124 【身内P村】二十四節気の灯守り【R15RP村】
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[故郷から遠く離れた見知らぬ土地で
弟子として暮らすことを最初は多少躊躇った。
師匠がなぜ私を弟子に欲しがったのかも、
娘を心配してくれるパパとママを
師匠がどんな風に説得したのかも私は知らない。
大好きなお姉ちゃんや両親から
離れて暮らさねばならないことに抵抗はあったし、
実際移住して数年間は度々ホームシックに陥っていた。
けれど、師匠の弟子になれば、
蛍としてお仕事を学ばせてもらえれば。
何かお姉ちゃんの役にも立てる日が来るんじゃないか。
何より、喪うはずだった命を救われたから
誰かの為に役立てられるなら役立てたいと思ったんだ。
今は師匠の眠るこの土地から、離れることは出来ない。
私が灯守りの役目を務め果たすのが先か、
私の灯りが尽きるのが先かは私にもわからない。
どちらにしても、いつか私が
灯宮に還る日が来たときには──……
……お姉ちゃんに見送ってもらいたいな。
なんて、
いちばんのわがままはまだ言えずにいる。]
『 わたしも、世界が嫌いだわ 』
[ それが、彼女の答えだった。
私に、世界が好きかと問うということは、質問者は世界に対して何かを抱いているのではないか、と。
返ってきた答えは予想通り、と言えばそうなのだけど、驚いた気持ちを覚えたのも現実だった。
魂の管理者、人を守るために存在する“灯守り”。
私は、“灯守り”というものは、基本的には人間を慈しんでいるものであると思っていた。
しかし大寒の灯守りは、世界を嫌いだと言う。
私と同じ想い。世界を嫌いなまま、この地位に居る。
だからこそ、興味を持った。そして……共感も。 ]
[ ――灯守りになった当初、無気力な私に対し、職員は「灯守りを務めるつもりがないのならば、さっさと灯りを他に譲ればいい」という事を口にしていた。
私はそれに応じるどころか、返答をする事もしなかったのだけど、
そうすると、「先代はどうしてあれを後継に選んだのか」という話が聞こえてくるようになった。
彼は、立派な統治者であり、灯守りであった。それは未来永劫語られる事だろう。
……が、私の存在によって、彼の尊厳が危ぶまれている。それは、あってはならない事だと思った。
彼の願い、彼の尊厳、それを守るために、きちんと継がなくてはという思いはあった。
――けれど、私には出来なかった。
向いていないというのもあるけれど、どうしても、この世界を愛そうとすると吐き気を覚えてしまう心地がした。
それならば、他の人間に灯守りの位を譲るべきだった。
けれど、私はそれも出来なかった。
彼が私に託したものを、他の人に渡したくなかった。
彼が残してくれた想いを、中途半端に、自分に都合の良いように解釈しながら、私は今も、この地位にいる。
最初から、私はずっと彼のことばかりで、民の事など何も考えていなかった。
]
[ 『処暑の灯守り』が代々継ぐ能力『風星』。
先々代の処暑様は、人前での演説等以外では、一般市民の前に姿を見せる人ではなかった。
けれどその代わり、この能力で、人々を近いところで見守っていた、らしい。
先代の彼は、自らが人々の近い所へ行く人だったため、この能力は、先々代程は使ってはいなかったらしい。
とはいえ、彼の足が及ばないところや、目の届かないところまでも気遣うために、風を“目”としていたようだ。
……私はというと、灯守りになった当初は、領域の外へ出る事が出来なかった。
彼へと悪意を向けた世界。そんな悪意に私も殺されるのではないか、と怖かったからだ。
故に、人の手の入ったものも、長く口に出来なかった。
そのため『風星』で“外”を見て回るのが常だった訳だけれど。
彼の愛した処暑域。けれど、そんな彼を裏切った世界。
見れば見る程に、分からなくなってしまう。
この地は、この人間達は、守る価値があるのだろうか、と。
彼が命を賭してまで守るものであったのかと。
]
[ 降り募っていく不信感。
全他者に対しての嫌悪感。
故に私は、部下になった行政職員に対しても心を開くことが出来なかった。
それでも右も左も分からない状態であった頃は、職員の助けがなくてはならず、領域へ入る事は許可していた。
しかしあの事件――私の個人的な日記を勝手に持ち出されて以来、私は領域へも人を入れなくなった。
――やはり人間はどうしようもないのだと、私はその時点で心を閉ざしてしまったから。
蛍は当然置こうと思わなかった。
『処暑号の蛍』そのものを私は憎んでいて、到底受け入れられなかった。
だから私の領域へは、灯守り以外誰も入れないままに、
今日も私は世界との関わりを絶って、領域へと引きこもっている。 ]
| ーー雪見温泉ーー ええ、そうね。とても綺麗だわ。 [目を奪われている子を見てくすくすと笑う >>231。 蛍雪の功とはよく言ったもので、雪も仄かな明るさを纏っている。 空に浮かぶ月の明るさと、舞い散る雪の協奏はとても幻想的で。 風情のある光景にほう、と感嘆の息を漏らした。 後で冬至の君には感謝しておかないと。 お礼に手作り菓子を作ろうと奮闘するのは、もう少し先の話。 汚れを落としてから湯船に浸かれば、自然と息を吐く。 至情の極楽とはこのことかしら。] (262) 2022/01/30(Sun) 19:39:20 |
| [彼女が紡ぐ長い長い話には、目を瞑り、黙って耳を傾けていた >>232。 旅先で起こったこと、聞いたこと、見たこと。 楽しかったこと、悲しかったこと。感動したこと。 同じ景色を見ることはできないけれど、 目を瞑れば、同じ経験を感じることが出来る気がして。 唄が闇夜に融けるようなら、ゆっくりと目を開いて。 目を合わせる >>233。] …………。 ……私がね、今まで蛍を迎えなかったのは、 先代小雪のーー兄のことがあったから。 [視線を逸し、訥々と語り始めるのは自分のこと。] (263) 2022/01/30(Sun) 19:39:42 |
|
兄は私に号を譲りたいと言っていたけれど、 私は兄に灯守りをやっていてほしかったの。 ……いいえ、違うわね。側にいてほしかった。 それまでずっと、兄のそばにいたから、 いきなり放り出されるのが怖かった。
[遥か遠い過去の自分を見つめて。]
だから、手紙1つで何処かに消えた兄が許せなかったの。 何処にも行かないでほしかった。 子供だったのね。いつか別れは必ず来るのに。 それを認めたくなくて、荒れていたのよ。
だから蛍を迎えなかった。 八つ当たりしてしまいそうというのもあるけれど、 何れ来る別れに、堪えられそうになかったから。
[今なら温泉が全てを溶かしてくれそうだから。 誰にも語ったことのない本音を落としていく。]
(264) 2022/01/30(Sun) 19:40:06 |
| それにやっと折り合いがついたのが最近で、 その時の蛍候補が貴方だった。 貴方なら、私の何かを。 遠くへ攫ってくれるのではないかと期待したのよ。 とても勝手な話だけどね。 でも、貴方に会って考えが変わったわ。 初めてあった時の貴方の質問、よく覚えているわ >>4:*41。 灯守りの仕事が好きかどうかなんて、考えたことなかった。 “やらなければならない”そう思っていたから。 だって、後継も蛍も誰もいない。 灯守りの変わりは誰もいないのだもの。 そういう状況を作り上げたのは私だけど、 放り出すことはできなかった。 その状況に、疑問を持っていなかったの。 好きか嫌いかで決める考えなんて、なかったのよ。 [兄がいなくなってしまったら、私がやらなければならないと。 それが普通なのだと、思っていた。] (265) 2022/01/30(Sun) 19:40:45 |
|
だから、貴方の自分と決めるという考え方は、 とても目新しく見えてね。 だからこそ、止めてはいけないと、どこかで思ったの。
でも、貴方の去り方が兄と同じだったから。 私の方で覚悟を決めていなかったから、手紙を見た時は少し堪えたわ。 それからそう経たないうちに再会して、 “退屈だった”と言われたから。
かなりキツかったわ。
(266) 2022/01/30(Sun) 19:41:26 |
|
でもそれが本心ではなかったのなら、安心した。 話が聞けて、よかったわ。
[ふわり、と慈しむような目で微笑む。]
小雪域は貴方の故郷。 帰ってきたければ、いつでも帰っていらっしゃい。 貴方のお土産話、待ってるわ。
[許されるなら、頭を撫でようか。]
(267) 2022/01/30(Sun) 19:41:49 |
| [言ったでしょう。 この子がいいと言うのなら、貴方の蛍でいいわよ。 今更、返せなんて言わないわ >>180。*] (268) 2022/01/30(Sun) 19:42:07 |
| ーー領域内ーー [さくり、さくりと枯葉を踏む。 コテージの周りにある山茶花の木々に近付き、 落ちて薄っすらと雪化粧を纏う山茶花を拾い上げた。]
おかえりなさい。……お疲れ様。
[雪を祓い落とし、両手でそっと捧げ持った後、 ふぅ、と息を吹きかける。 山茶花は花弁となり、北風と共に天高く舞い上がると、 同じ方向<灯宮>へと流れていく。] (276) 2022/01/30(Sun) 20:50:29 |
| “大寒” [海の波の花咲く季節は過ぎ] “立春” [東風が通り過ぎ] “雨水” [雪消の水が流れれば] “啓蟄” [菜虫は蝶となり] “春分” [雀は初めて巣を作る] (277) 2022/01/30(Sun) 20:50:54 |
| “清明” [山吹が咲き] “穀雨” [藤浪は風に揺れ] “立夏” [蝌蚪が泳ぎ] “小満” [麦秋は至れば] “芒種” [紫陽花は雨に濡れ] “夏至” [短夜へと移る] (278) 2022/01/30(Sun) 20:51:27 |
| “小暑” [蓮の花が初めて開けば] “大暑” [入道雲が空を飾り] “立秋” [送り火を焚けば] “処暑” [黄昏時に空を眺め] “白露” [軈て燕が去って] “秋分” [月影は濃くなり] “寒露” [夜長へと移る] (279) 2022/01/30(Sun) 20:52:18 |
| “霜降” [紅葉狩る季節となりて] “立冬” [山は眠る] “小雪” [雪虫舞いて] “大雪” [熊は穴に籠もり] “冬至” [短日を迎えれば] “小寒” [芹栄い] [款冬の花咲き、また春へーー] (280) 2022/01/30(Sun) 20:52:39 |
|
またいらっしゃい。 いつでも私達は歓迎するわ。
[去り逝くものには餞を。向い来るものには祝を。 すべての魂に幸あれと願うは。
*二十四節気の灯守り*]
(281) 2022/01/30(Sun) 20:52:54 |
ーー先代の記憶ーー
「ねー、ゆきちゃん。」
[旅に出て冬至の温泉に入っていた頃だっか、
またしばらく経って寄った時だったか。
何かを思いついたような、悪戯っ子のような顔で
一緒に入っている冬至の君へと顔を向けた。]
「月が綺麗だねー。」
[珍しいほどの満面の笑みで、彼女を見ながらそう宣う。
一瞬たりとも月なんか見ちゃいないくせに!]
[それがどういう意味だったのか、誰に訪ねても。
ーーもう、誰にも語れない。*]
[ まるで故郷の長い冬のように、
閉じた屋根の下で過ごす時間が長かった。
(どこかの灯守りや蛍のように)
閉じ込められていたとかそういうわけではなく、
必要火急でもないと外出することが難しかった。
風が吹けば消えてしまいそうな灯りは
尋常でない移ろい方をしていたものだから
おそらく、能力があると
それ以外の原因を考えられなかったのだけれど
何を起因として発動するものであるのか、
当初、誰も特定することができなかったのだ。 ]
[ 自覚のないまま行使される、
“あと少し”なんてありふれた望みが
そのたびに灯りを削っていく。
その瞬間を捉えるなんて難しいに決まっていた
何せわたし自身、何もわかっちゃいなかったのだから ]
[ 冬の入口をくぐったような
冷たくて、からっとした凩の吹く日
収穫を終え春まで眠りに就く畑で枯れ草を燃やす人々
よくある風景だ。
ぱちぱち散る火花。
風に乗せられて飛んでいって、
あ、とめなきゃ、って、
――その後のことは何も覚えていない。 ]
[ その性質が明るみになってからは
いたずらに削られることはなくなったけれど
容赦する必要もなくなってしまったから
結局のところ、あまり良い思い出はない。
扱いづらい厄介事は放棄してしまって、
都合のいいことだけ利用していきたいだなんて
そんなの、疲れてしまうもの。 *]
────どうか、幸せに、お眠り下さい。
悪夢は、私が全て喰らうから。
*
―――いつか、貴方と見た月
[ 温泉にくゆる月を見上げていた
何も無い夜にともるそれは
そのひと時は 私にとっての陽であった ]
?
[ 隣りで 名を呼ぶ声がして
ふっと見上げた先の満月 ]
――…そうですね。
[ 小さく笑って また月を見る。
このひと時が 続いてほしい
そんな叶わぬ願いを 天にとかしながら ] *
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