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【秘】 日の中 フカワ → シャッタードグラス カナイ間に合うかどうか、とかそういう問題では既にない。 間に合わなくなる前に自ら終わらせたのだから、 今からすることは単純な自己満足に過ぎないのだろう。 何かの慰めにはなるか、と思って。 薬を片手に貴方の身体の前まで辿り着く。 「……誰でもいい、ことは、いいんです。 けれど、選択の余地なんてものを寄越されたら、 結局、貴方のことしか思いつかなかったんだ」 今手に持つこれは決して幼い頃に見た蘇生薬とか、 そんなファンタジー的な代物ではない。 曲がりなりにも薬物に精通している人間が、 そんな夢想なんかするべきでもない。 ただそれでも、万能薬にはなり得る。 相手にではない。己の無様に足掻く心に対するパナセーア。 「……頼むよ、ホント」 祈るように。暫し瞳を閉じて。 手の震えが収まったので、 徐にそれを、脈の止まった血管に突き立てた。 (-0) 2022/06/13(Mon) 18:49:27 |
【秘】 シャッタードグラス カナイ → 日の中 フカワ取り返しが付くか、取り返しが付かないか。 今になってそれを論じる事に大した意義など無いのだとしても、 ただ仮定としてそういったものを問うのであれば。 両者がこれまでに歩んで来た路の、 おおよそ大半は取り返しの付かない事に分類されるんだろう。 死んだ事実は無かった事にはならない。 死んだ事を受け入れた。 殺した事実は無かった事にはならない。 殺した事を受け入れた。 自らの行いは無かった事にはならない。 自らの行いを受け入れた。 犯した罪は、無かった事にはならない。 犯した罪を受け入れた。 取り返しの付かない事を認め、受け入れた。 一度生じた瑕疵は決して無かった事にはならず、 それに対してできる事と言えば、痛みを和らげる事だけ。 この痛みを和らげる為に、また痛みを重ねる。 傍から見ればそんな愚かな行いだとしても。 (-2) 2022/06/14(Tue) 2:16:07 |
【秘】 シャッタードグラス カナイ → 日の中 フカワ逃げて、逃げた事が瑕疵となって、また痛みを重ねる。 そんな生き方は、もうきっと断ち切られたのだろうから。 これまでの自分に、決別できたのだとしたら。 たとえどれほど痛みが伴おうとも、これからは。 向き合って、乗り越える事から逃げない。 だから今なら、これもきっと。 自らが恐れる何もかもに見ないふりをして、 無かった事にして逃げる為じゃない。 向き合って、乗り越える為の一歩だと思えるんです。 (-3) 2022/06/14(Tue) 2:17:10 |
【秘】 シャッタードグラス カナイ → 日の中 フカワけれど死者の歩みは止まったまま。 西日の路は覚束なくて、一人では日の下を歩けない。 人を殺しておいて、人に罪を背負わせて、その報いを受けもせず のうのうと生きて行くなんて、できるわけがない。 ──ひゅ、と かわいた空気の音がして でも、それでも。 人を殺しておいて、人に罪を背負わせて、その責任を取りもせず 一人安穏と死んで居るわけにだって、いかないじゃないか。 指先が、ほんのわずか、痙攣じみて身動いだ。 けれど生者の歩みは止まらない。 その手を引いてくれる誰かが居るなら、きっとまた歩き出せる。 (-4) 2022/06/14(Tue) 2:17:38 |
カナイは、いたい場所へ戻る為に。 (a5) 2022/06/14(Tue) 2:17:46 |
【秘】 クラックドグラス カナイ → 日の中 フカワ──死者が一切の瑕疵無く戻って来る事は無い。 現実は絵空事のように自分達に都合の良いものではない。 突き立てられる針が、自らに何を齎すものであったとしても。 死せる愚者は、 の を享受する。 朝日と共に、涼やかな風が吹き込むような。 冷たくて、けれど心地よくて、微睡みを拭い去るような清爽さ。 色なんてあるはずもないのに、 なぜか清浄な 青白さ を感じ、そう認識するその感覚に安らかで、けれど抗いがたい眠りから意識が引き戻されて。 胸の内に蟠っていたものが氷解していくような、感覚。 「────、」 重たい瞼が震えて、死の眠りから覚めた者の時間は動き出す。 死の間際の記憶が、フラッシュバックのように想起される。 神経を灼く激痛、寒気、遠退く意識、それから、──それから? 目の前に居るのは誰だ? 定まらない視界、ぐらぐらと揺れる意識の中 目の前の誰かを混濁し混乱した思考のままに、 (-5) 2022/06/14(Tue) 2:19:07 |
【秘】 クラックドグラス カナイ → 日の中 フカワ取り押さえようとして、けれど。 先まで死の淵にあった身体がそう言う事を聞くはずもなく。 「──ぁ れ、……?」 きっと伸ばした手はあなたの服を掴んだけれど、 逆に言えばそれだけがせいぜいだった。 力を入れ損ねた手足は身体を支えるバランスを崩して、 あなたに倒れ込むか、あなたと一緒に倒れ込むかの何れかだ。 「………ああ…」 視界が漸く像を結んで、 小さく掠れた声が零れた。 『私も……もう一仕事してから、そちらに行きますから。』 「…随分…はやかった、ですね……深和さん」 或いは、ずっと傍に居たのかもしれないけれど。 眠っている間の事まで把握しろなんて無理難題は言わないだろう。 ひどい悪夢を見て、飛び起きた後のようだ。 ずっとあなたから、あなた達からしていた嫌な気配がしない。 もう何も感じない。あの懐かしくも恐ろしい感覚も、何も。 けれど、けれど全てが些末な悪夢だったと思えはせず、 そして何より、そのようにしたくもなかった。 叶 西路にとって今自分が認識しているこの全ては現実で、 神も地獄も煉獄も天国も存在せず、比喩として在る概念だ。 つまりはきっと、今この現実こそが自らの歩むべき地獄なのだと。 (-6) 2022/06/14(Tue) 2:21:26 |
カナイは、針の路を歩く。 (a6) 2022/06/14(Tue) 2:21:33 |
【秘】 ラストリゾート フカワ → クラックドグラス カナイ「───」 力の赴くままに押し倒される。 また映画か劇かを見ているようで、 それを現実のものと認識するには、暫し咀嚼が必要で。 最後の手段に頼っておいて、なんとも情けない。 「ああ……思ったよりあっけなかった、な」 ここでの戦いも、ひとりで決めた決意も、 誰かの望みの、己の祈りも、その全てが、 実にあっけなく終わって、叶って、それだけ。 所詮自分は筋書きを変えられるほど強くなくて、 だから、ご都合主義とか、誰かの献身とか、 そんなものに頼らなくちゃならなかった。 日向と西への路を、遠くまで延ばした悪夢は、 冷たくて、苦しくて、怖くて、寂しい。 ───だから この現実で、貴方といたかったんだ。 (-7) 2022/06/14(Tue) 6:46:14 |
【秘】 ラストワード フカワ → クラックドグラス カナイ「後悔していることが、沢山あるんです」 「やらなくちゃいけないことが、まだ沢山あるんです」 もう心の音が勝手に代弁してくれるわけじゃない。 あらゆる考えを、自ら言葉にしなくてはならない。 ああなんて恐ろしくて、わくわくすることなのか。 「何からやればいいかわからなかったけれど、 やはり、真っ先に貴方を起こして正解だった。 ひとりじゃないから、怖くないと思える」 「叶さんが守ってくれたから、 あの後……誰も欠けることが無かったんですよ。 貴方のせいです。 貴方のせいで、隠し事なんて出来なくなっちゃいました」 「だから───ありがとう。 既に取り返しがつかなかったのだとしても、 これ以上失わずに済んで、本当によかった」 (-8) 2022/06/14(Tue) 7:01:20 |
【秘】 クラックドグラス カナイ → ラストワード フカワ倒れ込んだ先、その肩にとんと額をつけて。 ぐるりと目眩く視界に耐え切れずまた暫し瞼を閉じた。 死の間際の痛みも、寒気も、まだ名残のように身体に蟠っている。 「…………」 深く息を吐いて、その間も確かに鼓膜が音を拾う。 あの時と違って、けれどあの時と同じに。 その声が、その体温が、どうしようもなく安堵を齎すのは。 それで、いいんだろうか。 「……どうして、…」 なんて、それこそ愚問なんだろうけど。 「どうして、おれなんですか…… …どうして、ありがとうなんて言うんですか。 おかしいですよ……ほとんどは、おれのせいなのに」 あなた達を守ったのは、結果としてそうなったに過ぎなくて。 誰かを傷付け、不安を広げる者が居なくなったなら その後誰も傷付く事が無いのは当たり前の事。 ここであった悲劇の大半はきっと、自分のせいなのに。 それじゃあまるで、ただそれだけじゃないみたいじゃないか。 自らの愚かな行いの、その責任を負う為に。 その為だけに起こされた、だけじゃない、みたいじゃないか。 (-9) 2022/06/14(Tue) 18:00:28 |
カナイは、いたいけれど、いたいだけではなくて、 (a8) 2022/06/14(Tue) 18:00:55 |
【秘】 クラックドグラス カナイ → ラストワード フカワ赦されたみたいだとは、思わない。 罪が帳消しになったとも、思わない。 幾度も過った後悔や罪悪感、後ろめたさ。 それらが無くなったとも、思わない。 ただ、それだけじゃないように感じた、それだけ。 「………ねえ、深和さん。 おれは……このまま生きていたら、きっと。 いつか、また人を殺します」 一度踏み越えてしまった一線は、得てして抑止力を失うもの。 これが強さなのだとしたら、それは実に間違ったものだった。 恐れるものを、自分に不都合な筋書きを遠ざけようとして ただ闇雲に猜疑と爪を振るい、牙を剥いていただけだった。 それが死の間際、漸く悔悟に至っただけの。 「そうならないように……そうしなくていいように。 どうしたらいいか、今度は一緒に考えてください、ね」 自分達は同罪で、一人ではない、 互いに頼る事のできる仲間。そんな関係が、今も続いているなら。 もう一度、ゆっくりと息をして、緩慢に身を起こす。 調子も気分も良いとは言えないけれど、幾分ましになった。 であればこれ以上寝ているわけにもいかなくて。 (-10) 2022/06/14(Tue) 18:05:10 |
【秘】 晴の再路 カナイ → ラストワード フカワ──この意思はそれらの疵を戒めとして残す事を選んだ。 あなたに疵だらけの右手を差し出して、引き起こす。 こんな疵と血に塗れた両手でも、もう嫌とは言わせない。 「あなたが生かしてしまったんですから」 あなたが再び同じ日の中へと手を引いたのだから。 「それもこれも、おれのせいだから」 あなたに同じ罪を背負わせてしまったのだから。 「責任を持って……責任を取らせて、くださいね」 きっと、まだ。 終わっていない事も、叶っていない事も沢山あって。 だからきっと、この路の先は、長く遠く。 (-11) 2022/06/14(Tue) 18:06:40 |
カナイは、晴の路を歩く。 (a9) 2022/06/14(Tue) 18:06:47 |
カナイは、いつかその中で、同罪とか、同族とか、責任とか。 (a10) 2022/06/14(Tue) 18:06:53 |
カナイは、それら建前が無くとも、同じ路を歩めたなら。 (a11) 2022/06/14(Tue) 18:06:59 |
カナイは、あなたを、あなた達の事を、正しく好きになれるのだと思う。 (a12) 2022/06/14(Tue) 18:07:06 |
【秘】 日がな向き合う フカワ → 晴の再路 カナイ「貴方がそうならないように。 今度は決して取りこぼさないように、 オレももっと、しっかりしていきます。 お互いに大事なことを突然頼んだり、 あるいは一人で抱え込んだりしなければ、 きっと───もう繰り返さないはずです」 勿論全てが上手くいくわけじゃないだろう。 やはり当たり前のように悲劇的な事は起こるだろうし、 また、追い詰められてしまうことだって、きっと。 それでも、過ちを認めて、逃げずに立ち向かい、 頼るべきものに頼るなら、同じ結果には絶対にならない。 掴んだ手をあの時のように両の手で握って、 確かにそこにある人肌の熱が、こんなにも嬉しくて。 「オレだって……結構、頭がおかしいんだと思います。 ええ、貴方の言う通り。間違いはなくって。 だから、だからこそ必要なんですよ、叶さんが」 思わず、皮肉気に言う。何を言っても、 我々は端から一人では生きていけない、強くない人間で、 力を合わせればそれなりに頑張れる、弱くもない人間。 分かってしまえば、やはりそれだけの簡単なことだ。 (-12) 2022/06/15(Wed) 12:48:10 |
【秘】 晴の再路 カナイ → 日がな向き合う フカワ「おかしな人ばっかり」 そういう約束、ではあったけれど。 この罪ばかりを重ねた手を必要として、 こんなどうしようもない人殺しに『ありがとう』なんて言う。 罪人として西へ行き着く事よりも、 その罪咎を背負って、なおも日の下で生きて行く事を望む。 気付けば周りはそんな人間ばかりのようだった。 「…真っ当じゃないのは、同じなんです。 だからまたあなたを間違った事に巻き込むかもしれないし、 暗闇の中で咄嗟に進んだ方向が合ってるとも限らなくて……」 結局のところ、叶 西路は歪な人間だ。 けれど正常な道徳観は持ち合わせていて、 モラルに反した行いを咎める良心や理性もある。 やりたくない事を、それでもやらなければならないと そう思い詰める事さえ無ければ普通の人間で居られた。 そんな、何処にでも居るような、運の無い人間だ。 「だから……おれにできる事は、過ちを認めて、向き合って もう繰り返さないように。それを忘れない事と、…」 「これからも、あなたと一緒に。 二人で同じものを背負って、分かち合う事だけです」 結果として、やる事は初めから何も変わらない、簡単なこと。 一人で抱えるには重すぎるものを、二人で抱えるだけ。 (-13) 2022/06/15(Wed) 21:08:19 |
カナイは、決して強いとは言えない人の事が結構好きだった。 (a13) 2022/06/15(Wed) 21:08:29 |
カナイは、理由は言ったら怒られそうだから、言わないけど。 (a14) 2022/06/15(Wed) 21:08:36 |
【秘】 晴の再路 カナイ → 日がな向き合う フカワ「でも、」 一度、するりと手を離して。 片手を床について、もう片手は壁に添えて立ち上がる。 まだ少しふらつくけれど、どうにか一人で立てそうだ。 「…おれがそうしたいから、 だから一人で責任を果たしたい事が、まだあるんです。」 自分にとって、この場所は。 逃げてしまったり、途中で投げ出してしまった事ばかりで。 だから、それらを拾い集めて来る事くらいは、自分の手で。 「それでも、あなたに話してない事もまだあって、だから…… 全て終えたら、ちゃんと戻って来ますから」 「それだけは、一人でさせてくださいね」 その路に、何があったとしても。 もう言った事を、言われた事を、反故にはしない。 だから──この先は、自分だけで。 (-14) 2022/06/15(Wed) 21:11:03 |
【人】 晴の再路 カナイ>>7 古後 「あの時、……僕達の事を 助けてくれて、ありがとうございました。」 少し以前の事。会議室のやや手前、廊下での一件。 そこでの出来事は、 少なくとも自分達にとっては些細なものではなくて。 あの時、確かに自分は多少なりあなたに恐怖を抱いていて。 それを知らずとはいえど、 そして、あなたにとってはそれが当然の事だったとしても。 寄る辺など何処にも無いと思っていた自分達の事を、 あなたは確かにその身を挺して助けてくれたのだ。 その事は、確かに皆が行き着く先を変えたのだと思う。 「それから…今もまた、こうして助けてくれて」 年甲斐も無い、助けられてばかりだな、と思う。 とはいえ事実今の自分にできる事が何かと言えば、 あなたのその行いを、その言葉を裏切らない事が最上だろう。 「ありがとうございます。 あなたが、皆が無事で、本当によかった」 手渡された希望は、届けられるべき先へ。 だからあなたに返すのは、この言葉だけ。 (9) 2022/06/16(Thu) 1:40:25 |
【置】 晴の再路 カナイ──この先は、自分だけで。 話を終えた後、預かったものを二つ持って、資料室を出た。 その用途を委ねられた注射器と、今ここには持ち主の居ない、 ロックされたファイルばかりのタブレット端末。 ふと、こんなに心細いものだったかな、なんて思った。 安全な場所を離れ、一人で行動するなんて この数日の間で何度もしてきた事なのに。 とはいえそれも当然の事で、そもそもの話。 これまで自分が形振り構わずあちこち出歩く事ができたのは ただあの力の殺傷力に頼り切っていただけなのだから。 人気は無く、人以外のものは遠く。 実際はもう自分達以外に動くものは少ないようだけれど、用心深く慎重に。 気配を感じ取るなんて事ももうできないから、頼りになるものは五感だけ。 資料室を後にして、随分静かになった廊下をやはり恐る恐る歩いて、 一回、二回、角を曲がって、…… 三回目の角を曲がっても、 今そこにあるのは幾度か見た事のある扉だけ。 (L0) 2022/06/16(Thu) 3:37:50 公開: 2022/06/16(Thu) 3:40:00 |
【置】 晴の再路 カナイ「職員仮眠室」のプレートが掛かったその扉を開けて、 いつかこの場所を後にした時同様、静かに電気を点けた。 あの時からどれだけ時間が経っているんだろう、 なんてふと過った詮無い考えは答えがあるはずもなくて。 神様なんて居ないと思っている。 少なくとも、子供心に思い浮かべるような都合の良いものは。 もしもそんなものが居るのだとしたら、 どうしてもっと早く、他の形で助けてくれなかったんだ。 そうはならなかったから至った今を否定したくはないけれど、 弱い自分は、きっとそう思ってしまうのも事実だろうから。 神様なんて、居ない方が良いと思っている。 けれども居ない事を証明できはしないから、 自分以外の誰かが居ると思う事を否定するわけじゃない。 自分にとっては、居ない方が良いものというだけだ。 もしもそんなものが居たとしたならば、 起きた悲劇を"それ"のせいにしてしまえるものだから。 (L1) 2022/06/16(Thu) 3:39:00 公開: 2022/06/16(Thu) 3:40:00 |
【秘】 晴の再路 カナイ → インザダーク マユミ「…………」 やっぱり、まだ少し明るい場所は眩しくて。 再び室内を照らす明るさにほんの少し目が眩んで、 暫しの後、目が慣れれば仮眠室の中へ歩いて行く。 これまでの全てを、悪夢だったと思いたくはない。 「………弓日向さん。 …すみません……すぐに戻るつもりだったんですけど」 だからあの時、確かにこの手で寝台に横たえたあなたが。 眠りから覚めれば忽ちに消えてしまう夢のように、 何処かへと消えてはしまわず、今もそこで待っているのだと。 返る声は無くたって、確かにそこに居るのだと。 「また…待たせちゃったみたいですね」 約束したわけでは、ないけれど。 許されるのであれば、叶うのならば、そう思っていたくて。 (-15) 2022/06/16(Thu) 3:40:39 |
【秘】 インザダーク マユミ → 晴の再路 カナイ曲がり角を三度曲がったその先の扉の向こう。 もう、すっかり慣れてしまったでしょうか。 開け放てば、むっとするような濃厚な死臭が漂います。 他の……つまり、開放されている廊下だとか、 そういう場所と比べると、この部屋は随分静かで、 閉じられたままで、それこそ遺品を取りに来られた時以外は、 一切の光もなく、音もなく、ただ暗闇が蟠り。 ここは、大きく肉が裂けた胸元を淀んだ空気に晒しながら、 満足気な微笑みを浮かべて眠る、納められた死者の為の部屋。 ……随分短い間で、部屋は大きな棺に変わっていたようでした。 電気をつければ、血が和装を染め、ベッドから滴った血が 周囲に赤く広がっているのがよく、わかります。 ともすれば、それは赤い花を亡骸の周囲に敷き詰めたよう。 棺に納められた死者は、言葉を持ちません。返事も、しません。 あなたを責めもしなければ、許しもしません。 だからこそ悪夢のような光景は、あの時のまま。 ――あなたのしてくれた事への感謝を顔に浮かべて、 ただそこにあります。まるで、待っていた、というように。 (-16) 2022/06/16(Thu) 10:42:43 |
【秘】 晴の再路 カナイ → インザダーク マユミそこにあるのは、今や静謐な死の気配ばかり。 死者は何も語らない。死者は生者の罪を咎めも赦しもしない。 そこに何かを見出すのは、そして如何なる行いをしたとして。 ──結局のところ、やはり生者の身勝手でしかない。 「…………」 肌に纏わり付き、息をする度肺に蟠るような重苦しい空気。 これまで幾度も自ら作り出して、けれど。 人殺しの狂人とて、終ぞそれに慣れる事は無かった。 いつだって我に返れば後に残るものは恐ろしいばかり。 (-17) 2022/06/16(Thu) 19:29:07 |
【秘】 晴の再路 カナイ → インザダーク マユミ「…ずっと考えてたんです」 それでもやはり、今も恐れるべきはあなたではなくて。 だから徐に、けれど迷わず死者の傍へと歩み寄って 手向けのような赤の中、ただ安らかに眠る表情に視線を落とす。 「あの時、あなたはもう、変われていたんじゃないかって」 悲鳴のような想いが書き連ねられたタブレットは、その傍らに。 血に汚れていない、まっさらなシーツを掛け直して そうしながらに、誰に届くかも知れない、身勝手な独白を零す。 「あなたにはもう、自分の抱えるものを誰かに打ち明けて」 文字だけの言葉の裏に何があったとしても、 あなたがあの時自らの背負うものを打ち明けたのは事実で。 「誰かを頼る勇気があったんですよ」 あんな形になってしまったとは言えど、 あなたがあの時、誰かの助けを求めた事も事実なのだから。 そうして変われたからある今が、きっとそれを証明してくれる。 (-18) 2022/06/16(Thu) 19:30:52 |
【秘】 晴の再路 カナイ → インザダーク マユミ「…後悔が無いなんてとてもじゃないけど言えなくて」 結局、あんな形であなたを助ける事になってしまった。 「やらなきゃいけない事、終わってない事も沢山あって」 ここから無事に出たとしても、良い事ばかりではない。 「せっかくできた約束だって、 まだ全部は果たせていないんです」 それでも、まだこれからだったはずなのに。 もし無事に外に出られたら、なんて。 あの時は、口約束未満の皮算用だったかもしれないけれど。 それでも。 あなたがこれから先の事を話してくれたのは、 実は結構、嬉しかったんですよ。 (-19) 2022/06/16(Thu) 19:31:37 |
【秘】 晴の再路 カナイ → インザダーク マユミ「……おれはやっぱり、神様が居るとは思いたくなくて」 また一つ、息をして。 重く停滞した空気を鼻腔に肺に感じながら。 「でも、わかったんです」 「助けてくれる人は、案外居るんだって」 眠り続ける少女の、冷たい腕をとって。 確かな一人の意思によって、向ける先をこの手に委ねられた希望。 戒めでも、断ち切る為でもないその針を皮下に潜り込ませた。 それが再び同じ結果を齎してくれるとは限らない。 けれど、深く昏い眠りの中に、ほんの少しだけでも。 あなたが導とできるような、光を落とす事ができればいい。 それを導として、暗い森を抜けた先が何処であったとしても。 叶 西路は、あなたの味方だ。 行き着く先が何処であったとしても、これからも、ずっと。 一人では沈み行くばかりの西日でも、 一度は砕け、罅割れの残るガラスでも。 誰かの光を受け、反射して、ほんの僅か。 あなたに光を届ける事は、できるのだと。 身勝手だとしても、今だけは。 誰の赦しが無くたって、そう信じる事だけは。 (-20) 2022/06/16(Thu) 19:33:22 |
カナイは、晴の路を歩く。 (a15) 2022/06/16(Thu) 19:38:16 |
カナイは、日向から暗い夜へ、その光を届けに行く為に。 (a16) 2022/06/16(Thu) 19:38:30 |
【秘】 インザダーク マユミ → 晴の再路 カナイあなたの独白が、棺の中へ降り積もります。 もう噴き出すほどの血も残っていないのでしょう、 まっさらなシーツは微かにその白を赤に染めただけでした。 傍で見れば尚更、血の失われた青白い肌が目立つのです。 それでも、幾つも、幾つも言葉を零していけば。 その空っぽになった胸にある、半分以上潰れた少女の心に 幾らかは零れず残るのかもしれません。 あなたが、考えてくれたことが。 あなたが、守った約束のひとつが。 あなたが、人に少し近づけた事実が。 そして、西へ旅立ったあなたが、叶西路が、今ひとたび。 東から現れて、傍で味方をしてくれる。それが、 きっと、少女にとっては、なにより嬉しい事なのです。 (-21) 2022/06/16(Thu) 21:41:48 |
【秘】 インザダーク マユミ → 晴の再路 カナイぶつり、冷たい身体に幾らかの抵抗をしながら針が刺さります。 流し込まれる薬液が、その腕の内部へと滲みていって。 そうして、全てがからっぽの身体に流し込まれました。 それだけでした。 血流の止まった体では、薬液が行きわたる事もありません。 神に弓を引いた少女は、 の を受け取れないのでしょうか? 変化のないまま、数十秒が経って、きっともう何も起きないのだろうと思った頃に。 「こぷっ」 と。小さな音が聞こえました。 (-22) 2022/06/16(Thu) 21:42:49 |
【秘】 インザダーク マユミ → 晴の再路 カナイこぷ、ごぷ。 ……少女の微笑んだ顔は変わらないままに、 血が口から垂れ流されます。 それと時を同じくして、シーツの奥から音が鳴り始めました。 ぱき。ぱき。 ――目の前で、シーツが持ち上がっていきます。 抉れたような形だったそれは、音と共に膨らんで。 胸骨が再生しているのでしょうか、 ぱき、ぱきり。 そして、脈動の音が聞こえます。どくん。どくん――。 (-23) 2022/06/16(Thu) 21:45:02 |
【秘】 インザダーク マユミ → 晴の再路 カナイ心臓の稼働する音がする度、口から血が吐き出されます。 マットレスが血で赤くなり、シーツの赤がじわと広がりました。 ぱき、ぱき。 また、シーツが盛り上がります。ゆっくりと。それを以て、シーツの赤が広がるのは止まりました。 少し形の歪んだ二つの山が布一枚を隔てて、 すっかりと元のように現れるのがわかります。 針を刺した腕の血色は、気付けば随分と人のそれに近づいて、 未だどくん、どくんと響く音は力強く。 口から流れた血は枕を重くする頃に、やっと止まりました。 腕から肩にかけて空いていた丸く小さな幾つもの穴は きっと結晶を生やしていた痕でしょう。 それらもまた、安心して眠るように瞼を閉じて治っていきます。 そして、ひと際大きく。 どくん 、と響いて――。 (-24) 2022/06/16(Thu) 21:46:52 |
【秘】 インザダーク マユミ → 晴の再路 カナイ少女は、酷く混乱した様子でした。 開いたばかりの目を白黒させて、見えているのかいないのか、 手さぐりに胸元のシーツをぎゅうと掴んで、 その血で濡れた感触に肩を跳ねさせます。 未だぼたぼたと垂れる口元からの血に何度も何度も咳き込んで。 目元からは苦しさからか涙の粒が幾つも零れます。 その手が、ふらふらと辺りを探ります。 その指が、ふらふらと伸びていきます。 一番近くにいるのか、あるのか。 見覚えがある色な気がするそれに、すがるように。 はくはく、口が動きます。 「たすけて」 叶の方へ、苦しげに。助けを求めました。 あの時よりはずっと、普通に。 (-25) 2022/06/16(Thu) 21:49:19 |
【秘】 晴の再路 カナイ → インザダーク マユミ針先は、蒼白な肌の僅かな抵抗だけをその手に伝えて。 そののち、ゆっくりと押子を進めていけば、 シリンジを満たす薬液はすっかりなくなってしまった。 そうして針は抜き去られ、空っぽの注射器はよそへと置かれ。 それが齎す結果を、自らの身勝手が行き着く先を。 どこか祈るような気持ちでただ見ていた。 自らが祈る神など居ないとしているのに、おかしな話だと思う。 それでも暫しの後に、そうおかしな話でもないのだと。 そう思ったのは、今この場に於いて、この祈りの先はきっと 神でもなく、運命でもなく あなた自身に、だったからだ。 (-26) 2022/06/16(Thu) 23:52:49 |