ってるだろなんてことしやがると、 愕然とした顔を披露する。 銃口の狙いを一切ブレさせないまま振り返るも、 犯人は寧ろ顔面の傷跡を歪ませ怪訝な顔をするばかり。 それもそうだ。 記憶の中に存在するボスは彼を知らず、 その姿を見ること等なかったんだから。 ] は? 何と話してるって、ここにいるこいつとだけど ……いるよ!? 違う、ほらここ、 違う違う、キメてもないしトんでもないってば! [ 薬はご法度だが、と重低音で吐きつける眼の冷たさが そのまま背筋を這い上がったようだ。 血と体液に塗れているのはこちらの方だというのに、 青年はその赤く塗られた爪の色に臆して喉を鳴らす。 彼女の眼ともう一人の眼を何度も視線で往復し、 とうとう額に掌底を押し当てて唸り声をあげた。 ] (64) 2020/10/02(Fri) 6:47:02 |
【人】 Cucciolo アジダル[ なんでもいいが医者には手前でかかれよ、 そう告げたボスが部屋を出る背中を見た時の顔面は 幽霊を主張する子供のように不快を示していた。 ] ひ、拾った命だからってあんにゃろ……! [ 呟いた途端、空間の一部にノイズが走る。 ……思い出した瞬間、記憶の一部が混ざりこむ。 抱えた借金を片付けられず逃げ回った父親 →を、吊るされて揺れる様を笑った暴漢 →を、撃ち殺した背を踏んで一家を見降ろす集団 →に、啖呵を切って縋りつく少年……自分 →の、首根っこを掴んだ女……ボス →が、踏み割った英雄のフィギュア。 稼ぎ手を無くした家の、家族を守るためには それしかないように思えていた。 だから万が一にでも彼女の背中に向けないよう、 射線をずらしなが青年は彼を睨みつける。 ] (65) 2020/10/02(Fri) 6:48:59 |
【人】 Cucciolo アジダル[ 八つ当たりめいた声色で喚き散らせど、 英才教育を受けた銃口はぶれないまま。 ] 意味がわかんねえ……che palle. どう見ても堅気じゃないよな、あんた ボスのことやけに見てたが…… ……あの人にやられた霊の類? [ 入口を背にした彼は光を浴びて影を伸ばしているというのに、 これすらボスは見えなかったんだろうか。 靴の裏に着いた血をこそぎ落とすように 警戒した足取りで少し近づけば そろりと銃口をぶつけようとした。 接触の感覚があれど、なかれど 靴跡残るから外に出ろと告げる。 ] (66) 2020/10/02(Fri) 6:49:16 |
【人】 アジダル[ それからしばらく後でも、直ぐでも。 外に出たのなら思い出と体を取り戻すし、 なんなら項垂れかける男の姿だってあるに違いない。 ]* (67) 2020/10/02(Fri) 6:52:55 |
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