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【人】 空腹な迷い人 レックス― 約束の刻 ― 豪奢な椅子。 赤のベルベットの上に、腰を下ろし 優雅にカップを傾けている一人の魔女は、緩く口元を綻ばせる。 『また、この時がやってきたわね ねぇ、可愛いミケ……いつぶりだったかしら?』 傍らの愛らしい下僕に視線をやると、 蒼い瞳が細められた。 語りかける声色は、優し気で 恐ろしい魔女のものとは思えないものだった。 魔女の傍らに、揺らめいていた1匹の紅い蝶に、 何処からともなく現れた、無数の同じ紅い蝶が集まると それは人の形に姿を変える。 『魔女様、魔女様、グロリア様! ミケもね、覚えてないの、ごめんなさい だから、いっぱいいっぱい、昔のことだよ!』 ぴょこんと頭の上の猫の耳を揺らしながら、 たどたどしく告げるのは、 (14) 2020/09/18(Fri) 20:24:36 |
【人】 空腹な迷い人 レックス 『そうね、前のゲームがいつだったか 昔過ぎて、忘れてしまったわ 弟子ももう、ここにはいないし まぁ、覚えていないのだから、仕方がないわね』 優しく白い毛並を撫でながら、 魔女はどうでもいいと言うように、ただ笑った。 『さぁ、ミケ、お客様を迎える準備をして頂戴』 『魔女様、魔女様、グロリア様! かしこまり〜なのです!!』 嬉しそうにぴょんと飛ぶと、 白い猫の使い魔は、再び紅い蝶へと姿を変えて 館のどこかへと消えた。 (15) 2020/09/18(Fri) 20:24:39 |
【人】 空腹な迷い人 レックス再び、鐘の音が鳴り響く。 鬼の青年以外の客人たちを呼ぶ為に 魔女は、一人、部屋の中。 時を刻まない振り子時計を見上げた。 文字盤を開けば、そこには大きな砂時計が一つ。 さらさらと砂が落ち続けている。 だけど、もう砂は残り僅か。 『最後の"ゲーム"になるのかしら それとも、続けされてくれるのかしら ――――ねぇ、ベネット?』 静かに閉じられた蒼い瞳。 脳裏に浮かぶは、一人の男の顔。 ただの娘が、魔女になったあの日。 男が約束した言葉を、今でも覚えている。 砂時計をひっくり返すには、 彼の命を使うしかない。 (17) 2020/09/18(Fri) 20:24:44 |
【人】 空腹な迷い人 レックス魔女になった とき 人ではなくなった瞬間に、彼の記憶からも ただの娘のことは消えたはずなのに 何度も、何度も、この砂時計をひっくり返すために 彼はこの時計館にやってくる。 青年、少年、少女 時に老婆や、老人だったこともある 何度も生まれ変わる度、魔女のために命を捧げる 『ねぇ、知っていたかしら? 今回が―――― 100度目 なのよ?』愛しげに砂時計を撫でる 命を吸う度に、赤く、紅く、朱く、染まっていく砂。 魔女は、恋をしない 魔女は、愛さない それは、愛して、愛しく想って、涙を零せば もう、魔女ではいられなくなるから (19) 2020/09/18(Fri) 20:24:50 |
【人】 空腹な迷い人 レックス自分がなぜ魔女になったかすら、 遠い記憶すぎて思い出せないのに 彼との約束だけは、なぜか憶えているのは、なぜなのか 今はまだ、理解できない ――理解してはいけない 100度目を迎えたら、どうなるかも分からない 彼がかつての魔女に何を願ったのか 私がかつての魔女に何を願ったのか 今はまだ、――――思い出せないから 『ミケが、お客様をもてなしてくれているようね さぁて、今回の"ゲーム"は、何人生き残るかしらね』 館の魔法が発動する気配を感じて、表情は魔女のものに変わる 残忍に、残酷に、冷たく、美しく、魔女は――嗤った* (20) 2020/09/18(Fri) 20:24:53 |
【人】 空腹な迷い人 レックス― 大広間 ― [ 二度目の鐘が鳴り響き、 やがて人の気配が館の中へと消えて行くのを感じる。 他の参加者が来たのだろう。 さて、自分は何番目の客人か ――本当は一番なのだけど 大広間の扉を潜れば、そこに先程の猫の少女が立っていた。] (21) 2020/09/18(Fri) 22:39:36 |
【人】 空腹な迷い人 レックス 『ようこそ、時計館へ えーっと、お客様に当館の主、 時の魔女グロリア・べアトリクスより、贈り物です えと、お部屋の鍵だよ!! 魔女様は、次の鐘がなったら、みんなに会うんだって! だから、それまでお部屋でも、この部屋でも お庭や図書室、好きなところで待っていてね!!』 [ だんだん言葉遣いが戻っていることに気づかずに 無邪気に愛らしく少女は、そう案内をする。 鍵は、少女と客人の目の前をふわふわと漂っている。 金色の豪奢な飾りがついたその鍵には、 1から11までの数字が記されていた。 少女は、その鍵が2階の客間の鍵であることを告げる。 客人の問いにいくつか答え終えれば、 すぐにその場を立ち去って、忙しそうに 大広間にお菓子を置いたり、お茶を出したりせっせと もてなそうと一生懸命働く姿は、まぁ、健気で可愛らしい。] (22) 2020/09/18(Fri) 22:39:38 |
【人】 空腹な迷い人 レックス僕は、この鍵を……宜しくね、ミケ [ まるで初めて会ったかのように挨拶すれば、 大広間のソファに腰かけた。 幾人かの先客と、会話をしつつ、 "ゲーム"が始まるのを待っている。 ――――さて、今回の"ゲーム"はどんなものなのか。**] (23) 2020/09/18(Fri) 22:39:40 |
【人】 空腹な迷い人 レックス― 謁見室 ― [ 三度目の鐘が鳴り響く。 客人のもとに舞い降りた紅い蝶の招待状。 謁見室に集めれた客人たち。 様々な思惑をその胸の内に秘めて、 今は、魔女の訪れを待っている。 客人たちの中にベネットもいた。 しがない本屋と名乗った男は、 人好きのする笑顔の爽やかな男だった。 彼を殺すことが、条件に含まれている。 少し憂鬱だが、人を殺すなんて、初めてではない。 ――――願いを叶える為なら、悪魔にでもなろう 何せ、元々鬼なのだから ] (38) 2020/09/19(Sat) 19:27:31 |
【人】 空腹な迷い人 レックス[ 謁見室で語られたのは、魔女との"ゲーム"のこと。 客人たちの中に隠れた魔女を探し出すゲームに 勝利すれば、願いを叶えてくれるなのだろ言う。 "隠れ鬼" あぁ、嫌なゲームをする。 殺す相手は投票で決めるらしい。 与えられた懐中時計で、 部屋番号に対応したものに投票できる。 大広間の大時計で18時に投票結果が発表され、 選ばれたものを殺さなければいけない。 魔女は、投票以外でも殺しても構わないと言っていたが 投票されてもいけないが、ベネットも殺さねば。 悩んでいると、ふいに耳元に囁く声] (39) 2020/09/19(Sat) 19:27:35 |
【人】 空腹な迷い人 レックス[ 大きく息を吐く。 ぴったりすぎて、笑えてくるが、 ――――これを悟られてはいけない。 他のゲーム参加者を欺き、利用して、――生き残らなければ 3日間生き残ること ベネットを殺すこと 最悪、この2つだけは、満たそう。 心の奥でそう呟けば、鐘が鳴る。] (41) 2020/09/19(Sat) 19:27:39 |
【人】 空腹な迷い人 レックス― 鬼の夢 ― [ 深く深く眠りに落ちていた頃。 ゲームの合間の、ひと時の休息時間。 それは、過去か、現在か、はたまた未来か。 夢の狭間で垣間見える風景は、 懐かしいような、見覚えがないような。 不思議な光景だった。 ただ、これは"夢"だと、はっきりと理解していた。 これは"夢"だから、 いつか必ず、現実に戻らなければいけないものだと] (46) 2020/09/20(Sun) 21:53:01 |
【人】 空腹な迷い人 レックス 『 天使様も、神様も信じてない だけど、君のことは信じているよ 』 『 "ただの娘"で、いたかった だけど、神様は 私を"ただの娘"として生んでくれなかった 』 (47) 2020/09/20(Sun) 21:53:04 |
【人】 空腹な迷い人 レックス[ 手を伸ばした。 愛しい人の背中が見える。 黒い髪が、風にさらさらと靡いている。 金の髪が、陽にきらきらと煌めている。 振り返った彼女は、野花のような愛らしい笑みを浮かべて 振り返った彼女は、野薔薇のように可憐な笑みを浮かべて 白く細いその手をとって、そっと抱きしめた。 柔らかな感触、甘い匂い ――不思議と食欲は湧かない 鬼の嗅覚を擽る甘美な匂いに、鼓動が速くなるのに 獣の ただ胸に抱くのは、狂おしい程の愛しさ。 やっと、この手にできた喜び。 やっと、 たどりついた歓び。 押し寄せる感情に飲み込まれていった。] (49) 2020/09/20(Sun) 21:53:15 |
【人】 空腹な迷い人 レックス[ これは"夢"だ 誰の夢かも分からない。 "食事"をした時に、たまに見る夢にも似ていたが ここが魔女の領域だからか、いつもよりはっきりとしていた。 まるで自分自身が当事者のような気持ちにさせる。 過去なのか、未来なのか。 混ざった想いは、融けあって どちらが頂いていた想いかも分からなくなる。] (50) 2020/09/20(Sun) 21:53:23 |
【人】 空腹な迷い人 レックス『 これは夢よ、これはお前の感情ではない だから、今は眠りなさい もっと深く、今は何も考えないでいいのよ さぁさ、眠りなさい 哀れで愛しい鬼よ、眠りなさい 』 (51) 2020/09/20(Sun) 21:53:25 |
【人】 空腹な迷い人 レックス[ 頭の中で、静かに歌うように魔女が言う。 魔女の癖に、子どもを寝かしつける母のような声色で だけど、身体は勝手にその言葉に従う。 もっと、深く眠りに落ちていく。 夢すら見ない程に、深い眠りに ――――あぁ、まだ"ゲーム"は始まったばかり**] (52) 2020/09/20(Sun) 21:53:27 |
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