169 舞姫ゲンチアナの花咲み
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治った、なんて喜べるわけもない。
あるのは、深い後悔と、絶望。
あの時、私がW治療法Wなんて口にしたから。
あの時、私が病について明かしてしまったから。
貴方と出会ったあの日、
貴方に悪魔のような提案をしたから。
私が、貴方にこんな選択をさせてしまった。
全て、私のせい。
私は誰とも一緒にいるべきじゃなかった。
独りで生きて、独りで終わるべきだった。
この身が周りを不幸にする。
そして、誰かに関われば、自分自身が傷つくと。
知っていた、はずなのに。
あぁ、それでも
貴方に出会わなければよかったなんて
それこそ、死んだって言えるはずもないの。
誰よりも、貴方を愛しているから。
貴方の深い愛情が、
痛くて痛くて、堪らない。
ぽろぽろと、耐えかねたように
涙がこぼれおちて。
「私の家族には…
裏切り者しか、いないのね……。」
ひどい、ひどいわ、
と同じ言葉を繰り返しながら
少女のように泣きじゃくっていた。*
身をよじるウユニを捕まえて
サルコシパラはその悲痛な叫びに
耳を閉じると、噛み付いた花弁を
喉を鳴らして飲み込んでみせる。
愛しき人を身体の一部に取り込む
ただそれだけのことなのだ。
それが結果的に己を死に至らしめるだけのことで
本質は何も変わらない。
それから倒れ込むウユニを手で支えて
サルコシパラはただ目を細めてみせるだけ。
「ウユニさん……
どうか…自分を責めないでください。
これは僕が選んだ結末ですから。
貴女が悲しむことは何も…………。」
激情の渦に飲み込まれたウユニを
守るようにサルコシパラは手を伸ばす。
裏切り者だと涙を流す姿に
心痛まないとは言わないが
けれど彼女の言葉を否定することは
サルコシパラにはできなくて。
「ほら、見てください。
何も症状が出ていないでしょう?
感染ったからといって
すぐに死に至る訳じゃないんです。」
花一つ咲かない自分の身体を
ウユニへと見せれば
「貴女の苦悩と比べれば
こんなのは安いものです。」
そう言って彼女を落ち着かせようと
その荒む心を宥めていく。
荒むウユニを案じたサルコシパラは
思いついたようにウユニの瞳を覗いて
「私の部屋にもうひとつ贈り物があるんです。
よければ…持ってきてもらえませんか?」
そんな提案をする。
丘の上からサルコシパラの自室までは
数十分でたどり着ける。
しかし発症のきっかけが分からない以上
自分が不用意に動くのはあまり得策ではない。
もしもウユニが渋るのなら
そのような理由もしっかりと告げるが
彼女は受け入れてくれるだろうか?*
「私のせい、なの……
私なんて、いなければ、……。」
責めないで、と言われても
その言葉が私を守ることは出来なくて。
守りたいと願ってくれるのなら
こんなこと、しないでほしかった。
そんな恨み言は辛うじて声に出さなかったけれど
貴方への恨み言を抑えれば、
抑えた分、後悔も何もかも、自分へと向く。
私のせいでなくて、誰のせいだというの?
きっと誰だって、そう言うに決まってる。
「でも……、
いま、さいてなく、ても……。」
涙を流したまま、促されるままに貴方を見て
症状が出ていないことを確認すると
ほんの少しだけ安堵して
でも貴方の未来を思って目を伏せた。
「そんな、ことない……。
貴方は、何も、わかってない……。」
安いものだ、と言って私を宥めてくれても
荒ぶ心は落ち着くどころか
ますます、荒れていく。
花咲病が甘い病気じゃない、なんて
私が一番よく、わかってるから。
幸せを感じた次の日には、
それを嘲笑うように花が命を脅かしていく、
そんな、苦悩に満ちた病。
「傍に、いて……。
ずっと、ずっと……。」
泣き顔を隠すように
ぎゅう、と貴方に抱きついて
叶わない
願いを、口にして。
貴方に、貴方の言葉に、縋るの。
もう、独りになりたくない。
私にとって、たった一人の家族を
失ってしまったら、私は、もう……。
瞳を覗かれて、視線が交わる。
吸い込まれるように、見つめていると
貴方に一つの提案をされて。
「贈り物……?
でも、それなら……、
二人で帰ればいいのに、どうして……?」
どのみち、行きたい場所は此処が最後のはずで。
取りに戻るくらいなら、
貴方を一人にするくらいなら、
一緒に居たかったから、当然渋った。
渋っていたけれど、
貴方に理由を言われてしまえば
私はそれに納得してしまうの。
まだ、発症していない。
そう信じていたかったから。
貴方を悩ませるくらいなら、
そう遠くもない家まで取りに戻るくらい
なんでもないはずだ、と。
自分自身に言い聞かせて、
貴方の願いを聞くことにしたの。
でも、離れがたくて、時間を稼ぐように
永遠の様な一瞬の後、
立ち上がって、哀しそうに笑うと。
私は一旦その場を後にするの。**
丘から家まで、数十分。
急ぎ足で戻って、貴方の部屋まで向かう。
机の上にあったのは、一通の手紙。
手に取った瞬間、嫌な予感がした。
わざわざ私一人に取ってきて欲しいと
頼むようなものではないような、気がして。
そもそも、理由がどうあれ、
取りに戻らせるのは不自然だったのに、私は……。
さぁっと血の気が引いていく。
手紙を読みもせず、手に持ったまま
私は丘の上へ戻ろうと走り出した。
急いでいた拍子に花瓶を落としてしまって
ガシャン、と大きな音が響いたけれど、
今の私には気に留める余裕もなく。
走って、走って、走り続けて。
息せき切って、たどり着いた丘の上で、
私が見たのは―――――。*
「大丈夫ですよ、ウユニさん。
私はそう簡単には死にません。」
この先の未来に怯えるように
しがみついて涙を流す
ウユニ背を優しく撫でて
彼女の不安と善意に
サルコシパラは付け入るように言葉を被せて
彼女が願いを受け入れてくれると静かに笑う。
初めて言葉で伝えられた愛情は
毒々しくなってしまった身体と心に
深く染み渡っていって。
受けた愛情を返すように
サルコシパラはその口付けに呼応するように
誓いにも似た口付けをし続けるのだった。
そうして永い永い逢瀬が終われば
彼女がその場から立ち去るその時まで
サルコシパラは微笑み続けていただろう。**
途端、サルコシパラの背中から
まるでその身を食い破るように
大きな竜胆が咲いた。
「ぐっ…ぁ…うあああっ…!」
自分が自分でなくなっていくような
恐怖を感じれば、頭の中はウユニとの
思い出に満ち溢れていく。
その度に背中の竜胆は羽化する蛹のごとく
大きな成長を遂げいき、腕先や身体の節々には
色とりどりの薔薇が咲き誇り。
そして左目に咲いたのは、勿忘草だった。
サルコシパラは血液のように
花弁を身体から散らしながら
丘の橋に生えていた木にもたれかかる。
しかし花咲みが留まることはなく、
やがてサルコシパラはその身体を
自分から咲いた花々に包ませて
遠くなる意識の中、蒼空を仰いだ。
苦悩の日も、健やかなる日も
蒼空はいつだって壮大で青い。
蒼空を見上げたまま
サルコシパラは小さく笑い独り呟くと
そのまま意識を手放して。
いつも被っていた仮面が
滑り落ちるように地面に投げ出される。
彼女が戻ってきた頃には
そこにはサルコシパラの姿はなく
あるのは木にもたれかかるように
咲いた竜胆や薔薇と
たった一輪の、勿忘草**
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