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【秘】 中等部 バラニ → 司書 エルナト「君も……昨日までの私の方がと、言うのかい……?」 ただ尋ね返すその言葉の中に、どこか寂しげに見えるような表情を僅かに浮かべる。 実際には治っていなくても、もう大丈夫だと思わせれれば彼の親はよかったのだろう。 やがて効き目が薄くなり、もっと強い物を、と薬の量を増やすことになったとしても。 そしてなにより、バラニもこれを飲まずにはいられないほど追い詰められていたのだ。 綻びが生じたそこに付け込まれ、言葉巧みに唆されて、こんなものに頼ってしまった。 「けれども、飲まなければ駄目なのだ、私は……」 そこから言葉は続くことはなかった。 握り締められた薬を見つめて、瞬きをひとつ、ふたつ、繰り返して。 「……私はもう、寝ることにするよ。 なんだか、眠たくなってきてしまったからね……おやすみ、エルナトくん」 強引に話を打ち切るように、バラニは寝台に横たわってしまった。 軽い受け答えには応えてくれるだろうが、他愛のない談笑をする気にはなれなかった。 薬はあなたの手に委ねられていたが。 ▼ (-5) 2022/05/06(Fri) 21:10:14 |
【秘】 中等部 バラニ → 司書 エルナト──翌朝のこと。 またしてもバラニの姿は見えなくなっていた。 昨日の朝と同じだけれど、この朝はちゃんと置き手紙が残してある。 『また先生に呼ばれた。心配はしないでくれたまえ』 手紙にはそう書かれている。 (-6) 2022/05/06(Fri) 21:11:16 |
バラニは、今朝も朝食の場に来ることができなかった。 (a0) 2022/05/06(Fri) 21:13:49 |
【秘】 中等部 バラニ → 恋の呪い シャルロッテ「!」 ノックの音に過敏に反応してしまう。 扉の向こうから何やら少し騒がしい音が聞こえてきた。 「…………シャルロッテ、くん?」 「ど、どうしたのかね……私に、何か用でもあるのかい……?」 返ってくるのは、酷く怯えたような声ばかり。 そしてそれは、いつもの彼の声よりも少し甲高いものだった。 動揺で声が上擦ってしまったのだろうか、それはわからないが。 (-9) 2022/05/06(Fri) 21:27:01 |
バラニは、皆が朝食に向かったのと入れ替わるように自分の部屋に戻って。 (a6) 2022/05/06(Fri) 21:27:49 |
バラニは、そのまま寝台に身体を預けて、布団に包まるように身を丸めていた。 (a7) 2022/05/06(Fri) 21:29:50 |
【秘】 中等部 バラニ → 恋の呪い シャルロッテ「っ……だ、駄目だ!」 返ってきたのは、強い拒絶の言葉。 自分でも君にそんな言葉を掛けてしまったことに気がつけば、唇を噛んで呻き声を上げた。 「……すまない、シャルロッテくん。 それと、ありがとう……私のためにわざわざ……」 「朝食は……扉の前に置いておいてくれないか…… 後で必ず食べておくから……どうか、お願いだよ」 懇願するようにあなたに訴えかける。 顔を会わせたくない気持ちが、言葉からも滲み出ている。 しかし、その扉に鍵は掛かっていない。 踏み入ろうと思えばあなたはいつだってこの部屋に踏み入ることはできるのだ。 (-15) 2022/05/06(Fri) 21:57:17 |
【秘】 中等部 バラニ → 恋の呪い シャルロッテ扉が開く音を聞いて、しまったと思うも、時すでに遅し。 「─────!」 再処置を受けてからというもの、心は大きな不安に蝕まれて周囲に気を遣う余裕などなかった。 エルナトがいつでも帰ってきてもいいようにと施錠せずにいたものあったが、いずれにせよ大きな隙だったのだ。 「や、やめたまえよ……! シャルロッテくん……! 私は……私は、大丈夫だと言っているのだから……」 錠の落ちる音がした。 その音は、今のバラニにとっては他の何よりも恐ろしい音だった。 恐怖に震え上がるかのように呻き声を漏らす。 「君が頼んだ、なんて……そんな……どう、して……」 あなたの告げる挨拶の言葉には何も返せなかった。 酷く動揺した様子で、あなたにどうしてそんなことをとうわ言のように問う。 布団から少しだけ顔を覗かせて外界の様子を伺っているその姿は、まるでミノムシやカタツムリのようで実に滑稽なものだった。 (-22) 2022/05/06(Fri) 22:34:22 |
【秘】 中等部 バラニ → 恋の呪い シャルロッテこちらに近付いてくるあなたを見て、身を隠すように包まった布団を掴む力を強める。 中等部にもなったというのに、やっていることは本当に小さな子どものようだった。 「こ、来ないでくれ……」 弱々しく拒絶の言葉をあなたに放つ。 こんな状況で命令口調でなんて言えるわけもなく、懇願するように。 「や、やめておくれよ…… 私は、こんな姿を君に見られたくなかったから……」 微かに覗くその瞳には、涙をいっぱいに溜めているのが見える。 昨日のバラニとも違っている、一昨日までのバラニとも違った。 そこにいるのは、弱々しく何もかもに怯えるだけの少■だった。 (-38) 2022/05/06(Fri) 23:54:45 |
【秘】 中等部 バラニ → 恋の呪い シャルロッテ「私だって、同じだよ……」 「君の事が、大好きだから……愛おしいと思っているから……」 だからこそ、知られたくないと思っている。 君の前では皆に誇れるような立派な男としてありたいのだから。 このような醜態を見せてしまえばもう手遅れかもしれないけれど、その一線だけはどうしても譲ることはできなかった。 「……恐ろしいんだよ、君にこのことを知られるのが……!」 今にも泣き出しそうになってしまうのを、何とか堪えている。 君が傍にいる限り、バラニはずっとこの秘密が表沙汰になることに怯え続けることになってしまう。 (-50) 2022/05/07(Sat) 1:15:13 |
【秘】 哀れな子羊 バラニ → 恋の呪い シャルロッテ「君にも……?」 君の言葉を訝しむように呟きながらも、今までの様子を思い出す。 ずっと気になっていたことと言えば、そうでないはずの人間にもお父さんと呼ぶ姿。 君にも何らかの事情があるのだろうと思って、深く触れようとはしなかったけれど。 知られたくないこと、隠したい秘密、抱えている悩み。 この学び舎がある意義を思えば、君もそれを持つのは決しておかしなことではない。 未だその瞳には涙をいっぱいに溜めながら、君のことを少しだけ見て、それからすぐに視線を落とす。 「…………父上や母上には、酷く失望されてしまうだろうね。 跡取りに相応しい立派な男になれと言われていたのだから」 その言葉には、家族の期待や想いを裏切ることに対する恐れが。 そんな機会は、生涯失われてしまうのではないかという不安が。 (-76) 2022/05/07(Sat) 13:42:36 |
【秘】 哀れな子羊 バラニ → 恋の呪い シャルロッテそして── 「それに、なにより……」 「君には、そんな軟弱者だと、嫌われたくなかった……」 「君には、君の前でだけは…… 私は……立派な男として、ありたかった、んだよ……」 それは君に恋焦がれたからこそ、立派な姿を見て欲しいと思う。 少年の見栄だった。 ひとつぶ、ふたつぶ。 ぽろぽろと零れる涙が、少■の頬を濡らして、視界をぼやけさせる。 そんな姿も見られたくはなくて、更に身を隠すように布団に包まった。 (-77) 2022/05/07(Sat) 13:44:47 |
【秘】 哀れな子羊 バラニ → 恋の呪い シャルロッテ頬に触れる手にぴくりと身体を震わせて、様子を伺うようにまた視線を君に向ける。 守ってあげたいと思っていた君が、これほど頼もしく思えるのはどうしてだろうか。 自分が情けないと思いながらもこの手を振り払うことはできない。 恐ろしくて、不安で堪らなくて、何かに支えてもらわなければまた立ち上がれない。 「……あの後にはもう、だめになっていたんだ。 自分自身では、気付けなかったけれども……ああでもしないと、どうにもならなくて……」 涙と共に零した言葉に滲むのは、悔しさと深い絶望。 「私だって……私だって、本当はずっと……」 「そんな風に弱さを克服していければと思っていたんだ…… 今までのように、自らの意志で乗り越えていこうとも…… 「けれど、最初から……最初から私は……違ったんだよ…… 最初からあんな方法でないと、私は何も、できなくて……」 少年のその勇気は、最初からあんな方法を頼りにしていたものだった。 たとえ、それからの歩みの全てが彼の意志によるものだったとしても。 今まで信じていたものを足元から崩されれば、少年は挫けてしまった。 ▼ (-103) 2022/05/07(Sat) 22:35:36 |
【秘】 哀れな子羊 バラニ → 恋の呪い シャルロッテ「頼りなくなど、ない……けれど……」 だから、再び立ち上がるにはそれだけでは足りない。 立ち止まってしまった泣き虫が、また最初の一歩を踏み出すにはもっと目映い勇気が必要だった。 「…………」 「君が手を握ってくれるのなら、勇気をくれると言うのなら……」 「この秘密を明かして構わないと、思えるほどの勇気をおくれよ……」 その言葉が意味するものは、きっと君にとってはもっとも残酷なお願い。 真実を知らぬからこそ、可能性すら想像しないからこその残酷なお願い。 「でなければ、私はきっと…… シャルロッテくんが好いてくれたバラニに…… 戻れないままに……なってしまいそうだから……」 (-104) 2022/05/07(Sat) 22:41:25 |
【秘】 哀れな子羊 バラニ → 恋の呪い シャルロッテ「シャ、シャルロッテ、くん……!? どうして服を──」 額に口付けを受ける。 君のかけてくれるあたたかいおまじないが、冷たい心にぬくもりをくれたと思えば。 躊躇いもなく衣服を脱ぎ始めるのを見て、酷く慌てたように思わず目を逸らした。 どうしていきなりそんなことをするのかすぐには理解できずに、ひとつ確かめるように、おそるおそる君の姿を見る。 ごとり、固く鈍い音が部屋に響いた次の瞬間。 「ぇ――――」 ──少■は言葉を失った。 ▼ (-131) 2022/05/08(Sun) 2:02:36 |
【秘】 哀れな子羊 バラニ → 恋の呪い シャルロッテ──君は、女の子では、ない。 「最初、から……?」 明かされた残酷な真実に問いかける言葉も最後まで続かない。 この光景を見てしまえば冗談だろうとも言える余地すらない。 君から告げられる言葉も事実を裏付けるものでしかなかった。 『こんな私が惹かれてしまったのも、君が男の子だったからなのか?』 ひとつの疑問が頭をもたげる。 もしそうだとすれば、私は最初から立派な男になどにはなれなかったことになる。 ──そんなもの、到底認められるはずもない。 君の明かしてくれた秘密を受け入れがたいと思った気持ちは、紛れもなく本物で。 ▼ (-132) 2022/05/08(Sun) 2:03:37 |
【秘】 哀れな子羊 バラニ → 恋の呪い シャルロッテ──けれども。 少■にとって今の君は、とても目映い■の子に見えた。 君のその行為が、計り知れないほどの勇気と覚悟をもってなされたことだともわかるから。 君がくれる勇気を、ただ受け取るだけでは嫌だと。 君が支えてくれるだけでは、納得できないのだと。 君と共にあるのに相応しい人間でありたいのだと。 そう思ってしまう気持ちも、紛れもなく本物だった。 「…………」 何も言葉を紡げぬまま落とした視界には、スカートのポケットから飛び出した鋏が映り、鈍い輝きを放っている。 (-133) 2022/05/08(Sun) 2:04:41 |
【秘】 哀れな子羊 バラニ → 恋の呪い シャルロッテ「っ……」 覗き込もうとするあなたから逃れるように顔を隠す。 ふたつの想いの間で激しく揺さぶられる。 今すぐにこの複雑な気持ちに整理など付けられるはずもない。 けれども、この瞬間にだって『少女』としての君はもう…… 「私は、ずっと……」 「君の事を、守るべき可憐な女の子だと思っていたけれど……」 「それは……間違い、だったのだね……」 なんとか言葉を紡いで、気持ちを落ち着けようとする。 けれども、君への返事は口から出てくる言葉の中にはなかった。 「──すまない」 ただ一言、謝罪の言葉だけを残してバラニは再び押し黙ってしまう。 何に対する謝罪なのだろうか、バラニはそれ以上語ることはしない。 (-165) 2022/05/08(Sun) 17:39:18 |
【秘】 悪夢の足音 バラニ → 夢の終わり シャルロッテ──目を逸らして落とす先の視界から、鈍い輝きが姿を消す。 それから、君は震える手で、それを自らに向けて── 白いドロワーズを裂き。 それから。 それから。 それから。 少年を壊す音に耳を塞いで。 滴る赤い液体に目を覆って。 悔やみ切れない。こんなのだめに決まっている。 恐怖と罪悪感に怯えたまま、立ち去っていく足音を見送る。 この部屋にはもう、泣き虫しかいない。 ──そんな終わりを認めることはできない。 夢の終わりは来ない、ただ在り方は変わるかもしれない。 けれども、今この部屋にはまだ、君と私がいるのだから。 ▼ (-195) 2022/05/08(Sun) 20:10:04 |
【秘】 少女の身体 バラニ → 夢の終わり シャルロッテ「──だ、だめだっ!!」 身を隠しているのも忘れて、咄嗟に身体が動いていた。 震える手で、自らにそれを向けようとするのを見た瞬間には。 制止するため、君の腕を精一杯に掴んだ力は随分と弱々しく。 立ち上がった少年の姿は。 昨日の少年よりもずっと小さく、一昨日の少年よりも小さい。 ──柔らかさを備えたその姿は紛れもなく、少女のものだった。 ▼ (-196) 2022/05/08(Sun) 20:10:58 |
バラニは、そんな未来は認められないから。 (a46) 2022/05/08(Sun) 20:11:34 |
【秘】 少年の勇気 バラニ → 夢の終わり シャルロッテ「……っ、言った、だろう……? 酷い目に遭わない、よう……君を、守りたいのだと……」 「そうするのが、たとえそれが……君自身だったとしても。 私はやっぱり……許せなかったんだ、君がそうなるのが」 こうして身体が動いてしまったことが、何よりの証明だった。 君が如何なる存在であろうと、バラニはそれを許せなかった。 「……嫌いになど、なってはいないよ……」 「だいすきだ、君のことが、今だって……」 はたしてこれは、何を由来とする好意なのだろうか。 わからないけれど、そんなことはどうでもよかった。 たった今、大切な事は君を愛おしいと思っていることだけだから。 君より小さくなってしまった身体で、精一杯に君を抱きしめて。 ▼ (-199) 2022/05/08(Sun) 20:13:05 |
【秘】 少年の勇気 バラニ → 夢の終わり シャルロッテ「……本当にすまない」 「君を、こんなになるまで追い詰めてしまって……」 声を震わせながら、精一杯に君を安心させるような優しい声。 「もう、大丈夫……大丈夫、だから……」 「だから、もう……そんなことはしなくても、いいんだ……」 もうそんなことはしなくても大丈夫だと、何度も繰り返した。 (-200) 2022/05/08(Sun) 20:13:30 |