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【秘】 どこにも行けない ヴェルデ → 家族愛 サルヴァトーレ撫でられるとやはり、きゅっと目を瞑る。 何と答えればいいのかわからなくて、開いたり閉じたりする口は。 「……選り好みなんかしてられないだろ」 迷った末に、そんな生意気な言葉を吐く。 大人だなんて言われるのは、こども扱いされているからこそだろう。 その証拠に、すぐに取り上げられてしまうのだ。 翠の瞳が、じとりとあなたを見上げる。 「ああ、またそうやって――」 「これぐらい、べつにヘーキなのに」 なんて、文句を言ったって、もう遅い。 じきに焼き上がるそれを、店主から手渡されることだろう。 「……なんかしてもらうとさ、何も返せるものないのになって思う」 「それこそ仕事するぐらいしか」 (-381) 2022/08/20(Sat) 14:48:02 |
【秘】 どこにも行けない ヴェルデ → 銀の弾丸 リカルド少年は曖昧に笑った。 灰被りに、白雪姫、それから捨てられた兄妹。 母親に虐げられる童話は存外多い。 少年は、もう、それがふつうではないことを知っている。 けれど事実として、ずっとそれがふつうだったのだ。 そしてそれは、もう、なかったことにはならない。終わったことだから。 「……ん」 それでも、取り返しのつかないものばかりでもなかった。 あなたとの交わりの中で確かに欠落の一部を埋め、少年は人間になった。 人間として死ぬことができた。 それはきっと、幸いなことだった。 「ちゃんと読む」 「けど、わかんないことあったら。 ……また、教えて」 結局、根拠もなくそこにあると信じていた未来は失われてしまった。 この物語を最後まで読むことはできなかった。 あなたともう一度、言葉を交わすこともなかった。 だとしても。 (-404) 2022/08/20(Sat) 17:22:40 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → どこにも行けない ヴェルデ君の言葉を、男はじっと聞いていた。 赤に近い紫の瞳は慈愛を宿している。 ────高い位置から降り注ぐそれは、やや翳って見えるかもしれない。きっと気のせいだ。 「返してほしいものなんて何一つないさ」 男が身を折る。君の上に影が落ちる。空気を含んだ柔らかい声が、君だけに聞こえるよう囁いた。 「愛してるよ、ヴェルデ。どうか、ただ受け取っていて。 ────君が僕に、何かをしたいと思うなら」 そのまま、君の頬にキスを落とすだろう。もちろん嫌がられなければ、の話だ。僅かにでも拒むのなら、にこりと笑って引いてくれる。それから何もなかったように焼きあがったものを受け取り、店主に礼を告げた。 どこかに座るにしろ歩くにしろ、ひとまず店からは離れなければいけない。店頭は先程より賑わいを増している。 「行こうか」 「選り好み、すればいいじゃないか。どうにも君たちはわがままってものが苦手みたいだけど」 (-416) 2022/08/20(Sat) 18:44:47 |
【秘】 小夜啼鳥 ビアンカ → どこにも行けない ヴェルデ「そう?」 何もなかった。 意味もなかった。 ゴミ捨て場に倒れるこどもを見た時、なぜ傘を差し伸べたのだろう。 なぜ、その手を引いて連れ帰ったのだろう。 きっと、疲れていたのだ。 つまりは、ただの気まぐれだ。 何の道理も通らないし、 何の意味もありはしない。 ただ、かつて失ってしまったものが、 もう決して手が届かないはずのものが、 そこにあるような、気がしただけ。 「ま、あんたがそういうなら」 ――子供は嫌いだ。 けれどまあ、意味のないことなら。 「いいかな」 別に、そうしてもいいだろう、と。 隣にきたあなたを見下ろして、笑うのだ。 ↓[1/2] (-422) 2022/08/20(Sat) 19:08:44 |
【秘】 小夜啼鳥 ビアンカ → どこにも行けない ヴェルデ↓ 「…あんた、でかくなったねえ」 あの時、ただ引いた力ない手は。 ほんの少しだけ、暖かくて。 ――もう二度と、失いたくはないと思っていたのだ。 (-423) 2022/08/20(Sat) 19:09:01 |
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