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人狼物語 三日月国


169 舞姫ゲンチアナの花咲み

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【雲】 ウユニ


   
   風に吹かれて、何かが転がるような音が
   微かに聞こえてそちらに目をやれば
   貴方がいつも付けていた仮面を見つけた。

   
   
「……どうして、って聞けなかった。」



   仮面を拾い上げて、
   泣き腫らして酷い顔を貴方から隠すように
   それを身に着けると、貴方の方を見て。

  
(D69) 2022/08/27(Sat) 17:31:45

【雲】 ウユニ



   たった一輪、咲いていた勿忘草を


                 ―――――手折った。


 
(D70) 2022/08/27(Sat) 17:35:25

【雲】 ウユニ




   
私を忘れないで。


         
貴方が遺した想いをこの手に。**



 
(D71) 2022/08/27(Sat) 17:36:03

【雲】 ウユニ



   そのあとの記憶はおぼろげで
   どう家に帰ったのかすら、曖昧だった。
   思い出そうとしても、思い出せない。

  
   貴方がいない家に戻って
   私が割ってしまった花瓶の破片を見て。
   貴方が薔薇を可愛がっていた姿を思い出せば
   また、涙があふれていく。
   この先ずっと、こんな思いを抱えていくなんて
   到底耐えられない。


   貴方の言葉に背いて、死んでしまおう、と。
   破片を手に取り、腕を切ろうとして―――――。


 
(D72) 2022/08/27(Sat) 17:37:34

【雲】 ウユニ




    
「―――――。」



 
(D73) 2022/08/27(Sat) 17:40:43

【雲】 ウユニ



   誰かの声を、聴いた気がした。
   貴方の声だと最初は思って、辺りを見て。

   勿論、貴方がいるはずもなく。
   幻聴だったのかと、がっかりした。


   でも、貴方に引き止められたような気がしたから。
   その日は気絶するように眠った。


  
(D74) 2022/08/27(Sat) 17:42:59

【雲】 ウユニ



   次の日も、その次の日も。
   私は何もする気力も起きなくて
   ただただ、死ぬ方法ばかり考えていた。


   
家にいれば、貴方との思い出ばかり蘇って

   
そのたびに何度も泣いて

   心の痛みを誤魔化すように、
   自分の身体を傷つけ続けた。


   何かを食べても味がしないと気づいて
   食事も疎かになっていって。

   
それでも私は死なないように、生きていた。


   
死ねなかった原因は二つ。

  
  
(D75) 2022/08/27(Sat) 17:50:11

【雲】 ウユニ



   一つ目は、貴方が遺した手紙。
   
W数十年後にW
の一言は
   今、死んでも貴方にあえないんじゃないか、
   私にそう思わせたし、

   私が貴方の宝だという一言は
   この命を投げ捨てるのは、
   貴方の宝を投げ捨てるのと同じだと、
   私に思わせたから。

   死のうと体に傷をつけても
   躊躇うような傷で終わったのはそのせい。


          今まで散々貴方の気持ちを
          蔑ろにしてきたから。
          罪滅ぼしにもならないけれど
          それでも、……。


  
(D76) 2022/08/27(Sat) 17:51:05

【雲】 ウユニ



   二つ目は……
   あの日にきいた声。>>D73
   誰の声か分からない、貴方に似た声。
   その声を、何度か聞いたから。

  
   どうしてかしら。
   誰か分からないはずなのに

   
おしい、と思うの。



   引き止められるように、
   
誰かに生かされるかのように、
私は生きて。

   痛みから目を背けたくて、こう思うようになった。

  
(D77) 2022/08/27(Sat) 17:52:49

【人】 ウユニ



   
あぁ、私は……。


            
を、見ていたのね。


  
(0) 2022/08/27(Sat) 17:53:20

【人】 ウユニ



   家族に見捨てられた私を、優しく迎え入れて
   普通なら到底受け入れられない病を受け入れて
   私の事を、愛してくれる人と、過ごしていた。

   綺麗だ、と言ってくれたことも
   私の贈り物に喜んでくれたことも
   思い出をなぞるように湖で遊んだことも

   愛を誓いあったことさえも。
   すべて、ゆめだったの。


  
(1) 2022/08/27(Sat) 17:53:59

【人】 ウユニ




         
私の身に余るほどの幸せな、永い夢。

 
(2) 2022/08/27(Sat) 17:54:41

【人】 ウユニ




   いっそ忘れられたらいいのに、
   
手にした想い
のせいで、忘れることもかなわず
   夢をいつまでも忘れられなかった。


 
(3) 2022/08/27(Sat) 17:55:37

【人】 ウユニ



             ✽

             ✽

             ✽
 

  
 
(4) 2022/08/27(Sat) 18:00:45

【人】 ウユニ



    『―――さん。
     おかあさん……?どうしたの?』

  
(5) 2022/08/27(Sat) 18:02:04

【人】 ウユニ



   
―――――また、哀しい夢を見ていた気がする。


   呼ばれて、ふと、現へ意識が引き戻された。
   心配そうにこちらを見つめている子に
   私は優しく笑いかけて。

  
(6) 2022/08/27(Sat) 18:03:01

【人】 ウユニ



    「なんでもないの。
     ……ごめんね、ヴィオラ。
     起こしてしまったかしら。」
   

   まだ、陽が高くない時間、
   幼子が起きるには随分早かったから、
   まだ寝ていていいのよ、と頭をなでた。

  
(7) 2022/08/27(Sat) 18:03:56

【人】 ウユニ



    『ううん。
     もう、ねむくなくなっちゃった。

     おかあさんは……?
     ねてるときのおかあさん、
     ずっと、くるしそうだった。
     だいじょうぶ……?』

 
(8) 2022/08/27(Sat) 18:04:23

【人】 ウユニ



   眉下げて、此方を見つめる目元は
   愛しいあの人に、似ている。
 
   この子は……、ヴィオラは、
   最愛の人の忘れ形見。
   だから似ていて当然なのに、
   数年見続けてもまだ、はっとしてしまう。

   今でも、この子の存在は夢じゃないのか、と
   ヴィオラを見ては
   驚いてしまうことがあるくらいだから
   身籠っていると分かった当時は、
   本当に驚愕したし
   暫くは信じられなかった。


  
(9) 2022/08/27(Sat) 18:05:10

【人】 ウユニ



   でも、我が子の存在を知れば
   死ぬわけにも、この身を蔑ろにするわけにも
   いかなくなってしまって。
   裁縫で生計を立てる術はあったから。
   誰にも頼ることなく、私は子どもを産んだ。
 

  
(10) 2022/08/27(Sat) 18:05:41

【人】 ウユニ



   見とれていたせいで、
   咄嗟に言葉が出てこなくて。
   
大丈夫よ、
と続けようとすれば
   私の言葉にかぶせるように、
   
 
(11) 2022/08/27(Sat) 18:06:26

【人】 ウユニ



    『あのね、おかあさん。

             私は……。』

  
(12) 2022/08/27(Sat) 18:06:51

【人】 ウユニ




         
そばにいるよ



 
(13) 2022/08/27(Sat) 18:07:53

【人】 ウユニ



   優しく響く声が、
   あの時の声と、重なった気がして。>>D73>>D20


   それを聞いた瞬間、
   私の目からは、一筋の涙が零れ落ちた。
   
貴方だったのね。あの時私を引き止めたのは。


   ヴィオラが慌ててこちらを覗き込んで
   小さな手で頬を伝う涙を拭おうとする、
   その手を包み込んで、私は微笑った。

  
(14) 2022/08/27(Sat) 18:08:50

【人】 ウユニ



    「ありがとう。
     嬉しくてつい、泣いてしまったみたい。
     これは悲しいからじゃないのよ。

     だから、お母さんは、大丈夫。」


 
(15) 2022/08/27(Sat) 18:10:13

【人】 ウユニ



    「ねぇ、ヴィオラ。
     もう眠くないなら、
     朝ご飯にしましょうか。

     今日は、素敵な場所へ出かけましょう。」

  
(16) 2022/08/27(Sat) 18:10:32

【人】 ウユニ



   なおも心配そうなヴィオラの気をそらすように
   朝食を作って、食べさせて。

   視力を失った左目を隠すように眼帯をして、
   机に置いてあった仮面を一度、撫でた。
   ヴィオラが生まれてからは、付けていない仮面。
   それは埃一つ被らず綺麗なまま、置いてあった。


   身支度を済ませれば、
   ヴィオラの手を引いて、家を出る。

  
(17) 2022/08/27(Sat) 18:12:49

【人】 ウユニ



   目指すのは、あの日以来訪れていなかった丘。
   行けば、あまりにつらい出来事を
   思い出してしまいそうだったから、避けていた。

  
   久々に来た場所は、
   
花が増えていること以外は

   何も変わっていなかった。 
   吹き抜ける風の心地よさも、景色も。

 
(18) 2022/08/27(Sat) 18:17:56

【人】 ウユニ

   

    「ここはね。
     貴女のお父さんと出会った場所なの。

     
……久しぶりね。」


   
(19) 2022/08/27(Sat) 18:18:20

【人】 ウユニ



    
最後は語り掛けるように呟くと、

    蒼空を見上げて、
    天国そらにいる貴方へ笑いかける。
    つられた様にヴィオラも
    天を見上げて、笑って。

    つながれた小さな手の温もりを感じながら、
    私は密かに誓った。

 
(20) 2022/08/27(Sat) 18:19:35