175 【ペアソロRP】爽秋の候 【R18G】
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[悔しかった。
情けなかった。
わたくしが守るべき
大切な臣下たちから守られて
逃れるしかなかった自分が。
怖くて恐ろしくて、歩みを止めてしまっていた。
再び歩き出せたのは、貴方と出逢ったからです。
あんなに酷い怪我をしていたのに
貴方の心は少しも折れていなかった。
わたくしも続きたいと思ったのです。
────
アスベル様
。]
―――回想:飛鳥井村にて2―――
[ 真っ暗な闇の中、
ぐるりと、周囲を取り囲む赤い眼 ]
……。
[ 怖くない、なんて。
そんなことを言ったら嘘になる。
だけど。―――…それよりも。 ]
ねぇ。
[ きょろきょろと、視線を彷徨わせたあと。
自分の一番近くにあった赤いふたつの眼に視線を合わせて。 ]
あのね。さっき、泣いていたのはあなた?
[ そう、首を傾げてみせると。
暗闇に爛々と輝いていた赤い眼が
ところどころでちかちかと点滅した。
なんだか、瞬きをしてるみたいなんて
どこか場違いな感想を抱いたのを覚えてる。 ]
[ 問いかけてくる声は、若い男の人のものだった。
低く、囁くような声ではあったけど、それでも
兄たちとそう変わらないくらいじゃないかと思った。 ]
…だって。
ここにくるとき、何処かから声が聞こえて。
それが、泣いてるみたいに聞こえたから。
[ 森の中で聞こえた、
鈴のような、嗚咽のような声。
今、わたしの目の前のいる、
暗闇に蠢く赤い眼の持ち主が、
さっき聞こえた声の主なのではないかと
わたしはそう、思ったのだけど。 ]
あ、えっと。えっとね…!
もし、わたしがなにかまちがってたのなら、
そのときは、ごめんなさい。
[ わたわた両手をぶんぶん振り回してから。
見えているかはわからないけど、
目の前の赤い眼に深々と一礼してみせる。
それから。 ]
…でも、あなたが怪我をしていたり、
悲しい思いをしてるのでなければ、よかった…。
[ ほっと、小さく息を吐く。 ]
ところで、あなたはだぁれ?
どうして、こんなところにいるの?
わたしは、えっと…その……。
さっき、お母さんやお兄ちゃんと喧嘩して、それで。
「家出」を、してきたの**
[ 人間でいうならため息を吐くところなんだろう。
それに近い間が、僕と彼女のあいだに流れた。
家出をしてきた?
よりにもよって、こんなところに?
そしてそれ以上に。 ]
……君は、僕が怖くないのか?
[ この姿を見れば、小さな子供ならきっと、
泣き叫ばれるだろうとそう思っていたのに。
あまりにもあっけらかんとしているものだから
なおいっそう、此方は混乱してきた。 ]
…?
こわいって、なにが?
[ 点滅と共に聞こえてきた声が
なんだか戸惑っているように聞こえたから
反射的にそう答えてしまった。
確かに真っ暗ななかで
たくさんの赤い眼に囲まれてるこの状況は怖いけど。 ]
だって。
こんな真っ暗で寂しいところで、
誰かが一人ぼっちで泣いていたら、
そっちのほうが心配だもの。
それにね、
あなたが悪い妖怪とかだったら
わたしのこと、食べてくれるかなって。
[ ……自分でも何を言ってるんだって
今となっては思うけれど。
あのときはかなり本気で、そう思ってた。]
妖は人間を食べて自分の力にするって
村のえらい人たちが言ってたよ。
わたしは、お兄ちゃんたちの『出涸らし』だって、
何をやっても全然ダメな『出来損ない』で
お兄ちゃんたちの才能の『搾りかす』だって
お父さんもお母さんもいってたけど。
もし、妖に食べられたなら
…もしかしたらちょこっとくらい、
わたしを食べてくれた誰かのお役に立てるかなって。
…あ、あれ……?
おかしいな。 おかしいな…。
[ 気がつくと、ぽろぽろと涙が溢れて止まらない。 ]
ごめんね、あなたがこわいわけじゃないよ。
これは、ほんとうにほんとだよ。
[ ……ただ。 ]
そんなことでしか、だれかの役に立てないのが
ちょっとだけ、くやしいなぁって…。
[ しゃくりあげながら、それでもどうにか
自分の言葉を口にする。
今、ここで死ぬのならば、
どうせなら、もっと誰かの役に立って死にたかった。
もし、もう少し大きくなって、大人になったら。
わたしもお兄ちゃんたちみたいになれるかもってしれないと。
そんな淡い夢も、見ることさえ叶わなくなる。
それが少しだけ、悔しい。 ]
……。
[ 弱ったな。 ]
ねぇ、おちびさん。
[ 泣きじゃくる彼女にゆらりと、
闇を凝らせて作った手を差し伸べたところで。
ふと、彼女の額の傷に気づいた。
それから、彼女の目元が既に泣き腫らした後だったことにも。
…これは。 ]
[ ―――…なんていうか、呆れた。
この子供は、自分が怪我をして泣いていたというのに。
それでも、自分以外の誰かが泣いていると思ったら
そちらのほうを優先しようというのか。
そのために、この真っ暗な洞窟に足を踏み入れたというのか。
こんな、まだ小さな子供が。 ]
どうして、
[ 言いかけた言葉を、どう続けたらいいかわからずに。
ただ、伸ばした闇色の手で彼女の頭を撫でて。
それから、その頬に触れて、涙を拭った。
特に抵抗もなく、ただ驚いたような顔を見せる彼女に。 ]
……心配しなくていい。
僕は妖怪ではないし、君を食べるつもりはない。
[ 信じてもらえるかはわからないけど。
彼女の額にそっと手を添えて撫でながら
赤い眼を逸らさず、幼い彼女にも伝わるように
言葉を選んで話しかける。 ]
―――君も見てわかるとおり、僕は人間じゃない。
君たちの言葉でいう『神様』と、呼ばれる存在だ。
というより『祟り神』と言ったほうが
君たちにはよりわかりやすいかもしれない。
遠い昔、渡守の一族にこの山に封じられ、
以来、代々この洞窟に閉じ込められてきた。
―――君たち人間にとって、忌まわしい神だ。
[ 僕にとっては、人間のほうがよほど恐ろしく
悍ましい存在だけれど。
それをわざわざ、こんな子供に伝える必要はない。]
[ 言い終わって額に触れていた手を離せば
額の傷は跡形もなく消え去っていた。
おそらく痛みも消えているだろう。 ]
―――さ、帰りなさい。
これ以上ここにいては、なにより君の身体に障りがある。
[ とん、と小さな彼女の背を軽く押して入口へと促す。 ]
森の中に蛍たちがいただろう?
彼らが村の中まで送ってくれる。
洞窟を出たら、決して振り返ってはいけないよ。
[ ぽふぽふと、どうにか彼女を安心させたくて
なるだけ優しく、背を押し出す。 ]
―――ありがとう、小さい子。
短いあいだだったけれど、君と話ができて嬉しかった。
[ 長く独りだった身には、
彼女の、幼くも優しい言葉は温かく心に沁みた。
それでも、祟り神となったこの身に、
彼女の眩しさや温かさは毒そのもので。
離れがたくなる前に、彼女を元の場所へ帰そう。 ]*
[ 目の前の赤い眼は自分のことを『祟り神』だという。
洞窟の入口の黒鉄の門と注連縄を思い出せば、
封じられているというのはなるほど、その通りなんだろう。 ]
どうして、封印されているの?
[ いつのまにか収まっていた痛み。
そっと額に手を伸ばしても、痛くもなければ
指先が血で濡れることもない。
さっき、頭を撫でてくれた闇の手が、
わたしの額に触れてくれたときからだ。
わたしに語りかけてくれる言葉も、
わたしの背をぽん、と優しく押してくれる闇の手も
……騙されているのかもしれないけど、
それでもやっぱり、彼が悪い何かであるとは思えない。 ]
わたし、『小さい子』じゃなくてことね。
『わたうら ことね』よ。
お名前、ちゃんと呼んでほしい。
[ 訂正を求めながら、くるりと声(?)のほうへ向き直る。
人差し指を立てて赤い眼のほうへ突きつけると。 ]
それに、わたしあなたのお名前をまだ聞いてない。
わたしはちゃんとお伝えしたのだから、
あなたも言わないと、めっ!よ?
[ …困ったな。 ]
僕は……僕には名前なんてものはないよ。
僕は、ただの『神様』だから。
[ 人間たちにとっては
役割さえ果たせれば、それでいいのだから。
名前なんて、必要ない。
今も、そしておそらくこれからも。 ]
[ やがて、扉の前に近づいたところで。 ]
…!
[ ぐらり、と目の前の空間に歪みが走る。
それと同時に、地の底から響くような
唸り声とも断末魔ともつかない不気味な声が空間を揺らす。
それは瞬く間に周囲へと拡散して、
―――やがて、爆ぜるような衝撃とともに
大地が、空気が大きく揺さぶられた。
…その日。飛鳥井村とその周辺の山々を震源とした
大規模な地震が発生したと、後に聞かされた。
だけどあのときは、そんなことを知る由もなくて。
ただ、彼女を守ることで、精一杯だった。 ]
僕につかまって!!しっかり!!
[ 咄嗟に彼女の周囲を質量を持たせた闇で
覆いかぶせるように取り囲むとその身体を中空へ。
今は下手に彼女を外に出さないほうがいい。
どうして、彼女を庇うんだろう。
出会ってほんの少し言葉を交わしただけの、
(恐らく渡守の血を引いているだろうけど)
ほとんど何の力も持たないような、こんな子に。
]
……ッ
[ …体感にして二分ほどだろうか。
漸く揺れが収まった頃、外へ視線を向ければ
月明かりが照らす、門の向こう側の狭い景色だけでも、
その惨状が伝わって来た。
森の樹々は一本残さず倒され、
樹の幹や大地には所々抉られたような傷痕が残っている。
そして何より、樹々の向こうの闇から滲むように
湧き上がってくるのは、醜い小鬼や虫妖の類。
狙っているのは、僕か、
それとも僕の腕の中の小さな彼女か。
どちらにせよ、関係ない。 ]
……ことね。
しっかり掴まってて。
[ 僕とて、並の妖怪程度にむざむざやられてやる気などない。
ましてや、今この腕の中には小さな命を抱えているのだから。
―――結局、有象無象の妖たちを全て退けたのは夜が明けてから。
漸く終わったとほっと息を吐いたところで。
…腕の中の小さな彼女が、
ぐったりとしていることに気づいた。 ]
…ことね? ことね!
[ 『祟り神』としての自身が放つ瘴気に
少女があてられたのだと気づいたのはやや立ってから。 ]
―――…ことね……。
…嫌だ。そんなのは、嫌だ……。
[ 彼女を、死なせたくない。
でも、どうすればいい?どうすれば。
そんなときだった。
悲しみと混乱の中にあった僕と、彼女の許へ。
昇り始めた朝日を背に浴びながら、
あの男がやってきたのは。]
[ 彼と、彼の仲間たちに保護されて、彼女は森の外へと運ばれていく。
どうやら、浄化の儀式を済ませた後に病院へと運ぶらしい。
運ばれていく彼女を洞窟の中から見守る僕に、彼は囁いた。
『もし、彼女と一緒に居られる方法があるとしたら
君は、どうする?』と。
―――…そうして、後は知っての通り。
やがて意識を取り戻した彼女が此処に戻って来た後。
僕らは、互いに契約を交わした。
僕が彼女の『式』へと降ることで
僕は『祟り神』としての力をほとんど失い、
妖としても実に半端な力を持ったなにかになった。
そうして、僕らは八年の年月を共に過ごしてきた。
落ちこぼれの退魔師と、彼女に仕える式神として。 ]**
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