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【人】 遊惰 ロク 嵐が去り雨があがれど、 救助の手が届く迄にはもう少しばかり時間を要する。 それ迄は生きねばならない。 何せ恐らく残っているのは子ども達と己の三人きり。 放り出す事は憚られた。……これ以上、死を見せる事も。 「――残ってても雨でやられちまってるかねェ…… …………アー……ここは入っていいモンかなァ」 ――という訳で、男は今日も生きている。 これからは食事も多少は口にするのだろう。 今はどうやら、探し物をしているらしい。 独り言をぼやきつつ、院内をフラフラ歩き回っている。 (1) 2021/07/12(Mon) 13:41:56 |
【秘】 諦念 セナハラ → 遊惰 ロクミロクの遺体を運ぶ二人を見た。 メイジが行うならまだ理解できるが、 ロクは心境が変化したのだろうか。 今の自分に手伝える事は何もない。 踵を返し、宿直室へ向かう。 そして卓袱台の上に置かれたままの封筒を見れば、 少し困ったように頬を掻いた。 「んん、どうしましょうかね……」 加担する人間が増えたのならば、遺書も書き変えた方が良いだろう。 死者の言葉が伝われば苦労しないのだが……。 「…………、いや」 ふと、生前の会話を思い出す。 まるで死者と話したかのような言葉。 彼なら、もしかすると。 手術室で処置を待てば良いが、 もしも自分の存在を伝えられてしまえばそれこそ恥だ。 少し考えて、貴方がひとりになるのを待つ事にする。 (-16) 2021/07/12(Mon) 18:18:14 |
【秘】 遊惰 ロク → 諦念 セナハラ 少年と別れ、再び院内を彷徨いている。 行儀悪くポケットに手を突っ込んでフラフラと歩く、 その顔色は余り良くは無い。 ――姿を認めたか声を掛けられたか、足を止めて。 最後の別れ方、そして今は同じ行為に手を染めた後だ。 一瞬だけ歪んですぐに戻された表情、 その一瞬にはアリアリと。『気不味い』と書いてあった。 (-18) 2021/07/12(Mon) 19:49:59 |
【秘】 諦念 セナハラ → 遊惰 ロク「……ああ、本当に見えるんですねえ」 あの時、普段ならば口にしないような本音を吐いてしまった。 こちらにも気不味さはあるが、 どちらかといえば申し訳なさが勝っている。 結局のところ、貴方の善性は守れなかったのだから。 「ね、共犯者さん。少し手伝ってほしい事があるんですよ。 なに、貴方にとっても都合が良い筈です」 生前よく見られた笑顔が、そっくりそのまま浮かぶ。 此れが繕ったものである事は、 ついぞ誰にも知られないままだった。 手招きをすれば、律儀に廊下を歩いて宿直室へ向かう。 室内には入らず、廊下から中を指差した。 ニエカワの目の届く位置にいようとしているらしい。 「あれ、遺書なんですけれど。 ここを出る時に、中身を書き換えて欲しいんです」 室内を覗き込めば、 卓袱台に一通の封筒が置かれているのが見える。 (-20) 2021/07/12(Mon) 20:40:33 |
【人】 遊惰 ロク>>7 メイジ 説明を聞き乍ら、手順を想像して。 メスを動かす少年の様子を案じたものの、 兎も角己も手を動かそうと、目の前のそれに刃を向ける。 「――――――、 あ 」 からん。硬質な音。 取り落とした刃物を拾い上げた。 それから、何事も無かったかの様に事は進む。 ツプリと刃を突き立て、ぐ、と力を籠める。 それに合わせて、耳元、黒の十字架が揺れる。 教わり乍ら、真似をし乍ら、 死体をバラバラに――食らう為の“肉”へと変えていく。 元々手先が器用な男だ。飲み込みも悪くは無い。 滞りなく作業は進行されるだろう。 その間、何を考えていたのか、いないのか。 他のものが窺い知ることは難しい。 男は、誰よりも隠す事が得意だったから。 (8) 2021/07/12(Mon) 21:27:13 |
【秘】 遊惰 ロク → 諦念 セナハラ「……そうなるなァ、 お前サンがマボロシじゃなけりゃ」 顔を見れたら幾らか言いたい事はあったのだけども、 それらは一旦胸の内に押し留めることにして。 軽い返事をして、常の笑い顔を浮かべる。 カラリとした表情も軽快な口振りも、 友を励ます内に身について、客席を前に磨かれたものだ。 「はいよ、なんだろ。 むずかしいことじゃなけりゃァいいけども」 手招かれ、少し後ろをダラダラと着いていく。 傍目には一人で喋って歩いてる様にでも見えてンのかな、 とチラと浮かんで、まァ今さらかと思った。 辿り着き指差された先、医師を置いて室内に入る。 封筒を手に取り、しげしげと眺めて。 「おれが読んでもいいのかい」 卓袱台の前に佇んだ儘、廊下へ向かって声を投げた。 (-23) 2021/07/12(Mon) 22:47:03 |
【秘】 諦念 セナハラ → 遊惰 ロク「どうぞ。特定の個人に宛てた物ではありませんので」 封筒には『此手紙を讀んだ方へ』と書かれていた。 封を開ければ、中には数枚の手紙が入っている。 『全て私が脅し關わらせた事です。』 という書き出しから、その遺書は始まる。 (-24) 2021/07/12(Mon) 23:09:56 |
【秘】 諦念 セナハラ → 遊惰 ロク『彼の御父上に金を借りてゐました。』 『出世拂ゐとゐふ話でしたが催促をされ、 返すあてが無ゐのでやむなく殺めました。』 『食糧が足りなゐ中、 私は嘗て彩帆で食べた肉の味を思ひ出しました。 だうしても死ぬ前に再度味わひたゐと思ひ、 明治君を脅したのです。』 『私が殺し、彼に處理を手傳わせました。 つまり彼は壱人も殺してなどゐません。』 『大變申し譯無く思つてをります。 私の命だけでは拭ゑぬ罪とは思ゐますけれども、 明治君は被害者と云へませう。 だうかご容赦くださひ。』 内容に目を通せば、概ね罪の自供と 明治明という少年への恩情を願う物であることがわかるだろう。 (-25) 2021/07/12(Mon) 23:10:46 |
【秘】 諦念 セナハラ → 遊惰 ロク貴方が読んでいる最中であろうと、男は構わず話し続けた。 「貴方も関わってしまったでしょう。 ですから書き換えて、新しい遺書を作って欲しいんです。 他にも都合が悪い事があれば、全て僕が行った事に。 余所者の行いにするよりは、説得力があるでしょう。 ……ああ、家族はいませんのでそこもお気になさらず」 汚名に関して興味が無いのか、それとも慣れているのか。 男は淡々と、己を貶めるようにと告げる。 (-26) 2021/07/12(Mon) 23:12:02 |
【秘】 遊惰 ロク → 失格 セナハラ「…………」 カサリと音を立てて便箋を捲る。 捲り乍ら、医師の声が耳を通り抜けていく。 ――あァ、なんだ。と男は思った。 やっぱりお前サン、脅してなんかいねェンじゃねェか。 アハ、と思わず洩れた笑い声をあげて。 顔を上げ、頼まれた手伝いとやらを請け負う。 「死んだあとから弄られんじゃ、遺書も形ナシだなァ。 ――わかった、必要がありゃおれが書き換えとく」▼ (-27) 2021/07/13(Tue) 0:02:03 |
【秘】 遊惰 ロク → 失格 セナハラ まァ、と付け加えて言う事には。 「あんましその必要もねェとは思うが。 ――あのお嬢サンは“なにも知らねェ”ままなンだし。 おれも、もう後のことは考えねェでいいからなァ……」 先が無い事を仄めかし乍ら、続きに目を通している。 時折、読めない字に当たって首を捻りつつ。 尤も、後の事を考える必要が有れども無かれども、 この話に関してはさしたる違いは無いのだろうけれど。 男は、己の責を誰かに負わせるつもりは無かった。 (-28) 2021/07/13(Tue) 0:13:10 |
【秘】 失格 セナハラ → 遊惰 ロク男からすれば、貴方も充分に子供である。 生きるべきだと諭そうとして、 「……。まあ、自分の命ですから。 自由にすれば良いと思いますけど」 自分が教わった事を思い出し、やめた。 死ぬべきだとされる事と、生きるべきだとされる事。 その二つに差など無い。 せめて貴方達には自分の意思で決めて欲しい、 男はそう願っている。 「そこに新しい封筒と糊がありますから、 入れて封をしておいてください。 僕がこうして頼んだ事は伏せたまま、 メイジ君に渡して頂けますか? ……僕がここに居る、とは知られたくないもので」 小さく苦笑した。 彼に合わせる顔が無いのだった。 たとえ彼から見えないとしても。 (-29) 2021/07/13(Tue) 0:56:57 |
【人】 遊惰 ロク>>9 >>10 メイジ 少年の声を聞くうち、手が止まる。 内心をチットモ面に浮かべず涼しい顔していた男の、 紫に黒を少し落とした、暗い色した瞳が揺らぐ。 瞬いて、少年の方を向いて、それから下を見て。 いつの間にやら詰めていた息を細く吐き出した。 「――ついでって、ハハ、ひでェひとだなァ。 おれは“ガキども守って死んでくれ”って、 ……たしかに、そう。……、言ったってのに」 真に酷いのは誰か知っている癖、酷い人だと詰って笑う。 きっと、これまでで一等下手くそに。 そうして、最早形を留めていない肉塊。 そこに彼の心は無いと知り乍ら、ボソリと呟きを落とす。 「……そんなのが、うれしかったのか、お前サン。 …………ばかだなァ 」生首の、耳に光る白い石。触れようとして―― 伸ばした手が赤く濡れている事に気がついて、止めた。▼ (11) 2021/07/13(Tue) 11:19:47 |
【秘】 遊惰 ロク → 失格 セナハラ「もうちっと―― あの子らブジに帰すまでは、気張ってみるがね。 ……終わりがわかってンのはいいモンだなァ」 本音を溢して、ヘラリと笑って。 仕切り直す様に、便箋を掲げて軽く振る。 「坊チャンには頃合いみて渡すとしようか。 知られたくねェってンなら、 ワザワザ言うこたしねェから安心してくれ。 ……アー、お前サンの体弄ったのはまずかったかなァ」 まァ、その辺りは適当に書き足すかどうにかするだろう。 医師なりの子どもの守り方がそれだというのなら、 キッチリやり遂げさせてやりたいと思ったものだから。 それから、便箋を元の通り折り畳み乍ら、 「ほかにやっとくことはあるか」と軽く問う。 (-37) 2021/07/13(Tue) 17:17:12 |
【人】 遊惰 ロク>>13 >>14 メイジ 「……はいよ、セキニンは取ろうかねェ」 笑い顔を僅かに歪めて、そんな風に返事をした。 困った様なその顔は、少しだけ幼く見えるだろう。 それから。もう一人を台に寝かせ、刃を入れる。 手順は大凡理解した。 肉を断ち骨を折り、テキパキと進めていく。 こんな時間、早く過ぎ去ってしまう様に。 「――そういやお前サン、こないだ、ここで。 キット質問をはきちがえてたと思うンだよなァ」 事を進め乍ら、合間にふとそんな事を語り掛ける。 続く一言を口にする時だけは手を止めて、 少年の大きな片目を正面からジッと見据えて。 「おれは“この医者の自殺を”手伝ったかってきいたんだ」 スイと視線を外し、再び手を動かしつつ。 それが当然の事のような軽々しさで、一度言葉を締め括る。 「こいつは自殺だろ。 しょ お前サンが殺しただなンて、そう背負いこむ必要はねェさ」 この時の男は医師の死んだ経緯も知らなければ、未だ遺書を目にしてもいない。 只、抵抗の跡が見て取れなかったという事実だけでそう確信していた。 (15) 2021/07/13(Tue) 20:28:31 |
【秘】 遊惰 ロク → 名無しの ミロク(兄サン、どこいんだろ。 ……呼びゃァ出てくるかねェ) 暫く見かけない姿を探して、院内を彷徨いている。 腕の中には、蓋をしたブリキのバケツが一つ。 (-40) 2021/07/13(Tue) 20:42:01 |
【秘】 失格 セナハラ → 遊惰 ロク「ま、完全無罪ってのも難しいでしょうから。 特赦さえ得られれば良いですよ。 世間が彼を被害者と扱うのであれば、それでいい」 加害者として生きる事の苦痛は、知っているつもりだ。 被害者として生きる事の苦痛は、知らないのだが。 「他に頼む事はありませんよ。……あ、いや」 会話を終わらせようとして、思い出したように貴方を見る。 “彼方” の共犯者 にはしておいて“此方”にはしない、というのは筋が通らないだろう。 「少しの間だけで良いので、目を閉じてもらえませんか」 (-41) 2021/07/13(Tue) 20:50:47 |
【秘】 遊惰 ロク → 失格 セナハラ そういうモンか、と畳んだ紙を眺める。 閉じた世界で 虐げられて 然程広くは無い。 「――目を、? ……、」 彼の前で目を閉じる事に、躊躇いを覚えはしたものの。 ――大人の前で無防備を晒す事に、虞を抱きはしたものの。 「はいよ。なんだろ。 ……見られたくねェモンでもあったかねェ」 アッサリと ――そのつもりで、実際のところ恐る恐る―― 言われた通りに瞼を下ろし、 暗くなった視界の中で話し掛け続ける。 沈黙を恐れたのだろう。 (-44) 2021/07/13(Tue) 22:03:54 |
【秘】 失格 セナハラ → 遊惰 ロクその頭部に手を伸ばす。 案の定触れる事はできず、ただ虚しくすり抜ける。 それでも。 撫でるように、掌で頭の形をなぞった。 「……はい、おしまい。 もう目を開けて良いですよ」 貴方が目を開ける頃には、もう手を下ろしている。 本当は見られても構わなかったが、貴方は拒むだろう。 貴方がこの手を求めていたのは今ではなく、 ずっと幼い頃だったであろうから。 全てが過ぎ去り、今となってはどうしようもない事だと理解しながら──、 そうしたかったという只の自己満足だ。 (-45) 2021/07/13(Tue) 22:27:08 |
【秘】 遊惰 ロク → 失格 セナハラ「――、終いかい」 クロスグリが露わになって、瞬く瞼に幾度か隠される。 僅かな時間振りの色彩が少しばかり目に痛かった。 「そンじゃ、まァ、これにて。 なにか用がありゃアまた呼んでくれ。 もうちっとはここにいンだろ、互いにさァ」 今、何を貰ったのか――与えられた事も知らぬ儘の男は、 そんな風に。アッサリとした別れを告げる。 至って平々凡々な挨拶は、だからこそ可笑しな話だった。 (-48) 2021/07/14(Wed) 1:23:15 |
【秘】 名無しの ミロク → 遊惰 ロクあなたの足元に黒猫が一匹。 小さくないて、じゃれつけば姿を消した。 「バケツなんて持ってどこに行くんですか」 それがどんなものかわかっていても、 男はそう話しかけました。 (-51) 2021/07/14(Wed) 8:31:22 |
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