【人】 楽器リペアマン ティグレ ―― とある酒場 ―― [ グラスのお酒を少しだけ口に含んだ時 背後から聞き覚えのある 穏やかな声がした。 >>110 振り返ると、 彼は柔らかく目を細め ありがとうございますと、言った。 彼はカウンターに掛けることなく 店主にヴァイオリンを弾いていいか訊ねる。 「好きにしな。何曲でもどんな曲でも。 誰に向けたっていい ここでは好きに音楽を楽しみな。」 店主はそんなことを言っただろうか。 ここに来たのは初めてだったけど、 良い酒場を教えてもらえたようだ。 ] (131) 2020/09/29(Tue) 9:32:50 |
【人】 楽器リペアマン ティグレ[ どうか、1曲聴いてもらえませんか という彼に、もちろんと頷く。 彼の美しく長い指が ヴァイオリンを触れる。 メンテナンスがしっかりされ 大切に使われてきただろう 弾き込まれたヴァイオリンの 温もりを撫でるように。 彼の音色を待った。 ]* (132) 2020/09/29(Tue) 9:34:37 |
【人】 楽器リペアマン ティグレ ―― とある酒場 ―― [ >>210 彼はヴァイオリンを構え 弓を弦の上にそっと置いた。 伸びやかな音が ゆったりと、深く響き渡る。 彼の旅の道のりを現すような 重厚で美しい音色。 ただその音は 泣くような悲しみを奏でる。 ] (229) 2020/09/29(Tue) 22:44:40 |
【人】 楽器リペアマン ティグレ[ でも彼は最後に ようやく前に進める、 そんな気がすると笑った。>>218 彼を繋ぎとめたのは 今まで出会ったきらきらした音なのか。 弾くごとに豊かさを増し 弦の触れ方でどんな音でも表現できる ヴァイオリンだったのか。 ] (231) 2020/09/29(Tue) 23:03:58 |
【人】 楽器リペアマン ティグレこの街には幸せな音が沢山あるよね。 そのヴァイオリンの音色も綺麗だった。 もし思うように弾けなくなったら またうちの工房に来てほしい。 [ 黙って話を聞いていたティグレは 彼にそう告げた。 ]* (232) 2020/09/29(Tue) 23:13:56 |
【人】 楽器リペアマン ティグレ ―― 楽器工房 ―― [ 夜更け過ぎ。 かたりと扉を開き、工房へ帰ると 珍しくじいさんが まだ作業をしているようだ。 昨日ニコロさんに 自分の道を後悔したことはないか 訊ねたのは、恐らく聞こえていただろう。 >>2:79 普段と変わらず何も言わないじいさんに いつもならすぐに部屋に戻る。 今日はどうしてか、コップに水を入れ カウンターに腰をかけた。 ] (237) 2020/09/30(Wed) 1:25:54 |
【人】 楽器リペアマン ティグレ[ じいさんはヴァイオリンの板を削る。 削り方によって音量、音質が変わる。 教えてもらわなくても 子供の頃からずっとこうして見てたから 微妙な具合まで頭に入っていた。 ] なんでアタシは じいさんのようにはなれなかったの? (238) 2020/09/30(Wed) 1:33:28 |
【人】 楽器リペアマン ティグレ[ コップを握り締め なぜかそんなことを呟いていた。 返事がないことくらい、分かってた。 コトっと音がする。 顔を上げると じいさんは工具を置いていた。 「リペアマンは素晴らしい職業だ。」 ] (239) 2020/09/30(Wed) 1:40:28 |
【人】 楽器リペアマン ティグレ[ そんなことを言われたのは 初めてだった。 この楽器工房で出会ったお客さんらを 思い出す。 誰しもが自分の大切な楽器を抱えここに来て 楽器への想いを語り アタシはそれを聞き、調整や修理をした。 >>2:227 ニコロさんは自身の過去に沈黙した。 >>2:111 それでもヴァイオリンを弾き 何層にも重なった深い音色を奏で 微笑んだ。>>218 ] (240) 2020/09/30(Wed) 1:47:00 |
【人】 楽器リペアマン ティグレ[ 一緒に煙草を吸ったエリクソン。 >>2:138 その演奏に留学先で感じた自由を思い出し その音を全身で求めた。 アタシの求めていたものがそこにあった。 >>2:268 一筋の涙 そっと柔らかな気持ちに 触れた気がしたけれど>>2>>3 ぐっと拳でそれを拭った。 ] (241) 2020/09/30(Wed) 1:49:55 |
【人】 楽器リペアマン ティグレ ―― どこかの橋の上 ―― ふう。 [ 煙草の煙は 高く澄んだ青い空に消えた。 橋の欄干に背を預ける。 ふと袖を引っ張られた気がして そちらを見ると誰もいない。 ] (364) 2020/09/30(Wed) 22:35:25 |
【人】 楽器リペアマン ティグレ[ 「おねえさん。」 声のする方に視線を落とすと 丸襟に花びらのようなフリルをあしらった 紺の上品なワンピースを着た 小さい女の子。 それはうちの工房で 父親にヴァイオリンを買ってもらった 女の子だ。>>1:91>>1:93 「このヴァイオリン、 音の調子がおかしいの。」 そういう彼女のヴァイオリンを受け取り 音を少し調整する。 はい、と返すと 彼女は姿勢よくヴァイオリンを構え それはそれはテンポよく 楽しげな音を奏でた。 ] (365) 2020/09/30(Wed) 22:38:35 |
【人】 楽器リペアマン ティグレ[ 格好からするに お淑やかなお嬢様のイメージが意外だな。 ふっと笑う。 相変わらず子供は苦手だけど この音は悪くない。 ] (366) 2020/09/30(Wed) 22:40:40 |
【人】 楽器リペアマン ティグレ[ 近くの教会からは 幸福に満ちた音が聴こえる。 女の子のヴァイオリンの音が そして、どこかで今日もまた鳴る音が これからどんな風に変化してくか アタシはずっとリペアマンとして 身守り続けるだろう。]* ─Fin.─ (367) 2020/09/30(Wed) 22:47:36 |
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