【人】 高山 智恵 昨日の夜もさ、そうだったんだ。 カフェのドアに“ closed ”を掛けて、バイトの子たちと店内を掃除して片付けて、売り上げを整理して、SNSを更新して、帰る時にスマホの電源を入れて――。 チャットの通知が1件来ているのが目に入って。 ……もう一度スマホの画面を落として、歩いて家路に着く。 アパートの一室に帰って鍵を掛けて、スニーカーとコートを脱いで鞄をハンガーラックに掛けて、手洗いうがいして、冷蔵庫の中身を思い出しながらカーペットの上に座り込んで。 それから漸く、新着通知の内容を確かめる。 (6) 2022/10/17(Mon) 8:24:41 |
【人】 高山 智恵 ……野良猫? 野良猫だよね? うん。首輪もついてないし、右耳もサクラカットされてたし――ってことは地域猫ってやつなのかも。 ともあれテレビのCMに出てくるいかにもキュートな猫イメージとは程遠い、歴戦の猛者という風貌の猫の写真。 “ 彼女 ”はこういう写真を、今でもSNSチャットを通じて私に送ってくる。 彼女とのチャット履歴には、いかにも「チャット」「トーク」らしいテキストの遣り取りは殆ど投稿されていない。 彼女が何かしらの写真を送って、たまにその後にスタンプや絵文字、単語一語程度のテキストが添えられてくる。 それに対して私もスタンプを返したり、或いは短文で感想を伝えたり……という日常が続いている。 彼女からの写真のセレクトは、新作だったり考案中だったりするメニューのそれらもあるけれど――。 さっき言ったような可愛げのない猫とか、多分身近で見つけたんだろう鳥だとか虫だとか、っていうのも多い。 ちなみに私は特に虫が好きって訳じゃないし大学で専攻したとかいう訳でもないけれど、別に苦手でもない。彼女はそれを知っているから虫の写真をわざわざ私に送ってくる、という訳だ。 (8) 2022/10/17(Mon) 8:42:58 |
【人】 高山 智恵 そんな、彼女が彼女なりに見つけて送ってきた“ 素敵なもの ”の写真を、私は今でも受け取って見ている――見てしまう。 彼女が彼女の“ 素敵 ”を進んで私に差し出すのを――その“ 素敵 ”が私に理解不能なものであっても――私は無視することができない。 中には他の人には拒絶すらされかねない、つまり他に送る相手の宛てがないものもある、というのもあって、なおのこと放っておけないままでいる。 こうして、私は彼女との繋がりを自分から絶てないでいる。 自らの目標にあまりにも真摯で、それでいてひどく無邪気で……必ずしも誰からも愛され理解される訳じゃない彼女から、離れられずにいる。 (9) 2022/10/17(Mon) 9:17:33 |
【人】 高山 智恵私の中にあるのが、ただ。 何の見返りもなく、ただ見つめ続けるだけで満たされるだけの想いだったなら、どんなにか、良かっただろう。 (10) 2022/10/17(Mon) 9:17:50 |
【人】 高山 智恵 ……こういう私だから、なのかな? 別に関係ないかな? 私には、ただひとりの相手を献身的に「推す」ということが、よく判らない。 その結果、音楽サブスクのプレイリストには特定のアーティストを登録することなく、とりあえずざっと聞いて気に入った曲ばかりが「お気に入り」という形で追加され続けている。 ちなみに私がハートマークを押した曲の最新は知る人ぞ知る海外のシンガーソングライターの最新曲だ。** (11) 2022/10/17(Mon) 9:21:36 |
高山 智恵は、メモを貼った。 (a1) 2022/10/17(Mon) 9:38:01 |
【人】 高山 智恵 失恋の傷心の客が(お初さんも常連さんも)立て続けに来店したあの日の、明くる日。 朝がまた訪れれば、昨日と変わらずカフェへと――。 いや、昨日と変わらず、じゃないか。今日来るバイトの顔ぶれも、お客様の顔ぶれだって、当たり前のように昨日とは違うんだから。 開店前の店内清掃に食材の買い出し、ピークタイムに備えてのランチメニューの仕込み、SNS告知などなど……。 一通りの準備を終えた後、お昼ご飯時より少し早い時間に、ドアプレートをひっくり返して“ open ”を通りに知らせる。 昨日と同じ明日なんて、ない。 私の心だって昨日とは違う――と、いいんだけれど。* (34) 2022/10/17(Mon) 18:37:21 |
高山 智恵は、メモを貼った。 (a8) 2022/10/17(Mon) 20:01:55 |
【人】 高山 智恵 ああ、昨日と違う今日という日は――ピークタイムが忙しなく騒がしいという点においては同じだ! まあバイト欠勤が無かった分、昨日程ヤバくはなかったんだけれども。 「はい、デミオムはそっち――(3)1n3番テーブルに(1)1d4個、(4)4n6番に(1)1d2個、カウンター(1)1n3番(5)4n5番のお客様! ペペロンチーノは(5)2n5番、エビピラフ1.5倍は(3)3n8番! 〜〜〜〜そのモンブランは食後! そのココアは食事と一緒にお出しする!」 店長加わるキッチン班がものすごい勢いで仕上げていくものの配膳先を、ホールスタッフに伝えていく。 今はとてもじゃないけれど、1テーブルに1店員が対応、という丁寧な形で捌ける現場ではない。 講義にレポートに研究、他のバイト、ステージ向けの練習――そういったものを抱えながら働くバイトの子たちあって捌くことのできる、この盛況ぶりだ。 (53) 2022/10/18(Tue) 7:57:52 |
【人】 高山 智恵 ――こうして怒涛のランチタイムは過ぎていく―― 一段落つく時間帯に、バイトの子たちも休憩を挟んだり、或いはシフト上がりとして退店したりする。 私も少しだけ休憩を挟んでから、少しだけ落ち着いた店内のカウンターに戻っていく。 ……落ち着いたって言っても、ピークタイムを越えた後にだって、ザワつく程度には賑わう時間帯ってあるんだけれどね>>50。 ほら、またお客様がひとり、うちのドアを潜ってきた>>50。 「いらっしゃいませ! こちらのお席へご案内しますね」 ひとりだけの客をここで敢えて二人掛けの席へ案内したのは、この客が前々からもうひとりの子と一緒にうちのカフェをよく利用していた>>*0から。3年くらい前からのご来店だったかな? うん、丁度他のテーブル席もそこそこ程度空いてる時だから、お一人様がわざわざ二人席に案内される程度、そんなに周囲も気にしないだろう。良かった良かった。 (64) 2022/10/18(Tue) 9:14:02 |
【人】 高山 智恵 ホットのアールグレイやコーヒーと違って、ホットココアはカウンターではなく厨房で作る。 ココア粉と辛口のチョコレートシロップ、牛乳を入れた鍋。それを火にかけて、中身をかき混ぜていく。沸騰するギリギリくらいの温度まで温めてから、黒猫模様の描かれたマグに一杯を注いでいく。 こうして、甘ったるさの無いワイルドな野良猫をちょっぴりイメージした、ビターな“ 黒猫のホットココア ”の出来上がり。 砂糖抜きのオーダーだった分、ただでさえ微かな甘みはさらに削がれている。そんな苛烈な苦味を、けれどもミルクの滑らかさと温度が和らげてもいる……そんな風味になっている筈だ。 「お待たせいたしました。 また何かあれば、お声がけくださいね」 いつもの状況だったらここで「お連れ様がいらした時にまたお伺いしますね」とお声がけするところなんだけれど――今日はこの前までとは少し違うものを感じたので、ちょっと言い方を変えた。 この言い方の変化、却ってお客様を気にしている感出ちゃってるかも……とは後から気付いたんだけれど、まあ、いいか! うん、変に口出しする気は勿論ないけれど(今の賑わい具合だと、多分話の内容も意識しないと聞き拾えないけれど)、見守ってはいるよ、という意識の表れだと思っておくれ。 (67) 2022/10/18(Tue) 9:16:43 |
【人】 高山 智恵……しかし本当にどうしたんだろうね、この子。 ダンス続けられないトラブルでもあったとか? まあ、先入観はやめておこうね。* (68) 2022/10/18(Tue) 9:17:02 |
高山 智恵は、メモを貼った。 (a12) 2022/10/18(Tue) 9:30:14 |
【人】 高山 智恵 さて、ついでだからこんな小話もしちゃおうかな。 うちのカフェのバイト面子の中には、アートとかバンドとかラップとかダンスとか>>1:140――学業とは別方向に励んで夢を追ってる子たちもいる(アートの子は芸大行ってるとかって話だから、学業といえば学業か)。 で、ダンス――アイドルのダンスでも社交ダンスでもコンテンポラリーでも日舞でもなく、ブレイキンで夢を追ってる子の話だ。 あ、ちなみにその子も、ついでにラッパーの子も、二人揃ってオフでは派手目だしちょっと粋がってる節もあるみたいだけれど、勤務態度は非常に真面目なのでよろしくね。 (なので、本当は大会の応援>>17>>18とか行ってあげたいんだけれど、そういう時に限ってアレコレあって……) その子のシフトはピークタイムメインだったり午後のちょっと混む時間帯だったりで曜日によって違うんだけれど、基本的にはいつでもテキパキと動いてくれるし、ホールスタッフとして申し分ない社交性の持ち主でもある。 なんだけれど、いつだったかな、ちょーーーっと顔色の優れない時があったんだよね。 「大丈夫?」ってその時ちょっと聞いたら、返事は「大丈夫」の即答だったんだけれど……少し考える素振りをしてから、「すみません」って言い直して。結局その日、暫く彼を裏方に引っ込ませることにしたんだ。 “ 何かあったら無理しない ”っていうのは、セクハラの件>>1:65に限らず新人に対して肝に銘じておいて貰う事項だ。だから彼も私も、一度決めたこの判断に惑うことはなかった。 (69) 2022/10/18(Tue) 11:48:35 |
【人】 高山 智恵 で、その子が次に出勤してきた日の開店前に、ふっと「あの時どうしたの?」って聞いたんだ。そしたら――… 『いや、その、スミマセン…… アイツ――知り合いがいたもんで、その……』 「は、……そういうこと!?」 別に体調不良でもなく、本気でヤバいことをしてきた相手がいたって訳でもなかった。 単に、知り合いにここでバイトしてるの知られるのが滅茶苦茶恥ずかしかった ってだけの話だった。この時バイト初めて日が浅かったってこともあって、その知り合いがこのカフェによく来てるってことをこの時まで知らなかったらしい。いくら無理しないって言ってもさー!ってうっかり怒りそうになったけれど、まあ、人に知られたくないものは知られたくないっていうのは私自身、よく理解できるからね……。 ちなみにその“ 知り合い ”っていうのは……同じくブレイキンのダンサーなんだけれど、一緒のチームで共闘する方じゃなくて、大会で対戦する方のダンサー、とのことらしい。 そりゃ普段張り合う間柄になってるんだろう好敵手に、このギラギラの欠片もないめちゃくちゃ爽やかな好青年カフェ店員っぷりを見られるのは……ね……。 (70) 2022/10/18(Tue) 11:53:38 |
高山 智恵は、メモを貼った。 (a13) 2022/10/18(Tue) 12:13:56 |
高山 智恵は、メモを貼った。 (a14) 2022/10/18(Tue) 12:17:36 |
高山 智恵は、メモを貼った。 (a15) 2022/10/18(Tue) 12:25:56 |
【人】 高山 智恵 さて、ちょっと気に掛かっていたバイトの子――霧ヶ峰さんのことなのだけれど。 今日のシフトにはちゃんと無事に来てくれて(少なくともこの時は、無事なように見えた)ピークタイムの戦力になってくれたものだったよ>>75。 その後は、店長指示でバックヤードに行ったのだけれど。 (クリスマス向けの準備は早めに行っている。おそらくお客様方が思うより、ね) ( あの子ももしかして……ううん、 ) 余計なこと考える暇もないくらいの怒涛のランチタイムが、この前の「推し」俳優の報道のあれこれを忘れさせてくれてた……なんて(それこそ余計な)考えは一旦脇に置いた。私自身も今はあまり――自分の身に幾らかでも重なることは――考えたくない。ランチタイムを過ぎてもお客様はまだまだ来られるのだからね。 ところで私、バイトの子の好き嫌いとか趣味とか、仕事に関わる個々の特性とかは、店長からの共有事項も含めてある程度把握している心算だったのだけれど――。 何か盛大な聞き漏らし事項その他>>*9があったりしない?? いや、今はそれを気にしている場合でもなかったね。うん。 (77) 2022/10/18(Tue) 17:58:27 |
【人】 高山 智恵 さて、今日の開店後に電話での問い合わせがあったっていう話は、私も把握している。 昨日うちに残されていた忘れ物の片方の件らしい>>73。 で、霧ヶ峰さんが表に出ていた時>>76だったかな――問い合わせ主のお客様の姿をちらっとカウンター越しに遠目に捉えて。 その人の顔が記憶に新しい顔だったものだから、思わずぱちりと瞬いてしまったものだった。 そういえば、ちょっと前にもこんな心当たりがあったな――勿論、今来ている人とは別のお客様のことなんだけれどね。 一期一会かと思えば意外にそうでもなく、かと思えば本当に一期一会になったりする――って、これは接客業に限ったことじゃ、きっと、ないんだろうな。** (78) 2022/10/18(Tue) 17:59:06 |
高山 智恵は、メモを貼った。 (a18) 2022/10/19(Wed) 8:15:41 |
【人】 高山 智恵 10年近く前に、私はこの街で暮らしはじめた。 詳しいいきさつは省くけれど――そう簡単に他人に話したくなるような話じゃない――私はすぐにでも地元から出たかった。離れたかった。 勉強がそこまで得意って訳でもないのに、何が何でも都会の大学への現役合格を目指したのは、大学進学を口実にしてさっさと地元を出たかったから。無論、実家ってやつに戻る心算も毛頭なかった。 そのために受験したのは文学部。偏差値が比較的低く、卒業もそこまで難しくない、という評判を塾やネットで見かけたから――本当にただそれだけの理由だった。就活に有利か不利かなんてことは気にしていられなかったし、ましてや「大学で何を学びたいか」という意識なんて、まるでなかった。 ……とにかく、「こんな閉ざされた世界には居たくない」って気持ちばかりが先走っていた。 自分がこれから具体的に何をしたいか、どこに向かって生きていたいか――あの時の私は何も考えていなかったし、考えられなかったんだ。 考えられたのはせいぜい、実家からの仕送りを何時でも絶てるように自力で稼ぎ口を見つけなきゃ、ってことくらい。入学してすぐにバイトを探していたのも、これが背景にある。 (96) 2022/10/19(Wed) 16:58:36 |
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