「……こういう境遇だから、かもしれねえけど。僕はそっちのがいいな。
　だから、灰すら残さないっていうあんたの姿勢は。……凄く、魅力的だって思う」

……再度、抱き締められる。
何かを取りこぼし、壊れ、失い続けた身は。それでも確かに存在し、温度を持ち、生きている。

そして、身体を離されて。
単なる夢物語ではない、絶対に成し遂げるという意志を感じる様な、強い言葉。
そのための提案と、呪い。じっと、黙ってそれを聞く。

──の様に赤い眼と、視線が合う。

思考する。
共犯者としての誘いを持ちかけられ、脳裏に浮かんだのはもう一羽の兎の顔。
少女の手を取るなら、自分は"ひとらしい幸せ"を手放す事になる。月光の夢見た未来を実現する事は不可能となる。

けれど、叛逆者であるならば。世界への破滅願望を抱くならば。自身では叶える事の出来ない願いに、夢を見るならば。
ただしそれを選び取った場合、望んだ死は本当に……想像も付かないほど、遠く先の未来になるのだろう。

叛逆者は、あなたの後輩は、暫くそうして黙っていたが。
やがて、再び口を開く。

そのは、から目を逸らさない。

「ああ。……この命、あんたに預けよう」

「同じ罪を背負い、共犯者となって。運命共同体となって、いつかこの世界を一緒に全て滅ぼそう。
　綺麗なものも、汚いものも、好きなものも、嫌いなものも、全て。……全て。塵すら残さず地面に返そう。あんたの手で魂ごと燃やされる、その時まで。



それが成されるのは、一体どれぐらいの未来だろうか。
10年？100年？1000年？それ以上掛かるのかもしれない。
それでも自分が楽になる事よりも、抗い続けたい。壊してしまいたい。叛逆を成したい。

楽な道で無かろうとも。ひとの道を外そうとも。
その方が『楽しく終われそうだ』と、彼は思ったのだ。

……適当な空き時間。
叛逆者はあなたの部屋を訪れている。

「……少し、時間いいか」

扉をノックし、その様に告げて。そのまま暫く待つ。
あなたの都合が悪い、或いは気まずいという事であれば。
彼は諦めて自分の部屋に戻るだろう。

その空き時間、自室に半ば引きこもりがちだった男はベッドに沈んでいた。
故に、あなたの訪問があればずるりと這うようにしてベッドを降り、確かな足取りで扉まで。扉を開けてからあなたを見て、部屋に招くように半歩ほど身を引いた。

「ああ、構わない。大したもてなしはできないが入りたまえ」

「別にもてなしは気にしなくていいんだけどよ……そうだな、とりあえず邪魔する」

招かれれば部屋の中に足を踏み入れる。
少しだけ辺りを見渡し、その様子を見るだろうか。
思えば、自分の部屋に訪問される事はあっても、あなたの部屋に訪れたのは初めてだ、と今更ながらに過ぎる。

「……その。話が、したくてな」

との瞳が交わる。
その赤はあなたを見据えたままに。

不死兎はその小さな身体で、全を喰らいつくす信念を持つ。

との瞳が交わる。
思考するあなたを見据えたままに。

不死兎はもうきっと、この世にはたったの一羽しかいない。
少女もまた、たったの独りでその信念を抱えて立っていた。

との瞳が交わる。
沈黙するあなたを見据えたままに。

不死兎はこの提案が、あなたにとっては
…………ただの足枷でしか無い事を、理解している。

だからこそ、キミの"本当"が知りたい。


▽

との瞳が交わる。
口を開いたあなたを見据えて。

「嗚呼………、」

解を聞く。

「……、そうと決まったのなら、」

あなたの解を。本当を。呪いを誓いとして飲み込んだその信念を。

「この　　はキミを歓迎しよう　　よ」

「キミが真に燃え尽きるまで、」

「――――」

そして少女は不死兎へも呪いを掲げよう。
誓いとしてそのを飲み込んで、新たな信念のとしよう。▽

ふっと赤の揺れが引く。淡い紅水晶が煌めく。

「…………、一緒だ…………、うれしい」

不死兎は……少女の顔で、声で、







ただただ"嬉しい"それだけを、あなたへと、

笑顔を、向けるのでした。