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ユヅルは、五十鈴の舞を粛々と眺めている。 (a1) 2021/07/28(Wed) 9:29:57 |
【独】 奉公人 ユヅル「何か、妙な空気が漂っているようですが………」 焦げついた塵が風に流れている。 加えて島の者達の動向が、不可解だ。 舞の場に現れなかった誰かを探して 宿へ走り帰ってきたところだ。 目当ての人物は、やはり部屋に居なかった。 早足で宿中を確認して回る。 普段なら決して床を必要以上に鳴らし廊下を歩くことは無いが、今日ばかりはそうもいかぬようで。 「旦那様、旦那様! 祭事はどうなったのでしょう。 沙華さまも見当たらず………旦那様?」 心ここにあらず。奉公人の主人は、 窓辺から宙を舞う塵を目で追いかけうわ言を呟く。 贄とはなんぞや。何へ捧ぐもの也や。 記憶が焼け落ちた様なその現象に、覚えがあった。 彼らは祭礼を "忘れて" いる。「っ!!」 そう思い至った矢先には既に身体が動いていた。 儀式用の弓をひっ掴み、外へ駆け出す。 「どうかご無事であってください………!」 切に願う声は、塵を舞わせる風に乗って流れ消えた。 (-7) 2021/07/28(Wed) 17:31:26 |
【秘】 奉公人 ユヅル → 忘れ屋 沙華望まぬ客人 は、現れただろうか?焼き焦げた匂いが満ちる空気が漂う中、 遠くより地を蹴り沙華に駆け寄る音がする。 子どもよりは重く、島の大の男達にしては軽い足音。 あなたの周りに島の手先が居ても、居なくとも。 愛子が躊躇うことは無い。 「沙華さま!!」 息を整えながら、すぐ側に座り、その顔を覗き込む。 身体を伝う黒いものを、白い指先が掬い取った。 「殆どの方々が神託を忘れていらっしゃいました。 全て、沙華さまのお力によるものですね。 此の様なご無理をなさるとは………」 (-9) 2021/07/28(Wed) 18:51:13 |
【秘】 忘れ屋 沙華 → 奉公人 ユヅルそれは 意外な来客だった。 「ユヅ・・・・ッ!」 自分が最も目にかけてきた相手があらわれる、 一瞬は最期の幻想かとも過るが、その声に意識を引き戻す。 ユヅルが沙華の下へ辿り着くのに前後し、空を切る異音。 二人のすぐ傍に矢が射かけられる。 「そう・・・俺の、仕掛けだよ、連中に目に物見せてやれただろう。」 その証拠に奴らはご立腹さ。 「だけどユヅル、ここに来てしまったのは、すこし、お利巧すぎたね・・・。」 「今なら、まだ‥‥」 自分だけで清算するつもりだった、 それが最愛の弟分を巻き込んでしまうとは。 いや、まだ命運が決したわけでは無い。 『俺に微かでも悪運が残っているとつうなら・・・・』 「ユヅ、ル。お前は何処へ行きたい?」 「お前が選ぶ道なら、俺は・・・それを誰にも邪魔させねえ。」 膝に手を掛け強引と立ち上がる。 周囲に凶手が迫っている、猶予はあまり残されていない。 (-10) 2021/07/28(Wed) 19:29:29 |
【秘】 奉公人 ユヅル → 忘れ屋 沙華「あの様な弓の扱い方では決して私には当たりません。 ……沙華さまにも、当てさせません」 月を思わせる金の瞳が、矢が放たれた方向を鋭く睨む。 微動だにしない奉公人の横を矢が過ぎ去る。 三日三晩、神託の御手すら此の身を掠めなかった。 魔除けの願掛けは、幻ではなく其処に在ると証明されている。 長くは続かないが、言葉を交わす猶予程度は稼いでくれるだろうか。 「賢明であれたなら、 此処に来ることはなかったかもしれませんね」 島の掟に従うまま、大祭を遂行していただろう。 ひとえに狼達が、共に鳴き合うた者が。 神狼に牙を剥いたから。 「………遅れた反抗期が、来たのでしょうか」 ゆるりと沙華に向き直り、 立ち上がる背を支えながら、口の端を緩めた。 (-12) 2021/07/28(Wed) 21:06:27 |
【秘】 奉公人 ユヅル → 忘れ屋 沙華『何処へ行きたいか』 そう問う声に、どう返そうかと。 己の望みを聞かれることは稀だったもので。 「……私は、沙華さまと御一緒できれば 何処であろうと幸せです。 だから、沙華さまが共に居てくれる場所に、行きたいです」 上手く伝えられているだろうか。 一つ一つの言葉が、零れることなく耳に届くように。 地にある枯れ朽ちた花の中から、 形を保った彼岸花を一輪拾い上げる。 「 "想うはあなた一人"。 斯様な花言葉があるそうですね」 拾われた宿にも恩義はある。 だがその恩義以上に、家族のように想える人がいた。 「私の願いを、聞いてくださいますか?」 (-13) 2021/07/28(Wed) 21:07:29 |
【秘】 忘れ屋 沙華 → 奉公人 ユヅル「そういうからくりか・・・」 沙華とて自分のまじない以外に精通しているわけではない。 効力を見て取ればそこに実質以上の安心を感じただろう。 加えて・・・。 「賢明じゃないと、自覚してだってかい?」 風も揺らさないような、小さな響きで笑う。 「いったい誰に似たやら・・・いや、 一人前になったな 。」その精悍な顔を見ちまったら、誰しも不安など消し飛ぼうさ。 もう一度こんな輝きを見れる日が来るとは、そして今度はこの輝きが消えないように。 再会を願う、その心は果たされたのだから。 「俺の花を以ってそう言われちゃ、なんでも言う事聞いてやるしかねえな。」 いつものように、ユヅルに肩を預けながら。 起こした身で誓う。 もう俺の掌の内よりずっと大きくなったこの子を、決して。 「俺の瞳の黒いうちは、一緒だ。 いこうか、俺達も、本当の祭りの舞台へ。」 (-14) 2021/07/28(Wed) 21:48:15 |
【秘】 奉公人 ユヅル → 忘れ屋 沙華「神の怒りに触れようと言うのです。 恐れ知らずでもなければ叶わぬことでしょう」 逸れて地に突き刺さった矢を数本拝借する。 文字通り、一矢報いるには十分だ。 「目をかけてくださる方が、沢山いましたから」 彼岸花の誓いを得れば珍しく、子どものように笑ってみせた。 背負う誇りに恥じぬよう、いつものように背を伸ばし。 「はい、何処までもお供致します。 参りましょう。一世一代の大舞台へ」 沙華の手を取り、二人で祭りの中心へと。 輝きを続かせる為に、越えねばならぬ舞台がある。 (-16) 2021/07/28(Wed) 22:48:00 |
【人】 奉公人 ユヅル沙華の背を支えて、左方と右方が舞う場へと急ぐ。 祭りの篝火が見えてくる。 「人の身を器にした時、 神格がその身体に収まるかが問題なのですね」 島民の大多数が神託を忘れ、 遣いたる狼達、舞手も反旗を翻した。 信仰の加護を大きく削がれた神狼の心臓。 其れを更に二つに断てば、或いは。 「望みがあるのなら、それに賭ける価値はあるかと。 私も、全霊を掛けて助力致します。 五十鈴さまとであれば、共鳴りによる会話が可能です故、 合図を用いて息を合わせる事ができるやもしれません」 神を喰らう大業、己にも何が起こるか判らない。 それでも、昏い瞳に金色を映す。 足掻く人の光となれるように。 「此処まで来たのですから。 きっと、必ず、悲願を成しましょう」 (2) 2021/07/29(Thu) 19:26:15 |
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