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【人】 軍医 ルーク[ ぺんぎんがポシェットから取り出した苺飴に 目を輝かせている様子を見ていれば、 こんなささやかなことも、取り戻された平穏を感じさせて、 思わず口元が緩んだ。 地上に行く話のことは、自分でも色々と情報を仕入れていた。] 前に何度も襲撃があって、 残骸が回収されただろう? 第二研究所に運び込まれた残骸は もう残っていないけれど、 他の残骸は今も解析が進められていて、 その中には、記録媒体も残されていたみたいだ。 これまではそのほとんどが ブラックボックスだったのだけれど、 通信機を解析する際に技術班が解いた暗号と 同じ方式で解読できるデータがあって、 地下に諜報員を送り込む際の『帰り道』についても、 記載があったらしい。 それを、遺失技術が発掘された地域の 地殻調査のデータと照合して、 二、三か所、それらしい箇所に当たりがついた。 使用可能か調査も進んでる。 詳しい話はジルベールに聞けば、 多分、必要な情報の三倍くらいの分量を 話してくれると思うから、 おすすめ――はしない… (414) 2020/06/01(Mon) 0:31:27 |
【人】 軍医 ルーク[ 迂闊に詳細を尋ねてしまったところ、 患者の治療があるからと去ろうとしても医務室に着いてきて 最後まで喋り倒していたジルベールの早口を思い出し、 遠い目にもなる。 つまりは、この地下世界から地上に通じる抜け道が、 今も残されているということだ。 地上も把握している道であるから危険もあるが、 いま直ぐに見つかるルートは他にないだろう。 上下に物資を搬送する装置が備え付けられているのか、 はたまた長い長い階段や梯子が嫌がらせのように 据え付けられているかは、 蓋を開けてみなければ分からない。 後者の場合は、自分の脚について何か対策を――なんて、 あの日記を読んでいる自分は、もうすっかり “地上に行く”という思考で考えているのだ。] (415) 2020/06/01(Mon) 0:32:48 |
【人】 軍医 ルーク[ タブレットの場所を示し、いつもの栄養剤を差し出せば、 いつものように後ずさりするうさぎ。 自分も飲んでは見せたけれど、 苦みも味も感じないものだから、実は公平じゃない。 あの日記に、いつか自分は書いた。 情緒面と“感覚”に異常がある、と。 きっともう、彼も自分の味覚のことは気付いているのだろう。 ――失われたものが感情と味覚であったことの理由は、 いまは、自分でも分かってる。>>2:178 >>76 きっと最初から自分は、美味しい物や苦いもの、 いろいろなことに感情を見せる彼を見ていたのだろう。 それが最初は持っていなかったものとは知らずとも、 惹きつけられるように――ずっと見ていた。 なお、薬を飲みながら日記を読み進める彼が、 また涙目になってぷるぷるするのを見ている自分の顔は、 多分こんな感じだ(=x=)] (416) 2020/06/01(Mon) 0:34:27 |
【人】 軍医 ルーク[ けれど、ぺんぎんが取り出したジュースに ぱっと表情を明るくする彼の表情を見ていると、 自分もまた自然と口元が綻んで、 スツールの後ろに零れて床にまで届く長い尻尾が、 ゆらゆらと楽しそうに揺れる。] この間とは砂糖を変えてみたんだ。 ぺんぎんも、喜んで味見してた。 苦い薬――は、 飲む機会も、もうなくなればいいと思う。 [ 義手や強い栄養剤を使う機会がなくなるよう、 あったとしても極力少なくなるように。] ああ、でも、もし 風邪をひいたり何か体調不良があったら、 薬って言うのは大体不味いものだから、 そのときはまた、苦い目に遭うよ? [ 脅すように、わるいえがおをしてみせる。 そんな風に口うるさく言ってしまうのは、性分のようなもの。 ――けれど、] (417) 2020/06/01(Mon) 0:36:24 |
【人】 軍医 ルークけど―― 君が美味しそうに食べているのを見ていると、 食べるのは悪くない、って思えるから。 美味しそうにしている顔を見たいから。 だから、君が好きだと思うものを沢山覚えたい。 手先は割と器用だよ? ああ、ただ、塩と砂糖間違えても気付かないから、 そこは味見係の勤務状況に賭けてくれ。 [ 分量や手順通りに物を作るのも、得意とするところ。 以前は口に物を入れるたびに吐き出したくなって、 栄養剤ばかり口にしていたようなものだった。 けれど、通信機を取りに行った道すがら、 飴を貰ったときのこと。 自分は味一つ感じられなくとも、 彼やぺんぎんが嬉しそうにしているのを見て、 それが何より“嬉しかった”。 自分にとって、“食べる”は――いまは、そういうこと。] (418) 2020/06/01(Mon) 0:38:31 |
【人】 軍医 ルーク[ ベッドに起き上がった体勢で、 彼はタブレットを読んでゆく。 無理な体勢にならないように、 クッションを調達してきて背凭れにして、 そのあとはじっと、椅子に腰掛けて待っていた。 微笑みが返されたなら、笑い返す。 自分が書いたものは日記というよりはむしろ―― という自覚はあったものだから、 照れが隠せない、はにかむような笑顔になる。 タブレットに文字を綴ってゆく指先を、目を細めて眺め、 やがて打ち終え、画面を示されたなら、 横合いから覗き込んだ。 この日記を読むときは、いつもそうしていたように、 一語一句読み落とさないように、丁寧に、だいじに。 “断られた後のことなんて考えてない”―― 信じてくれると思ってる、と、 そう書いてくれたことが、とても嬉しくて。 大好きな人と記してくれたことが、何より嬉しくて。 じいっと目を見て、笑顔で頷く。 そっと耳元に唇を寄せて、囁いた。] (419) 2020/06/01(Mon) 0:39:46 |
【人】 軍医 ルーク君が傍にいない今も、未来も、考えてない。 ずっと傍にいる、傍にいて。 何があっても、わたしは君を守る。 わたしが君を信じていると、 分かってくれていて嬉しい。 ――… 幸せすぎて、怖いくらいだ。 これ以上嬉しいことなんてないって思っても、 こうして隣にいて、言葉を交わして、 笑ってくれるたびに、 幸せだと思うことが増えてく。 [ 同じものを見る、同じ場所に立つ、 一緒に時を過ごし、新しいことを知る。 何があっても、乗り越えられる。 それはきっと、“互いの中に色んなものを増やしていく” ――そういうこと。] (420) 2020/06/01(Mon) 0:40:49 |
【人】 軍医 ルーク……わたしにも、一つだけ、 君に言っていなかったことがある。 長い話になるから、そうだな、 君がもう少しちゃんと回復したときに。 …天の向こう、君と同じ場所から来た子がいた。 第二研究所にあった残骸が爆発した時に、 助けられなかった、 何もできずに死なせてしまった子のこと。 後悔が、ずっとずっと、消えない。 [ 互いに、失くしたことがある。 悔いもある。 この過去もまた、今の自分を形作る記憶だ。 過去は過去として受け止めて、前に進むには、 やはり自分はどうしても時間はかかるのだろうけれど―― 止まっていた時間は、もう動き出している。] (421) 2020/06/01(Mon) 0:41:49 |
【人】 軍医 ルーク でも、止まっているのはやめにする。 君はこれからも歩いて、 わたしはその隣にいるんだから。 いまも、これからも、ずっと。 一緒に、行こう。 君が書いた日記を読んでから、 わたしも、上に行くことについて考えてたんだ。 たとえば―― [ そう言って指さしたのは、彼の懐に収まっているぺんぎん。 よばれた! と両手を上げて、自分の存在をアピールする。 そのお腹の所には、いま菓子が入っていたポシェット。 荷物袋はそれでいいかと思ったら、 もう少し大きいのがいい、とでもいうように、 医務室の緊急持ち出し袋の所で強請られたから、 いま、新しいリュックを縫っているところ。] 一緒にいる。 この戦争を止めようと思う、君の力になる。 わたし自身も――そう望んでる。 それに、ね。 [ 窓の向こう、“天”に輝く灯りに、目を細めた。] (422) 2020/06/01(Mon) 0:43:26 |
【人】 軍医 ルーク ―― 地上のどこかで ――[ 土色のブーツが、地面に落ちた小枝をぱきりと踏む。 周辺の調査を一通り終えて、木陰に戻ろうと。 互いの目の届く範囲にいるから、 此方がどこにいるかなんて承知の上だろうけれど、 タブレットで作業をしているようだから、 しーっとぺんぎんに合図をして、 こっそり後ろに回り込んでみたり。 けれど、邪魔になることもしたくはなかったから、 樹の後ろからひょいと顔を出し、 “ただいま”と耳元でささやくにとどめた。 うん、本当に、耳が良い彼のことだから、 こんな悪戯にもならない悪戯は気付いていただろうけど。 地上の沢山の土地を回る。 新しい景色を見る。 子供の頃に本で読んだ、天の上の世界。 “星”、あめ”――…、 そして、あの日記で想いを馳せた、 白く凍った世界、硝子の絵が描かれたの瓦礫の建物。 生きているひとの、どこにもない世界。] (424) 2020/06/01(Mon) 0:46:27 |
【人】 軍医 ルーク[ 足を踏み出した当初は、そのあまりの広さと、 耳鳴りがするような静けさに圧倒されて、 何処までも広がる空に、雲に、 世界そのものに押しつぶされそうで、 このような場所をひとり、調査して歩いていたのかと、 そのことをどうしても、思い出した。 音を、空気を、世界を懸命に受け止めて 感じ取ろうとするかのように、 耳と尻尾がぴんと張りつめ、ふるりと震え、 なんとか呼吸を整えて、 手をつないでいて、と頼んだものだ。 そうして踏み出した最初の一歩を、 いまでも、よく覚えている。 あちこち旅をするうちに、 地上の人間が生きているシェルターを訪れる機会もあった。 耳も尻尾もない人間たちには、自分の形は珍しいようで、 子どもにぐるぐる囲まれて、目を回すこともあった。 (敵対的な人間については――そもそも地下でも 基本的に否定されていたので、 個人的にはさっぱり気にはならなかったのだが、 彼にそういう目が向けられたときは、むう、と睨んだり)] (425) 2020/06/01(Mon) 0:48:45 |
【人】 軍医 ルーク[ 何より安心したのは、義手を改良してくれる者たちが いたということ。 最初に彼らと接触した際に、義手の構造を知りたい、 出来るなら装着者の身体に影響が出ないように 改良の手段はないか――と頼み込み、 その時点でのデータを貰ってはいたのだが、 改良に成功したとの知らせを受けたときには、 飛び跳ねて喜んだものだ。 “わたしを調べる? それくらいなら全然かまわないけれど――” ぐるぐる回されようと細胞を取られようと まあいいか――と、頷こうとしたのだけれど、 彼が義手砲なんて向けようとしたものだから、 ばかー!! とぎゅうぎゅう抑え込んだ。 (そう言いながら、尻尾の方は、 心配してくれて嬉しいという気持も隠せずに、 慌てるやら嬉しそうにするやら、 忙しいことになっていたのだけれど)] (426) 2020/06/01(Mon) 0:50:30 |
【人】 軍医 ルーク[ とはいえ、そういう自分も、彼らが 『いやいや悪かった、 ……でも良かったら、ほんの少し、 地上と地下を行き来していた シュゼット君のことを調べて 過去のデータとの比較をさせてもらっても いいかなあ、とか――』 など言い出したときには、 地上人は耳の代わりにどこを結べばよいのかな? と、身を乗り出して、 ぺんぎんが止めなければいけない相手は 二人に増えた。] (427) 2020/06/01(Mon) 0:51:30 |
【人】 軍医 ルーク[ 自分の義足も、地下を出発する際に、 新しいものに付け替えられている。 これまでは基地内を歩き回れば十分ということで、 旧式の性能の低いものを支給されていたのだが、 地上に向かう使節への餞別だとばかり、 技術班が張り切った。 何か面白いものを見つけたら報告するようにと、 相変わらずの早口で頼んできたジルベールは、 最後にこう言って手を振った。] 『シュゼット、ルーク! 君たちの旅路に幸運を!!』 (428) 2020/06/01(Mon) 0:52:34 |
【人】 軍医 ルーク“山”か…… 地上は、ほんとうに広くて仕組みが不思議だ。 火山活動、というものによって 地形の変化があったのだっけ。 植物の分布なんかも、過去のデータを調べて あとで照合してみるね。 [ 木陰に腰を下ろし、何を書いているか覗き込む。 尻尾に触れてくれた手の感覚に、 嬉しそうにふるりと尾が揺れて、 そっと身を寄せる。 タブレットに増えているものは、調査記録だけではない。 写真をたくさん取るようになった。 地上の様々な場所、様々な景色。 写っているのは、自分が写すときは彼とぺんぎんであったり、 操作を覚えたぺんぎんが頑張って、 自分たちふたりで映っている写真を写すこともあり、 タイマー、というものの存在も発見したものだから、 皆で写っていることもある。] (429) 2020/06/01(Mon) 0:54:51 |
【人】 軍医 ルーク[ 一緒にいる景色を、記憶を、 積み重ねて形にしていくそれは、 ひとつひとつが自分にとっての宝物だ。 その写真に残る表情は、次第に増えていって、 嬉しそうな顔、幸せそうな顔、 新しく訪れた土地の状況によっては 不安げにも悲し気にもなり、 時には驚いたり怒ることもあり、 先程のように悪戯っぽい笑顔だとか、 以前と変わらず時折意地悪をするときの表情だとか、 様々な顔で、画面に映っている。 (後で纏めて見返せば、我ながらこう、 一緒に写っているときの写真の自分は、 我ながらだれ…? と思うほどに幸せそうで、 思わず蹲ってしまったりもする) そんな“一緒”の写真たちは、 もう決して、どこに消えてしまうこともなく、 鮮やかに、タブレットの中に収められていく。] (431) 2020/06/01(Mon) 0:56:23 |
【人】 軍医 ルークリンゴ――…、 果実の一種かな、木は落葉高木樹。 甘味があるなら、 これもジャムにしてみようか? そうすれば暫く持って歩ける。 [ シェルターに立ち寄ったときなどには、 いつもいちごを調達するけれど、常備するのは難しい。 加工して持ち歩くのが主になる。 最近は作れる料理も大分増えた。 ひとつひとつ、味を教えてくれる言葉に、 うなずきながら一口齧り、 口の中に広がる水気と歯触りを確認する。 少しでも感じられるものがないか、真剣に考え込み、] ん――…、硬くて少し驚いた、 でも、水分があって、歯触りがいいね。 赤い色――ああ、この色が好きだな。 [ そう言って笑う視線の先にあるのは、 自分の言葉を聞いてくれているだろう、赤い耳であったり。 取り戻すことは出来ないだろうと思っていた感覚を、 いつかは取り戻したいと思えるようになったのは、 それを望んでくれていると、知ったからだ。] (437) 2020/06/01(Mon) 0:58:47 |
【人】 軍医 ルーク[ 自分たちも、この世界も、たくさんのものを失って、 つぎはぎだらけの今を生きている。 けれど、手を伸ばすことを、 歩き続けることを辞めずにいるなら、 いつかは取り戻される日も来るのだと、 いまなら、そう思う。 父の言っていたことは、半分正しくて、半分間違い。 天の向こうには世界がある、 どれだけ手を伸ばしたって、 決して触れることが出来ないものがある―― それはきっと、“空”のこと。 そう、手を伸ばしたって、あの青色は遥か遠いけれど、 それはこの地上まで繋がって、 いま、自分はその下にいる。 この手で、空に触れることだって出来るのだ。] (439) 2020/06/01(Mon) 0:59:37 |
【人】 軍医 ルーク[ 傍らにいる彼が立ち上がり、 伸ばしてくれる手を、ぱしりと取って、立ち上がる。 晴れた空のような笑顔で、笑いかけながら。 そうして、再び歩き出す。 この先がどのような道でも、道など無い場所でも、 これからもずっと一緒に、 決して離れることはなく。 ――… 遠ざかってゆく足音を見送るように、 木陰に揺れる、赤と白の二輪の花が、 空を見上げ、風に揺れていた。 芽吹き始めた小さな吐息を、 空へとうたいながら。 ]** (440) 2020/06/01(Mon) 1:01:48 |
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