【赤】 眼科医 紫川 誠丞[彼が口にする、少し舌足らずで甘ったるい響きの「先生」も嫌いじゃない。むしろ好きだった。同意を求めるような言い回しに、時間差で返事をする。私の願望を彼から提案されると思っていなかったので] ……、……もちろん。私も同じことを考えてた。 君に先生と呼ばれるのも好きだけど。 名前だと、特別になった心地がして嬉しいよ。 ただ慣れないというか、擽ったいのかもな。 [別にふたりきりの時以外も、名前で呼んでくれても良い。付け加えようとした言葉を飲み込んで、緩く微笑むだけに留める。私以外の第三者が存在する時は、此処を出た時だろう。泥濘のような疲労を言い訳にし、想像するのを止める。 先生以外の関係と聞いて、恋人しか思い浮かばない程度には気持ちが浮ついていた。好意的な台詞の応酬が、リップサービスではないと思っていたからこそ。だから関係性について明言しなかった] (*19) 2022/05/25(Wed) 1:18:40 |
【赤】 眼科医 紫川 誠丞[──彼の言葉を真に受けてはいけない。 病院で「夜風に当たっている」姿を見て、彼から目を離してはいけないと思った。本人にその気はなかったとしても、自然と自死に引き寄せられるなら自分が止めなければ。 その行動が正しいとか、間違ってるとか関係無く。 ……そう思い詰めていた癖に、彼の隣でまんまと惰眠を貪っていた。呑気に夢を見ていたのは気が緩んでいたからかもしれない。 狸寝入りとは気が付かず、擦り寄る寝顔を見つめて表情筋を緩ませた。もう一眠りしたい欲に駆られるが、世話役としての仕事があるので思い留まる。隣を抜け出して背を向けたが] ……、起こしたか?悪いな。 [掠れた声色に手繰られ、振り返って「おはよう」と挨拶をする。床に捨て置かれた冷たいバスタオルが視界に入り、全裸よりはまだ良いかと腰に巻いておく。此処に来てから、自分の中の許容範囲がどんどん広がっている気がする] (*20) 2022/05/25(Wed) 1:18:49 |
【赤】 眼科医 紫川 誠丞[掠れてざらついた奥の色までは気取れないけれど。寝坊助が振り返ったら起き上がっている、その些細な違和感が無意識下で引っかかり、近くまで戻ってベッドの端に座る] 水を取りに行こうと思って。 この部屋か、……無ければ給湯室か自販機に行くよ。 まあこの格好のままじゃ外には行けないが。 ……──そういえば、説明してなかったと思うけど。 この病院の形態はちょっと特殊で、…… 専門的なことは勿論、患者の世話も担当医の仕事だ。 例えば食事や、風呂の準備もね。 (*21) 2022/05/25(Wed) 1:19:40 |
【赤】 眼科医 紫川 誠丞まあ、……表向きは公的な施設ではあるけれど、 実際は私達医者が、患者を選んでいる。 [この病室には、私以外の医師も看護師も来ない。 当然外部の人間も面会は許されていない。 まるで非現実的な業態だけれど、軽い説明をする] (*22) 2022/05/25(Wed) 1:19:50 |
【赤】 眼科医 紫川 誠丞[彼の言う通り大人しく眠ったおかげで、それなりに頭がすっきりしている。「ひっどいかお」はある程度解消されている筈だけれど、彼はどうだろう。顔色を見て、観察に近い眼差しを向け] ……よく眠れた? 喉使い過ぎて、声枯れてるな。 [手を伸ばし、ぺたりと彼の頬に触れる*] (*23) 2022/05/25(Wed) 1:19:57 |
【赤】 眼科医 紫川 誠丞[幻覚ではなく現実で事実だと、冷静な頭で理解しているが。「違う」とは即答出来なかった。どこか愉快げに見える彼を前に、冗談の軽さで笑い返せずに仏頂面のまま見つめる。手のひらに懐いた頬を慈しむように撫でながら。 さらりと暴露してから気付いたが、監禁と変わりない入院生活だと告げたようなものだ。飄々とした様子には少し面食らってしまう。 脱衣所で話した時、外に残してきた両親を気にしていた様子だったが。気掛かりな所はあれど、彼が構わないと言うならそれでいい。結局ここに留まる選択肢しか許可出来ないのに、あえて蒸し返して「駄目だ」と拒絶するのは……、避けたいことだった] ……私もこの話を知った時は、冗談だと思ったさ。 [彼にとっては此処が病院だろうが、そうでなかろうが、大差ないかもしれない。とはいえ彼の生活を制限する以上は、説明しておくべきだとも考える。 会員性SNSの存在を伝える代わりに、どうするか……] (*28) 2022/05/25(Wed) 6:01:16 |
【赤】 眼科医 紫川 誠丞[彼の体調が心配で様子を窺ったが、近い距離で見つめ合うと少し心臓に悪い。私を映す瞳に惹きつけられる。「きもちいい」の甘やかな響きが情事の彼を連想させ、恋慕の色眼鏡が彼をそう見せるのか、それとも熱っぽさのせいなのか判断に困る] ……、……調子が良くてなにより。 でも熱っぽいのは心配だな。 平熱は低い方? そんなに昨日と変わりない気もするが、 あとで体温を測った方がいいね。 [「やけに可愛く言うんだな」という感想を零すよりも動揺が勝り、するりと視線が泳いだ。分かりにくい照れ方。 前髪を片手で引き浚うと、手のひらで額の温度を確かめる。正確性には欠けるので後で測りはするのだけど] (*29) 2022/05/25(Wed) 6:01:36 |
【赤】 眼科医 紫川 誠丞[はじめは転院した体を貫く気でいたから、左眼のためだと話したが。入院理由の話をされ、ふと思い付く。 頬のまろみを辿っていた手指を解き、凭れ掛かる重みをベッドボードに託して、徐に立ち上がる。何か聞かれたら「見せたいものがある」だけで、部屋から出ないと答えるだろう。病室の隅に寄せ、布を掛けられた置物のひとつに近寄る。 背景に溶け込んでいたそのカバーを外して、] ……個人的な監禁で、ここまで用意するのは なかなか金が掛かり過ぎる話だと思わないか? これ一台で数百万はする。 [露出した検査機器を指し示す。何度も眼科に掛った彼なら見覚えがあるかもしれないが、興味が無ければ記憶にも残り難い置物だ。手続きの書類は手元にないので、幻覚を否定し得るものとして代わりに見せる] (*30) 2022/05/25(Wed) 6:04:10 |
【赤】 眼科医 紫川 誠丞この病院のスポンサーは相当の金持ちらしい。 文面だけのやりとりで直接会ったことはないが……、 私と似た目的の為に病院を設立した、と聞いた。 入院費の請求を私達が受けることはないし、 医者にも給料が支払われる契約……のはずだ。 …………まあ、信じ難い話だとは思う。 私ですら夢なんじゃないかと、時々過ぎるくらいだ。 いくら担保すると言われても初日じゃ判断出来ない。 [患者側にとっては監禁と変わらないだろうから、幻覚という認識でも構わないのだが。どこからか内情が漏れてしまい業務禁止処分……だとか。ある日唐突に終わる可能性があるなら、ほとんど幻のようなものだとも思い始める] (*31) 2022/05/25(Wed) 6:04:25 |
【赤】 眼科医 紫川 誠丞だから──……質問に話を戻すと、だ。 手続き的な転院理由は左眼だったとしても、 実際の入院期間は、担当医の匙加減で決まる。 もしくは、…………此処が閉院する時か? [彼の判断はどうであれ、説明材料に使えそうな物証は現状これくらいしかない。検査を始める訳じゃないので元通りに整えたら、彼の隣に戻るつもりだ*] (*32) 2022/05/25(Wed) 6:04:41 |
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