【人】 行商人 美濃―神社へと向かう前― [女がうさぎ堂に向かった時には、お団子を土産に買うと言っていた猫飼いの人は>>1、女の露店を離れてまっすぐそちらの方向へ歩いていたと記憶しているし、あの美味しい栗ぜんざいを愛猫と共に食しているところは見られなかっただろう。>>3 品を袋に詰める折、玩具を取り上げられたと思ったのか不機嫌そうに鳴いた姿を思い出して>>5、仮面の下で小さく笑う。 連れ立って歩く一人と小さな一匹の影を思い返せば、きっとすぐに機嫌はよくなったのであろう。 「花が咲いたところを自分も見られたらよかったな」との言葉に、「ええ、咲いていればよかったのだけど。まだ咲かないみたい」とまるですぐにでも咲くかのように答えた女をどう思われたかはわからないが、あの人当たりのよい笑みが怪訝に変わることはないのだろうことは短い会話と猫への接し方で知れたことだった。] (27) 2022/10/04(Tue) 18:50:28 |
【人】 行商人 美濃[そうして、うさぎ堂へとつけば、うさぎの面の給仕が忙しく動き回るのを見て微笑ましくなる。>>24 女の顔を見て、口角が上がるのも、取り置きしてくれていたことも嬉しくて。] 約束、覚えていてくれたのね。 ありがとう。 ええ、良い月が見られて嬉しいわ。 [うさぎは確かに目の前で、弾むばかりの働きっぷりであると思えば、クスクスと笑って返した。 失礼しますと去る姿を>>25一度、呼び止めて] これ、つまらないものだけどお礼よ。 [予約のお礼に、と小さな月のような黄色い石のついた簪を渡した。 少女と言っても遜色ないなんて感想を初めて見た時には思ったけれど。 随分としっかりした働き者で、もう簪をつけても良い年頃だとは、二人連れの男性客の会話を思い出したからで。 実際は、女も誰かに贈り物をしたくなった、というだけのこと。 それだけ渡せれば、酒屋へと足を向けたのだった。]** (28) 2022/10/04(Tue) 18:51:34 |
【人】 澤邑[ てちてちと肉を食べて、なくなるとこちらを見上げる>>6その度に瓶からおやつを取り出してこゆきの前へと。多すぎる量はそもそも持ち歩かないから、あるだけ与えたのだが物足りないようで何もない掌をしばらくはザリザリした舌で舐めていた。 そのうち満足したのかあきらめなのか、膝の上でまるくなって目を瞑っている。大人になりかけの若い猫で膝に置いていても頼りないくらいに軽い。 しばらくはじっとしていてくれるようで、ゆっくりと栗ぜんざいを味わった。箸休めの漬物が大変に美味しく感じる。] ご馳走様 [ >>26うさぎ面をつけて忙しく駆け回る様子の娘に挨拶をして。ありがとうございましたぁと語尾の残る返事が返ってきて可愛らしい。今夜は繁盛して大忙しだと思うのに丁寧に頭まで下げてくれた。 こゆきを連れていたから、時々気にされていたように思うが、特に大きな粗相もなくてよかった。*] [ もっと沢山もたもたしていたら>>27露店の店主が訪れるところも見られたかもしれないが、流石に店舗を構えている人物と、暇人の自分がその日すれ違うことはなかったか。 「咲いていればよかったのだけれど、まだ咲かないみたい」そんな不思議な返答も自分にはなんだか納得がいって、笑みが崩れることはなかっただろう。世界の端から端まで知っているわけでもなく、本当にそんな花があるのかもしれないし、不思議なことがあるならそれが叶うといいとも思う。*] (30) 2022/10/04(Tue) 20:10:59 |
【人】 澤邑眠くなっちゃったかい [ こゆきは膝の上ですっかり寝る体制になってしまったようだ。猫の眠りは浅いから動かせばすぐにしゃんとなるかとも思ったのだが、これなら早々に行って帰ってこよう。 少しの肌寒さを感じたかくしゃみをしてそのあと腕の奥に頭を潜り込ませるようにして丸くなる。羽のようにとは大袈裟だがまだまだこゆきは十分軽い。その上じっとしてくれているからすごく楽ちんだった。] 今日は諦めよう [ 社務所の前を通って足を一旦止めたのだが、こゆきがもう眠ってしまいそうで、財布を取り出すのも面倒になってしまった。家内安全のお札を授かるのに袴姿の売り子に財布から金を取ってくれというのも罰当たりな気がする。 墨染神社の石造の階段を上まで登って、祭殿の前で一礼。お賽銭は今度持ってきますからと心の中でお祈りして、引き返す。>>n0神楽を見るのも諦めよう。まあ猫を連れている時点で候補から外れていた気もする。] おっと、驚いちゃったね [ >>29神楽のことを考えていたらちょうど、竜笛の音でこゆきが腕から跳ねる勢いで驚いていた。背を撫でて何でもないよと誤魔化して。落ち着くまでそうしていたが果たして。下に降りたがるなら降ろしたかもしれない。 >>n1内容は過去と大きく違っていないなら見知ったものだったろう。神話の出来事でもしかするなら榛名の外、砂の海では今でも似たような行いがされているんだろうか。流石に夢を見過ぎか。] (31) 2022/10/04(Tue) 20:14:38 |
【人】 澤邑[ 来る時に見かけた>>9九郎と一二三に手を上げ挨拶したなら、一二三は気づいたようだが九郎は別の方を向いていた。九郎を追いかけて一二三がこちらに気の毒そうに目礼をして去っていく。 ちょうど自分の息子よりいくつか年上の二人に、子らも憧れめいたものを抱いていたようだ。今もその頃の面影のようなものが垣間見えて笑った。いつまでも仲がいい。*] ただいま〜 [ 神社からゆっくり歩いて、半刻ほどして自宅へと戻った。息子は寄り合いで飲み会があるというし、妻と義娘は孫を連れてお祭りに行くらしい。] 晩酌しよう、ゆきちゃん [ お団子を居間のテーブルに置いて、いまだこゆきを抱えたまま台所へ向かうとお盆の上にメモが置かれていて「冷蔵庫にお刺身」と書かれていた。] あ、とその前に [ 手ぬぐいを濡らすと、こゆきの背を柔らかく拭っていく。ジタバタと暴れたかもしれないが必要なことなのと言わんばかりに。そのあと手足も一つ一つ丁寧に。不機嫌は刺身で治るといい。**] (32) 2022/10/04(Tue) 20:16:11 |
澤邑は、メモを貼った。 (a7) 2022/10/04(Tue) 20:17:33 |
【人】 虹彩異色症の猫[ 天高く響く龍笛の音、地を這い腹底響く和太鼓の音。跳ね起き落ち着かなげに辺りを見回していたが、宥めるように背を撫でる手で>>31またとろとろとうたたねに戻る。 運ばれるままに自宅に戻り、そのまま良い気分でおれたらいいものを、湿り気のある手拭いで背を、手足を拭われる。 にゃっ、にゃっ、と抵抗して見せる素振りだが、これも散歩跡のいつもの恒例行事だ。 冷蔵庫から澤邑が刺身を取り出し、いつもの錫の酒器を取り出すと>>32、ふなあ、ふなあと足元に纏わりだす。小さなお脳である癖に、鈍色に輝く銀の酒器は、御馳走が口に入る合図であることを覚えている。 今日ばかりは常の卓ではなく、縁側で名残の月を惜しみながらの晩酌となるだろうか。片目ばかりがまんまるの月を模した双眸で、膝に前足掛け晩酌のお零れを今か今かと待ち構えている。]** (33) 2022/10/04(Tue) 21:29:12 |
【人】 修理屋 一二三[狐面の店主が浮かべた斜め上の勘違いを知ったら、 俺と九朗は真逆の反応をしていただろう。>>23 苦いものを噛んだ顔と、よく分かってねぇって顔だ。 九朗とつるんで長いせいかお互いに言葉を端折るもんで、 昔から周りに勘違いをさせることがままある。 俺としてははなはだ不本意ではあるし、 時と場合によっては九朗の方が悪乗りするんで、 行商人の勘違いは知らないままでよかったんだが。] 赤と桃か… どうなんだろうなぁ? 子供の好みってのはいまいちよく分からねぇや。 [こういうのは九朗の方が得意だろう。 そう思って隣を見れば、 行商人の勧める飾りの方を熱心に見比べていた。] (34) 2022/10/04(Tue) 22:12:18 |
【人】 修理屋 一二三ん? あぁ、俺はいいさ。 こいつならともかく、俺の方はなぁ… [元々女顔の九朗ならともかく、 四十を過ぎた男が髪を飾るのも…。 そう言って狐面の娘の提案を断るが、 俺の隣ではすっかりその気になった九朗が 桃色と白、紫と黒の飾り紐を選んでいた。] (35) 2022/10/04(Tue) 22:12:49 |
【赤】 修理屋 一二三九朗が露店の商品を選ぶさまを眺めつつ、 やっぱりお前の方がこういう物を選ぶ趣味はいいと 当たり前のことを再確認する。 榛名を出る前。 九朗は絡繰り人形を作る人形師で、 俺はそれを修理する人形技師だった。 作りたい人形があると 榛名を飛び出す決心をした九朗を止めるどころか、 丁度いいって相乗りする形で俺も一緒に旅に出た。 無鉄砲以外の何物でもねぇ、 勢いだけで行動に移しちまえるのは若者の特権だった。 だからまぁ、下地は元々あったんだよな。 人形を作る代わりに九朗は技師や義足を作るようになり、 俺は変わらず九朗が作ったものを修理し続けた。 (*1) 2022/10/04(Tue) 22:13:23 |
【人】 修理屋 一二三「「それとこっちの蜻蛉玉がついているものと、 このガラスの猪口もふたついただけますか?」と 飯屋に着く前にいそいそと荷物を増やしている。 っと、うっかり見ている場合じゃねぇな。] あー、悪いが飾り紐は別にしてくれねぇか? 会計は全部こっちで。 桃色のと猪口だけ包んでくれ。 [値段を聞いた九朗が財布を出す前に口を挟んで、 俺の方でさっさと支払いを済ませることにした。*] (36) 2022/10/04(Tue) 22:13:58 |
【人】 控井[あちこち道草を食っては少しずつ前進し、 漸く目的の薄墨神社へと辿り着いた。 まずは拝殿でお参りをしていこう。 何度こうして、ここで祈願しただろうか。 手を合わせて、目を閉じる。] (どうか大切な人達が、 健康で幸せに暮らせますように) [社務所に寄ることも少し考えたが、 特に必要なものが思い浮かばず、 そのまま神楽を見に行こうと神楽殿へ。 距離が縮まるごとに、大きくなっていく音楽と期待。 もたもたしていたせいか、既に神楽舞は始まっていたけれど、 遠巻きにも舞台はよく見ることが出来た。] (37) 2022/10/04(Tue) 22:36:19 |
【人】 控井[毎年こうして足を運び、見てきた舞ではあるけれど、 やはりいつ見ても、何度見ても、迫力に圧倒される。>>2:n1 君や彼女は、姫櫻の神楽の方が好きだと言っていたね。 確かに可愛らしいし華があるけれど、 私はこちらも渋くて良いと思うけどな。 まぁ、彼女が舞姫に選ばれ、 無事大役を果たした年は格別だったけれど。 一頻り神楽を見れば、のんびり月を見ようと、 人熱れを避け静かな場所へと移る。 じゃっくを脇に侍らせ、 午前中に買っておいた月見団子に手を付ける。 もちもちとした弾力のある食感に、程よい甘さの餡子。 変わらない、いつもの美味しさ。] (38) 2022/10/04(Tue) 22:37:21 |
【人】 控井[観月祭に一人で来るのは初めてだけれど、存外悪くない。 でもそれは決して悲しみや、想いが薄れたからではない。 一人でもこうして歩いて、美味しいものを食べて、 露店の商品に目を輝かせたり、神楽を見たり。 そんな時に必ず、月光のように淡く優しく差し込む 光 。それは全て、幸福な思い出であった。 失った時の悲しみの強さと、想いの強さは比例する。 だから何れ失って悲しむくらいなら、 最初から持たなければ良かった。 そんな風に言えてしまうのではないかと、私は恐れていた。 確かに喪失から暫くの間は、酷く心が痛んだものだけれど、 それ程失いたくない大切なものが何もない人生の方が、 余程哀れではないだろうか。 それにまだ、温かい思い出を作る機会は いくらもあるのだろう。] (39) 2022/10/04(Tue) 22:38:55 |
【人】 控井[一人と一羽で見上げる 月 遥か彼方で君が見守ってくれていると、 そのように思わせる神秘を感じた。 夜は更けていく、名残惜しいけれどまた来年に。 死が世界と私を別つまで、約束は果たされるだろう。**] (40) 2022/10/04(Tue) 22:39:44 |
【人】 修理屋 一二三[狐面の娘が広げる露店で支払いを済ませた後。 そろそろ飯を…と思った俺の腕を、 今度は九朗が引いて歩く。 そうは言っても、 九朗に腕を引かれて歩く速度や歩幅を急だと思わない。 はやる九朗の気持ちが上乗せされてる分、 普段より少し早いくらいだ。 それくらいならまだ両足の義足は 機嫌よく重心を移動させながらこっちの意をくんで 素直に歩いてくれる。 それはつまり、そんだけこの義足を作った 職人の腕がいいってことなんだが。] (41) 2022/10/04(Tue) 23:13:01 |
【人】 修理屋 一二三九朗、今度はどっち行くんだ? [人の往来を横切るように通りを歩いていく。 俺と九朗は知るはずもねぇが、 その道筋はしばらく前に同じ露店で買い物をした 澤邑さんと同じもんだった。 つまりは行きつく先も同じってわけで。 店の外にまで席を広げて甘味を振る舞う うさぎ堂へ辿り着いた。 店の名の通り薄桃色をした兎の面を付けた娘が ぴょこぴょこと愛想よく働きまわる姿は 見ているだけで目が回りそうだが。 元気がある分楽しそうでもある。] (42) 2022/10/04(Tue) 23:13:13 |
【人】 修理屋 一二三「すみません、まだ月見団子はありますか?」 [昨日の今日で。 ここへ来てまた団子を買おうとする九朗を お前団子に恨みでもあるのかよと冗談めかして見れば 「来年の参考にしようと思いまして」 なんてしれっと言いやがる。 姪っ子に袖にされたこと、 まだ根に持ってるんじゃねぇか。**] (43) 2022/10/04(Tue) 23:13:32 |
【人】 和菓子屋 稲庭[一二三と九朗に商品をお渡しした後、団子が少なくなってきたのもあり、少し休憩に入ることが出来た。 ふう、と一休みしてお茶を飲み。 そしてすぐ、うさぎ堂を出た。 ろくに簪の礼も言えなかったのだ、狐面を探して兎面は駆ける。が、祭りだと浮かれて面をしている者はそこそこ居て、すぐには見つからず。 懐中時計を持った兎のように駆け回っていたのだが、神社への道を登る前にくたびれて、石段に座って空の月を眺めていた。] ああ……? なぁに、あれ…… [ぽかんと口があく。>>n2 白銀の鱗を持つ魚のような、蛇のような。 不思議な姿を、うさぎは見たのだ。**] (46) 2022/10/05(Wed) 0:47:01 |
【人】 行商人 美濃─露店のお客・九郎と一二三─ [彼にとっては不本意な女の勘違いは彼等に伝わることはなく、恙なく行商人としての務めは果たせたか。>>34 悪ノリする友人に顔を顰める姿も見られたら楽しかったかもしれないけれど。 長髪の男性が姪御への贈り物に決めたのは、蜻蛉玉の飾りがついたもの。 まだほんの少女を勧めた品が飾るのを思い描いた。 想像する面立ちは中世的な彼の姪御なれば、きっと美人になりそうなもの違いない等。 それから硝子のお猪口をふたつ。 お酒呑みたい、とは心の隅で。 月見の頃には呑むのだからと振り払う。] ふふ、きっと似合うのに。 そちらのお兄さんはお揃いのものを? 良い色ね、姪御さんと並んだ姿を見てみたいわ。 [歳や性別に頓着しない女は飾り紐は不要との声に笑って返して。>>35 乗り気で飾り紐を選んだ彼との違いに、二人の関係性が垣間見えて微笑ましくなった。] はい、こちらの包みは別ね。 お買い上げありがとうございます。 お二方とも、良いお月見を。 [品を選んでいない彼の方がお財布を出すのが二人の仲が密であることを窺わせる。 雰囲気や性格は異なる二人だが、だからこそ上手く付き合えるものなのだろうかと考えながら包みを分けた商品を渡し、お辞儀をすると二人を見送った。]** (47) 2022/10/05(Wed) 2:11:18 |
【人】 行商人 美濃─神社裏手─ [開けた箱の中は、やはりいつもと変わらぬ土の詰まった碗があるだけだった。 碗を持ち上げると土の重みが指先に伝わった。 目の前まで持ち上げて、矯めつ眇めつしてみたけれど、芽の一つもでてはいない。 予想はしていたことだ。 何も嘆くことはない。 満月を見上げ、お団子を食べて、酒を飲む。 それだけできれば充分だと。 もしその時が来るならば、きっと───… 永遠に、そばにいられるのだと、 指先が震えて、碗が落ちる。 ガシャンと土の上に転がり、中の土が溢れた。 慌てて碗を取り上げるが、傷はついていないものの、中身は全て地面の上へと散らばっている。 平すように土の上を掻き分けても、何も指先には触れず、植物の種のようなものは見当たらなかった。] (48) 2022/10/05(Wed) 2:25:38 |
【人】 行商人 美濃………どうして、 [汚れた指で仮面を覆い、熱い雫が頬を伝う。 戯れだったのだと、思いたい。 否、おそらくの真意を女は察していた。 ひとり残していく先で、夢見がちな女が生きていけるよう、 ありもしない希望を与えたのだ。 少女の頃、あの露店で見た綺羅綺羅とした異国の品のように。 硝子玉でさえ本物の宝石だと信じて疑わないような頃のままだと思われていたのだろう。 ───…そんなはずはないのに。] (49) 2022/10/05(Wed) 2:27:11 |
【人】 行商人 美濃[顔を俯かせたまま、ぼろぼろと溢れる涙が面の内側を濡らす。 面の細い目の隙間を零れ落ち、指の間から雫が、ぽた、と膝に置いた碗の上に落ちた。] ………? [茶碗の底に落ちた水滴の中、模様のようなものが拡大されて見えた。 顔を近づけると、何か文字が彫り込まれているようだ。 仮面を外し、目元を擦るとそれを読む。 弾かれたように茶碗の中を手拭いで拭き取ると、傍らに置いていた酒を注いだ。] (50) 2022/10/05(Wed) 2:27:58 |
【人】 行商人 美濃[透明な液体を満たした茶碗を顔の前に掲げると、確かにそこには咲いていた。 震える指先に揺らぐ水面に、 愛した人と同じ名前の蜜色の盈月が。 『永遠に、君と共に』と彫られた底の文字と、あの頃の思い出と共、女は浮かぶ月を飲み干す。 一筋だけ、溢れた涙がきっと先の長い生涯のうちでも、最後の涙となるのだろうと、女は思った。]** (51) 2022/10/05(Wed) 2:30:22 |
【人】 澤邑よし [ >>33こゆきの体についた木の葉の屑や指の間の泥を拭うと、嫌そうに鳴き声をあげるのだが、まだ甘えたような響きがあって可愛らしい。本気の抵抗に変わる前に何とか終わらせる。 上半身を包み込むように装着されていたハーネスもすっかり取り払われて、こゆきは肴と酒器を用意する自分の足元をうろちょろしていた。] 頭が良いね [ こゆきは、何か良いものが貰えると既に察知している様に見える。いつもなら自室へ向かうのだが、今夜は縁側で月を見ながら一杯とする。 こゆきを逃したくないのと、少し肌寒くなってきたからガラス障子は閉じたままだ。そろそろ熱燗でも良いかもしれないと思い始める。] わかったわかった [ 刺身を一つ摘んで指で小さくちぎってこゆきに差し出す。自分のどうでもいい考え事なんかより、目の前のご馳走を早くと訴える猫の方がよっぽど賢い。美味しいものを食べて、季節のちょっとした綺麗なものを眺めて、そんな少しの余裕が幸せだ。 そのうちに出かけていた家族が帰ってくる気配があって、居間で戦利品を広げて楽しげな声が聞こえてくる。お団子を食べても良い?と遠くから声をかけられて、良いよと答えたりもした。 その後お茶とお団子を皿にいくつか持ってきてくれたし。寝るなら歯を磨いてからにして下さいよと、小言も言われただろう。ついでにお土産があると言って硝子細工の板を妻に渡したら、複雑な表情をしていた。栞に使えるそうだと伝えると何となくの納得をしていた。 明日になったら、蜻蛉のおもちゃで遊ぼう。今は毛糸玉をこゆきに見せてみたがもう疲れているかもしれない。こゆきはずっと側に居ただろうか、それともうろちょろとして寝る頃に戻ってきたか。**] (52) 2022/10/05(Wed) 3:54:22 |
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