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人狼物語 三日月国


47 【半再演RP】Give my regards to Jack-o'-Lantern【R18】

情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 エピローグ 終了 / 最新

視点:


 


   ──────…………。


 

 
 

  [ ───ここは、何処だろう。]


 

 
[ 真っ白に染まった視界。
  誰の気配も感じられず。


  ────しん、と痛いぐらいの静寂が耳に染みる。

      聞こえるのは己の呼吸と
      とくりとくりと鼓動を刻む心臓の音だけ。]
 

 
[ もしかして、あの後
  何者かに捕まってしまったのだろうか。

  そして、命を奪われてしまったのだろうか。


  自分の事だというのに
  他人事のような考えが浮かぶ。

  ───何処か現実感がなかった。]
 

 

   時見様……。


[ もう、彼と会えないのだろうか。

  俯いて視線を地面へと落とす。
  悲しみに顔が歪む。

  せっかく新婚旅行に来たというのに
  こんな事になってしまって。

  彼が悲しむ事を思えば
  申し訳なさに胸が苦しい。]
 

 



………………?     



 

 
[ ───ふと、視界に何かが過った気がした。

  ゆっくりと顔を持ち上げ、目線を前へと向ければ
  そこには懐かしい人の姿。]
 

 
[ はっきりと顔が見える訳ではない。

  全身も輪郭がぼんやりとして朧気であった。

  ───それでも、それが誰であるか。
      伝わってくる雰囲気で理解出来る。]
 

 

   ────……っ!

 
[ 己の唇が音を形作る。
  けれども、それは声にはならなかった。


  ───何故なのか。

  呼びたくて、呼びたくて堪らないのに。

  懸命に唇を動かす。
  それでも己の唇は音を紡ぐ事は無かった。]
 

 
[ 瞳にうっすらと膜が張る。

  すぐにそれは溢れて、
  きらり、輝きながら落ちていく。]
 

 



( ……夢でも、幻でもいい。
      
───せっかく、会えたのに。 )
  



 

 
[ 情けない顔になりながらも顔を前に向ける。

  視界が滲んでそれはさらに形を朧気にしていた。

  そんな中、それは私に何かを伝えようと
  口を動かしている。

  けれど、声が伝えられないのは
  向こうも同じであった。]
 

 
[ …───諦めきれなかった。

  折角会いに来てくれた。
  そして何かを伝えようとしている。


  口の動かす形に神経を集中させる。

  それが意味するものは……。]
 

 

  
( "向こう" "山の奥深く" ……? )



[ もしかして、目指す場所は山の中に?

  顔のある部分に目を向ける。

  さらに姿は朧気になって、
  今や人であるかすらも分からない。

  けれど、それは頷きながら、
  懸命に指で何かを指し示している。]
 

 
[ 徐々に視界は白から黒へと染まっていく。

  朧げなそれは
  小さな光の粒を空気中に漂わせ、
  徐々に薄くなって消えていく。]


   待っ………!


[ 消えゆくそれに手を伸ばす。
  けれど、それに触れる事は出来ず。]
 

 

  
[ 意識が遠くなっていく。
 
     
そして────……。]
*

 

─五里霧中─


 …────俺とした事が……! 


[歯噛みをしつつ、霧の中をひた走る。
もはやその硫黄臭の、黄泉平坂の薫りの煙は
ある種の質量すら感じられる程に周囲を満たし。

俺と琴羽の間に彼我の差を生じさせるのだった]

[琴羽は無事かと、焦燥感ばかりが募る。

考えてもみれば、
この事態は予想し得たのだ。

恐山や殺生石に代表されるように
古来より硫黄の匂いは死界の匂いとされてきた。

それだけでなく、
この人里離れた秘境の山奥。
昼よりも夜が長くなるこの季節に執り行われる
人々が異形へと仮装する祭事────…

これだけの条件が整っているのだ。
当然、人の世とあの世の境は曖昧になり。

その上俺らはつい浮かれて、
"黄昏時"に"地下に生え出ずる"モノを口にしてしまった。


言わば自ら地獄の釜の蓋を開いた様なものであり]

[そんな中に、餌としても、巫女としても、
依代としても最上級の琴羽が一人放り出されれば]


 俺はけして、
 琴羽の手を離してはいけなかったというのに……!


[彼女の名を叫びながら、
ついにはなりふり構わず背の羽を広げ。

周囲の霧を振り払い地を蹴った。



けれども見渡せど見渡せど
視界のすべては一面の霧に覆われ。


────そんな中。
琴羽の叫び声が遠くに聞こえたのだった]



 
琴羽……ッ!



[一瞬とも、無限とも思える距離を駆け。


ようやく彼女の元へと降り立った。

ゆらり漂う硫黄の薫りの霧の中。
周囲には人も、化け物も、何者もの気配は無く。


 琴羽はたった一人で佇んでいた。


さぞや怖い思いをさせただろうと、
その身を抱き寄せ、猫耳ごと頭を撫でようとすれば──*]

 
  ── 
霧に包まれた森の中で
 ──


[ 周囲は相変わらず霧に包まれていた。

  足元には枯葉が積もり、女が一歩歩くごとに
  かさりかさりと音を立てる。

  吹きつける風は冷たく
  剥き出しの肌から容赦なく体温を奪っていく。]
 

 
[ ふと歩みを止め、その場に立ち尽くしていれば
  空から翼を羽ばたかせる音が聞こえてくる。

  その音は次第に大きくなり、
  すぐ傍まで近付いてきたかと思えば
  誰かの名を力強く呼ぶ男の声が響く。]
 

 
[ 地面に人の降り立つ音。

  がさがさと歩み寄ってくる足音。

  男の手が女の身体に触れる。
  抱き寄せ、頭を撫でようとした。]
 

 

 [ ───次の瞬間。]

 

 


   にゃあぁぁ────!

 
 

 
[ 猫のような鳴き声と同時。

  腰を落とし、両手を地面に付けながら
  男の顔面に向かって蹴りを放った。]

  蹴りが当たっても当たらなくとも
  地面を強く蹴っては、宙でくるりと一回転。]
 

 
[ 素早く男から距離を取り。]


   ふしゃぁぁぁぁぁー!


[ それから四つん這いの姿勢を取っては
  目を金色に輝かせ、瞳孔を細めては
  全身で男を威嚇し始めるのであった。]*
 

[今となっては距離に意味など無いかも知れないが……
どうやら此処は石畳の温泉街からは
随分と離れた森の中らしい。

落ち葉の中、
俯き勝ちに佇む琴羽の元へと駆け寄って]


 よかった……


[長い睫毛に隠れ、その表情を伺う事はできなかったが
ようやく一安心とばかりに身を寄せれば]



 ────く 、ッ。琴、 羽……!?



[琴羽のものとは思えない鳴き声が一つ。

その刹那、俺の腕は空を切り。


ついで、顎に感じた強烈な一撃。
たたらを踏んで数歩後退れば、
背が樹木を叩きはらりはらりと金の葉が舞い散った]

―― 修道院 ――

[カザリの事で知っていることは少ない。
 此処に着いた時から住んでいる。
 自分に就く前はどうしていたのかも知らない。

 知ろうとすれば知れたかもしれない。
 ただ、この人生の終焉地で過去を知ってどうするというのだろうか]


  それはそうね。


...は冷たい水の滴る顔をタオルで拭う。
 拭いながら肯定の言葉を漏らし、
 顔をあげるとさっぱりした表情で笑みを浮かべた]


  同じだとつまらないもの。


[地獄につまらないは不要だろう。
 監獄に面白くないは不要だ。
 終焉地にまで鬱屈した感情は不要でしかない]

  だからそれはとても不快ね。


...は手を伸ばす。
 冷たい水に触れたばかりの冷たい指先でカザリの頬を軽く摘まんだ。
 ぷにぷにと頬を動かしてから小首を傾げた]


  そんなつまらないこと、誰かに言われたの?
  そんなくだらないこと、私がすると思うの?


[笑みを浮かべたままに、然しながら瞳は笑っていなかった]


  私と入るのだからカザリも入るのよ。
  私はこれでもスピネルの人間なの。


[...は顔を拭いた濡れたタオルを椅子の背凭れへと放り投げた。
 背筋を伸ばして頬から手を離すと今度はカザリの腰へと手を回した。
 身体を抱き寄せ、今度はころころと笑った]

  今日から私の専属にならない?
  そうしたら此処ではなくて私に仕えることになるの。
  此処からは出られないでしょうけれどね。
  少なくともつまらなくはないと思うわ。


[嗚呼、と呟く]


  何言ってるの……私のは分かってるから……。


[...は机の引き出しを開けて、紐を取り出した]


  貴女のサイズをこれから測るわ。


[朝食を食べたらすることができたと、
 今度の笑い声はそれはとても楽しそうなもので**]

[人ならぬ膂力で俺を蹴り上げた琴羽は
今やそれこそ猫の化身然として対峙していた。

その瞳は、いつにない剣呑さと
深い黄金色の輝きを帯びて]


 ……偽物、というワケでは無さそうだな……


[口の端に滲んだ血を親指で拭い去る。

抱き締めたあの時、
彼女が俺のマントを身に着けていない事に気が付いた。

それ故当たりはしたが、比較的、浅くはあり]


 だがこの力と身のこなしは──…

[ジンジンと痛む顎に擦りながら、
少しずつ距離を詰める。

しかしながら、ある程度近付けばすぐに
琴羽は俊敏に木の陰、はたまた枝の上へと
その身を軽やかに跳躍させ。

しかもすれ違いざまに、
鋭い爪の一撃を見舞ってくる。
頬に、マントに、借り物の吸血鬼の衣装に
幾つも切り裂かれた筋が入り。

どうやらあの女豹のポーズ、
見目好いだけでなく、なかなかに隙が無いらしい]


 詳しい事は判らぬが、
 どうやらその衣装を媒介に
 猫の化け物に憑依されたらしいな?

 西洋で言うところのわーきゃっとという奴か。


[なにせ琴羽は神の生贄たる巫女の家系。
さぞや取り憑くのに魅力的だった事だろう]



 ……しかし、相手と場所を間違えたな?


["以前"の琴羽であれば、
それこそ身も心も猫娘と化していただろう。
けれど。


数度目かの交差の後。

後ろに地面を蹴りつつ、
天狗の羽団扇を懐から取り出して。

ゴゥと大きく一振りすれば。

地面に落ちていたもの、
未だ木の枝にしがみついていたもの。
周囲の枯れ葉が一気に舞い上がり、
琴羽の金の視界を埋め尽くす。


 
…────その、一瞬の隙に]




 
……捕まえた。



 
 

[悪戯猫の背後の闇より腕を伸ばし、
その背を反らせるように羽交い締めにする。

木の葉吹雪の中に立つ吸血鬼は、
腕の中の白き仔猫に微笑んで]


 残念だったなぁ?

 視覚も聴覚も無くとも、
 俺の方には琴羽の居場所は良く判ってな?


  …────何度、
  その身に俺を刻み込んだと思ってる。


[まぁ要は、マーキング済みというか、俺混じりというか。
彼女がやがて人では無くなるというのは、
そういう事なのだ。

今はまだ、人としての部分のが
余程強くはあるのだが]



 ほら、琴羽。
 ……戻って来い。


[故に、捕まえてしまえば此方のもの。

腕の中でにゃーにゃー暴れる琴羽の顔を上向かせ。
噛み付けないように、
親指を横から差し入れて。

その唇を、上から塞ぐ。

はらりと、前髪が一房垂れ下がるのも構わずに
俺の舌が彼女の口腔内を掻き乱し。
荒々しく吸い上げ、そして俺のを伝わせ飲み込ませていった。
閉じられ無いままの猫琴羽の口元からは
溢れた唾液と湿った水音が漏れて。

あぁくそ。
こんな時でさえ、琴羽の口は
えも言われぬ程に甘美で。離れ難く。


彼女が正気に戻るまで。
いや、戻ってからもきっと、
彼女のナカに俺は俺のモノを注ぎ続けた事だろうか*]

――寝所――


 具体的じゃない、かぁ……。


[ 押さえられてた手がメイベルと繋ぐ形になって、
 背中の下にもう片手が差し入れられる。
 彼女の頭をかき抱くようにしたのとも相まって
 抱きしめあうようになっていく。]


 こんなふうに、身体を合わせたくなる、のは。
 それが、好きってことじゃ……ない?


[ 見つめあいながら柔くキスを交わして、
 彼女の唇の感触を覚えていく。
 私のそれも知ってもらおうと、淡く開いたり閉じたりして。]


 ん……メイベルの、身体の感触。
 キライじゃない、よ。


[ ちろり、舌を出してメイベルの唇を舐める。
 その顔を見上げながらもぞ、っと身体を動かした。]

 
 ん……、なあに?


[ 問いを向けようとしたところで途切れるメイベルの声。
 いつもとは少し違っていた瞳が翡翠のそれに戻っていく。
 不思議そうにする彼女。
 命令の効力が終わったのかな、と考えつつ。]


 だって、押し倒してきたのはメイベルじゃない。
 ……それは、私も、逃げようとはしなかったけど……


[ 抱き枕へするみたいに、絡めてる脚をすこし上下させて。
 メイベルの手が腰に回れば抱き寄せられるまま、
 こくんと胸の中でうなずいた。]

 
 命令、してくれても、よかったよ。

[ 楽しそうな気配を感じて上目遣いに見上げる。]


 一度でじゅうぶん、って思われたら……それはそれで、
 しゃくなんだけど。


[ 繋いでた手は離されてフリーになっていた。
 気分の向くまま伝わせた指先はメイベルの背中を撫で、
 腰へと下りてお尻に触れる。
 弾力を確かめるみたいに押しては離して遊んでみた。]

 
 じゃあメイベルも、何かひとつ。
 私に命令、してみる?


[ メイベルの裸のお尻。指先で左と右と、突付いてみたあとは
 その間にも探索の指を進めてみようかな、と考える。]


 なんでもいいよ。
 メイベルが私にしてみたいことだったら、なんでも。


[ 桃尻の谷間に分け入らせて、奥がどうなってるのか確かめようと
 試みながら。片目をつぶって、そう囁くのだった。]*

──寝所──

[彼女の指がするりと割り込んでくる。
少し私も身動ぎして
けれど、彼女がなんでも、と言ったときには
にまっ、と目を細めて笑うだろう。]


  
「動くな」



[ふっ、と呟く言葉。
彼女が受け入れる事を公言していたから
その強制は容易く彼女の身体を止めただろう。

私のお尻を触って、奥に行こうとしていた指も
凍りついたみたいに、ストップ。]


  あぁ、
「口は動かして良いわよ」

  反応が無いのもつまんないし。


[彼女の手を内側からどかす。
彼女自身は動かないが、私が他動的に動かす分には問題ない。
手をばんざいさせてそのまま私が離れると
彼女をベッドにうつ伏せにさせる。

私は彼女の太ももの辺りに跨ると
ネグリジェを着ている彼女の背中を指で撫でる。]


  疑問なんだけど。
  アリアが知ってる私って初心だったわけ?


[そのまま背中を越えて
腰骨を越えて、ちょうど先ほど
彼女が指で触っていた辺り。
小さなお尻の割れ目に至る。]


  この状況でも欲情しない子なの?

  それなら。
  びっくりさせちゃうかしら。


[薄いネグリジェと、ショーツの上から
指をぐっ、と押し込むと
その先はちょうど彼女のお尻の孔の辺り。

入り込むことはないけれど
ぐっ、と押されると少し内側に凹んでいく。]*

 
[ 放った蹴りは、残念ながら
  強烈な一撃を与える事が出来ず。
  男の口端に軽く血を滲ませるに止まる。]


   ふ、ぅ、ぅぅ……。


[ 威嚇をした後。
  徐々に、少しずつ距離が詰められる。

  近付かれて堪るかと、
  四つ足のままじりじりと後退りをしたり。

  勢いよく近付いてくるようであれば、
  地を叩きつけるように蹴っては駆け出し
  木の影へと身を潜ませ。

  はたまた、
  尖った爪を木の幹に引っ掛けては跳躍。
  身体をしならせながら、バランスを取り
  軽々と枝の上へと着地するのであった。]
 

 
[ そうして距離を保ちつつ。
  隙を突いては男に一撃を放つ。]


   ふ、しゃぁぁぁ!


[ 尖った爪は刃物の如く
  冷たい鈍い光を放っており
  男の衣装を皮膚ごと抉るように切り裂いていく。

  男の身体にはいくつもの線状の筋が入り
  また、傷口から血が滲み出すのが目に入ったか。

  爪に付いた血を、時折ぺろりと舐めつつ。
  隙を見計らっては爪で切り付けて。]
 

 
[ それから幾度かの
  対峙と交差を繰り返し。

  男の方へ視線を光らせつつ
  致命傷となる一撃を放とうと
  隙を窺っていた時の事。

  地面を蹴り男が勢いよく
  此方へと向かってくる。

  体勢を整え、此方も
  地を蹴り飛び掛かろうとした


           ────次の瞬間。]
 

 
[ 男が懐から何かを取り出したのが目に入る。

  それが何か、認識するよりも早く
  男の腕が横に大きく振られる。


  風がゴゥっと吹き荒ぶ音。

  それと同時に枯葉、木の実、埃、土
  色々なものが宙へと舞い上がる。

  視界があらゆるものに埋め尽くされる。]
 

 

   うぅ……にゃっ!?


[ 突然の事に狼狽え、浮足立つ。

  状況を確認しようと、
  視線を周囲に走らせようとした。]
 

 

  [ その一瞬の隙に ]

 

 

   にゃぁ、ぁ、にゃー!?


[ 背後から忍び寄った男に
  その腕で羽交い絞めにされる。

  身体を捻り、暴れ、
  身動きを封じる腕から逃れようとも
  力強い男の腕の前に成す術はなく。

  両手両足をばたばたと振り回すだけ。]
 

 

   にゃあー! にゃー! にゃー!


[ 男の手が、指が
  己の顔に、口端に触れる。

  一体何をするつもりなのだと。
  ただ必死に鳴き声を上げて、暴れ続けて。


  ───突然、生温かい何かが咥内に触れた。

  その悍ましさに、噛み付こうとするものの
  親指が邪魔で口を閉じる事が出来ない。]
 

 
[ そうしている間にも、
  ぬるりと生温かい何かが
  口の中を這いずり回っていく。

  とろりとした液体が次から次へと
  身体の奥へと注ぎ込まれていく。]


   ふ、ぁ………ぁ、……っ!


[ 全身の力が抜けていく。

  最早腕一本すら自由にする事が出来ない。

  身体をびくりびくりと震わせて
  そのまま男のなすが儘にされていた。]*
 

 
[ そうしてどれぐらいの量が
  注ぎ込まれたのだろう。

  女の口端からはぽたりぽたりと、
  透明な液体が糸を引きながら滴り落ちており。

  何時の間にか
  伸びていた爪は元の状態に戻って。

  文字通り憑き物が落ちたというように
  女は大人しく男の腕に閉じ込められていた。]
 

 

   ん、……ふぁ……ぁ……?


[ 長い睫毛を震わせて薄く目を開けば。

  視界に映るのは、ただ一人、
  己の伴侶として認めた男の顔。

  安心しきったように目を閉じては
  己の身体を押さえる腕をぎゅっと優しく握って。

  喉の奥へと伝い落ちていくそれを
  甘い蜜を啜るが如く、
  こくりこくりと飲み込んでいった。]
 

 
[ 口元が彼のものから解放された後。

  とろんと潤んだ瞳を彼に向け。

  透明な液体が唇を、顎を、ぬるりと光らせる中
  やっとの事で口を開いて。]


   私……何か、迷惑を……ごめんなさい。


[ 謝罪の言葉を口にした。

  意識を失っている間、
  何が起こっていたかは分からない。

  けれど、ぼろぼろになっている
  彼の身体を見れば、少なくとも
  迷惑を掛けた事だけははっきりしている。]
 

 
[ 彼が腕の力を緩めてくれれば
  両手を彼の身体に回して、胸元に頭を預けては。]


   あの、……夢……あれは……
   本当に、夢だったのか……。

   分からない……分かりませんけれど……。


[ 一旦口を閉じ、暫し悩む間が空く。]
 

 
[ 暫しの間の後、口を開いて。]


   母に……会ったんです……。

   それで……。


[ この向こうに、山の奥深くに。
  目的とする場所があるのだと。
  夢の内容を彼に伝えて。

  身体を小刻みに震わせながら
  甘えるように体を触れ合わせただろう。]*
 

── 修道院 ──

[自身が知るのは彼女の名と身分だけ。
 なぜここへ送られたかなどは知らない。
 知る必要も、問う必要もないと思っていた。

 禁じられていたのはもちろんある。
 けれどそれ以上に、水仕事以外で掌に傷を増やしたくなかった。

 過ぎた興味は身を滅ぼすもの。
 過去の、彼女以外の客人を世話していた時などは、それで打たれたこともあったから]


  ご不快、ですか?
  けれどそれが……


[一般的、普通なのだと紡ぐ前に頬がつままれた

 誰かに言われなくとも当たり前。
 下働きと共に、湯に入ろうとする彼女の方が珍しい。
 けれどその瞳を見れば、それ以上言い募るのは危険なようで]


  かしこまりました

  けれど石鹸は────
  香りが残っては、先輩方に叱られますので


[せめて、と瞳を伏せる。
 自身の立場はこの場において、吹けば飛ぶようなもの。
 必要以上に睨まれたくないと訴える間にも
 距離は狭まり、腕の中へ捕らえられる形になっていた。

 上機嫌そうに笑う相手。
 対してこちらはきょとんと目を見開いたまま]


  ──それは……
  なぜ、私なのです?

  任せるならばもっと優れている者のほうが
  何か取り柄のある者の方が良いでしょうに


[専属になればつまらなくはない。
 それはたしかにそうだろう。
 衣装の話もそう、この距離も。
 彼女の思考は私の常識とはあまりに異なるから。

 けれど、その提案に易々と頷けるかと言えば]


  せっかくのお話ですが
  私は、ハロウィンのお付き合いだけで

  ──採寸は、食後に
  お食事の方は部屋に運ばせましょうか


[身元のわからない者を専属にするほど、甘いとは思えないとため息一つ。
  
 この分だと食事は食堂ではなく、ここに運んだ方が良いだろうかと声をかけた*]
 

―― 修道院 ――


  何故、何で、どうして。
  それらは他の従者は口にしないのよ。


[...はカザリの腰に触れていた手を動かす。
 背筋を撫であげていき向けられた疑問に擽ったそうに笑う]


  スキルなんて後からでも身につけられるわ。
  私が貴女を選ぶのは普通ではないから。

  『畏まりましたお嬢様』

  先に貴女が言った通りのこと。
  此処にいる従者は良家の子女の世話をする見返りに
  良家に飼われて生きている。


[...の指先は項へとたどり着きそこへと掌で触れる。
 顔を背けることができぬように抑制し言葉を繋ぐ]

  今もそうよね。
  普通は専属になりたいと望むものよ。

  石鹸もそうよ。
  特に私に強いられたと言えば済むもの。


...は見開いた眼を覗き込み、にんまりと笑みを浮かべた]


  貴女なら私が退屈せずに済みそう。
  そして此処ではそれ以上の理由なんて意味がないの。

  来る日も来る日も変わらぬ日々。
  食事も、生活も、何もかも。
  カザリはそうは思わない?
  今が不服ではない?


[...は視線を逸らさない。
 逸らさぬままに身体を一度離した]


  ええ、運んでくれる?
  貴女の分も一緒にね。
  終わったらすぐに採寸したいから。


[部屋にはスピネル家の家紋が描かれた旗が壁に飾られている。
 背後の王冠を冠した獅子は今は退屈そうに欠伸をしているかのようだった**]



[ 硬質な音が響いた。
 剣を取り落した魔王は、傍らに膝を付きこちらの顔を覗き込む。

 嫌悪、或いは侮蔑。彼が今まで見せた表情と言えばその二つだけ。
 しかし今その、髪の色と同じ影のような黒い瞳をした両目は
 見開かれ、驚愕をありありと表現している。

 何かを語ろうとしては閉じ、また開く唇
 まるでただの人間のように彼は動揺していた。
 人の形を保ち感情を見せる相手と、倒れ伏し虫の息の異形。

 皮肉な程、両者の立場は逆転していた。
 そのことに笑みも作る気力すら、もう無い。

 問いの答えも、魔王の感情が揺らいだ理由も知る時間は無いだろう。 ]



[ しかし……。 ]



  「……本当に、其れを望むのならば。
   今は生きるが良い、我が根城に辿り着いた最初の勇者よ。」

[ 魔王は、残された時間で一つの選択をした。 ]


[ 掴まれた腕、身体は無理矢理に仰向けの姿勢へ変えられる。

 自身の剣を拾った魔王は、刃で己の腕を切り裂いた。
 顎を掴み口を開かせ、流れる血を流し込む。

 その頃にはもう意識は薄れ始めていて、
 抵抗しない代わり、何をされているのか正確に把握も出来ておらず
 目覚めた時に教えられ衝撃を受けた。

 以前、森の国で退治した魔物は
 魔族の血液で人では無くなってしまった犠牲者だったから。
 ──同じことをされた自分は、異形から元の姿へ戻っていたから。 ]

――寝所――


 
「動くな」


[ メイベルが目を細めたかと思うと、命じる言葉が告げられて
 私の身体は指先までぴたりと動きを止める。
 閉じた片目を開いた、まさにその瞬間だった。]

 ――――。


[ 声も出ない。でも自然な呼吸は出来るし、瞬きも――無意識なものなら出来ていた。随意筋だけが意思に反応しなくなったかのよう。メイベルに手を退かされる感覚はあって、受動的な働きは機能しているんだと気づいた。]


 ……う、うん。


[ 動かすことを許可された口から出たのは短い音。
 これから彼女がどうしようというのか、
 今の私には想像もつかなくて。]


[ 怒りよりは動揺が大きかったと思う。
 しかし、湧き上がるものを目の前の宿敵に向けることは
 自分達が繰り返した戦いの真実を突き付けられ、叶わなかった。

 城に辿り着くまで倒してきた魔王の配下たちは

 一体は敗退した際に負っていた重傷から既に回復、
 一体は海に沈んだように見せていたが生存、
 一体確実にとどめを刺していたのは能力による分身、
 本体は顔を合わせてすらいない。

 殺めたのはたった一体、肉体を持たない無実体種族の男。
 ……それもその力で銀の武器を作り出した故だろうと、彼は語る。 ]



[ 仲間を喪い、宿敵に助けられ、独房に囚われ、更に重ねた勝利は幻。
 無力感に打ちひしがれる俺に、今度は魔王が選択を求めてきた。

 処刑を受け入れるか、あの時の答えを望むか。
 どちらにしても相応の覚悟をしてもらう、と。

 出来ることならば後者を選んでもらいたい。
 ────お前のような人間に私の代で再び出会えるとは思えないと。

 鉄面皮の如く心の内は読み取れない。
 だけどこの目には、語られたままが真であるように思えた。

 これが処刑を先延ばしににするだけの選択だとしても、
 語られた言葉とあの動揺の理由と、
 死の淵で願った世界全体に関わる答えが、俺は欲しかった。 ]



[ 拘束されたまま牢から連れ出され、長く暗い廊下を進んだ。
 雪嵐の中で見た外観通り、地下ですらも果てしなく広い。

 ……既に話はしているのだろう、魔族に出会えど何も言われない。
 彼らは己が王に敬意を示すように一礼し、壁を背に並び立つ。

 殆どは冷たい目を自分に向けてくるが、そうではない者は
 遠巻きにこちらを見て困惑しているようにも見えた。

 幾つか他と雰囲気が違う扉を見つけたが、どれも目的地では無く。
 歩き続け、漸く着いたかと思えばその先に階段がある。
 様々な魔法で解いてゆく鍵くらいにしか代わり映えがない、
 気が遠くなる道筋の終わりが見えなかった。 ]




[ 暇潰しなどという呑気で不似合いな理由ではない、
 なら、目指す先にあるものの為にするべきだった話か。
 口を開いた魔王は、どこまで知っているのか問い掛けてきた。

 神託のこと、御印を持った魔物と戦ったこと。
 世界中を巡っても見つけられなかった情報に抱いた疑念。

 既に二人以外には影一つ存在しない地下に響く声、
 黙してただ受け入れた相手が口を開き、教えてくれたのは
 
 魔族にも時折同種より強すぎる個体が生まれ、
 成長の毎に暴走の危険が増してゆく、血液を与え対処する。
 それは安定した「魔素」を取り入れさせるのが目的ということ。

 魔素とは何なのか、何が魔素を生み出しているのか。
 この身体は既に人間とは呼べない、そんな非情な現実と。
 教会が何の為に長年勇者を育ているのか、
 何故我々は永遠の如く争い続けているのかも。 ]


[ 鈍器に殴られたような衝撃だった。
 考えるより先に出た声の大きさに、自分自身が驚いていた。

 身体のことは、薄々分かっていた事実を聞かされたのみ。
 しかし聖木と教会を否定するような内容は、
 まるで世界そのものが嘘偽りだと言われたように思えたのだ。

 魔王はただ、証拠はこの先にあると語り、錆びた扉を開いた。

 行き止まりにしか見えない石壁に魔王が炎を放つと、
 見る見る内に形を変え、灰色のアーチが生まれる。

 手が震えていたのは怒りか、目にしたもののせいか。 ]

 
 ぅ?
 え、えぇと。
 直接そのものの描写は、なかったかな。


[ 一応、「原作」のカテゴリ的には全年齢対象の作品なので。ただし、「血に濡れた淫蕩な笑み」とか「妖艶に招く手つき」とか、そういうことを匂わせる描写はしばしばあって。]


 でも、当然知ってる感じ、だったけど――


[ もちろん原作を下敷きにした二次創作に当たれば枚挙に暇がない。
 昔滅ぼした国のお姫様を調教して
 忠実な配下に変えたとか、
 功績を挙げた部下たちへの褒美として閨を
 共にしただとか。]


[ ────潜り抜けた先にあったのは
 世界一つを空ごと閉じ込めたような光景だった。

 一気に広がる視界、見下ろした先には遺跡のような場所。
 材質不明の建造物は、無数に伸びる灰色の塔が特に目を引く。

 それと同色の地面と異様な形の金属の塊のようなもの。
 どれもこれも崩れひび割れ潰れ、どうしようもない程に朽ち果てていた。

 拘束を外された後、竜に姿を変えた魔王の背に乗せられ降りてゆく。
 彼が「旧き時代の文明跡」と呼んだ此処には、
 確かに生物の気配は少しもありはしなかった。 ]


[ でも、それらは基本的にその二次作者がそう描写したキャラクターだ。今まで見てる限り、このメイベルはそこまで性欲が強い人物のようには思ってなかったのだけど――]


 ……ひゃっ!?


[ えっ、てなってしまう。
 押さえられた箇所。お尻の穴。
 びっくりさせちゃおうと言った彼女の目論見通り、慌てた声が出てしまった。身動きできないまま内側に押される圧迫感は不安を煽る。現実世界での私もそこを弄られたことはないのだ。]


 お、お尻……?
 な、なんでそっち、や、やだぁっ……!


[ ベッドに横向きで寝転んだまま、どんな悪戯をされようともなす術なく受け入れるしかないけれど。なのに、どきどきと鼓動がうるさく聞こえ始めていた。]*



[ 上界よりも温度が高く、雪も氷も見当たらないのは
 そもそもあの環境は魔王の父、初代王の力によるものだから。
 それは、ヤドリギの根と人類の侵攻を阻む為に施された。

 あちこちに転がっている塊は「戦車」の残骸。
 移動手段であり、武器でもあった。
 かつて戦いに優れた者達が乗り込み危機に立ち向かったが、
 勝てるのは魔素に影響されていない彼らの同族相手くらいだった。

 此処の建造物は塔ではなくビルと呼ぶのが正しい。
 この時代の文明は現在より遥かに優れ、
 恐らく人類領の地下にも同じような遺跡とビルがあるだろう。

 彼自身も知り得ない時代の遺物について、
 沢山教えてくれた、入れそうな建物の中も見せてくれた。
 枯れ果てた植物のようなもの、
 神託の部屋で見たそれによく似た様々な形の用途不明の箱。

 最早互いの立場のことなど、俺の頭には無かった。 ]



[ 何を見ても、どんな話をしても歩き続けていた魔王。
 彼が漸く足を止めた建物はビルでは無いが高く、広大な敷地を有す。
 そして異様な程に倒壊していた。

 門には文字が刻まれていた名残が見えるものの、読み取れない。
 だが、入り口の上に彫られたエンブレムは
 女神の教会と同じ、実のついた枝を咥えた鳥を模した──── ]



[ ヤドリギは旧時代、予兆無く大国の首都に出現した超常的植物だ。
 周囲では奇妙な現象が起き、動物が異形に姿を変えた。
 精神がおかしくなる者、説明出来ない異能で仲間を殺してしまった者。
 影響は人類にも及び、その木は平穏を吸い上げ更に高く伸びていった。

 伐採に焼却、空を征く乗り物による爆撃まで試み、全て失敗。
 異物に傷一つ付けることは叶わなかった人類だったが
 世界中から集められた研究者達は、ヤドリギの力の解明に至る。
 ────これこそが「魔素」であった。

 対処法ではなく、正体。それだけの研究成果が生まれるまでの間に、
 数多の人命が喪われ、魔素による現象は既に世界中で起きていた。

 ヤドリギを消滅させるのではなく、適応し、そして利用する。
 危険思想のグループもまた、生まれていた。
 研究者は呑気で何も出来なかった存在、彼らのほうが未来を見ている。
 絶望のあまりそんな思考で同調する人々も、着実に増え続けて。 ]



[ そうして人類は、駆除されていた異形を参考に罪人を材料に。
 異形と同じ生物を作れるようになれば、罪なき人々すらも生贄に。
 更に多くの魔素生物、そして魔素種族を生んでしまった。

 力無き者が異能の存在を生む、その先には滅びしか無かった。
 超常の木が同じ未来を齎したとしても、寿命を短くしたのは人類だ。

 思想により分かたれた同族同士での争いにより、
 ただでさえ消耗していた彼らは、為す術もなく。

 生き残り今の時代へ命を繋いだのは、
 微量でも魔素を取り込み、形を変えないまま恩恵を得た者達と、
 対して変わり果ててしまった魔素種族に────今は教会を名乗る彼ら

 魔素による力、魔法で都市そのものが沈められたのが、遺跡。
 手遅れの者を確実に隔離し、外側の人々を助ける為
 世界各国で同じことが行われたという。 ]




 魔を打ち払う為にヤドリギが生まれたのではない、
 ヤドリギが魔を作り出したのだ。

 人類は歴史を忘れ、かつての同胞と争いを続けていた。
 “彼ら”による口封じと脅威の排除という目的だけを、継承しながら。





[ 嘔吐した自分を支え、魔王は鳥のエンブレムの建物から離れてゆく。

 道のあちこちに、建築材の破片に紛れて落ちている植物は
 幾つかの建物の中にあったものと同じ、
 枯れ果てても形を保った、球体のような────

 城へと戻った後に通された、あの雰囲気の違う扉の部屋で
 初代王の日記の写しを見せられ、時代の結末を教えられた。
 更に遺跡から発掘したという、
 長年復元を試みているらしい箱、「機械」
 それと研究資料と思われる古びた紙片を見せられた。

 女神の子であった自分に真実を受け入れさせる為だろうが、
 未知の多い遺跡で見た、幼少からよく知ったその形こそが
 何よりの証拠となり、既に心は決まっていた。** ]

──寝所──


  そう、当然知ってるの。
  異性と経験があった訳じゃないけれど……

[性衝動が強いか弱いか。
私自身も判別は付かない。
だってそれを比較する相手が居ないし
それを指摘する配下は居なかったから。

ただ……。]



  あら。
  そっちじゃなければ
  良いみたいに聞こえるわよ?


[私はくすくすと笑う。
自分と指先と指先を合わせて
それから離すと、指の間に細長い棒状のものが出来ていた。
長く柔らかい、そして先の方にぼこりと隆起がある。


──ただ。
どちらにせよ、私が今
アリアに嗜虐と劣情を抱いているのは確か。]



  アリア、私、犬が飼いたかったの。
  人間の街で見かけたのよ、可愛かった。

  だからね、犬が欲しいの。
  お利口な犬が。


  
あんたは犬よね?アリア


 
[彼女を横向きからうつ伏せにして
ショーツをゆっくり下げると、先程の棒状のもの。
魔力で編み出した、犬の尻尾に似せたものを
彼女のお尻にグリグリと当てる。

上手く入らないなら、太さを調節して
経験のない彼女でも受け入れられるように。]



  上手く犬を出来たら
  
ご褒美をあげるわ


  ……アリアは雄犬がいい、雌犬がいい?
  どっちかで、褒美は変わるわよ。


[私は彼女の身体にゆっくりとしなだれかかり
彼女に長い尻尾を生やすと
後ろからその耳に囁いた。]*

――寝所――

[ 異性と経験はない、と言うなら彼女は同性との経験はあるということ? 私は男性と、しかも学生時代だけの交際だった一人としかない。今口にするものでもないけれど、反射的に思い返した。それはメイベルが何をしようとしているか、動かせない視界に入ってなかったからでもあったのかも。]


 そ……そりゃあ、後ろなんて……何も使ったこと、
 ない、もん……


[ という抗弁はじっさい、真実なのである。]

[ 犬が飼いたかった。
 お利口な犬が。
 そう続いたメイベルの台詞は、経験のないそこをターゲットにされてしまってる危機感をひしひしと煽った。そこを責めれたらどうなるか知らなくても、そうされてる光景というのは割とよく、同人誌では目にするものだったんだ。]


 
「あんたは犬よね?アリア」



[ 半ば予期していた命令の声に、ぞくっと背筋を走る感覚。
 それが恐怖心だけでなく期待感をも刺激していたことにまだ、
 私は気づかずに。無意識に瞼を閉じて答えていた。]

 
 
「はい、アリアはメイベル様の犬です」



[ 自分の声が聞こえて、目を見開こうとするけど開かない。
 うっとりした表情をきっと浮かべている。
 そう自分の様子を察することが出来ただけ。]


 ……っ、んん……っ!?
 ……やっ、やぁっ、これ……なに、入れてるのっ……!?


[ 続いてお尻の穴に生まれる異物感。
 出すだけの場所にねじ込まれていく丸くて大きなもの。
 見えはしなくても想像がついて、うつ伏せにされた姿勢のまま
 それが深いところまで侵入してくるのを感じとる。]

[ メイベルの手の動きが止んで、開かれた後ろの感覚に落ち着かない中
 背中で彼女の重みを感じとる。
 太股には尻尾とおぼしき柔らかい毛の感触。
 きゅう、っと内腿が締まる感じがした。]


 ぅ……上手く、って?


[ 腕も半端な形で固まったまま、
 彼女の声に答えることしか今の私には出来ない。
 提示される二つの単語。雄犬と雌犬。
 どちらかと言われればそんなの、]

 
 め……雌犬のほうが、いい、です……

 ……わん。


[ 雄犬にされるというのがどうされることになるのかわからない。
 想像はつく気はするし、今よりまだ動けるようになりそうな気も
 するけれど、その変化はちょっとこわい気がした。]


 ごほうび……ほしいけど……
 どうやったら、うまく、めすいぬ、できるの……?


[ 耳に囁かれた声に何故か安堵を感じてしまう。
 メイベルに飼われる雌犬。
 それが上手く出来たらご褒美をもらえる。
 ご褒美。素敵なもの。良いこと。とても嬉しいなにか。
 それへの期待で、瞳が潤んだようになってしまっていた。]*
 

──寝所──


[ぞくり。とした。

アリアの口からその言葉を聞いた時
はっきりと自分の中に悦びが沸いた。
彼女の背中では歪んだ笑みを浮かべ
恍惚に濡れた瞳を讃えるメイベルがいた。]


  尻尾よ、尻尾。
  元から生えていたでしょう、ね?


[犬には当然尻尾がある。
当たり前のことを私はしているだけ。

深くまで入れて、軽く引っ張ると
つっかかる感覚があって
強く引かなければ抜けないことを確認する。]


  ……アリアは女の子なのね。
  ふふ、分かったわ。

  ──かわい。よく出来ました。


[彼女が、わん、と鳴いたことに笑いながら
頭を撫でて、それから人間がしていたように
背中まで長く撫でていく。
毛並みまでは再現できないけれど
その毛並みを整えるみたいに。]



  良い心がけね、アリア。
  動けないのは可哀想ね、待っていてね。

  動けるようにしてあげるから。


[そう言いながらも
再びメイベルは手を合わせると、今度は輪っかを作り上げる。

ピンク色のベルト。

犬に付ける
首輪


動けない彼女の首に
ゆっくりと首輪をかちり、と付ける。
メイベルが触れれば縄が生まれ
それが伸びていくと、メイベルの手の中にリードとして
握られることになる。]



  さぁ、動けるようにしてあげる。

  でもまずは、犬だものね。

  
「服を自分で脱ぎなさい」

  私はね、犬に服は着せないの。

  それが出来たら
  
「犬のように動くことのみ許します」


  そうよね?
  だってアリアは雌犬だもん。
  人間みたいなことはしない。そうよね?


[私は彼女の頭をまた撫でながら
最後にこれからを言う。]



  わんちゃんは散歩が大好きなの。
  アリア。
  
  
「夜の散歩に行きましょう」



[そうして、リードを軽く引いて
彼女に笑いかけた。]*

――寝所――

[ 挿れられたものをぐっ、て引っ張られると奥で引っかかった感覚があって抜けることはなく、開かれていたお尻の穴が逆にきゅっと窄まってしまう。]


 きゅ、っ、ん……、うん、
 しっぽ……生えて、た? かな?


[ 疑問は生まれるけれどメイベルが言うなら>>d17たぶんそう。
 
「あんたは犬よね?」
と確認されたのだから
 まだ自分でも不思議に思うことがあってもおかしくない。
 そんな風に自分で自分を納得させて。]


 うん、わたしは女の子。
 それくらいは、見たら分かるでしょう?


[ 頼りないことを言うご主人さま。
 そんな目つきにちょっとなったのを、メイベルは見てたかどうだか。]


 はぁいっ。待ってる。


[ やがてピンク色の首輪が視界に入り、
 首の周囲をぴったりと取り巻く感触が生まれる。
 繋がれた縄がメイベルの手に収まると、小さく喉を鳴らして
 にっこりと微笑を浮かべていた。]

[ まずは、犬だものね。
 
服を自分で脱ぎなさい
――というご主人さまの言葉。
 こくんと頷いた。背中を撫でられてたのも気持ち良かったけれど、
 頭を撫でてもらえるのは嬉しい。]


 わん。
 アリアはめすいぬだから、人間がするみたいには、しないよ。
 ふくを脱いだら、いぬがするように、するー。


[ 手足が動くようになって、ネグリジェをまず脱いだ。
 頭が通る分だけボタンを外せば裾を捲って、一息に。
 続いて下は下着ごと。それで、私が身に着けているのは
 ご主人さまがリードを持った首輪、ひとつだけになる。]

[ 裸になると、まずは手足を揃えて小さくなった四つ這いになる。
 おすわりの姿勢だ。
 ご主人さまがどうしたいのか、ちゃんと聞かないと。]


 ん、わふ。
 おさんぽ? 大好き。


[ きゅっきゅ、お尻を振ってしまった。
 本能的な動きなので自分でも止められない。
 お尻の中で何か擦れて、ぞくっとなる感じがしてしまうけど
 それもリードを引かれれば意識に強くは残らない。]


 よるのおさんぽ……どこまで?
 どこまでいく、ご主人さまっ。


[ ぺたぺたと、床には手の平と足の裏だけ着けてついていく。
 膝は着けずにお尻を高く上げた姿勢。
 だって私は犬なのだから。言葉を話すめすいぬ。
 どきどきする感覚、人間の私の意識は内側に押し込められて
 表には出てこなくとも、倒錯的な興奮を感じてしまっていた。]*

──寝所──


  見て分からない事もあるのよ。
  後で教えてあげる。

  ……それはそうと従順じゃないわね、その目。

[頼りないものを見る目をしていたアリアを
目敏く見つめると
アリアのお腹の中に入れている尻尾を少し大きくする。
更に一つだった瘤のような隆起を
二つに増やしてしまう。]
  


  そうそう。
  そんな風に笑って受け入れるのよ、アリア。


[首輪を付けられた時のアリアは可愛らしかった。
だから彼女の顎下の辺りを指で擽るように
撫でてあげよう。]

──寝所──


  見て分からない事もあるのよ。
  後で教えてあげる。

  ……それはそうと従順じゃないわね、その目。

[頼りないものを見る目をしていたアリアを
目敏く見つめると
アリアのお腹の中に入れている尻尾を少し大きくする。
更に一つだった瘤のような隆起を
二つに増やしてしまう。]
  


  そうそう。
  そんな風に笑って受け入れるのよ、アリア。


[首輪を付けられた時のアリアは可愛らしかった。
だから彼女の顎下の辺りを指で擽るように
撫でてあげよう。]

──寝所──


  見て分からない事もあるのよ。
  後で教えてあげる。

  ……それはそうと従順じゃないわね、その目。

[頼りないものを見る目をしていたアリアを
目敏く見つめると
アリアのお腹の中に入れている尻尾を少し大きくする。
更に一つだった瘤のような隆起を
二つに増やしてしまう。]
  


  そうそう。
  そんな風に笑って受け入れるのよ、アリア。


[首輪を付けられた時のアリアは可愛らしかった。
だから彼女の顎下の辺りを指で擽るように
撫でてあげよう。]



  うん、そう。
  アリアはとっても賢いわ。偉いわね。


[服を自分から脱いで裸になるアリア。
服を着て、と文句を言っていた彼女の意識は
今は存在しない。
だって犬の彼女にとっては裸が当たり前だから。


指を軽く鳴らすと、いつもとは違う黒いローブ姿になる。
魔王としてのメイベルの存在を
人間から誤魔化すための高位の魔術。

そして彼女の膝と足の裏、手のひらに
軽い防御の魔法を掛けてあげる。

だってこれから。]



  どこまで?
  決まってるでしょう、外まで。

  街を横断するまで、ね?


[可愛らしい犬の頭を撫でてやる。
裸にリードで繋がれた、アリア。

私はもう一度撫でてから
それからリードを引き、寝室から出る。
ゆっくり歩いているけれど
彼女が遅れるようならリードを強めに引っ張った。

それから城内にあるただ一つの転移の魔法陣に辿り着けば
止めようとする配下を制し
私はここからかなり遠い街中に一瞬で転移した。

真夜中とはいえ人が沢山存在する街に。]



  ほら、アリア。外よ。
  お散歩、しようね?


[街の端につけば
私は堂々と裸の彼女を引き連れて街中を歩いていく。

街を守護する憲兵のみ強制の力で眠らせてしまえば
あとは何も力を使う気はない。

真夜中。
酒に溺れ酔った大人達は奇妙な光景を見る。
ローブ姿の小さな影が、裸の女を引き連れている。
あるものは酔ったのかと目を疑い
あるものは目を背ける。
あるものは大笑いする。
あるものはその姿をじっと見つめていた。]

  
  ♪

  夜の空気は気持ちいいわね、アリア。
 

[私は後ろをついて来る彼女に声を掛けると一度止まる。
おそらくちゃんと付いてきてる彼女を見れば
頭を撫でてあげるし
遅れていればリードを強く引っ張っただろう。

それから蹲み込んで目線を合わせると。]



  ほら。
  犬って縄張りをマーキングするんでしょう。

  ちょうどいいじゃない。
  あそこの酒場の入り口にある酒樽のところに
  
「マーキングして来なさい?」



[彼女の瞳を見つめながら私は言う。
酒場の方は中で盛り上がっていて大勢は中だが
窓の外を眺める人は居るし
外にも2.3人がたむろして話している。]*

─ 彼女の話 ─

[姉は恋多き人だった。
多分母親の胎の中で俺の分まで
その辺の情緒を持ってったんだと思う。

取り合えず機会があれば片っ端から付き合って
片っ端から関係を持った。

なんでそんなことするのか一度聞いてみた事があるが
服を買うとき最初に目についた一着だけで
取り合えずで妥協して、後々後悔するくらいなら
全部試着して着心地試して運命の一着を選ぶみたいな
理解出来ない事を言われて分かり合うのはあきらめた。
あれは俺とは別な生き物だ。それだけはわかった。

そんなよりよい男を捕まえることに人生を全振りした姉が
女友達に恵まれる筈もなく……

唯一、だと思ってた彼女も今じゃ俺に跨ってる訳だ。
まぁそれで本人が納得してるならそれでいい。]

[再会したのが本当に偶然だったかわからない。
彩の弟じゃない、って姉の名前を呼ばれて呼び止められて
誰だったか思い出すのにだいぶかかった。

飲みに誘われて、姉の男関係の逆恨みだったら嫌だなって
断ったけど強引に拉致された。
なんかの有段者だとかで力がクソ強い。

高そうなバーで高い酒を奢られながら
姉のことが好きだったと聞かされたが上の空で
取り合えず酒に弱い俺は速攻で吐いてだめになったので
持ち帰られてずるずると今の関係が続いてる。

彼女はあきらでなく、さとるとよぶ。
最初に名刺の名前を読み違えてからずっと。
姉の…彩(さやか)の名を昔そう呼んだように
最中も、さーちゃん、と呼ぶためだけに。

姉の代わりに俺と寝るのかと
何となくむしゃくしゃして聞いたことがあるが
アンタたち見た目も性格も何一つ
似ても似つかないじゃないって爆笑されて終わった。]

[心は女を求めてても体は雄を求めるのだそうだ。
彼女の最大の過ちは女に生まれてしまったことだが
別段男になりたい訳でもないらしい。
良く理解できないまま難儀なことだと思った程度で終わった。

つまり俺は勝手に動く便利なディルドとしては
そこそこ有能なんだと理解して
俺以外を想いながらも恋い焦がれるような熱量で
抱き締めてくれる心地いいオナホとして彼女を抱いている。

彼女で女を覚えた俺も度々他をつまみ食いするし
彼女が他の男を連れているのを見たこともあるが。
互いに干渉しあうことも無く、それだけの関係だった。

だって少なくとも俺といる時の彼女は俺を好きな訳ではないし。
俺は多分誰も好きではない。*]



 …────ん……
 
    だい、じょうぶだ……


[腕の中で暴れまわる悪戯猫の動きが
静まってそれでもなお。

どれくらいの間、
琴羽の甘露を貪っていた事だろう。

名残惜しげな銀の糸を引かせながら
とろりと蕩けた琴羽を見やる。
よかった、戻って来たと安堵の吐息を付き]




   ……おかえり。



[髪も服も乱したまま、そう破顔するのだった]



 安心しろ。
 琴羽とその────…口吸いをした故に。

  むしろ、先程より元気になったくらいだ。


[全身を覆う裂傷の、血は既に止まり固まり。
いつまでも抱き締めていたいくらいなのを
なんとか意志の力で腕の力を緩める。

すると琴羽が不思議な事を口にした。

そのやわらかな肩を抱きつつ、
しばし、考え込み]





 
──────ッ!?



 

[不意に、琴羽を背に隠し。

霧の向こうを睨み据えた]


 なるほど……
 
 先程の"猫"は、前触であったと。
 この季節、この地には魔の者が蔓延する。
 それ故のあの祭り、か……?


[強大なナニカ、が、近付く気配が
霧の如く肌に纏わり付き]



 琴羽。
 俺は此処に残る。

 先に行って、母上の言葉の真を確かめて来てくれ。

 それが恐らく、この地が闇に飲まれ切らずにいた理由だろう。


[琴羽を護る様に翼を拡げ。
胸の前にヤツデの団扇を構えれば。


はたして、彼女は────*]

── 修道院 ──

[身体に触れる手が動くたびぴくりと背筋が震える。
 触れる手に優しさや親しみよりも不安を感じてしまうのは
 撫でられる心地よさより、打たれる痛みの方が身近にあるからだ。

 だから彼女の言葉は渡りに船。
 お風呂も、石鹸も、専属になることも。
 本来ならば幸運だと喜ぶべきことなのに]


  今に満足しているわけではありません

  ただ、そうですね
  飼われるということは
  捨てられる可能性もありますから
  
 
[それは嫌だ、と短く付け足す。

 夢に出てくる人とよく似た面差し。
 楽しげに笑う瞳をじっと見つめ、挑発するような視線を送り]

  
  私を飼うのは手間がかかるかと
  
  もしもペットをお望みでしたら
  鳥でも捕まえて参りましょうか?


[唇の端を上げ、笑みの形を作る。
 彼女という人の人となりをよく知っているわけではない。
 けれど、彼女と交わすやりとりだけは嫌いではなかったから。

 そのまま身体が離れれば一度だけお辞儀をし]


  かしこまりました
  では、伝えて参りますね


[一旦その場を辞して部屋の外へ。
 廊下にいた他の使用人に配膳を頼むと、自身は調理場に行き昨夜のパンの余りを貰い]


  ただいま戻りました


[しばらくして再び部屋の扉をトントン。
 ノックをし、許可が出れば部屋の中へ。

 その頃には彼女の分の食事は運ばれていただろうか*]

 
[ 零れる安堵の吐息。

  破顔し、紡がれる
  "おかえり"という言葉。

  蕩けた顔のまま、
  目を細めてにこりと笑顔を作れば]


   ……ただいま。


[ と、嬉しそうに言葉を返そう。

  たった一言、それだけなのに。
  口にするだけで、ああ、本当に良かったと。
  心の底から喜びが溢れていく。]
 

 
[ それから、先ほどより
  元気になったと言われては

  頬を赤らめながら
  視線をあちこち彷徨わせ。]


   ……もう。


[ 少しばかり拗ねたような口ぶりで。

  ふにゃっとだらしなく緩んだ表情は
  彼の胸元に埋めて隠してしまおうか。]
 

 
[ このまま彼に寄り添い続けていたい。


  …──そう思っていた矢先の事だった。

  急に彼がぴくりと身動きしたかと思えば
  己を背中に隠すように動いたのだ。]
 

 

   …? ……どうか、されました…?


[ 一体、どうしたというのだろう。

  彼の背中越しに、
  霧の方へ視線を差し向けれども、
  その先に何かが見えることはなく。

  ぱちぱちと瞳を瞬かせて
  ただ狼狽えるばかりであった。


    そうして彼の背に隠された後、
    一秒か二秒、僅かな時間が経てば]
 

 


……────!?   


 

 
[ ふと、ぞわりと鳥肌が立つ。

  膝ががくがくと震えだし、
  背筋に冷たいものが走っていった。

  一拍遅れて上半身がぶるりと震え、
  堪らず、彼の服を縋るように掴んでしまう。]


   ……ひっ!?


[ 何か、…魂を震わせるような
  何かが、霧の向こうから近付いてくる。

  そんな気配が感じられたのだ。]
 

 
[ どんなに目を凝らしても、
  霧の向こうは見えない。

  それでも、この、空気を凍て付かせるような
  恐ろしい何かの気配は気のせいだとは思えなかった。

  頭の中で警鐘が鳴る。

  早く逃げなければ。そう思うのに。
  足は凍り付いたように動かない。]
 

 
[ 恐怖に戦慄いていれば、彼の声が耳に届く。

  その言葉の内容に、思わず目を見開いては
  信じられないというような顔をして、
  悲痛な叫びを上げた。]


   え、そんな…!
   私も時見様の御傍にいます…!


[ 此処に残ると、まるで
  私だけを逃そうとするかのような言葉に、
  反射的にそんな言葉が口を突いて出てしまった。

  自分がこの場に残ったところで、
  足手纏いになるだけなのに。

  それでも、彼と一緒に、傍にいたかった。
  離れたくなかった。]
 

 
[ ぎゅっと背中から彼を抱きしめる。

  縋りつくように、離れないというように。

  けれど、彼が続けて発した言葉に
  一瞬冷静に思考を巡らす。]
 

 


   
( そうだ……お母さんの…… )



 

 

   ────………………。


[ 暫しの間が空く。

  彼の背中に顔を埋めたまま。
  弱々しく言葉を発した。]
 

 

   絶対に……絶対に……
   ……いなくならないでくださいね……?


[ 彼は何と答えただろう。

  そのまま腕を離し。つま先立ちをすれば、
  彼の頬に柔らかな温もりを残す。]
 

 

   すぐに……すぐに戻って来ますから…!


[ そうして、潤んだ瞳を彼の方へと差し向けて。
  何度も、何度も、彼の方を振り返りつつ。

  名残惜しくも、
  森の奥へと姿を消すのであった。]*
 

――夜・城内――

[ 見て分からないことってなんだろう?
 怪訝に思うけれど、お腹の中で膨れる何かの感覚にそんな余裕ははなくなってしまう。お尻の穴もさっきよりちょっと広げられているみたい。]

 はっ……はっ、……うん。
 あとで、教えてね、ご主人さま。

[ でも笑ってと言われれば彼女を見上げて、
 顎の下を擽る指が気持ち良くって笑い返す。
 指が離れる頃にはいま生まれた違和感も
 馴染んだ感じになっていた。]

 へへっ。
 賢くて偉いの。

[
さっきの姿勢は待て、のポーズ。訂正訂正。

 伏せた姿勢から背中を起こす。
 両手は膝に揃えて置いて、腰を少し浮かせて尻尾を振った。コリコリと身体の中で擦れる感触が不思議だけど少し気持ちいい。]

 ……ん?? どうしたの、ご主人さまっ。

[ そうしていたものだから、
 ご主人様が黒いローブに着替えたことも、掛けてもらった魔術のことも、気づいたのは一瞬遅れてからだった。]

――夜・城内――


 わぁ。夜なのに、街まで?

[ きらんと目を輝かせていた。
 それはきっと楽しいこと。
 楽しいお散歩。普段は見れない色んなものが見れる。
 頭を撫でられ、リードを牽かれればたたっとベッドを降りてついていった。本物の犬の身体じゃない分、そう素早く動ける訳じゃなかったけど。]

 ……?? あれっ?

[ 城内を進む内に(4)1d6回ほど、魔物達とすれ違った。
 可笑しげな笑い、くんくんと匂いを嗅がれたり、
 訝しげに少し舐められたり。
 何かが変な気がした。
 アリアは前にもこうして確かめられてたような。]

 わん! 行くー!

[ ぐいとリードを牽かれるとご主人さまの元へ駆け寄って、
 転移の魔法陣に飛び込んだ。
 そして現れた先は大きな街の外縁部。
 ざわざわした気配、夜気に晒された素肌がぶるっと震えた。
 毛皮がないせいだ。
 ――おかしいな、どうしてアリアに毛皮がないんだろう?]

――夜・街――

[ どことなく心細さを感じて口にした。
 お散歩は楽しいことのはずなのに、何故だろう。]


 うん、外……だね……?
 お散歩。わん。


[ 少し進むとアリア達の方に気づいた兵士がいた。
 鋭く掛かる声と視線が不安を煽る。
 でもご主人さまが一言で封じ込めてくれた。
 ほっとして、頼りになるご主人さまに身体を擦り寄せるようにしつつ続いていく。でも、そこから先で出会う人間たちは放置したままで――]


 んっ……ね、ねえ、ご主人さまっ。
 どうして、あの人たちにはさっきみたいにしないの?
 何だか笑ってる。
 じろじろ見てるよ、私のこと。


[ 裸身を刺してくるような街の男達の視線や声。
 膝を着かずに手と足で歩く様子を後ろから見れば
 性器もお尻も丸見えなのだから、
 注意を集めてしまうのは当然だった。
 酔客の関心に晒され続けて怯えたアリアは、
 身を竦めるようにしながら進んでいく。]


 ねえったら、ぁ、っ、きゅぅんっ!


[ 遅れてしまってまたリードを牽かれた。
 おかしい。どうしてこんなに遅れちゃうんだろう。

 
「犬のように動くことのみ許します」

 って、言われてるのに。

 
「はい、アリアはメイベル様の犬です」

 って、お返事したのに。]

…………犬の、
『ように』



[ 鍵の掛かった錠前が開くような感覚。
 それと共に私は今の状況を正しく理解する。
 さあっ、と血の気が引く音が聞こえるようだった。

 メイベルの命令に潜んでいた矛盾。
 本物の犬に対して、犬のように、という言い方はしない。自ら答えたことでその暗示は強化されていたけれど、相反する命令だと気づいた今、優先されるのは後から上書きされる命令になっていた。]


 ……わ……わたし、犬じゃ、ない……
 ……め、メイベル……?


[ 顔を青ざめさせて街路で止まる。
 メイベルを見上げるけれど、また強くリードを引かれてくっと首が絞まり、咳き込んでは這いずり出す。
 行く先には酒場。まだそこで下される命令のことは想像もつかず、動転した頭のまま縋るように四つ這いになって進んでいった。
 もう犬ではなく、乳児がするようなはいはいの形。
 それでも、出来るだけ急ごうと。]**


[ 先代魔王メフィスト。
 彼は今にも息絶えようとしている敗者の言葉を聞き入れ、命を救った。

 メフィストが知る人類は盲目的で、排他的で
 善悪の境界を明確にせねば気が済まない、
 旧き時代を忘れ洗脳された、どこまでも人間の善性を信じる者達。

 幾度使者を送れど、ただ一人として帰って来なかった。
 用意された話し合いの場は全て戦場だった。
 父王の代で魔族は既に人類を諦め、
 彼らと同じように同族を庇護し、宿敵を見定めた。

 ついに首元へ迫るまでに育まれた勇者は結局、その力には届かない。
 届かなかったからこそ、メフィストを驚愕させることを口にした。 ]



[ メフィストは隠された旧時代の遺跡へと降り立ち、
 そこにある全てを見せ、世界の真実を女神の子たる勇者に告げる。

 酷く動揺した勇者を城へ連れ帰ったメフィストは、
 絶望し自ら首を差し出してくることも覚悟していたらしいが。 ]



つまり俺達がしていたことは、
化け物の討伐なんかじゃなくて、理由も知らないただの戦争だった。

色んな不都合を隠してしまった奴らはいるけれど、
どこにも正義は無いし、悪だと決めつけるのも難しい
簡単に解決出来ないような理不尽が重なり、作り出したのがこの世界。

……そういうこと、だな。

[ むしろ俺は、全てを知ることで生きる気力を手に入れていた。 ]



魔王、お前……
いや、あなたとあなたの民は人類を数え切れない程に殺めた。
俺の大切な人達も含めて、だ。

しかし、それはこちらも変わらない。そして力の差は圧倒的だった。
それでもあなたは俺に誠意を見せた。

[ 既に人間ではないことと、何の為に勇者にされたのか
 それだけを指摘し深く心を砕いて殺す、その選択も出来たのに。

 憎しみよりも、新しい可能性を選んだ。 ]



それは世界を救うなんてことじゃ、きっとなくて
多分沢山の人達を絶望させてしまうと思う。
新しい不幸も生まれるのかもしれない。

言い訳なんて出来ない、皆に恨まれる裏切り者になるんだろう。

でも、どうせ死ぬ為に生きてきたのなら……

[ 正義など、無いのならば。 ]


あなたの元で、もう少し足掻いてみたい。

[ 魔族の脅威になり得る勇者の代替わりを終わらせる為に、
 これ以上無知なる被害者が生まれない為に、
 教会による世界支配を終わらせる為に、

 ある筈の人魔が争わずに済む未来を見つける為に。

 対極であった両者の心は、既に同じ道へ向いている。

 これが大切な仲間を殺した男に忠誠を誓った理由。
 世界を本当の姿に戻す為に裏切り者になった経緯。 ]


[ 人類、ましてや勇者を迎え入れるという王の意向に
 当然反発と不安の声があがった。

 初代王の生前を知る者は既にその息子の魔王のみ。
 旧き時代は魔族にとっても、御伽噺にも近い現実感の失せた過去。

 生きる為に戦い、血肉を喰らい命を繋ぐことこそが彼らの意味。
 永き戦争に一方の滅び以外の終わり方を求めるのは、
 綺麗事の夢物語のようにしか思えなかった。

 しかし、王を守ることもまた、魔族の意義であった。
 敵を定めることで一つになっていたのは、人類だけではなかった。

 目的を共有し、隣で武器を取り
 同じ御方の命で動くことにより受け入れられてゆく。 ]



[ 各地に隠れ住む、背信の烙印を押された反教会派の人々を探した。
 その者達は人も魔も忌避し静かに生きることを望んでいたが、
 痣を見せて自身の体験と教会の真実を語れば、
 ある程度の協力を望むことが出来た。

 自分が生きている限り生まれない筈の新しい勇者に出会った時、
 説得を試みた結果逃してしまい、教会に裏切りを知られたのは失態だ。
 教会に新たな嘘の筋書きが加わる。民が魔族に耳など貸さないように。

 人類だけが武器を振るっていたのではない。
 どんな考えがあろうとも、魔族の歴史もまた血に塗れている。
 “血を流さず言葉で全てを解決する“笑える程の理想論。
 元より無かった可能性は、ゼロに等しくなってしまった。 ] 



[ 背信者の数は、教会と争うにはとても足りない。
 魔族という戦力を投入すれば、説得力が消える。

 教会に攻め入らねば真実を明らかに出来ない、
 しかしそうするには勇者を生み出す教会を止めねばならない。

 数多の矛盾が足止めとなった。
 激しさを増していった人類の攻撃、戦いの負担も比例した。
 根の破壊を試みるにも、人類は当然強く抵抗し各地で争いは続く
 長引けば長引く程勇者は強くなり、魔族の首を刎ねていった。

 一人の勇者が土に還らなかったことにより、
 その力を多少後退させられたとは思われるが
 元より一代が十年続けば随分生きたと言われる程度の儚い存在
 すぐに遅れを取り戻す、至るべき領域へと育まれていく。

 見つけた種は一向に芽を出さず、
 あの木だけが豊かな土の元、天を目指して伸びてゆく。 ]



[ そうして裏切りから百と十数年後。

    ────「最後の勇者」が生まれてしまった。

 圧倒的だった。
 まだ少年時代の面影を持った齢で、たった一人で魔王領に踏み込み
 阻まんと立ち塞がった幹部は、ほぼ壊滅。
 生き残ったのは自分と、鎧の如く堅い身体の獣人
 それに元より能力が戦闘向きではなく前線に出ない参謀のみ。

 竜族リヴァイアサンは、王を守る為に命を賭け、没した。
 王妃となる前は戦場で牙を振い女将軍と呼ばれていたという。
 凛として聡明で多くを語らない、夫たる方によく似た性格だったが
 最期に撤退の命に従わない頑固さを見せた。 ]



[ そして、既に敗退し勝ち目の無い生き残りの配下達に
 死するまで仕えることを決して許さずに、
 城から離れた人狼の隠れ里へ転移させたメフィストもまた。

 ────今思えば
 あの方にとって、それも計画の一つだったのかもしれない。

 世界を救わんとするような、魔王らしくない気持ちもあったのだろうか
 それ程に「奴」は異常であったから。 ]

──夜・街──


  うん?
  あの人間達はアリアのことを見てるだけで……
  何か危ないことはしてきてないでしょう?

  大丈夫、アリア。
  アリアのことは絶対守ってあげるから。
  ……安心なさい?


[怯えていそうな彼女の頭を
少し屈んで撫でてやる。

────なんで彼らを昏倒させないか?

勿論、アリアの痴態を見てもらう為。
そして今の状況をアリアは受け入れてるけど
私が強制の力を解いた時。
今の記憶はハッキリと残ったままになる。
街の人間に見られていた記憶が、ハッキリ。]


 
  ────。


[けれどもう既に彼女の中で
違和感を認識し始めたようだった。

流石はアリア。
私と同系統の能力がある故か
強制の能力を持ってしても綻びさえあれば
突破されかねないんだと思う。

私はそれを認識すると
目を細めて、笑いを堪えるような
意地悪い表情になってしまう。]



  いいえ、アリア。
  あんたは犬よ。自分でも、私の犬だって言ったわよね?


[敢えて強制の能力を重ね掛けせず
普通の言葉を投げる。

おそらくは最短で酒場の酒樽にマーキングをする
直前で、自分は犬ではないと気付けるだろう。

それを私は容認する代わりに。]

―― 修道院 ――

[...は向けられた視線に笑みを深めた。
 その眼差しが良いのだ。
 此処に居る従者の誰もが獅子に頭を垂れるだけ。
 つまらない日常を作り出すのはつまらない人が多いから。

 ...は視線を天井へと向けた。
 若しくは、そう、若しくはだ。
 スピネル家が特殊であって此処が普通なのかもしれないが。

 ...は視線を再びカザリへと向けた。
 脳裏で考えを否定する。
 他の選定候も似たようなものであった。
 矢張り上に立つ者は普通ではないのだろう]


  ただ飼われるのならばね。
  その可能性が無いとは言えないのはそうね。


[飽きたら棄てて新しい者を飼う。
 それは至極普通に行われている行為であろう。

 ...は目元を細め、凍てつくような微笑を浮かべた。
 そう、胸がないから飽きるとか言うやつもいるのだ。
 今頃は川底で魚の餌にでもなっていようか]



  
「おしっこが我慢出来ないんでしょ?」

  
  夜は冷えるからね。
  我慢出来なくなっても仕方がないわ。


[別の意識を刷り込ませる。
実際身体は冷えてしまっているだろう。

犬としてするのか
それとも人間の意識を取り戻すのか。

どちらでも構わない。
私としてはどちらでも楽しそうだもの。

ただ……
人間として動こうとすると
身体が固まってしまうでしょうけれど。
それも、跳ね除けることが出来るかしら。]*

  ……鳥は要らないわ。
  あれは安全な鳥籠から逃げ出すもの。
  手を伸ばしても届かない高みへ行く姿。
  私たちは誰もがそれを見たくはないと思うのだけれど?


[...はソファへと腰を下ろした。
 部屋から出ていくのを見送ると代わりに別の従者が給仕に入った。

 此処の食事は質素なものである。
 パンにシチューと果実が搾られた水があるばかり。
 それでも従者と違うのはパンは焼きたてのものであり、
 シチューは具が多く肉が入っている。
 チーズがつく日もある]


  早く戻らないかしら。


[...はすぐには食事に手をつけなかった。
 別段待っていたというわけではないが、
 猫舌であるため冷めるのと待つ間だけである]


  遅かったわね……あら、それだけ?


[...は手に持つパンを見ると小首を傾げた。
 従者であっても具なしのシチュー程度は出るはずだけれど。
 食糧事情が厳しいのだろうかと己のシチューをかき混ぜて**]

── 修道院 ──

[ガチャリと扉を開けば、漂ってきたのは焼き立てのパンとシチューの香り
 それだけで確認しなくとも、食事が運ばれてきていることがわかる。

 シチューをかき混ぜる手元へ目を遣り、自分の分のパンをポケットから取り出して]


  早い者勝ちですから

  お嬢様に命じられた
  そう伝えれば良いのでしょうが
  それは少し……


[嫌なのだ、とパンをちぎり口へ運ぶ。
 そうして一口、二口と食べ進めていき]


  ──鳥は要らない
  先程、そう仰いましたが
  飛ばない鳥もおりますよ

  ペットに向いているかといえば
  また別、ですが
  人に馴れはするそうです
  

[彼女の手の中にある器。
 その中に浮かぶ肉を見てポツリ。

 名のある家の娘が鶏を飼う。
 そんな光景を思い浮かべ、くすくす笑い*]

─奇々怪々の異界にて─



 
行かせるか……!




[歯茎を剥き出し吠え猛り、大きく腕を横に薙ぐ。

途端、質量と魔力を帯びた風の渦が
向かい来る有象無象の異形を蹴散らした。



──けれど。
      ・・
そはあくまで奴らの一部に過ぎず]

[死者の国の香りのする霧を纏い。

琴羽の後を追う様に現れ突き進むは
無尽蔵にも思える死者の魂の群れであった。


本来、一体一体であれば
俺が遅れを取るような事はありえない。
それどころかほぼほぼ無害であるようなそれらが
今この時にあっては、力を持ち、形を持ち
それこそ津波のような有り様で向かって来ているのだった]


 まさか……
 あの祭りは、死霊を集める為のモノだったのか……?


[琴羽に取り憑いたのもまた、
力ある霊の一種だったのだろう。

同じ様に、あの祭りで見た西洋の妖怪めいた姿もまた
其処此処に散見され]

――夜・街――


[絶対守ってあげるという言葉は聞こえてたけど、
 安心する気持ちは一瞬生まれて怯えに呑み込まれてしまった。
 だってそのあと、何か考えるみたいな無言の間。
 やっぱり犬でいるのは普通じゃないんだ、そう思う。]


 ぁぅ……ぅ、


[ 意地悪い表情になったご主人さま。ちがう、メイベル。
 不服げに見上げる。
 頬を膨らませて、動きたくないと縮こまって。]


 ど、どうして。


[ あんたは犬よ、と掛かる声。
 ふるふると首を振って否定しようとする。
 その動きに合わせて揺られるリードを見ないように、
 瞼をぎゅっと閉じて。]



 琴羽同様、操られているだけならば
 下手に傷付けるワケにもいかないが……


  
────ッ、しつこいぞ、貴様らァ……!



[フラフラと、ゾンビの様に歩んでくる一団を
まとめて上段で蹴り倒す。

奴らにとっては俺は、進路上に現れた
岩か何かと同じ扱いなのかも知れない。

直接的に攻撃してくる事こそ少ないが
それが逆に厄介でもあり。
多勢に無勢。

どうやら琴羽の向かった方を目指しているこやつらを
必死で押し止めるそのうちに────…]

 
 い、犬じゃ、ない。
 わたし、人間だもん。


[ けれど掛かる命令の言葉。
 
「マーキングして来なさい?」


 また首を振った。
 縄張りにマーキングするのって、雄犬だけなんじゃ――ない、の?
 現実世界のどこかで仕入れた知識を否定するように、
 ずくり、とお腹の底で生まれる衝動があった。]


 
ぁ……、は、ぁっ……う、ん……♡



[ 混乱する。どうして、何か疼いて堪らないような気分になってるんだろう。私のしるしをあそこに残したいと思っちゃってるんだろう。雌犬
なのに
、雌犬だから、発情してるしるしをあそこにのこしておすをさそわないといけない。ぴってマーキングして、わたしはここにいるよっておしえてやらないといけない。そう縄張りだからじゃなくて、発情してるから。発情してるし、それに――]

 
 
「おしっこが我慢出来ないんでしょ?」


[ そう掛かる
メイベル
ご主人さまの声。
 そんなこと、言われたら。]


 ぁ、ぅ。
 ……や、やなの、にぃ……っ、


[ 身体も冷えている。それもご主人さまのいう通り。
 発情してることを意識したせいか、
 身体の芯には熱っぽさを覚えているけれど
 ぶるりと身震いしてしまうのは寒さの現れ。

 その一方では夜の街路で首輪に繋がれた裸を露出している、とも
 理解してしまっていて、人と犬の狭間で理性が振り子のように
 大きく揺さぶられていた。]

―― 修道院 ――

従者には従者のルールがあり、
 カザリにはカザリの矜持があるようだ。

 ...は嘆息した]


  それで私の前で固そうなパンを食べるの?


[...は自身のパンを千切る。
 焼きたてとは言えそれですらシチューに浸して食べるものだ。
 古いパンであれば猶更に食べにくいに違いない。

 ...は千切ったパンをシチューに浸す。
 浸してから一口食べ、また千切って浸せば今度は其れをカザリの口元に押し付けるように差し出した]


  お食べなさい。
  それでは私の気分が良くないわ。


[施しではなく、己が気が良くないからと強いていき、
 笑い声に澄ました表情で小首を傾げた]

  あら、家ではガチョウやアヒルを飼ってたのよ。
  首から下は壺に入れてね?


[...はシチューの中のお肉をスプーンで裂いて口に運んだ。
 咀嚼をして肉の味を確かめる。
 この鶏もどこかで飼われていたのだろうか]


  でもペットは食べないわね。
  あれは可愛がるものだもの。


[視線の先にあったお肉は既に腹の中]


  あと別にペットが欲しいわけではないのよ?


[それくらい分かっているでしょうに、とまたパンを一口**]

 
 
が、我慢、できないよぉ……っ♡



[ しばらくの逡巡のあと、ついに私は屈する声を出してしまう。
 それと同時に、きゅん、と疼く感覚が胎内でした。
 これからあの酒場まで四つ這いで行って放尿する。
 人目もあるのに、犬みたいに片足を上げて。]


 わ、わたし、……わたし。
 人間だよ、ね? いぬ、じゃないのに、ないのに……
 あぁ、うぅ……ぅ、はぁっ、はっ、……


[ それは全部、ご主人さまの命令だから。
 だから、従わなくちゃ。
 犬みたいに動くことしか許されてないんだから。]

 
 行、行く……ね、ご主人さま。
 ついて……きて、ね?


[ 膝を着けた四つ這いで、酒場の前へと進んでいく。
 はぁはぁと荒くなる息、潤む視界。
 何か声が届いたか、どんな視線が飛んできたかは覚えてない。
 直に触れようとする男――雄は居なかった。
 もしかしたらご主人さまが退けてくれたのかもしれないけど。]


 ご、ご主人さま……こうで、いい?


[ 片足を酒樽に掛けて大きく上げた。
 一筋の毛も生えてない秘所は隠すことなくその瞬間を見せようとする。
 羞恥に染まった頬でいきむけれど、なかなか出てこなかった。]


 で、出ない、よぉ……っ。


[ 出したいのに。出そうとしてるのに。
 ご主人さまを見つめて、また数度いきんで、ようやく。
 理性と常識の枷よりも今ここで放尿したいという欲求が上回った。]

[ ちょろ、と洩れた一筋が始まるともう止められない。
 解放される快感が私に、うわ言のような声を上げさせた。]

 
 
あっ、あっ、出ちゃう、出ちゃう、
  ご主人さまっ、ご主人さま、
   見てて、見てて……っ♡<



[ 頭の中がくらくらして、何も考えられなくなっちゃうみたい。
 自分が発情している雌犬なのか、
 ご主人さまの命令に従わされている人間なのか、
 どっちとも判別つかなくなっていく。]

[ ただ間違いないのは、膀胱の中にあったものを全て出し終え、
 身体を震わせた途端、だっとご主人さまに抱きついていったこと。
 足元にしがみついて、涙の滲んだ瞳で見上げた。]


 ……はぁ……はっ……っ、ぁ、ぅ……っ、
 ……ねぇ、ご主人さま……♡

 ……わたし、がんばったよ……?

[ きゅっ、と目を閉じて、開いて、見つめる。
 虹色の煌めきを瞳に宿して。]


 
「褒めて、可愛がって?」


 
「それから、いっぱい、いじめて?」



[ 膝立ちで延び上がるように縋りつく。
 砂利の散らばる地面だけれど、何も痛くなかった。
 城を出る前に掛けられた魔術のおかげだってことは、
 その時ようやくはっきりと気づいていたんだ。]*




  ……────ぐ 、ッ……

   
      流石に…… ガス欠か……



[羽団扇から出る風も、とうにただの微風と化して。
淀んだ霧を僅かに散らすも、
細くできたその空間すら、瞬く間に新たなる霧に、
異形の影に覆われる事を繰り返し。

片膝を付き、それでもこの先を通すものかと
眇めた片目で白き闇を睨み据えれば]

[


  奴らが、一斉に。



俺の後ろを見詰めたのだった]



 この気配は……

     
    ────まさ、か……


[気怠い全身に鞭打って、なんとか、振り返れば。


真っ白な闇の中、ぽつんと。
暖かな
が灯っていて]


 戻って、来てしまったのか……


[そうだ。
俺は知っていたはずなのに。

そういう、娘であると。


 やがて近付いてきたそれは、
 息せき切って駆けて来る琴羽と
 その手に持った
小さなかぼちゃ型の
灯火
で]

[ゆらり、ゆらりと。
死霊の群れが、俺の横を通り抜けて行く。

先程までのおぞましいまでの必死さや
底冷えするような死者の禍々しさは消え失せて。
その瞳に映し出されているのは、
ただ、灯火の明かりのみの様だった]


 まさか、こいつらが狙っていたのは……

 いや、辿り着こうとしていたのは、
 それ、なのか……?


[てっきりこいつら全員、
琴羽の身体を狙っているものとばかり思っていたのだが。

……そうでは、無く。

灯火のあたたかな光に照らされた死霊の気配が掻き消える。
中には仮装した身体がとさりと倒れ、
何かが抜け出した様なものもいて]



 ────それは……

 母上がそなたに伝えたのは、
 この地に伝わる送り火の在り処か……


[一定の時期において
あの世とこの世の境が曖昧になるこの地で、
それでも人々が暮らし続けられたのは……

秘伝として伝え続けた送り火の角灯。
かぼちゃのランタンで
死霊を天に還していたからなのだろう。

まぁ、恐らくかつては此処まで
霊共が一致団結して大暴れは
していなかったのではないだろうか。

今年は西洋の妖怪仮装のイベントという
百鬼夜行の依代にぴったりな行事を開催し、
更には琴羽というマタタビを渦中に投げ込んだ
相乗効果であった気がすごくするのである]

[なので、恐らくは……

猫の霊だか、猫又だか。
琴羽に取り憑いた猫が俺を襲ってきたのは……


ちらりと、自らの背を振り返る。
其処にはマントに隠れる様に一対の羽が生えていて]


 
……誰が、鳥だ……



[ぼそり呟いたのを最後に。

ほぼほぼ気力だけで立っていた俺は
ゆっくり前のめりに倒れていったのだった]