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【人】 雨宮 瀬里ペットボトルを受け取って惚気を聞きながら ぼんやりする頭で世界を見ていた 上がった体温や整わない呼吸を正す合間 ただ、視界は薄暗い部屋の中を映している 「 ……これ、どうしたの? 」 紅くなった上腕に気づいたのは偶然で、 ……ううん、ずっと蓮司ばかり見ていたから 必然だったのかもしれないけれど 体温で紅くなったというより、 腫れているに近いそれを、指でなぞる (2) 2022/05/24(Tue) 5:44:34 |
【人】 雨宮 瀬里……大丈夫、と言われても きっと不安な顔は消えなかっただろうけど かといってすっきり忘れられたかと言えば そんなはずもなく。 もしもこの日、大丈夫だったとしても。 数日後、そしてまた会える1週間、2週間後に あれから大丈夫だった?なんて。 聞き続けるのは必至、という話。** (3) 2022/05/24(Tue) 5:44:52 |
【人】 雨宮 瀬里瀬里は心配性だな≠ネんて笑う蓮司に だって心配なんだもの、なんて不安な顔をするのは ……どれくらい、続いたのかな。 月日が少しずつめぐるたびに、 心配も少しずつ薄れていって、 気が付けばそういう体質なのかも≠チて すっかり気を許してしまったように思う。 だけどもし。 貴方が大きく体調を崩したりするなら、その時は。 また、心配も大きくなったはず。 例えばそう 何らかの治療を施さないと命に関わるほど ………だったり、とか。 (6) 2022/05/24(Tue) 20:00:11 |
【人】 雨宮 瀬里 貴方はいつだって私を心配させまいと 自分の身体の変化も、それに伴って知る何か≠ 貴方が仕事のこと、話してくれないのと同じように 私には話すのを躊躇ったり、平気な顔をしたりするんだろう だから私がそれ≠知るのは きっと、ずっと先のこと。 季節は一年巡って、また夏が訪れて。 私は山間のちいさな町で一人暮らしを始めて。 相変わらず、週末デートは続いていた、けれど。 それまでに貴方は何≠見聞きしたんだろう (7) 2022/05/24(Tue) 20:00:30 |
【人】 雨宮 瀬里私の部屋に貴方のものが増えていく 貴方の部屋に私のものが増えていく それでも会う機会は専門学校にいるときよりも すこしだけ、減っていった。 それは、仕事が忙しいからだ、と思っていた 淋しさは感じていたけれど それを問いただすことは、しなかった 仕方のないこと。 また来週になれば会える。 そんな言葉を信じて、私は日々を生きていた (14) 2022/05/24(Tue) 21:11:17 |
【人】 雨宮 瀬里貴方に連絡が取れなくなったその日 付き合ってすぐの春のことを 思い出さなかったわけではない あの日も何度連絡を取ろうとしても 貴方とは連絡が取れなかった 電話が不通になってしまったあの日と違い その日は、ずっとコール音が聞こえていた メッセージは未読のまま途絶えた (15) 2022/05/24(Tue) 21:11:34 |
【人】 雨宮 瀬里体調がすぐれなかった ────── 心配しないわけがない。 心配したのと同時に、 ほんの少しだけ違う意味で不安を覚えた黒い気持ちを 後になって、悔やむことになるのは今は知らない (16) 2022/05/24(Tue) 21:12:56 |
【人】 雨宮 瀬里それからその日はすぐやってきた。 話がある、その言葉に身構えて貴方を待った。 「 話って? 」 そう返したのは貴方を部屋に迎え入れるときだ。 それまで、聞けなかった。 短くつづられた言葉の裏に何があるのか、 怖くて、聞けなくて、 私は「うん」とだけ返事をしていた筈 * (17) 2022/05/24(Tue) 21:13:08 |
【人】 雨宮 瀬里宮々の家に帰る という言葉が、 どれほど重い意味を持っているのか、 私はこの一年で少なからず知っていたはずだ。 そんなことはありえない それなのに、貴方は宮々の家に帰ると言う 「 ………… 」 私は貴方の言葉を待つ。 それでも貴方からは続きは紡がれなかった まっすぐに貴方の右目を見る私の瞳は 不安に揺れているように映るだろう ……先に、耐えきれなくなったのは私のほう。 (20) 2022/05/25(Wed) 14:52:41 |
【人】 雨宮 瀬里「 どうして? 何かあったの? 」 宮々の家の誰かに何かあったのだろうか それとも戻らざるを得ない不都合があったのだろうか 戻されるべき事情、があったのだろうか 多分考えないようにしてたんだ、 もっと良くないこと≠フこと。 宮々の家に責任があるかのような発想で、 私は、きっと可能性から目を背けようとしていた (21) 2022/05/25(Wed) 14:52:53 |
【人】 雨宮 瀬里 貴方の意思で、戻らなければならないこと 貴方の体調とそれ≠ェ関係あること …まだ、想像もしてさえいないような、 悪い事態が起こらなければいい、と。 私は心に蓋をしたままだった * (22) 2022/05/25(Wed) 14:53:12 |
【人】 雨宮 瀬里恋と貴方の命、天秤にかけるまでもない。 だからすべて話されていたとて、 答えは決まっていただろう 病気、の言葉を聞いて表情を曇らせ、 そして続く貴方の言葉を聞いた。 恋熱病=c初めて聞く病気だ。 (25) 2022/05/25(Wed) 18:01:58 |
【人】 雨宮 瀬里貴方が話してくれたのはほんの一部だったから 尚更、私は貴方の言葉に即答をする。 「 …そう、なんだ。 でも よかった 。治す方法があって宮々の家に行くのは…気は乗らないだろうけど 」 ねえそういうこと≠ナしょう? 貴方が、それを言い渋っていたのは。 私の表情は明るい、とまでは言い難いけれど、 きっと安堵の表情を浮かべていた。 ……のに。 (26) 2022/05/25(Wed) 18:02:20 |
【人】 雨宮 瀬里どうしてそんなに、まだ。 貴方の表情は曇ったまま、なの? その違和感に、すぐ気づくほどには 私ね、貴方の表情を一年ずっと見てきたんだ (27) 2022/05/25(Wed) 18:03:00 |
【人】 雨宮 瀬里「 治療法、難しいの? 」 貴方がまだ顔を曇らせている理由が、わからない。 だから私は、また少し不安そうな表情を浮かべて 貴方に尋ねる。 * (28) 2022/05/25(Wed) 18:03:11 |
【人】 雨宮 瀬里「 恋矢を? 」 恋熱病の治療法を尋ねたあとで、 唐突に出たその単語に、私は首を傾げる。 それから、無いという風に首を横に振った。 それが、治療法とどう繋がるのだろうかと、 私は貴方の言葉を待ち、そして、 「 そんなことが、できるの? 」 貴方に刺さった恋矢を抜くこと。 思わず聞き返したけれど、答えは変わらずYESだろう 宮々の家にはそれを行う手段がある。そういう話だ。 (32) 2022/05/25(Wed) 19:40:52 |
【人】 雨宮 瀬里恋矢を抜くこと。 私は貴方が知る最悪の答え≠聞かされていないから ただ、想像することしか、できない。 貴方との絆は恋矢によって、結ばれた。 それを抜いてしまうということは ── そういうことだ。 こんな時でさえ、 四つの恋矢、という言葉に 違う意味で胸が痛んだこと ……それが、まさしく恋≠ネんだろう。 (33) 2022/05/25(Wed) 19:41:25 |
【人】 雨宮 瀬里私がもしも、人間ならば。 貴方からの問いかけに、仮定≠ノ、 すぐにでも肯定を返せていたんだろうか。 だけど私は好き≠持たない恋天使だった。 恋矢が結ばなかったのならば。 私は貴方に恋をすることは、なかった。 貴方と出会うこともなかったし 貴方のことを知ること≠烽ネかった。 (34) 2022/05/25(Wed) 19:41:41 |
【人】 雨宮 瀬里もしも本当に聞きたいのなら そんな言葉を交わした一年前のあの夜が もう、遠い昔のことのように思える。 恋を知る前の私。 昔の恋を乗り越える前の、貴方。 (35) 2022/05/25(Wed) 19:42:03 |
【人】 雨宮 瀬里「 いつか、蓮司が言ってた、 恋矢が、恋を自覚させるだけのもの ………本当に、そうなのだとしたら。 私は、もし恋をしていい≠フなら きっと、蓮司に恋をしてたよ。 」 答えはYESでもNOでもない。 恋矢で結ばれる前の私は、 貴方を好きになってはいけなかった≠ゥら。 だから恋をしていた、って首を縦には振れない。 (36) 2022/05/25(Wed) 19:42:18 |
【人】 雨宮 瀬里でも。 あの時確かに私は貴方を知りたいと思った。 どんなに貴方に腹を立てていたって 私では貴方の役に立てないんだと思っていたって それでも私は貴方の名前を書いた。 あの気持ちが私の恋のきっかけだった。 だから答えはNOじゃない。 * (37) 2022/05/25(Wed) 19:42:32 |
【人】 雨宮 瀬里そうだったな、の声に、 そうだよ、って精一杯の微笑みを返す。 私は貴方の受け売り。貴方も誰かの受け売り。 でもその言葉に納得して、一年間生きてきた。 恋矢が刺さったままなら…なんて問いを 私にもし投げかけられていたならば、 きっとそれは刺さってるだけ≠ネんだよって。 貴方に返したんじゃないかな。 刺さっているだけだったから、 貴方は今まで恋熱病には罹らなかった。 きっと今回はしっかり恋矢の効果が持続している。 だから、恋熱病にも罹ってしまった ……なんて。机上の空論でしかないけれど。 (41) 2022/05/25(Wed) 20:50:27 |
【人】 雨宮 瀬里「 ……うん。 」 私が聞くのは貴方の決意。 貴方が心に誓った、強い想い。 「 私にとっても、蓮司は私のすべてだよ。 治療をしないで、一緒に居られたとしても 命に関わって……万が一蓮司を失うくらいなら、 」 言葉を失い、貴方を見る。 恋と命を天秤にかけるなら、私は命を取る。 (42) 2022/05/25(Wed) 20:50:39 |
【人】 雨宮 瀬里「 ……私は、 蓮司に生きていてもらって、 また、蓮司に恋をしたい。 」 もしも奇跡が起きるなら。 ううん、それは奇跡なんかじゃなくて、 私たちにとっての必然なんだ、って 心に強く言い聞かせる。 (43) 2022/05/25(Wed) 20:50:49 |
【人】 雨宮 瀬里「 もちろん。 ……私が、着いて行っていいのなら 」 もちろん、は即答だったけど、 そのあと言葉を濁して付け足した。 宮々の家に、私、着いて行ってもいいのかな。 そこだけは明らかに不安そうな顔をしたまま 貴方に向かって微笑むんだ。 * (44) 2022/05/25(Wed) 20:51:21 |
【人】 雨宮 瀬里「 うん、わかった。 行くよ、って、……わ、 」 一緒についていっていいのなら 一番近くで貴方を支えたい。 恋をしていなかった私も抱いていた気持ち たとえ恋心を失ってしまったとしても きっと、その気持ちは変わらない筈だから。 記憶が消えてしまう可能性があることは 私は、聞かされていないから、 どこか楽観的に映るのは否めなかったと思う ……と、確かに頷いた矢先に、強く抱きしめられた。 貴方の言葉が、耳に、届く。 * (46) 2022/05/25(Wed) 21:44:17 |
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