【人】 空虚 タチバナ[痛くて、苦しくて、どうにかなりそうだった。 生者を死へ誘う程の強く暗い感情が、 今日ばかりは自分すら傷つけるように荒れ狂う。 生者の目を多く見てしまったから? 注いだ痛みを他人事だと思えなかったから? それとも異界化の影響だろうか。 彼女の口にした救いは、生者だけに与えられるのか。 いや、一度両手に抱えてしまったからだろうか。 少しでも、欲しいと思ってしまった命を。] (63) 2022/08/13(Sat) 22:35:25 |
【人】 空虚 タチバナ……どうして、ここにいるの。 [耐えきれない感覚によろめき、蹲っていたせいか、 結>>43が近づいていることに気づかなかった。 髪の隙間から瞳を覗かせ、ずろりと相手を見る。 尋ねた声は背中と同じく、か細く震えていた。 彼に肩を支えられるまま手を引かれ、立ち上がる。 得た質量を支えきれず、 彼へよりかかるように身体が傾いだ。] ぁ……、 [あたたかい。 死んだ者にはないぬくもりが触れた場所から広がる。 決して熱が移る訳ではないけれど、 己を苛んでいた痛みが和らいだ気がして 身を離そうとした意思も忘れ、身を任せる。 彼は、寄り添うことを許してくれるだろうか。 拒まれない限りはそのままの体勢で、 彼の言葉と心音に耳を傾けるつもりだ。] (64) 2022/08/13(Sat) 22:35:48 |
【人】 空虚 タチバナ[彼の提案はそう長くなかった。 けれど私より雄弁で、私よりずっとまっすぐだった。 人の言葉をなぞる悪戯にはじとりと視線を向けたが、 おぞましさよりも拗ねたような色が宿る。 最初からこちらを怖れもしなかった彼にとっては、 何の牽制にもならないだろう。] なんで……、 [また彼に理由を尋ねようとして、口を噤んだ。 「あなたには他にも幸せがあるのに」なんて、 傲慢にも過ぎる言葉だったからだ。 私の地獄が世間にとって甘えであるように、 私の思う彼の幸せも、彼には空虚なんだろう。 それを贅沢だとは思わない。 正しい選択ではないのかもしれないけれど、 正しさが幸福を保証しないことは ずっと前から分かっていたのだから。] (65) 2022/08/13(Sat) 22:36:10 |
【人】 空虚 タチバナ[彼が私の名前を呼ぶ。 そう長く離れていた訳でもないのに、 頭の中で繰り返していた声>>32よりも鮮明な響きが 澱んだ何かを流してくれるようだった。 髪の先に縋っていた闇>>21がほどけていく。] ……結、むすぶ、 むすぶ? [存在を確かめるように空いている方の手を伸ばす。 色に浸る時よりもぎこちない、頬を撫でる仕草。 寄りかかっていた身体を少しだけ起こして、 彼の目が見える位置に顔を上げる。] ……ぁ、…… っ、 わたし で、 …………わたしで、 いい ……の? [もし心臓が残っていたら、 鼓動の激しさに破裂していたかもしれない。 無価値の真実を植えつけられた女には、 求めた者が自分を欲してくれるなんて未来が 訪れるとはどうしても信じられなかった。 緊張に口の中が渇いて、何度も生唾を飲み込む。 今にも「そんな訳ない」と返って来やしないかと いいや彼に限ってそんなはずはないと、 正反対の感情に心がバラバラになる。] (66) 2022/08/13(Sat) 22:37:02 |
【人】 空虚 タチバナ[でも、私を知りたいと言ってくれた。 手を離そうとしたのに、また見つけてくれた。 期待するのは怖くて、信じるのは恐ろしくて、 喪ってしまうのはきっと耐えられない。 言葉で返事をするより先に、 闇の拘束を解いた身体が彼に抱き着こうと跳ねる。] (67) 2022/08/13(Sat) 22:37:15 |
【人】 空虚 タチバナ― 選択の先/院内廊下→ ― ……出たいの? [廃病院に似合わないデートという単語に面食らう。 それから彼の外を望むような様子に、 じとりとした視線を向けた。] ダメ。結は私の傍を離れちゃダメ。 [繋いだ手を引き寄せ、 引き連れた闇が紐のように細く伸び、 二人の腕の周囲にぐるぐると巻きついた。 まだ恐る恐るといった域を出ないが、 これまでよりずっと露骨に彼への執着を示す。] (69) 2022/08/13(Sat) 22:39:52 |
【人】 空虚 タチバナ……少なくとも今は絶対に出られないよ。 外とは別世界だから。 [結局は正直に答えてしまうのだけど。 彼がお腹が空いたというのなら、 購買部や食堂の話をするつもり。] あ……料理、したこと ない。 [監視で母の時間を奪う手伝いは許されていなかった。 だからきっと上手にできない。 代わりに食器はすごく綺麗に洗うはずだ。 まるで生きた人間みたいに手が荒れてしまったら ハンドクリームを塗ってくれたら嬉しい。 もしかしたら、愚かだと切り捨てた過去の夢が、 未来へ形を変えて蘇ることもあるかもしれない。] (70) 2022/08/13(Sat) 22:40:35 |
【人】 空虚 タチバナ何……食べたい? 食べ物の味、もう忘れちゃった。 [結に手を引かれるまま病棟の廊下を歩く。 引きずる闇こそ離れたが、 黒い髪に紛れて細い闇が揺らめいている。 むしろ彼の片腕は解こうとしない限り捕らえたまま。 さながら捕食でもされているような有様だろう。 他の獲物にちょっかいを出す怪異は多くないはず。 けれどもし彼に手を出そうとするのなら、 威嚇くらいはするかもしれません。ね。]* (71) 2022/08/13(Sat) 22:41:27 |
空虚 タチバナは、メモを貼った。 (a14) 2022/08/13(Sat) 22:46:23 |
【人】 空虚 タチバナ― →購買 ― [結と己を捕らえた影は痛みこそないが、 身じろぎを封じる程の圧迫感を与える。 触れ合った腕、服越しでも彼の体温を感じた。 どれだけ触れ合っても同じ温度にはなれずとも、 彼の生きたぬくもりが何度も滲んで溶けていく>>79。 長らく感じていなかった、 あるいは初めて感じる心地よさだった。 肌を重ねる鮮烈な快感とは違う穏やかさが、 永久に己を苛み続ける痛みから遠ざけてくれる。 今この瞬間は、頭痛が心を乱すことも 混じった誰かの情景が全身を傷つけることもない。 だから彼が噴き出して懸念が杞憂だと分かっても、 片手の不便を訴えられるまでは 拘束が緩まることはなかっただろう。] (92) 2022/08/14(Sun) 1:55:22 |
【人】 空虚 タチバナ[道中、結の語る展望は、 生者らしく陽光の下を歩くような光景だった。 当たり前のようにここを離れることを口にする彼。 想像もしなかった内容に死を湛えた目を見開く。] どう……かな。 [命ある彼はどこへ行っても息ができるだろうけれど、 本来ここに在るべきでない自身は この病院に渦巻く怨念や邪気によって力を得た身だ。 もちろん、己の感情ありきではあるけれど、 ここを離れても今の質量を保てるとは思えない。 ――それに、強い力を持つ彼女>>0:1と 彼女が寄りそう彼>>0:0が逃がしてくれるかどうか。 死者との交流をあまりしてこなかった自身には どうにも判断がつかなかった。 つくづく、何もかも違う存在なのだと実感する。 捕らえたままの腕の先、繋いだ手を強く握った。] (93) 2022/08/14(Sun) 1:55:42 |
【人】 空虚 タチバナだから……離れるのだけ、やだ。 [どこにもいかないで。一緒にいて。 やがて新鮮な気持ちがなくなっても飽きないで。 ずっとずっと、死ぬまで、死んでも、 私以外を選んではいけない。 だって、あなたは私だけの獲物だから。 いつかはこの感情のすべてを彼に明かすのだろう。 しかし、今はこわごわ様子を伺いながら 距離を縮めて甘えるだけだ。] (95) 2022/08/14(Sun) 1:56:19 |
【人】 空虚 タチバナ[普段精神病棟ばかりを彷徨い歩いているが、 さすがに食堂や購買といった目立つ場所は分かる。 結を案内しながら、彼の話>>82に耳を傾けた。] んー……もうよく覚えてないけど、 ナポリタンは子どもの頃食べてたな。冷凍のね。 [仕事が忙しい母だったが、 自身が台所に立つことは許されなかった。 必然的に出来合いの物が食卓に並ぶ機会も増える。 冷凍食品のナポリタンはメニューのひとつだった。 なお、女自身に自覚はないが、 ]*死して既に20年近く経っている。 つまり女の死と彼の生がほぼ同時期な訳で、 話の内容によっては時代の齟齬が生まれたかも。 ところどころ記憶が曖昧なので、 そう起きることではなかったはずだ。 (96) 2022/08/14(Sun) 1:56:52 |
【人】 空虚 タチバナ― 特別個室病棟 ― [特別個室病棟は病室エリアの上階にあった。 お金持ちという存在は高い場所が好きなのだろうか。 当時であれば階下の景色を見下ろせただろうが、 異界化した今は満足に外を見ることも叶わない。] わぁ。 [ある程度整った部屋を見たのは久しぶりだった。 通常個室より上等なベッドは他より形を保ち、 食事のとれそうなテーブルや椅子も並んでいる。 洗面台や専用のシャワールームもあったか。 理由は分からないが、 生活に必要な最低限のライフラインは なぜか今も機能していた。 さすがに電子レンジまであったかは定かではない。 故に、購買部にも冷凍の商品は少ないかもしれない。 運搬のために離した両手には、 結の腹を満たすための食事が抱えられている。] (97) 2022/08/14(Sun) 1:57:19 |
【人】 空虚 タチバナ[テーブルの汚れを払って商品を置くと、 興味深そうに室内を見回した。] わぁ。……広い。 わぁ。……ここはクローゼット。 わぁ。シャワールームも狭くないね。 [入院していた頃の記憶は曖昧だが、 どう考えてもこんな豪華な場所ではなかった。 専用のシャワールームなんて初めて見た。 長い間ここにいたのに、知らなかった場所。 やはり彼と己は何もかもが違う存在だ。 しかし、今度はどこか嬉しそうな空気を滲ませ 黒い髪と闇を揺らして部屋の中を探索した。]** (98) 2022/08/14(Sun) 1:58:11 |
空虚 タチバナは、メモを貼った。 (a25) 2022/08/14(Sun) 2:04:31 |
【人】 空虚 タチバナ─ 特別個室病棟 ─ [向かい合わせて一対ある二人掛けのソファは、 二十年余りの月日を考えれば十分しっかりしている。 電子レンジ>>114と同じく生者を招き入れる妄執が 異界化したこの場所を保っているのかもしれない。] みんな、お気に入りの場所があるから。 お気に入りというか、引き寄せられるの……かな。 [推定お金持ちの入院患者は喰われてしまったか 他に気になる場所でもあるのだろう。 しかし別の怪異が突然入って来てもおかしくはない。 ただ、今はどこか場違いにも聞こえる 電子レンジのぶうんという音だけが響いていた。] (120) 2022/08/14(Sun) 16:09:24 |
【人】 空虚 タチバナ[彼も好きだと言うナポリタンがテーブルに置かれる。 湯気の立つ様を見る瞳は、 この部屋を探索した時のように新鮮な色を乗せた。] ……。 [暫くは黙って彼の横顔を眺めていた。 彼に乗って見下ろしたことも 覆いかぶさる彼を下から見上げたこともあるのに、 ここから見るのは初めてだなと思った。 柔く齧りついた鼻筋や、瞬きする度に震える睫毛、 胸に穿たれた空虚にも触れた唇が 赤いソースの絡んだ麺を飲み込んでいく。 咀嚼して、嚥下して。 喉仏が鷹揚に上下する様子まで、すべて。] ……え? [故に彼のフォークがこちらに向けられた時>>114、 ピントを合わせるのに数秒を要した。] (121) 2022/08/14(Sun) 16:11:12 |
【人】 空虚 タチバナ[最初、その動作の意味を考えるように瞬きをして、 分かった後は迷いと戸惑いに唇を噛んだ。 確かめるように彼の方を見て、手元を見て、 意を決したように小さく口を開ける。 雛鳥のように餌を待つ姿からは、 彼の問いにすら答えなかった頃とは違う 従順さのようなものが覗いているだろう。 彼が私だけの獲物であるように、 私は彼の内を埋め尽くす存在になるのだから。 あなたにとって私がとびきりおいしくなるよう 感情ひとつひとつを捧げていく。] (122) 2022/08/14(Sun) 16:11:34 |
空虚 タチバナは、メモを貼った。 (a33) 2022/08/14(Sun) 16:19:51 |
【人】 空虚 タチバナ[目に見える変化はないだろう。 けれど、 もし彼らが望む未来を阻む悪意があったなら。 たった一度だけ、 細く広がる闇が脅威を引き裂くかもしれない。 それは誰かを攫った女の黒く長い髪に、 ほんの少しだけ似ていた。]* (150) 2022/08/14(Sun) 23:27:30 |
(a43) 2022/08/14(Sun) 23:33:10 |
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