──鈍色の球体5──
[ランドセルを背負った子供が屋敷に帰ると、
部屋の扉の前に箱が置いてあった。
毎年同じメーカーの同じ箱。
この箱を見て、子供は今日という日を思い出す。
開けば中には、栗のケーキが入っている。
メッセージは何も添えられていない。
子供は一旦箱を閉じると、電話を取り、覚えてる番号にかけ始めた。]
……今年も……誕生日ケーキ…ありがとう……ございます…。
……冬の…お母さんの誕生日には……帰って来て貰えたら…嬉しいです…。
[会社を切り盛りする立場として多忙を極める人。
物心ついた時には、もう会社の近くに部屋を借りて、
毎日屋敷に戻ってくることは無くなっていて。
用が無ければ掛けてはいけないと言い聞かされ、
今日は母の事をお願い出来る日。
生憎と、叶ったことはなくとも。
着替えて身なりを整えてから、
箱を抱えると、日課の離れへと足を向けた。
ケーキは栄養の必要なその人に箱ごと渡してしまっている。]*