―仰九羅邸―

[子供たちに菓子を配ったりなんなりなてんてこ舞いのクリスマスも過ぎた。
年越し業務はないので、とっくに前線は引退した女は息つくだけだ。]

……暇だな。

[そう、暇なのである。
せっかく広さだけはある家。
しかし、人がいなければ肌寒い。]

……人を呼べればいいのだがなあ。

[ぽつりと呟いたその瞬間。]

えっ

[ですよねえと申されましても。]

…… …… …… ……

[こいつは何を言っているんだ？
理解がおいつかない。
部屋の惨状も意味がわからない。
ものすごく体のいい休憩場所にされた上に、これからも人が増えるまであるらしい。
えっ、人の家に何してくれてんの？

とりあえず]

その土偶の類いは全部片付けろ。
気が狂う。

[とんだ狂気の沙汰だ。]

……はあ

[すさまじく不本意ではあるが、この不審者はともかく、
これからやってくる者たちまで無碍にするつもりもない。
どうせ娘の家に邪魔しに行くつもりもなく、 ただ過ごすだけの予定だった。
それならば多少の会場提供くらいしてやろう。
神の信徒たるもの、その程度の度量は示してやらねば。]

もてなしの準備でもするか……

[諦めたように呟くと、台所へと姿を消した。]*

ああ、新しい客人か。
そいつのことは放っておいてくれ。
妙な細工はされたが、ここが神の信徒の家であることに変わりはない。
どうかくつろいでいってほしい。

[進化しているのはそこの不審者だけであり、自身はそんな馬鹿げたことはない。
ないよ？ないったら。
せいぜい4桁5桁生きてるだけ。]

煎茶と紅茶、どちらが好みだ？
コーヒーもあるぞ。
あと、余ったケーキでよければそれも。

外の雪でも食っていろ。

[お前にやる資材はない。]

よくはないな。
だが、あのお方はこの程度で気にする方ではない。
悪いが無視してくれ。

そして見習いでもない。
そうであればこんな惨状許すはずもない。
大方お前が迷い込んだのも、こいつのせいだ。

[世の中信じられないほど厚かましい筆舌に尽くし難い破天荒がいるのだ。
それがこいつだ。

4桁5桁といっても、己の娘の意識を乗っ取り続けてその年月なので進化は大してしていないのである。
のーまるのーまる。]

ふむ、砂糖壺はそこにあるから好きに使え。
ミルクも持ってこよう。

[再びいそいそと台所。]

まあ、唯一無二の方を信奉する私の居住地に、こんな混沌の化身がいること自体は忸怩たるものだがな。

[明らかにこの土偶からは異質な気配がするが、それだけだ。
それがたとえ神と称されるものだとしても、己はこの土偶を神と呼ぶ気は一切ない。]

教会故、クリスマスには子供たちに食べ物を振る舞いもするのだが……
余ってしまうと、どうしても食べきるのは至難でな。
その手伝いと思ってくれていい。

[夕飯は鍋にしようかな、と思いつつ。
ブッシュドノエルとコーヒーお待ちどうさま。]

邪な者だな。
こいつに限っては今すぐ出て行ってほしい。

[置いておくと絶対ろくなことにならないんだ。
こんな未確認地球外生物とあのお方を比べるなど愚かしいと称するにも烏滸がましく不敬極まりなくあのお方の威光が穢される故にこの土偶は早く割るべきでありしかしこの庭で割るとあのお方の世界が穢されるので別の世界で以下省略]

飾りの砂糖菓子は子供らに人気故にもう余っていないがな。
木目がついているだけで気分がいいというのは面白いな。

…………大変だな。

[触れたくないという姿勢]

…… …… …… ……

[真顔]

[本当に扉から来て欲しい。
人の家だという自覚をもっと持ってくれ。]

いや、いい。
お前は客人だから座っていてくれ。

だが破壊したお前らは直せ。
変な真似は決してせず、ちゃんと元あった通りに直せ。
いいな。

[寒いってレベルじゃないんだこの季節の大穴は。]

ははは、あのとき散々私たちを落としたお前が、こうしてたたき落とされるのは愉快な光景だがな。

[ﾁｯ
やはり防がれる。
脳天穴あけばいいのに。]

カッコイイお兄さん？
誰のことを言っているんだ？
あいにくとあの方でないのなら顔面に興味はなくてな。

吹き抜けの天窓ならばロマンチックかもしれないが、
不審者の落ちてきた穴では何も風情がない。
論外だ。

[しょうがないからケーキのはぎれをあげよう。
ぺらっ]

ああうん……まあ……知り合い？だな……

[奇縁の部類ではある。]

本来なら決して袖振り合わぬ縁だ。
まあ、こいつが呼び出したのだがな。

[そういう妙な縁で結ばれる。
奇妙なものだよねー、ほんと。]

マスター？
……そもそもこいつ、人間ではないからな。

分類としては、そこの土偶に近しいぞ。

この空間、普通のまともな人間私しかいないのだな。

[びっくりどっきり人外ショウ]

……賑やかになってきたな……

[まあね、教会だからね。
帰りにくかったり、悩みのある人を受け入れるのが教会だからね。
ちょっと癖の強いのばっかりなのも仕方ないよね。]

貴様とヤギでは乳を搾れるぶんヤギのほうが上等だな。
お生憎だが、私は人の家の屋根を破壊する知人は客と認めないタチなんだ。

[そして乙女の年齢に口を出した罰として、2杯目以降はスポンジすらないクリームの寄せ集めに決定した。]

さて、そこの新顔達。
お前たちは煎茶と紅茶とコーヒーどれがいい？

賑やかなのが悪いこととは言わんが、波状攻撃でやってくるな。
私1人で咎めるのも無理があるんだぞ。

[ツッコミ聖女の称号？
そんなものはとっくの昔に返上した。いらんいらん。]

ひとつ聞くが、それは紅茶である必要はあるのか？

[もう砂糖の味しかしなくない？]

煎茶と、ロイヤルミルクティー、それと砂糖水のミルク和え紅茶風味だな。
ちょっと待ってろ。
ああそれと、私の名は仰九羅璃紗(おおくら りさ)だ。
ここの家主なのは言わんでも皆察しているか。

[砂糖の買い足しが必要な気がする。
めっちゃじゃりじゃりいう。
溶けきらない。]