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人狼物語 三日月国


124 【身内P村】二十四節気の灯守り【R15RP村】

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視点:


―それは夢ではなく

……お。
えっ。……ええっ?

[処暑域にちょっと顔を出しに行ったら、そこに居たちまい幼子。スルーしかけて、二度見した。居るはずのない者がそこに居た。

なんと、冬至は米を作っていたのだという。
たまたまその日まで訪れておらず、初耳であった。
雪の世界から出てきただけでも驚きだというのに、日に当たっていた?雪うさぎがこんがりして茶色うさぎになっている?

何はともあれ、お誘いには応じて。
無論、働かざる者食うべからず。
収穫の手伝いに大中小の使い魔を連れて出かけた。

なお、小はキャッチボールに適したサイズなので、収穫の役には立たなかったが、いい匂いで場を癒やした。]

炊きたては美味しいね。
でも、冬至たちの努力の結果だねー。

もしかして米作りの才能あるのかな?
冬至、農家に転職しちゃう?

[冗談ではあるが、意外と本当にイケるかもと思っている。

味噌汁は合わせ味噌が好きな立秋。
米の一粒まで残さずきっちり食べて、ごちそうさま。**]

[その姿が、ちょっと羨ましくなって]

 

[ これは、彼と私以外に誰も知らない話 ]


 

 
[ ――その日の私は、仕事場で資料と向き合っていた。
 変わらぬ日常の光景だ。

 過ごしやすい季節だったので、少しだけ窓を開けていた。
 外から入り込んでくる風もなく、心地良い季節だった。

 と、その時だ。
 突然強い風が吹いて、机の上の書類を巻き上げる。
 この風は知っている――ユラ灯守りの“風”だ、と。
 思った時には走り出していた。
 彼の“風”は、優しい秋風のようなものだった。
 けれどその時は、台風のような荒んだものだったから。
 

 
[ 当時の処暑の領域の入り口は、奥地の平原にあった訳ではなく、処暑域の中の色々な場所に点在していた。
 職場から一番近い入り口に辿り着く頃には息が上がっていたけれど、それも構わずに、“扉”を開けた。

 “外”がどうであろうと、深く焼けた夕空は何時ものこと。
 ユラが灯守りであった頃は、処暑の領域は殆どが夕景だった。
 田畑の合間、人を迎えるための道を走って、和洋の折衷になっている家へと飛び込んだ。

 ――――私が見たのは、客間で倒れるユラの姿だった。
 しかしそんな時ですら、私は叫ぶことが出来なかった。
 言葉を失って、その場に立ち尽くすこと、しか。
 様々な感情が過って、どうすれば良いのか、分からなくて。 ]


  「 ……カナ……? 」



[ 畳に倒れ伏すユラの目が開く。
 そんな状況で尚、何時ものように穏やかな顔をして、私の名を呼んだ。
 口の端から、
を流して、尚。 ]


  「 あはは……来てくれて、良かった、…… 」



[ 星の如くの風は、矢張り私を呼んでいた、らしい。
 彼を抱き起こすけれど、彼が自分で起き上がる事すら出来ないという現実を、ありありと突きつけられてしまう。 ]
 

 
[ 非常に遅れて、人を呼ばなければならない事に思い当る。
 傍から離れようとするのを――彼は引き留めた。

 もう間に合わないのだ、と彼は言う。
 灯守りとしての人間より強い身体。
 それによってこうして今、喋ることは出来ているけれど、緩やかとは言え、死へ向かうことが変えられない状態なのだと分かる、と。
 げほ、と彼が急き込む。私の胸に
が散る。
 その鮮烈さを見て、私は血の気が引いた。 ]


  「 ……ごめんね、カナ 」



[ それでも尚、此方をあやすように笑う彼が私の名を呼ぶ。
 先代の蛍達に謀られてしまったのだと彼は言う。
 この時の彼が、冬至の彼女の言葉を思い出していたとは、私は知らないが。

 彼を信じたのが自分の弱さ、だから、死ぬのは仕方ない、と。
 ……こんな時ですら、憎しみなんて感情はない。そういう人だ。そういう人であることが、今は悔しい。 ]
 

 

  「 ごめんね……ずっと、側にいるって、言ったのに 」



[ だけど、カナは良くないよね、と。
 私の内心を先回りして、彼は言う。

 自分が死ぬのは仕方がないと彼は言うけれど、私には全くそう思わない。
 どうして、と、黒い感情はが犯人へと向く。
 それに、彼自身が良くても私は、私の事は。
 私を置いていく事さえも彼にとっては“仕方がない”と思われているのだろうか、と過った。
 私の事を見限ったならば、離れていく事も“仕方ない”と受け入れる事が出来る。

 けれど、私を愛したまま離れてしまわれては、困る。……困る、以外に適切な言葉が見つからない。
 ……彼は本当に、私の事をよく解っている。
 ここで「いいんだよ」と首を振れるような健気な
でない私を結局最期まで見捨てなかった。

 ――更に泣いたら面倒くさい
でしかないのに、彼は手を上げて、私の涙を拭う。
 頬に触れる彼の手が驚く程に冷たい。
 それを感じる度に、私の心が一欠片ずつ千切れていくようだった。 ]
 

 

  「 ねえ、カナ
    最後に我儘、聞いてくれる?
    ……僕、きみに我儘を言ってばっかりだったけど 」



[ ……彼は自分がずっと我儘を言っていたというけれど、これは違う。
 彼は何時も私の意思に寄り添って、素直に言えない私の代わりに、口に出していただけ。
 だからこれは、初めての彼の我儘だ。 ]


  「 僕の代わりに、“灯守り”になってほしい 」



[ 彼の最期の願いならば、出来る限り叶える意思はあったけれど、告げられた願いは流石に予想もしていなくて驚きを隠せなかった。 ]


  「 ……カナがこういう事に向いてないことは、分かってるんだけど 」



[ またしても私の思うことを彼に先回りして口に出される。
 そう、大きな問題としては、まず、どう考えても、向いていない。
 彼みたいに出来る訳がない。

 それでも彼がつらつらと続ける。
 世界には、この犯人のように、悪い人間もいる。
 だから知らない人間に渡すよりは、“次”の処暑はカナが良い、と。
 ……それは正しく、彼の“我儘”だった。 ]
 

 

  「 処暑域の皆は、絶対助けてくれるから
    それに、他の灯守りも、絶対優しくしてくれるから 」



[ 大丈夫、と安心させるように彼は言った。

 ……もしかしたら彼は、私を独りにしないように、我儘を装ったのだろうか、と、今になって思う。
 それならば、住民に寄り添い愛した彼が、ひとりの人間として私欲のために立場を使ったことになる。
 立派な灯守りであった彼の、唯一の“失策”。
 ……そんなことはしてほしくなかった。私なんかのために、穢れて欲しくはなかった。
 ]
 


[ ふわふわと、彼の灯りが此方へ飛んでくるのが見えた。
 夕焼けのような、深みのある
は、今は薄まり、今にも消えそうな程に小さくなっていた。
 黙ったまま、返事をしなかった私に彼はもう一度微笑んで――自分の灯りを、私の心臓の辺りに押し込んだ。
 まるで口付けを落とされるようだ、と何故か感じた。

 吸い込まれて見えなくなった灯り。代わりに――自分の
灯り
が強く燃え上がるのが分かる。
 灯守りの『証』の受け渡しは、基本的に灯守りの意思ひとつ、であるから。
 ]


  ユ、ラ、



[ 彼の名前を呼ぶことしか出来なかった。
 自分が後戻り出来なくなった事ぐらいは分かる。
 彼はその声に満足そうに微笑んで。 ]
 

 

  「 カナ、 
    ――ずっと、
あい
してるから 」



[ 最期に告げて、目を閉じた。
 ここで初めて、彼を強く抱きしめた。
 声を上げることは出来なくて、ただ静かに泣くだけだった。 ]
 

 
[ 滑り落ちた私の長い髪の色が染まっていくのに気付いたのは暫く後だ。
 稲穂
の色から、
の色へと。彼と同じ、色へと。
 何があったかは分からない。灯守りは理では測れない。
 それは彼がずっと私の側にいたい、と願ったからかもしれないし、
 私が彼の姿をここに繋ぎとめたから、かもしれない。
 ]
 

 
[ どれくらい時間が経ったのか分からない。もしかしたら、短い時間だったのかもしれない。
 領域の“扉”を叩く気配がする。
 ――それが“分かった”し、開き方も“分かった”。

 それからは先述の通りだ。
 当初は私が先代を殺したのではないか、と真っ先に疑われたけれど、
 灯守りの『証』が受け渡されていたことによって、職員らは私を一応信用し、証言を聞いてくれた。
 そして捕まった元蛍達があっさりと自供したことで、そういう意味で事件は解決した、のだけれど。

 ――それが、処暑域の“不幸”の始まりだったのだろう。 ]
 

 
[ 灯守りに“成って”暫くしてから鏡を見た。
 ――その姿は“彼”によく似ていた。
 私から見れば、彼本人には見えないけれど、もしかしたら、彼と同じ雰囲気を感じる人もいるかもしれない程に。

 残酷な事だと思う。
 此処に彼がもう居ないことを突き付けられるようだし、永遠に、彼を思い出す事を止められないだろう、と。 ]
 

―― “灯守り”としての記憶・1 ――


[ “灯守り”として、私がまず関わる事になったのは、今も灯守りとして位にある立秋の灯守りたる彼だった。
 統治域が隣であった事と、私が『鍵』を彼から受け取る側であった事、それから彼の快活な性格から、
 逆隣の白露の灯守りよりも、頼る相手として相応しい、と処暑域の行政職員に判断された、らしい。 ]


  「 立秋の灯守り様は知っているよね?
    聞こえているように、朗らかで大らかな太陽みたいな人だよ 」



[ 当時の私も、隣の灯守り様の顔ぐらいならば知っていた。
 年若い、可愛らしい姿。しかしこれでそれなりの歳なのだから、灯守りとは不思議なものだ、と。
 ……当時は彼と言うべきか、彼女と言うべきかは迷う程だったのだけれど、元が男性であると知ってからは、彼と称している。これは余談だ。
 そして、そろそろ引退を考え始めていた時期だった事は、後々知ることとなる。


 彼の統治の様子は処暑域にも届いていた。
 先代の彼のように、自分の足で統治域の様子を見て回るような統治者である、と。
 実際に関わっていると夏に活発になる太陽のよう、と、それが先代の彼の評だった。

 実際、「カリーユさん」と呼んで、隣人故に気軽に足を運んだり、雑談をしたりしていたようだ。
 彼は後輩という意識が強かったようだから、年若い姿であっても流石に、可愛がるというようではなかったようだが。 ]

 
[ これは私の知らないことだけれど、
 彼が統治者として頼るなら、と思っていた相手は小雪の彼女であり、
 “灯守り”として頼るなら、と思っていた相手が立秋の彼だった。 ]

 

[ そんな、身軽に振る舞う彼が“灯守り”としてしっかりした人物であるという事は、私ははっきりと理解することとなった。

 私に会いに来た彼の朗らかな挨拶に、私が向けた目は無機質であったと思う。
 彼は私の姿を見て、少し驚いたようだった、のは覚えている。
 当時は、理由を考える余裕もなかったけれど。

 そんな無気力な私に対しても、彼は色々と教えてくれた。
 ……が、あまり頭に入っていなかったのもまた現実。
 それでも彼は、私に理由を問いただすことはしなかった。
 当時はそこまで頭が回っていなかったけれど、今考えると有り難いことであったと思う。 


 ある時、私は彼に引っ張られて立秋の領域に足を踏み入れた。
 彼に悪意を向けた
“外”が怖くて、私は領域から出られない状況ではあったけれど、
 彼の根気強い勧誘の末、怯えて震えながらもなんとか辿り着いたのだったか。

 処暑の領域とはまた違うその景色に、緩やかに視線を動かしながら、言われるままに椅子に座った。 ]

 
[ ――そこで初めて、“灯守り”の真髄とも言えるものを見た。

 彼の静かな声、集う魂、祈りを経て生まれる『赤トンボ』。
 隣故……否、学者故、かもしれないけれど、立秋域の『赤トンボ』の話は知っている。
 その話の理由はこういうことであったのか、と腑に落ちた。
 彼の髪のような夕焼け空に、赤トンボ達は舞って、それから飛んでいった。
 その光景は――美しいと、そう思った。
 彼を失ってから初めて、心が動いたかもしれない。
 涼しい風が心にも吹き込むような、そんな感覚を覚える。 ]
 

 
  ………………見せていただき、ありがとうございました

  ……“灯守り”が尊い理由が、解りました


[ 当時、殆ど口を開くことがなかった私が、ここまで喋ったのは初めてのことだったかもしれない。
 恐らく、私の目には、微かな光が宿っていたと思う。 ]


  ……………ありがとうございます


[ 優しい彼の助言を素直に受け止めて、自然と微笑が溢れた。
 
 ――この出来事があったからこそ、私は“灯守り”としての仕事はきちんと行っている、のだろう。
 だから、最低限、“灯守り”の形を保っていられる。
 立秋の彼が、居たからこそだ。

 尤も、現状の“ちょっと”どころでない怠惰加減と、それから彼に対しての一周回ったような淡白な反応に、彼は呆れているかもしれない、が。*
 ]

―― “灯守り”としての記憶・2 ――


[ “灯守り”という仕事に向き合う気力は湧いてきて、
 行政に関しても、必要な事程度は処理出来るように徐々になっていった。
 だからといって、傷が癒える訳ではない。
 私自身に灯守りの自覚が湧く度に、“彼”は居ないのだと突きつけられて心を刺す。
 相変わらず、灯守りとしてでない“私”の心は荒んでおり、感情を失っていた。
 失わないと耐えられなかった、というのもある。


 会合に初めて参加したのはそんな頃であり、小雪の彼女と初めて顔を合わせたのもその時だった。
 故に、余計に、彼と容姿が似ている事を指摘されて動揺してしまったのだろう。 ]


  …………いえ……


[
 彼女は、私がこの容姿に対し何を思っているかということを知る由もないだろうし、仕方がない。
 それでも律儀に謝られて矢張り優しい人だな、と思った。
 処暑域の行政職員に、日々何気なく触れられていたから、謝られないことに慣れており、少し驚いたのもある。

 しかしその時の私には、それだけ返すのが精一杯だった。
 だから彼女は、私を傷つけぬように、と離れていったのだろう、と思う。 ]

[ 先代の彼が尊敬していた彼女。
 彼女に“風”が引かれたのは、もしかして、彼の導きだったのかもしれない。……とは、根拠のない、馬鹿馬鹿しい話だが。


 彼女の様子を“観測”すると、確かに彼女は理想的な統治者の姿に見えた。
 やや堅い、けれど、彼が彼女を尊敬するのはよく分かる。
 ……故に、私には出来そうにもなかった。
 但、彼女のその姿は、見ていて心地の良いものではあったから、参考にするのを止めた後も、彼女の様子を“見て”いた。

 その彼女が、人間味を見せる瞬間も、日常の端々に見えた。
 先代に……縛られている、とも言えるような姿。
 もしかしたら私は、彼女が泣くところも、見ていたかもしれない。
 ――その姿が、少々私と重なるようで、私の心も共振するように痛くなった。

 普通の人でない存在灯守りでありながら、普通の人間と変わらないような姿を見て、“灯守り”にも、色々な事情があるらしい事を知った。
 だからこそ、“灯守り”を知り“見守る”事に、した。 ]

[ 小雪の彼女は……虚しいのだろうか、と感じる事がある。
 とはいえこれは、唯の推測でしかないし、彼女に言った事もない。
 会合に定期的に参加するようになり、彼女と言葉を交わすようになり、時に一人の時の彼女との差異を興味深く“観察”し、
 そんな事を重ねれば、彼女も私の気質を分かってきたようだった。
 ……だからこそ、問題のある統治者としても、苦言を呈されることもなく、許されているのかもしれない。
 ……本当の彼女の思いには気付かない。私は“見える”ものしか分からない。
 ]

[ 彼女に贈り物するのは……彼のある意味“特別な人”であったから。
 ――そう私は、何時までも彼から離れられない。

 彼女から送られた清酒を、彼が嬉しそうに飲んでいた姿を思い出す。
 ……普段は酒を飲む人ではないけれど、アルコール耐性は驚く程ある人でもあったから、彼女からの贈り物はいつも喜んでいたようだ。
 ……そんな彼を、私は彼女に忘れて欲しくないのかもしれない。
 彼が『処暑の灯守り』であったことを、ずっと残したいのかもしれない。
 私の弱さに彼女を巻き込んでいる事。それはともすれば、嫌がらせと相違ないのだろうけれど。
 つい、凭れかかってしまっている。


 彼女から返されるのは、何時も檸檬と、それから山茶花の花。
 彼女と同じ名の花が何を意味するのか……はっきりとは分からないけれど。
 枯れてしまうまでは、一輪挿しに飾って、時折、眺めている。* ]

―― “灯守り”としての記憶・3 ――


[ さて、灯守りになった当初の私は憔悴していた、というのは先述の通りであるけれど、
 先代の雨水と顔を合わせたのは、もしかしたら暫く後だったかもしれない。

 どうやら彼と“友人”であった事、それから――“私”を知っているらしい事を知った。
 彼が“カナ大切な人”の話を親しい人にしていたらしい事を知ったのは、先代雨水の彼の言からであったと思う。
 その本人かと言われたら、否定する事はしなかった。

 見守られているのは、終ぞ気付かなかった。

 構われる間、ブドウの話に熱心だな、と思っていたら、先代処暑の彼との深い繫がりがあった事を知って驚いた。
 墓前に供えられたワイン。
 そういうことであったのか、と、ここで初めて理解する。

 彼の事は、眩しすぎて苦手意識はあったけれど、
 彼から先代処暑の彼の話を聞けるのは、嫌いではなかったし、
 ……彼の目が不思議な程に優しかった事は、とても印象に残っている。* ]

 
[ 彼の『能力』は知っていても、それが私に作用した事があるとは知らなかった。
 もしかしたら、彼と私しか知らないことも、知られているのかもしれないことも。
 無邪気で自分に正直な灯守りが、自分にはどうすることも出来ないと悟っている事も。

 彼が私を見守り、その変化を嬉しく思っている事も。
 実際に、周りの助けもあって、私は今心の平穏を大方取り戻しているし、それなりに楽しく過ごしている、と言えるから。
 小満の彼が思う事は、事実間違いではない。 ]

 

 
[思い返すのは引きこもっていた時期。

 独りで、母親にろくに見て貰えなくて。食事もパンとか母親の手が一切加えられていないものしか見なくて久しかった。
 引き取られてから、村雨に手料理を貰った時ぼろぼろ泣いたのは今でも覚えている。


 誰かの為に料理をして貰えるのは当たり前じゃない。
 ぼくはそれを知っている。それだけ。

 でもそれは、わざわざ言わないし表にも出さない。]
 

 
[さて、当の村雨と言えば小満の希望なんてなんのその。勿論
ばっちり
覚えている訳である。

 彼の先代とも気が合ってよく下らない話をしたし
 彼が連れてくるようなってからはよく絡んだ。 

 元から好きに動くやつだったから、最初にそっけなくされた時はそういう気分か? 程度にしかとらえなかった。
 だけど明らかに逃げられてしまえば気づくわけで。

 そう逃げられたら期待に応えない訳にいかないよなぁ? とにやりと笑って ]


 「おーい、こっち来いっての。てめぇ、このこの」


[笑いながら捕まえては不機嫌な顔をされたものだった。その度頭を無理矢理にでもぐしゃぐしゃ、と癖のある髪のボリュームを増やしてやろうとしたものだった。]
 

 
[誰にだってある。子供の部分は否定するもんじゃない。
 反抗も何も、可愛げのあるものだった。

 自分に子どもがいたらこんな事もあったのだろうか
 そう思えて
 村雨は確かに
幸せ
だった。]

 

 
[いつしかそれも気が済んだのか
 気付けば自然とだったと思う。相手が落ち着けばもう大丈夫なのか? と笑ってやったものだった。

 村雨にとってはそんな一つ一つは大事な思い出だ。
 相手が忘れても自分は死ぬまで覚えてやるつもりである。 


 死に目が見たいなんて知れれば村雨が今度は嫌な顔をする番になる。
 その時は今度は俺が逃げてやるよ。なんて忘れて欲しい過去をほじくり返すことになりかねない。
 死ぬ姿なんて、誰が見せたいと思うか。雨水は仕方ないにしても。その時は出来るだけ静かに逝くつもりでいる。

 別れはもう避けれなくても、元気な姿だけ覚えて欲しい我儘くらい叶ってほしいものだ。そう願う。]**  

 

―処暑と赤トンボと―

ん。どういたしまして。

[振り返り、にこりと微笑み返した。
自分では処暑の内面を完全に癒やすことは出来なくとも、灯守りの役目を見せることで何かを掴み取ってくれたら……と考えていた。

心が籠もった言葉も、自然な微笑みも、初めてのもの。
それらを受け取った立秋は、多分この子は大丈夫かな、と思った。癒せない傷を抱えていたとしても。]

無理に引っ張ってきてごめんね。
帰ろうか。

[怯える子を外に出すという荒療治をした自覚はある。責任を持って処暑の領域まで送り届けた。安心出来る場所まで。]


気が向いたら、今度は新しい灯りを送る所を見においでよ。


[別れ際にそれだけ告げて、立秋は自分の領域へと帰った。

……それから、距離は縮まった気もしなくはなかったのだが、変わらず淡々としている処暑に「もうちょっとこう……仲良くなりたいような?!」と思うこともあったようだ。しかしそれがデフォだと気づいてからは気にしなくなった。
**]

ーー先代の記憶ーー


 やぁー!!おなじがいーー!!

「えぇ……ギャン泣きするじゃん……」


[ある程度自我を持ち始めた頃、領域に慣らすという名目で、数時間ほど子守を押し付けられていた。
何でも、眞澄本人がここに来たがってグズるらしい。
事実かどうかは知らないが、ずっと足回りに引っ付いているので、ここにいたいわけじゃないと思うけど。

というか、ガラスじゃだめなのか、ガラスじゃ。
透明だし似たようなものじゃない。
何故そこまでして同じものを求めるのか

ここまで熱烈に求められたことがないから、困惑しかない。少し遠い目になる。
あいつもこんな気持ちになったのかなぁ……
あの時は笑ってごめんよ。]
 



 いおにぃちゃんとおなじじゃなきゃ、やだーー!!

「そんなこと言われたってねぇ……」


[できないものはできないんだよ。と悟らせても泣き声が大きくなる一方。
こういう時、どうすればいいかわからない。
誰か、お客様の中に子育てマニュアルをお持ちの方はいらっしゃいませんか。

何とか言いくるめようとしてみるも、イヤイヤと首を振られるだけで。]


 いおにぃちゃんきらい!!


[そんなことを言いながら走り去ってしまった。
泣きながら家の方に走り去る姿に、走るの早くなったなぁ……じゃない]
 



「ちょっとどこ行くのさ!?」


[相手は二足歩行歴3年ぐらいのちびすけ。
領域内だから人災的な危険はないだろうけど、動きが全体的に危なっかしすぎる!
慌てて追いかけたけど、思った以上に足が早くなっていたのか、姿が見えない。
……まあ、場所の割り出しは簡単だけどね。
通った後、扉が開きっぱなしだし。

開かれた扉を辿っていくと、着いた先は己の寝室。]


「…………。」


[ベッドの上には小さい布団まんじゅうができていた。
思わず笑っちゃったよね。]
 



「そんなに同じがいいの?」


[もぞもぞとまんじゅうが動く。]


「その内できるようになるよ?」


[心なしかまんじゅうが小さくなった。]


「今欲しいの?」


[もぞもぞ]
 
 

 

「…………仕方ないなぁ。」


[確か昔使ってたのはまだ残っていたはず。
同じのがいいと言うのなら、こっちが揃えれば良いじゃないかと。
確かこの辺に……と、灯守りになる前に使っていた物を探し出して、灯りを移し替える。
お揃いで誤魔化されてくれるといいけど。]


「ほら、これでお揃いだよ。」


[正立方体の硝子の容れ物の中に灯る黄緑色の灯りを、まんじゅうの前で揺らしてみる。
もぞもぞとまんじゅうが動いた。]
 



「硝子の容れ物だよ。」

 ……がらしゅ?

「そう、さっき見せたのと同じ。」

 おなじ?

「形は違うけどね。」

 …………。


[まんじゅうから抜け出してくると、にへっと笑って、渡した翼型の容れ物を両手で抱きしめて。
そのままベッドの上で寝始めた。]


「えぇ……寝ちゃうの。」


[すよすよと寝息を立てる妹にため息を付きながら、そっと布団をかけてやった。
一先ず泣き止んでよかった。]
 

 
[後日、眞澄は“氷の容れ物が欲しかった”のではなく、
“僕とお揃いが良かった”んじゃないかと、誰かに言われて気づいたんだったか。

その時の己の顔は、嬉しいようなこそばゆいような感情を、無理矢理誤魔化そうとしていた。
変顔になってたけど仕方ない。


随分と振り回してくれるが、これはこれで楽しいか。
そう思い始めた
自覚した
のはこの頃か。

きっと小さすぎて眞澄は覚えていないだろう。
でも大雪な思い出だから。僕はずっと覚えてる。
*]
 

―― 回想・お祭りの日の話 ――


…………。

[あれ、小雪さまったら笑っておられます……?

色んなものを抱えてようやく戻ってきた時、最初に思ったことがこれでした。
数秒ぽかーんとしたところを見られてしまったかもしれません。
すごーく斜め後ろの方で従兄が声をかけてくれなければ危なかったかもしれません。何かが。

とにかく無事我に返ったわたしは、小雪さまに好みを訊ねた。
好きなものが色々あって悩むという気持ちは、ええ、とてもわかります。
だからこそ、「貴方の好きなものを頂戴?」と言われると、かえって悩んでしまったものだ。
思い切って全部! と言い切ってしまうか、とっておきのひとつを差し出すか]

[あの時のわたしが選んだのは後者だった。
あれでもなくこれでもなくチュロスsweetでもない……と、
候補に入らなかった分をぽいぽいと従兄の方に投げつけた末、
わたしは小雪さまにそれを差し出した]

これがいいです! りんご飴!
これを分けて……分けて? あっもう一つありました。

[小雪域でよく栽培されているその果実を、
うっすら赤く色付いたつやっつやの砂糖水でコーティングしたものを、
手をべたべたさせずにどうやって分けるかという話は、そもそもふたつセットで買ってたことで事なきを得た。
わたしは迷わず青いりんごを使った方を差し出した]

わたしはこっちの色の方が好きですので、小雪さまにあげます。

[どうして青りんごだったかというと。
そっちの方が、わたしの灯りの色に近かったからだ]

[どうして笑う小雪さまを見てぽかーんとしたのか、
そのことについて話さなければなりませんね。

こどもの頃からわたしは、お転婆なこと(たとえば脱走)をするたびに、
お父さまに「悪いことばかりしてると小雪さまが来て『凍結』をしてしまうぞ」という文句で叱られることがあり、
そのたびに震えあがっていました。

これのせいで小雪さまは冷たいお方だと勝手に思っていたのですが、
実際に会って言葉を交わしてみると、わたしだけの中で作り上げてきた印象がほどけていくのを感じました]

[もっと彼女のことを知りたいと思い、わたしは様々なことを訊ねました。
そのうちのひとつに、このような問いがありました]

小雪さまは、灯守りのお仕事が好きですか?


……むかしのことはあんまりよく知らないですけど。
先代さまが、勝手に号を明け渡して行方知れずになったのが代替わりの理由でしょう?

[ですから、好きでやっているわけじゃないのでは。
一度疑問が湧き上がると突き詰めたくなってしまうのがわたしの性でした。
……この性は今でも変わらないことですが]

[そう、わたしはむかしのことをあんまりよく知らない。
過去の資料を紐解き先代さまの統治の様子は知れたけれど、
代替わりまでの間に先代さまや当時の蛍が何を思ったのか、
それについてはさっぱりだ。

先代さまについていた蛍が、
どうするのが良いか考える先代さまに対して、
「眞澄には家族が傍にいることが必要だと思う」と説いたことも、
なんなら「降りかかる火の粉くらい私にも払わせてほしい」と言ったことも、もちろん、知らない。
かつての朔風払葉の能力はわたしよりももっと攻撃的だった模様。
]

[やがて質問ばかりするわたしを見かねてか、
従兄がわたしをむんずと引っ張ってどこかへ連れて行こうとした。
紳士的ではない、と抗議をするのは後にした。
お祭りの会場は広い。小雪さまも他に行くべき場所があるでしょうに、
むしろ引き留めたのはわたしの方だ]

お時間ちょうだいしてすみませんっ!
でも楽しかったです。それでは!

[引っ張られつつ慌ただしくも別れの挨拶をして、手を振った。

結局わたしは、小雪さまのことをどれほど知ることができたのだったか*]

 
    [ 考える。
       ぼくはどうしたいのか。 ]

 

 
[雨水になってぼくは、ぼくの居場所を手に出来た。
 同じ灯守りの皆を見ていると、本当に色々な人がいる。
 きっと、事情も色々。
それはぼくだって。



 村雨のようになりたい。それはある。
 でもなぞるだけじゃなくて、ぼくなりに道を探さないといけないという事くらいはわかる。
 蛍のことも含めて……うん、今すぐ決めるのはしない。
 焦らず決めようと思えたから。


 お母さんの事も────  

 

 
[ ぼくは能力が原因で引きこもって
  でもその能力があるから見つけて貰えた

  雪が雨に代わり、雪解けが始まる
  雨水
はそんな季節。

  ぼくが何でも
かせるのなら
  ぼくが
雨水
であるのなら

  雪のように冷たくなってしまった関係性だって
  溶かしてしまえたらいいのに────     ]**

 

[まっとうな灯守りに見えて、そのくせ我が強くて。
 だからこそ、まっとうな灯守りでない自分は、
救われた
のだ。

 ここにもしいたとしたって、絶対に言ってやらないけど*]

ーー回想:お祭りーー
[昔々の話。私が灯守りとなってそれなりの年月が経った頃。
街へ視察へ出ていた時に、女性の悲鳴が聞こえた。
現場へ向かうと、どうやらスリに合ったらしい。
幸い、犯人は捕まり、盗ったものは返却済みではあったが、犯人は反省するふりすら見せなかった。
それどころか、盗られる奴が悪いと吐かした。

その態度に、さすがの私も怒った。
普段は自分の灯りの器にしている氷を溶かさないようにしたり、食材の鮮度を保たせたり、大切なものを保管するために使っている能力を、初めて人へと使ったの。
男衆たちに頼み、適当な空き家の、何もない部屋に放り込ませた。


 そこで一人、反省なさいな。
 反省したら出してあげるわ。


時間の流れさえ干渉しない、何もない空間。
そこへ閉じ込め、周囲に食事も水も不要。近付くな。と命じると、そのまま領域へと帰った。

次の日ーー私達の時間では1日だけれど、スリの時間ではどのぐらいの時間かしらね。
扉を開けてみると、憔悴したスリが地に頭を付け、泣きながら許しを請うてきた。

そんな出来事があったわけだけど、それが子供への叱り文句になっていると知った時は遠い目をした
あまり怖がらせるつもりはなかったのだけれど、どうやら見た目と立場が相まって、叱るときの“怖い存在”として使われるようになったらしい。
しかもまさか、親から子へと受け継がれてるとは。
……子を育てる親の助けになっていると考えると、まあいいのかしら?]

 

 
[ぽかんとしていることには気付いたけれど
そのことには指摘をせず、微笑んでおきましょう。
何故呆けられたのか。まさか叱り文句のせいだとは知らず

幸い、従兄の方が声をかけて我に返っていたので、こちらから何か言うことはなかったわ。

あれでもない、これでもないと従兄に投げつけていく様を見て、困らせてしまったかしらと思っていると、差し出されたのはりんご飴。]


 好きな色を私に?


[2つあるから、差し出されたのは
小雪域でよく育てられている、爽やかな色の青りんごの飴。
お礼を述べて受け取ると、そのまま口の中へ。]


 美味しい。


[好きだというその色を、迷いもせずに渡してくれた。
そのこともあってか、今まで食べたりんご飴の中で一番美味しい気がした。]
 

 
[彼女が質問をしてくるのならば、答えて言ったでしょう。
ただ、1つだけ。即座に答えることができなかった。]


 …………。


[
素直な子供からの質問だからこそ、来るかもしれなかったのに。
あまりにも不意討ちすぎた。
何の答えも用意していないから、答えに窮してしまった。
今更ここに来て、兄の話が出てくるとは、思っていなかった。
]
 

 

 代替わりの理由に関しては……そう、ね。
 …………灯守りの仕事に関して、は、


[
それが仕事だと割り切っていた。
好きか嫌いかではなく、“やらなければならないこと”思っていたから。
この仕事が好きかと言われると、わからない。
]
 

 

 …………やりがいは、とてもある仕事、よ。



[求められた解答から、少し外れた答え。
聡い子供なら、答えまでに時間がかかったこと、微妙に解答からズレていることから、“好きではない”ことを悟る事ができたかもしれないけれど。
この時の私にはそこまで頭は回らなくて。


だから、私は誤魔化すためにとっさに質問を返した。]
 



 貴方は、私の蛍になりたいと思う?
 家の仕来りに従って、蛍になりたい?
 
 
[殆ど答えを言ったことに気づかない。]

 

 
[これ以上、これ関係の質問が来たらなんと答えよう。
と必死に考えていたが、先に終わりがきたようだ。]


 ええ、またね。


[手を振る子に振り返して、その姿が見えなくなるのを確認すると、ほっと安堵の息を吐いた。
もらった飴を口の中に頬張るが、味はわからなかった。*]
 

 
[ 己が中央に勤務した頃……と言えば、思い出す事がある。
 芒種の灯守りに突拍子もない提案をされたことだ。
 彼女は、会合中の態度も大人しいし>3:59、あまり問題がない灯守りとも言える。
 ……唯、素晴らしいという話も聞かないので、灯守りとしてはあまり特徴もない、と言えるかもしれない。
見えている範囲では。

 とはいえ、あの“事件”があっては、己からしてみれば彼女は、“扱いに困る灯守り”という認識であった。 ]


  ……?
  ええ、どうかされましたか? 芒種様


[ 微笑と共に声を掛けられた>3:*57頃の己は、特に目立つこともない一職員であったし、灯守りとの関わりも少なかった。
 だから突然“灯守り様”に声を掛けられ、疑問には思った。
 しかも休憩中という事は、仕事ではない。益々疑問が募っていく。 ]


  え、ええ……間違いはありませんが……

  ……はい? あの、何方に付き合いが必要でございますか?


[ 尋問じみた圧で問われるのは、プライベートの事>3:*58。
 困惑した顔をしながらそれでも律儀に答えていたが、「つきあってほしい」との言葉と共に質問攻めが終われば、状況が掴めずに、こちらから質問した。
 ……のだが。]
 

 

  !?!?!?

  えっ?! は!?!? なん……っ!?


[ 恥じらいながら、「恋人になってほしい」と口にする彼女>>3:*59。
 思わず大声を上げて、とても焦った表情をした。
 己のどこがそんなに気に入られたのか……否、それは今重要ではない。……否、重要か……?
 しかし己は彼女の事を何も知らないし、“灯守り様”と恋人とは!?と悩んでしまい、固まったまま、意味のある言葉は出せなかった。

 ……さて、その“事件”はどのように収束したのだったか。
 もしかしたら一瞬程は律儀に“お付き合い”したかもしれないし、早い段階で面倒ごとを持ち込んだだけだと知れたのだっただろうか?

 ふと、彼女の方を向くと、目が合った
 艶っぽい視線を送られれば、表情が引きつる。
 怯えるように、目を逸らすだろう。]
 

[とは言え、きっと村雨と顔を合わせたら。
 死に目には立ち会わせてほしいと冗談めかしながらでも告げてしまうし、そうなったら逃げるだの何だの、過去の話が出てくるだろうか
 いつぞや、今の雨水には想像もつかないだろう様子で、つんとそっけなくあたっていたこととか。
 逃げ出しては捕まって、やめろときゃんきゃん騒いだこととか。
 一時期はきっと名物と化していただろう、青い戯れ。
 ああ、だけど。

 人と関わる楽しさと温もりは、彼に教わったのかもしれない。
]

―― 月夜・金色の領域にて ――


[ 先代の頃とは少々趣の違う金色の領域を冬至の彼女はどう思ったか。それを私は知らないけれど。
 
 月の光を頼りに、彼女が田の中に分け入っていくのを唯見ていた。
 ……彼女の様子が何処かおかしい、と気付くのに時間は掛からなかった。 ]


  …………え……


[ どう見ても“米”を収穫する動きではなかった彼女の行動。
 理由に気付いたのは、彼女の言葉を聞いて初めて、だった。
 私は出身も処暑域であり、常に田園風景が側にあった。
 しかし冬至域の彼女は違う。
 “知らない”のだと、その考えは頭になく、目を瞬かせ、
 それから、頭の中で手を打った。 ]

[ それでも私はまだ、何もせずに彼女を“観察”していた。
 けれど彼女が頭を下げるから、私もようやく腰を上げた。

 ……さて。ここは処暑の領域である。
 領域内のものは私が操作出来るため、稲を米に変えるのは大した労力は要らないのだけれど。
 気紛れに、鎌を使った正しい収穫の仕方を教えた。
 籾から白米にする部分はショートカットしたけれど、ぽつぽつと正当のやり方を教えながら。 ]

[ そこまで来れば、後は冬至の彼女がやってくれた。
 丁寧な米炊きというのも、おむすびを握るというのも、そちらの工程も面倒な事だと思うが、私は見ているだけだった。 ]


  …………………


[ 好きな具、を問われ、答える事が出来なかった。
 特に強い好みはなかったし、そもそも当時は選り好みする程、食材がなかった。
 口に入れても大丈夫だという判断をするのに、随分労力を掛けていたから。

 ……と、いうのと、彼女のおむすびを食べられるかどうかは、まだ悩んでいたから。

 彼女は特に気にせず、だったか、そのまま話を続けて、出来上がったのは、彼女の手の中で出来上がった三角形のおむすび。
 もう朝だという彼女の言葉に、そういえば、と空腹を覚える。 ]

 
[ 空腹の魔法か、それとも、領域の米があまりにも美味しそうに出来上がっていたからか、或いは――彼女の功績か。
 私はそれを食べることが出来たし、人の作ったものに対して、美味しい、と安堵を覚えた。
 隣で頬張る彼女をじっと見つめて。
 彼女の温かい言葉に、微かに笑んだ。
 涼しい初秋の暁のひと時。深く、印象に残っている。 ]
 

―― 続・金色の領域にて ――



  ………………


[ その数日後、また冬至の彼女が訪ねてきた。
 彼女の予想外の行動に、私は内心只管に困惑していた。
 その日は夜に眠っていたため、その時間に頭がはっきりしていたけれど、故に余計に彼女の行動の意味が受け取れなかったのかもしれない。 ]


  ……………そうですか
  ……好きにしてください


[ 結局、長い沈黙の後に数日前と同じ言葉を告げて、私は冬至の彼女を見守ることにした。
 彼女は苗から育てようとしただろうか? それならば、何も生えていない場所を用意した。
 ……領域が常に一面の金色ということは、刈り取ってもいつの間にかまた金の稲として存在しているということなのだが、それは彼女には言わなかった。
 彼女がそれを知ってなお、そうすることを選んだのかどうか、というのは分からないが。

 冬至の彼女。会合にも端末で参加するぐらい、滅多に姿を現さない。
 ……その彼女の姿を連日見ることになったのは、非常に不思議な気分を覚えた。
 けれど……領域に独りでいる時間が減ったことは、私の心を癒していったのだと思う。 ]

[ それはとある稲刈りの光景を眺めていた時の事だ。
 私は時折手を出すぐらいで、冬至の彼女を見守っていることが常だったのだけれど。
 意気揚々と稲を刈っている、ように見えた彼女の様子がおかしいと気付いたのは、彼女の作業を大分眺めた頃か。
 ――彼女は、田の中にぱったりと倒れた。 ]


  …………!


[ 私はその光景を見て血の気が引いた。
 “灯守り”が倒れるということ。それは“彼”のことを思い出す。

 暫く固まっていたが、ようやく狼狽えながら彼女の元に行くことが出来た。 ]


  
冬至、さん……



[ か細い声で彼女を呼ぶ。
 彼女が息絶え絶えに吐く言葉によると日が苦手、であったらしい。
 そういえば冬至の領域は闇に包まれた場所、であったか、とようやく思い当たる。
 それから、どうして私の所に出てこようと思ったのだろう、と蛮勇にやや呆れてしまった。
 ともあれ、震えながら彼女の身体を抱え、なんとか家の中まで運んだ。
 彼女が調子を取り戻すのを見れば、私は心から安堵した事だろう。 ]

[ そんなことを経ながらも、冬至の彼女は諦める事をせず、領域を訪ねてきた。
 彼女のいう助っ人――彼女の蛍である雪兎を入れるのはたっぷりと悩んだけれど、許可なしに入れるようにはしなかったが、訪ねてくるようならば入れることにはしていただろう。

 それから彼女は、立秋の彼を勧誘したらしい。
 領域にやってきた彼と、それから使い魔達は、私から見ても、強力な助っ人、と形容できた。
 収穫の際には私も動いて、そうして出来上がった白米。
 料理の食材は皆で持ち寄ったのだったか、そして料理は冬至の彼女に殆ど任せたのだったか。
 豪華な朝ご飯を前に、私は私なりに、感動のようなものを覚えていた。恐らく、表には殆ど出ていないが。 ]


  ……………美味しいです


[ 普段よりも食欲が湧いているような気がするのは、私にとってとても珍しいことだ。
 その珍しさを興味深く覚えながら、立秋の彼が、冬至の彼女に声を掛けるのを聞いていた。
 ……冗談に乗るのは苦手なために私は黙っていたが、実際彼女が望むなら、農家への道は開かれているのではないか、と思っていた。 ]
  

 

  [ そんな、楽しい記憶と、今も“日記”残る記録。** ]

 

―― 回想/あるお祭りの日、それから ――


[小雪さまが笑っておられたため、
何度も聞いた𠮟り文句を思い出して震えることはなかったものの、
粗相はしないように心掛けていたつもりです。
せっかくの食べ物をたくさん買いまくったあげく落としてしまったということにもならず、
小雪さまに、と渡したりんご飴を、
彼女は「美味しい」と言ってくれました]

あ、ありがとうございます!
よかった……。

[ほっ、と一安心してから、わたしもりんご飴を口に運ぶ。
心なしかいつもよりおいしい気がした。
……いつもというには語弊はあるか。なにせこういうお祭りの時しか食べない。それでも]

[やがて食べることより小雪さまに色々訊ねることに夢中になっていった。
言葉のやりとりはそれはもうぽんぽんと進んでいた記憶。
ただひとつ、わたしが灯守りのお仕事について訊ねた時を除いて]


  …………。そう、ですか。

[わたしは頭の回るこどもだったから。
小雪さまが答えになってない答えを返したこと、
ちょっと考え込むみたいな間があったことを、
素直に、何か言いたくないことがあるからだと受け取りました。
というか、素直に「好き」と返らなかったこと、それ自体が答えのようにも思えました。

好きでやってるわけではない?
とはいえ、やりたくないという気持ちが彼女のどこかにあるのなら、
今頃立派な統治者として名を馳せてはおりますまい。

“縛られている”。
その時わたしは小雪さまのことを初めてそのように思いました]

[遠からず、わたしは小雪さまの蛍になる。
小雪さまにも蛍を受け入れる意思がある。
それは前から決まっていたことだ。
そこにわたしの意思が介在する余地などひとつたりともなかった。

いずれは受け入れろと言われていたことでした。
けれどその時のわたしには受け入れる心の準備はなく、
小雪さまの言葉も、「仕来りに従って蛍になるしかないのだ」と、
言われているように聞こえてしまいました]



わ、わたしは……、
決められたことに従うんじゃなくて、自分の意思で蛍になりますからっ。


[ちょっとむくれた様子で告げる。
たとえ灯守り相手でも物怖じしなかったのだ、わたしは。

従兄に止められるのがもう少し遅かったら、
「どうしてやりたくもないのに灯守りをやるんですか」とまで訊いていたかもしれない。
けれど、そうはならなかった。
小雪さまが手を振り返してくれたのを見届ければ、
あとは振り返ることもなく、従兄に文句を言い始める。
飴ごとりんごをしゃくっとかじったけれど、幸せみたいな味はしなかった]

[それからわたしはお父さまや叔父さまなど、目に付く大人に「どうして?」を繰り返した。

  どうしてこのような仕来りがあるの?
  どうしてそれに長い時間従っているの?
  変えようとは思わないの?

結論から言えば、満足する答えは得られなかった。
誰も彼も、現状に満足しているか、すんなりと受け入れていた。
それでもわたしは何かを変えることに固執した。

季節が一巡りした頃、わたしのまなざしは小雪域の外へと向いた。
他の場所ではどのような統治が行われているのか。
どのような灯守りがいるのか。
そもそも書物や噂話でしか知らない“外”とはどんなところなのか。
統治者の補佐としてではない、ただの“わたし”として、それを知りたいと思った]

  [わたしがわたしを変えるしかない、と思ってしまった*]

 ― 枇杷の花 ―



  [  一方的に、色んな場所へ届けたお手紙は
     おへんじの形も色々でした。
     中には謎かけのようなものも混じって。  

     添えられたひとことと、花の正体。
     どうやら枇杷という木の実のなる花のようです。  ]


     いい香り。



  [  大寒域には枇杷はありません。
     そういう意味でいうならば『ない』けれど。


     ……わざわざくださるお返事だもの。
    回答は楽しいものでなくてはね。  ]




  [  ……みつけた。花言葉。
     『治癒』『温和』『内気』

     それから、『静かな思い』
     『密かな告白』


    『あなたに打ち明ける』  ]





  [  大寒域には気の利いた花なんてないから
     可愛いらしい便箋でお返事するしか出来なくて
     ごめんなさいね。


     かわりにはしらせた言葉はこんなもの。  ]




   かわいらしい悩みがいいですか?
   それとも少しくらい過激な告解がお好みかしら。




  
例えば、◼️かを、◼️したことだとか。


   
  [  それだけ書いて送り返しましょうか。
    大寒域に秘密はないけれど。


    ねえ、あなたはわたしを知りたいと、
    思ってくださったかしら? *]

ーー回想:あとの祭りーー
[血筋や家に縛られず、兄が灯守りでいればいいと言った。
ーー駄々を捏ねても行ってしまった。

私は仕来りを壊そうとした。
ーーそうすれば兄が戻ってくると思ったから。

壊せなかった。
ーー篠花家ではない子、銀の髪ではない子。
  それを後継者として据えればいいのに。
  そんな簡単なことすら、できなかった。


どうして?
ーー……本気で壊したいと、願ったわけじゃないもの。]

 

 

[私はただ、“   ”を埋めたいだけ。
そんな理由で、後継者を選びたくない。選べない。]


 
 

 
[小さく黙ったそれが、何を思ったのかはわからない
でも、何かを思ったのはよくわかった。

好きかどうかなんてわからない。
ただ、今ここで、放り出すことだけはできない。
私がやらなければ誰がやるのか、蛍すらいないのに。
放り出したら統治域の人達が困るから。]




 ……そう。



[むくれた様子の子には、それだけ返して。
自分の意志で決めるというのなら、強要する訳にはいかないと。
年上ならいざ知らず、自分より遥か年下の子を、自分の我儘に付き合わせることはできない。
この子の願いを優先するために
もう、我儘を言って置いていかれるのは嫌だから
、私は諦めた。
]
 


 

[だから私は、あの時も追うようには言わなかった*]


 

ーー回想:秘密ーー


 ……なるほど?


[可愛らしい便箋に書かれた文字を見て目を細めた。
返事が来ると思っていたかと言われると、半々ぐらい。
だが、まさか二択を迫られるとは思っていなかった。]


 こう返ってきた、ということは。
 ちゃんと意図は伝わったってことよね。


[どうしようかと考えた末、取り出したのは一枚のコイン。
悩むぐらいなら、天に運を任せてしまいましょう。
まあ私はそこまで過激な秘密はないから、到底釣り合うとは思わないけれど。

無言のままにコイントス。coin]
 

 




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