「アハハ、ジョークにしては笑えないですよぉそれ〜」

「……あ、ほんとにやるの？」

にこにこと、いつものように笑みを浮かべながら話を聞く。

「もう決まっちゃったんですもんねぇ。
　ご褒美貰えるように、頑張りますよぉ」

「……僕みたいなのを入れるんです？
　面白い反応なんて出来ませんよ」

　説明をまともに聞いたか聞かなかったか、適当な調子で説明役にそう返す。手足の指の数をゆうに超える注意を受けてから、普川は一人になった。

「物好きって何処にでも居てるよね」

　鈍く光を反射する銀の筒が、コトリと音を立てて机に置かれた｡

【プロフィールカード】

　番号：9949
　名前：普川 尚久(ﾌｶﾜ ﾅｵﾋｻ)
　年齢：20歳

　異能：影に質量を持たせ、操る能力。特に名前は付けていない｡

　収容歴：6年目。中2の夏から。
　犯罪歴：殺人罪(1名)、傷害罪(10名)

　ひとこと：「僕はなんもしとらん」
　

【プロフィールカード】
　番号：0251
　名前：鏡沼 創（かがみぬま はじめ）
　年齢：17歳

　異能：「皆と仲良くなれるやつだよぉ」
※精神干渉系異能に分類。
『相対した相手に軽度の好意（友情などに位置する）・親近感を与える』『自身への敵意を抑える』ものと推定。　

　収容歴：春に収容。
「ツッキー以外先輩だねぇ。よろしく〜」

　犯罪歴：傷害疑い及び殺人未遂疑い。要経過観察。
「オレはなぁんにもしてないのにね？」

　ひとこと：
「みんなトモダチなんだし、仲良くしようねぇ」

　――分かりました。
　少年から青年への過渡期である（そうであると推測される）男は、与えられた指示のすべてに、いっそ無感動なまでに従順に頷いた。

　もういいですかと問う。許可が下りれば即座に背を向けた。
　このとき一礼を忘れていたことに気がついたのは退室し、一人になってからだった。

【プロフィールカード】
　番号：8435
　名前：黒塚 彰人（ｸﾛﾂｶ ｱｷﾋﾄ）
　年齢：推定18歳

　異能：伏せる
　収容歴：6年（うち、当院に1年数ヶ月）
　犯罪歴：保護者が未成年への暴行罪、および複数の余罪により服役中。それにより保護処分とされている。
　ひとこと：「これでいいでしょうか」
　同室：迷彩リョウ

「……。そうですか」

それだけ呟いて頷いた。毅然とした態度のようにも見えたが、その返答を口にする直前理解できないとばかりに眉根を寄せていたことは確かだ。

「……それがこの場所で必要な事だと言うのなら、俺は喜んでやるとしよう」

丁寧に一礼をして退室したあと。靴音に紛れるような声量でそう呟いた。

【プロフィールカード】
　番号：4432
　名前：貴戸 高志 (キド コウジ)
　年齢：18

　異能：感覚を一つ遮断する異能。名前は付けていない。

　収容歴：1年
　犯罪歴：殺人罪・死体損壊罪
　同室：闇谷 暁

　ひとこと：「これからは清く正しく生きていこうと思う」

　
「ほう……」

「それで……、消灯時間はいつになるんだ」

丁寧とは言えない説明を、どこ吹く風に。
眼帯をつけた青年は、瞳を押さえ息を吐いた。
　

【プロフィールカード】

　番号：0043
　名前：榊 潤
　年齢：18(中学から学校通ってない)

　異能：未記入

　収容歴：1年目
　犯罪歴：薬物取締法違反
　(覚せい剤及び大麻及び麻薬及び向精神薬)
　(所持をして取引をしていた罪)

　ひとこと：
　「A drowning man will catch at a straw.
　　おやすみなさい、ごきげんよう」

「ふむ、成程。
　その企画ならどういう方向性で行きましょうかね」

呼び出しにも関わらずただ飄々と、けれど確信を突いた発言が出ると目を瞠る。そして話が進むにつれて爛々と目を輝かせた。

「折角の公演なら、一瞬も目が離せないくらいに。
　“しゅうえん”まで面白いものにしたいですね」

怯えた様が一切見られないのは入所時から変わらないがこれほど明確に“喜”を表現した姿は初めてだったと後の担当者は語る。

　　　

【プロフィールカード】

　番号：3839
　名前：南波 靖史（なんば・やすふみ）
　年齢：18歳　　
　異能：知と幸を分け与える異能
　収容歴：3年目
　犯罪歴：薬物取締法違反

　ひとこと：「今度こそ幸せにしてあげたくてさ」

「へぇ変わった催しだね……
　
　でもこういうのが見たい外の人達ってさ……
僕らと何が違うんだろうね」

【プロフィールカード】
　番号：1965
　名前：市川 夢助
　年齢：19
　異能：言葉による催眠
　収容歴：2年
　犯罪歴：殺人罪、死体遺棄罪、誘拐罪、監禁罪

　ひとこと：「可愛がってただけなのにね」