140 【身内】魔法使いの弟子と失われた叡智
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[細々とした事。
本当に、大した事ではないが。
例えば、ルービナ様に教わった採取地で
自分が見付けた、薬草の群生地だとか。
城にあった古い調合器具を、上手く扱うコツだとか。
あれらがまだ残っているなら、
いくらか弟弟子の助けになるかもしれない。
ついでだ、この機会に教えておくのも良いだろう――
すでに無くなっているか、彼自身が発見していれば
意味をなさないものだが。
……ああ、息抜きをするなら、
いつも花を咲かせているような場所もあったな。
そういえば城門の、歓迎の花には驚いたが
さすが魔法使いの城だと目を輝かせた記憶がある。
弟弟子も同じ出迎えを受けたのならば、
共通の話題になるだろうか。
彼に伝えるべき事を考えていたつもりが、
いつの間にか、思い出に思考が逸れてゆく。]
[初めて師匠に会った時、やけに驚かれたが。
人嫌い故の事だろうか…と当時は考えて。
しかしその後の、友好的な振る舞いを見れば
偏屈なんて噂はちっとも当て嵌まらないと、
首を傾げたものだった。
羽交い締めの挨拶は、
当初こちらの足が浮いてしまっていたな…
あんな洗礼を弟弟子も受けたのだろうか。
他にも。思い出される事は、いくらでもあるが。
…そうだな、私達師弟の間に流れていた空気は
これほど賑やかなものでは無かったと。
そんな事を考えていたのは、
茶会の席で、二人のやりとりを眺めていた合間。]
[ 貴方を歓迎した城
それはね
貴方におかえりなさいを伝えたのよ。 ]
[この口が、何故こんなにも重いのか。
貴女が会いたいのが弟子の私なら。
師弟で暮らした日々を懐かしく思い出して、
共に茶を飲むのも良いだろう。
貴女が会いたいのは、……
知らない事があるのは気付いていた。
違和感の正体を確かめた事は無いが。
その顔を見ていると、
興味本位で触れて良いものとは思えなかったから。
時折、遠くを見るような目をして。
一体何を考えていたのですか。]*
[
眠れない夜のお供に
子守唄のような
昔話はいかがかしら?
]
[
この城は元は貴方のもの
いえ、貴方の”前世”と呼ぶべきかしら
城にだって意志はあるの。
物が付喪神になると同じように。
城は覚えている。
生まれた時からの主人を。
私は仮の主人だということを。
[ 魔法の世界で大昔といっても
文明が発達して
自然が失われていった変化はあるものの
世界としてみると大きな滅びや崩壊のない。
そんな世界での昔話。
娘の生まれは地主の娘。
生まれつき紅玉を持って生まれた子。
宝石魔術を知らない小さな街だった。
両親達は何かの病気かと疑い
娘は体が弱いとされた。
家から出してもらえず18年間。
今思えば成長して出荷待ちの食材のよう。
実際にそうだったと知るのは娘が18歳になった時。
嫁ぎ先が決まったわ。
貴族との縁談。
家名だけ立派な相手の人は歳の離れたおじ様。
よくある話でしょう?
子守唄には丁度良いわ。 ]
[ 文字通り親に売られたことを理解した娘は
弱いとされた体で逃げ出したの。
そして娘は戻らなかった
言い伝えはここから始まったのよ ]
[
森
の奥には
山
があった。
山
には
城
があった。
城
には
魔法使い
がいた。
逃げ出した娘は森の奥の湖で体力が尽き
どうせ死ぬのなら湖に沈もうと考えた。
春の頃の雪が残る冷たい水。
身を沈めていって
感覚 が、 なく
……なって
意識が
………溺れ
さようなら
水面に向けた手は
そのまま下がり
沈んでいった
その時──
紅玉が光り
[
湖に |
|
の
線
を
伸
ば
し
た
|
|
[ 赤い光の筋は
湖を割り
空にも届いたとされる
でもそれを知るものは
どれだけの人がいるだろうか。 ]
[ 目が覚めたら知らぬ天井でした。
なんて経験が娘に待っていた。
まだ続くのかって?
まだ半分よ。あと半分残っているわ。
そこで一人の魔法使いと娘は出会い
そのまま城に住むことを娘は強引に決めました。
そう、強引に。
娘は行く宛も帰る場所もなかった。
魔法使いは追い出さなかった。 ]
[ まず娘は城を綺麗にしようと思ったわ。
「ボロい城ね」と言った途端に
窓が開いて強風が入ってきたの。
城が怒った、とその魔法使いは言ったわ。
怒るですって? 面白いじゃない。
「今からこの城を綺麗にしてやるわ!」
宣戦布告したら何故だか大人しくなって
磨いて、履いて、
次第に綺麗になっていく城
庭には花が咲いていったわ。
荒地だった庭なのにと不思議に思ったら
「城が喜んでいるんだ」とまた教えてもらったの。
嬉しいと花を咲かせる城。
綺麗に片付いた書物、キラキラと反射する城内。
娘は自分の役割が出来たような気がしたの。 ]
[ そうね、これは娘と魔法使いと城のお話。
それから二年後
別れることになる
貴方によく似た魔法使いとの
始まりの物語。
さて、夜も更け
月の光も移動したわ。
明日に備えて眠りましょう。
子守唄。それは事実か虚構か。
花を咲かせる城が実在すればわかることね? ]
[
その
物語
に答えるように
城
に一輪の
い
花
が咲いた。
]
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