情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 エピローグ 終了 / 最新
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ貴方は、男が何を失ったと感じていて何が残されていると感じているかなんて、 別段わかりゃしないんだろう。当たり前だ。表層上の情報以外知り及ぶ手段はない。 誰と、どんな関わり合いをしていたかなんてのを探るなんてのは警察の役目だ。 けれどそう、幹部候補であった男やその幼馴染らの事情までは探り当てることは出来なくても、 この数日間のうちに貴方の顔見知りはどれだけ失われたか。 その中にはやけに慣れたような手口で殺された人間がいくらか居たかもしれなかっただろう? はだかの体は、着せられた男物のジャケットごと火葬車の中へと消えていく。 これ以上誰にも辱められることのないように、世界の目を覆うように彼女の体が消えていく。 もしも、引き渡すに値する誰かが生きていたならば彼に渡すことも出来たろうに。 順番を違えたから、もしくは共に逝くことの出来なかったから、こうするしかなかった。 男は中も見えやしない車をじっと、無防備に思えるくらい只々に見つめていた。 何もかもが灰になってしまうまでは、傍に在ろうとするみたいだった。 やがて、夜にさえなってくれない内にあらわれた残響が容れ物へと移されるのを見たならば。 男は首を横に振った。とはいえ、これから起こることを考えたのなら結局は己で持ち去るのだろうけど。 今は、受け取らない。今は、手を塞いだりはしない。 「……今は、いい。そう、用事が、あるから」 歯切れが悪い。今までだったらもう少し滑らかに言葉を交わし、弄していくらでも誤魔化せたろうに。 火葬車から一歩離れ、倉庫を見渡す。誰もいないのを確認したのか、或いは言葉を探していたのか。 一歩。適切な間合いを取るように横にずれた足は、やはり少しの足音も立てやしなかった。 「ずっと追っていた男が、死んだ。 仲間も、友達も。おそらくきっと、父さんと母さんも。 ……ほかの何にも渡したくないくらい、好きだった人も、多分。 人は前向きに生きろって言うんだろうな。生きていく先に何かを見つけて、ってさ」 → (-121) 2022/08/29(Mon) 1:58:06 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォやっと語った言葉は結局、己の話だった。けれども説明と言うには端的に過ぎて。 指折り数えて階段を昇るような調子だ。身の回りから、多くが居なくなる。それをカウントする。 薄っすらと思い出されるのは、昨日言葉を交わした人間のこと。けれど、されど。 「どうする? アンタなら。 オレは、こうすることにした。 けれどもどんどん取り落としていくだけだった。 どうする? 何一つ変わるわけじゃなかったなら」 質問は、少なくとも形だけの投げかけではなかった、どうしたらいい、とジェイドの目が訴えていた。 されど答えを貴方から得るよりも前に、男はベルトに手を掛けた。 ジャケットを脱いだ下に纏った服装と装備は、割りかしわかりやすいものだった。 貴方の仕事着が重たいのとおんなじ理由が、そこにはあった。 答えを知りたいのに、なぜ待たないのか。理由は簡単なものだ。もう止まり方さえわからないからだ。 「いつかは気が晴れると思っていた。もうそいつは居ないってのは頭じゃわかってるしさ。 やりきれない思いが解消されるまでのつもりだった。けど、いつまでも消えないんだよ」 銃口が向けられる。掌に収まるくらいの素朴なデリンジャー。 真正面に向けられたなら避けるのは容易くも思えるし、狙いを定めた威圧感もありはするだろう。 此処で男が貴方を殺さなければならない理由なんてのは無い。無いんだ。けれど。 理由と理屈があれば止められるのだったら、きっともっと早くに誰かの言葉を聞けていた。 → (-122) 2022/08/29(Mon) 1:58:39 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ「怖いんだ、誰かが死なないと止められないんだ。 もうそれが誰で、何であったなら満足するかも自分じゃわからないのに。 誰も教えてくれないんだ。 助けてよ、 パスカル―― 」目の前の男は掃除屋の烏だとわかっているのに、男は教えられた仮の名前を呼んだ。 最初に出会った男の名を、互いを知らないうちに巡り合った人間の名を。 多少の探り合いはあったとしたって、未だ気軽に仲良くなるつもりだった時の貴方を。 助けを求める相手は、仕事人としての人間ではなかったから。 意思を聞きたいのは、答えを求める相手は敵としての貴方ではない、つもりだったから。 誰でもいいのに、誰かでなければいけない。 そんな矛盾を口にしたところで誰も真面には受け取らない。 己の中では確かなのに、己の中でさえ確からしいものはない。 貴方が答えを口にするにしろ、しないにしろ。動くにしろそうしないにしろ。 男は違えなく、迷いなく。烏に向かって、引き金を引いた。 (-123) 2022/08/29(Mon) 1:59:03 |
【秘】 天使の子供 ソニー → デッド・ベッド ヴェネリオ呆れを頭に受けていっときは唇を尖らせて不満を訴え、すぐに得意げな顔でしてやったりと笑う。 ほんのわずか、小さく鼓膜をくすぐる声を耳聡く聞き入れはするくせに、深くは考えない。 誉められたように捉えられなくもない叱咤だけを都合よく受け取ったなら、目を輝かせた。 深く透き通ったジェイドの色は幼い頃から翳りもせずに変わらない色をしている。 何も変わらずにあったなら幸せな終わりがあったか、なんて。想像こそすれど不確定なものでしかない。 「はぁ〜い、へへ…… 食べよ、もう厳しいこと言いっこなし! 先生のタルトタタンが一番美味しいんだよなあ」 食事を作るのは環境だ。いつだって貴方が傍に居たからにこそ、舌の上の甘味は幸福になった。 食い気が勝って人並みよりも若干食べ汚かった振る舞いは、いつしか完璧なものになってしまって。 貴方と貴方が仕掛けたものの思惑通りに、振る舞いと作用は完璧な刃へと育っていった。 貴方はそれを、喜ばしく思ってくれる? 2月、花祭りの名残のある日和。窓の外には白い小花があちらこちらに散って見える。 いつかの日。遠く過ぎ去った春の日。 ソファの隣に寄せた体温は触れ合わずとも暖かく、降り注ぐ視線はわざと突き放すものもなかった。 輝かしい未来を暗示するものでなくたって、青年は幸福だった。指に触れる温度が変わるまで。 8月の夜気が責め立てるような熱を肌身に迫らせる。 明かり取りの窓から差し込む月の光が、左手の薬指に嵌ったジェイドとアーモンドと<kanaとをきらきらと輝かせた。 あの安置室で共に、なんて身勝手な真似をしなかったのは、貴方が最後に見る己の顔が綺麗なままであるように。 己が最後に見る貴方の姿を己の血で汚してしまうことのないように。 誓われない指輪を揃いに嵌めていくくせに、慾するほどに共に傍に在ろうとするわけでもない。 奪うほどに己に正直だったなら、最後の瞬間くらいは一緒にいられたのかもしれない。 一滴、半滴でさえも、貴方の存在は天使の子供を救っただろう。 告げられることのなかった秘蹟は、遠く希望を繋ぐように口の中だけで唱えられた。 (-130) 2022/08/29(Mon) 10:06:26 |
ソニーは、ヴェネリオを、 愛している。 (a5) 2022/08/29(Mon) 10:07:10 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ互いに失ったものを比較するほど愚かしいこともない。されど二つは似通っていた。 決定的にそれ以外は何もかも違えていても、尚取りこぼしたものの多さは近しかった。 失い続けた結果、更に失い続けることは無いだなんて空論を誰が信じることができる? 希望が重たかった。期待が重たかった。一笑して否定されたことでようやく足元が見えた気がした。 失った時点で死ぬべきだったのかもしれない。他を失わせるくらいなら、確かにそうだろう。 影法師のような男の姿をサイト越しに見据えて、微かに溜息を溢す。 「……ああ、そう。 よくわかってくれるじゃんか。オレはもう、一歩も動けやしないよ」 ひどく熱のない声は、何もかもが腑に落ちてしまったからだった。 惑う脚も誰にも伝わらない恐慌も、全てがどこに向かわせればいいものなのかを理解してしまった。 貴方の言う通り最初から答えは己の中にあって、それを肯定することが今、出来てしまったから。 銃口は相手の眉間に向けられた。己が推理したアウグストの死因と同じく、頭骨を効率よく貫いて。 交わされた相手の銃弾は腕が跳ねたせいで致命の一撃を外してしまった。肩の骨が砕け鉛が減り込む。 利き腕の神経を元に戻すにはどれだけの賭けをせねばならないだろうか。その時点で暗殺者は死んだ。 それ以外の生き方もできないのに、ヒットマンでさえあれないならその価値と意義は一切を失われたのだ。 相手の姿がぐらつくのを見て照準を下げる。もう一発は胸元へと。心臓が傷付けば血が溢れる。 確実に殺すための二発。省みる必要が無いが故の二発。己の姿を隠す必要はもう無いのだから。 血の流れる腕は相手の体が痙攣を止めるまで向けられていて、呼吸の音が途絶えてやっと下された。 銃を握ったままの影法師を、銃を握ったままに見下ろしている。 「──Addio. コルヴォ・ロッソ」 (-155) 2022/08/29(Mon) 19:52:32 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォそれから先は、どうしたっけな。 死体から服を剥ぐのも億劫なくらい片腕が重くて、そのままフルタングナイフの刃を入れた。 関節に刃を差し込み、ナイフのハンドルを足で抑えて軟骨を寸断してようやく死体を小さくしてやった。 それを、先程まで動いていた火葬車の中に寝かせた。入れ替わり、立ち代わり。 ここへ連れてきた彼女の灰を退かして、見様見真似に 異端者の地獄 へと押し込んだ。誰が来るのかもわからないのに、扉の向こうで燃える様子を眺めている。 いくらかに分けて、ひどく手間と時間を掛けて。ひとつ、ふたつ。全て灰になるまで。 途方もない時間は、宵の口の空をすっかりと昏れきった星色に変えてしまった。 そんなことをする義理なんてなかったし、望んでいるかどうかもわからないのに、 勝手にこんなことをしたところで文句を言う人間だって居やしないのだ。 自己満足、或いは酷く曲がりくねった感謝のつもりだったのかもしれない。 貴方の言葉と弾丸は、男をもう行き先の決まりきった道に押し込んだのだから。 最後のひとかけを押し込んで火を入れてから、腕の痺れが酷くなった頃に漸く離れた。 きっと用意周到な彼のことだから、あとのことを自分で何とかする手筈なんてのは済んでるんだろう。 遠くの街は祭りの最中とは言えすっかり静まっていて、そこから聴こえる音なんてのもなかった。 夏の気配だけが、なんでもなかった一週間を見下ろしてそこに或る。 血の滴る腕はそのままに、配達車へと戻っていく。片手には、娼婦の片割れであった灰。 焼け付いた死の匂いだけが、男の背中を押している。 エンジン音を最後に、廃倉庫からは誰一人いなくなってしまった。 もう、だれも。 (-156) 2022/08/29(Mon) 19:54:56 |
【独】 天使の子供 ソニー対向車線にさえ誰も通るもののいない僻地から伸びる道を、白いバンが駆けていく。 片手でハンドルを回し、助手席には女の焼けた灰を乗せて。 ハイビームが照らす道は、星明かりのために思いの外明るく感じられた。 「……なあ、ビアンカ。オレさ、お前のことお前んとこの子らに渡せる自信ないよ。 ヴェルデが持ってかれたところ聞いてたら、撒いてでもやれたのにな。 でももう誰にも会うつもり無いんだ。だから、書き置きだけで済ましちまうけど、ごめんな」 配達車は、花屋の倉庫へと押し込まれた。ドアの継ぎ目からは、溜まった血が滴っていた。 だから朝になれば店主が見に来て、中にあるものには気づく筈だ。誰に渡すべきかの意志も。 この花屋は唯の表稼業ばかりじゃなくて、みかじめ料の受付だったり資金洗浄の窓口だ。 ファミリーの息の掛かったきちんと託すに値する人々であり、野放図に投げ出したわけではない。 灰になった上半身がゆくべき先なんて、神の元へゆけないのだから他のどこともわからないのに。 誰か、何か。遺される人々の元へと渡るようにだけはきちんとしておこう。 (-160) 2022/08/29(Mon) 20:17:58 |
【独】 天使の子供 ソニーそして、彼の運び込まれた病院へと足を運んで。 残された先の20年を、託されたのだろう未来をふいにして。 代わりに貴方の薬指へと、ささやかな愛を贈る。プラチナに比べればチープで子供らしいものだ。 ジェイドとアーモンドは、けれども言葉通りの贈り物のつもりでさえないのだろう。 ロマンチックな誰かの決めた意味でない。どちらも、己自身。 神様の元へ貴方が行った時に、見下ろした風景の中に己の瞳と同じ色があったなら、 少しでも思い出してくれるかな、なんて。子供っぽくていじましい、自信のない誓いなのだ。 そこに、その位置に輝く煌めきに意味を見出すのだなんて、自分のほうだけだと思っていたから。 涙を拭った左手に、いくらか星の色がきらきらと反射した。 お別れだから、なんてはっきりとした意識のために涙が出たわけでもなかった。 ただ、貴方がもう名前を呼んでくれないこと、頭を撫でてくれないことがわかってしまったから。 もう随分と大人らしくごつごつとして、貴方の手でも包み込めやしない手も。 人を効率的に害する為だけを目的として鍛えた、随分と堅くなってしまった体も。 言葉ほどには厳しくない指先が触れてくれることはない。 貴方がいなければ幸せになれない、なんてことはない。それほどの己惚れは持ち合わせていない。 ただ貴方が願った自身の未来だとか、楽しく笑っていられるような世界だとか、 そういうものを託されて目指すには交わした言葉は少なすぎて、まだ話したいことがたくさんあって。 あとほんのちょっとだけ指を伸ばして、声を聞いて、ほんの些細な望みが叶えばよかったのに、 それさえ出来ないままに背を向けてしまった己を許すことが出来ないだけの話だった。 ねえ、オレはあんまり頭もよくないからさ。 ちゃんと教えてくれないと、わかんないよ。 教えてほしいことが、たくさんあったんだ。 家の鍵をかけ、廊下と隔てる鍵をかけ。バスルームに鍵をかけて、窓を閉める。 思い出の中のメロディは、時々貴方が歌ってくれたものだ。覚えているかな。 「……♪……♪……」 (-162) 2022/08/29(Mon) 20:34:09 |
【置】 天使の子供 ソニー本名:ソニー・アモリーノ(Sonny Amorino) 死因:頭蓋部の損傷 発見場所:自宅バスルーム 遺体の様子: 頭部に二発、肩に一発銃撃の痕あり。頭部と肩からはそれぞれ別の口径の弾が摘出された。 一発目は喉から視床下部の下を通り後頭部へ抜け、貫通して後ろの壁に突き刺さっていた。 再度引き金を引いて、二発目は頭頂葉へ食い込み頭の中に弾丸が残っていた。 発見場所までの道は完全に施錠され、また荒らされた形跡もなかったことから、 拳銃は本人の所持物であり、自殺であると認定した。 器官のいくらかは壁にへばりつき、眼球からはすっかりと水分が抜けていた。 死亡から発見までは数日が経過しており、発見時には既に腐敗が進んでいた。 (L33) 2022/08/29(Mon) 20:44:09 公開: 2022/08/29(Mon) 20:45:00 |
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 エピローグ 終了 / 最新