[　喧騒に消えないように少しだけ顔を近づけて、
　 人生で一番の感謝を伝えた。　]

　

　　……本当に、感謝してる。ありがとう


　　わたし、
　
　��やよいちゃん�≠�迎えに行ってくる。
　
　
　　だから、続きはやよいちゃんと過ごして？


[　やよいちゃんも何より今日を楽しみにしていたから。

　 困ったように笑う彼から一歩、距離を取った。　]　　

　
　

　　　


　　　　　　　─────────────


　　

　
　　　　　　[　その時、ポケットを
　　　　　　　 １通のメッセージが振るわせた。　]

　　　

　
[　震えたスマホを取り出して、
　 映し出された名前を確認すると、動悸は激しくなる。　]


　　………　朔也くん
　　

[　通知でメッセージの冒頭が見えてしまう。
　 ああ、手に取ってはいけなかった。　]

　

　　


　　　[　開いちゃ、　]


　　　

[　中身を見ないように、ギュッとスマホを握りしめる。

　 それでも目頭が熱くなって、零れてくる熱に視界は滲む。

　 熱くて、痛くて、苦しくて、恋しくて　　────　]



　　　　　　　　　　　　……………　ごめんなさい。



[　この場にはいない彼へ向けた言葉が届くことはない。　]


　

　

　
　[　わたしの想いは、わたしだけに持って行かせて　]

　
　

　　
　
　
　　愛智くん、やよいちゃんをよろしくね。



[　───　行ってきます。


　 そう残してその場に倒れ込むと、
　 意識の奥の方へと深く深く潜っていった。


　　　　　　　　やよいちゃん、帰ってきて。　]

　
　　

　


　

　
[　人の気持ちが分からなくて、
　 自分の気持ちも分からなかった。

　 そんな人間だと、君君たちに知られたくなかったから
　 この話は、したことはなかったよ。



　 それは、"君たち"のおかげなんだ。]
　

　
[　ごめんね。と繰り返し謝る君に、
　 俺は、困ったように笑う。]
　

　
　
　
　　いいよ、……
　
　
　

　
　
　
　　大丈夫だよ ……
　
　
　

　
[　近づく距離に、こんな時でさえ、
　 ほんの少し鼓動は早くなる。

　 君の感謝の言葉に、胸の奥がずきり、と痛む。
　 声が震えてしまったけれど、ちゃんと笑えた。

　 こんな時ばかりは、見様見真似してきたこと
　 良かったのかもしれないと思う。]
　
　
　　…… え、待って


[　迎えに行くと、離れる君に、
　 思わず手を伸ばしたけれど、


　 スマホを握って、呟いた名前に
　 頬を伝った涙に、言葉を紡げず。]
　

　
　
　　うん、…… まかせて


[　――― いってらっしゃい。

　 予想はしていたから、
　 瞳を閉じて、倒れていく君に腕を伸ばす。

　 抱きとめて、もう一度ベンチに座らせれば、
　 身体を支えるように隣に座り、
　 鞄からハンカチを取り出して、
　 濡れている頬をそっと拭う。]
　

　
　
　　…… ごめんね


[　君のことなのに、
　 彼女あの子と俺で決めてしまった。

　 ぽつり、と涙の代わりに呟いて、
　 憎々しいほど、良く晴れた空を見上げた。]
　

　
[　ちらりと、君と反対側のベンチの上を見る。
　 船の中で、半分残ったたこ焼きは、
　 もうすっかり冷めてしまって。

　 一つ、ひょいと持ち上げて、口に放り込んだ。]
　

　

　
　　…………




　

　


　　っ、愛智くん…？


[　とても近くに、愛智くんがいた。
　 驚いて、ベンチ、一歩後ずさろうとして
　 後ろにたこ焼きが置いてあるのに気づく、
　 これじゃあ、後ずされない。　]

　

　


[　………そっか、
　 わたし、今までここにいたんだ


　　　　　　　　　　　　]


　

　


　　ご、ごめんね、
　　なんか、もしかして眠っちゃってた？
　　おま、お祭りだよね。疲れちゃったかな…


[　そうやって、きっと誤魔化した
　 これは、どこからどう見ても、いつも通りの私。　]

　

　


　　わたしが、いないの、


[　ほんの少し泣きそうな顔になっていただろう
　 私は、二人のやりとりを知らないから、
　 伝わらないよね、ごめんね、なんて謝った　]


　　もう、いないの、


[　ごめんね、愛智くんは何も知らないよね
　 いないって言われても、困るよね。　]

　

　


　　だけどね、
　　ちゃんと、の。


[　私は、涙を流して、そう言った。
　

　 だって、確かに
　 頬に伝わる涙のあたたかさを、
　 私は��憶えてる�≠�だもの
　 わたしは、ちゃんと、ここにいるんだって。

　　　　　　　　　　　]**

　

　
[　冷めたたこ焼きをごくり、と飲み込んで、
　 唇についたソースを拭っていれば、
　 隣で人が動く気配がした。

　 すい、と視線を向けると、
　 驚いて、慌てた様子に、

]
　

　
　
　　おはよう桧垣さん
　　大丈夫だよ


[　教室で交わす挨拶のように、
　 目覚めた君に、優し気な笑みを向けて、
　 謝る言葉に、首を横に振った。]
　

　　
　　
[　わたしが、いないの、 ]
　
　
　　　　　　　　　　　　　…… うん、
　　
　　
[　もう、いないの、　]
　

　　　　　　　　　　　　　…… そう、
　
　
　　　　　　　　[　君の言葉に、ただ頷き返す。]