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【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ最初から本当に友達になりたくて近付いていたわけではない。最初は偶然から。 或いはいつからか男は貴方の素性を探って、ひとつの失われた者に近しいものを見つけたから。 甘やかな絆を築くつもりではなくなってしまったのだから、貴方の瞳に映る色も。 男にとっては知ったことではないし、その逆も同じだ。 此処で何を説かれたところで、何を変えられるわけじゃない。きっと納得しない。 罅の入ったまま幹を育てた植物はいつまでもその内側に傷を残したままに育つ。 いつか傷ついたままの幼いままの心は、他人の言葉で納得するほど良い人間ではない。 「……逃がそうとしてたんだ。こいつが面倒見てた子供と一緒にさ。 こいつらはオレたちの争い事なんかとは殆ど関係ない身分のやつだから。 自分は何処にも行かない、ここに残るなんて言うもんだから、どうにか説得しようとしてて。 逃がすつもりだったんだ。どっか遠く、別の生き方の出来る場所まで……」 説得しなければならないということは、彼女の望みとは違えたもので、勝手な押し付けだった。 それを喜んだかもわからない、けれどそうすべきだと思っていた、それは全て破綻したが。 相手にとっては少しも関係のない話は、同情を買うつもりというでもないのだろう。 後悔だとか、無力感だとか。耐えきれないものと向き合えば吐露せずにはいられなくなる。 死体はころりと分厚い毛布の中に転げて、座席から少しも身じろぎせず降りようとしない。 幅の圧迫痕のある両手首の先にある爪先には、新しく塗られたネイルがエナメルのように輝いていた。 中身のないからっぽの胴体は、頭は、折れた骨と伴う肉は直しきれずにそのままで、 その凄惨さが軽減されたわけではなく、ギャップが余計に物悲しいものを思わせた。 大事にしたかったのだ。友達のつもりだったから。それも手遅れなら全てが無意味だ。 相手の答えが欲しい訳では無い、けれど。壁と話して溜飲を下げられるものでもなかった。 → (-61) 2022/08/27(Sat) 13:10:06 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォわかった、と頷いて運転席に乗り込む。助手席は空いているから、座れやするだろう。 そこにもいくらか花びらが落ちている、干からびたものはなくて新鮮なもので。 まともに体と頭が動いているうちは、きちんと掃除されていたのだとわかるだろう。 裏の顔と表の顔が混在する。つい最近まではそういう場所ではなかったのだ。 エンジンキーを回せば、少し古びたエンジンが起動し始めた。ギアを入れて、夕闇の中を走り出す。 手はハンドルとギアを行き来して、その間に狙われたなら簡単にとは言わずとも殺されていただろう。 片方が何も出来ないのが理由で、どちらも血を流すことはなく車は走り続ける。 都市部の郊外から郊外へと抜けていく道中は、誰に邪魔されることもなく静かだっただろう。 今も尚互いのファミリーを狙う問題が解消されていない今であっても。 「ビアンカを、こいつを狙ったのがアンタらじゃないのはわかってる。 ……そう構えなくていいよ、疑ってるわけじゃないから。他はともかく。 アンタが、オレがやったことをどれだけ知ってるかもはわからないけど」 そろそろようやくはっきりと、言外に己が何者であるかを明かした。 本当なら、普段ならそんな無意味なことはしない。幾らでも黙ったまま取り繕う方法はある。 迂回せずに会話を続けることが気怠くなったのかもしれない。もうそんな必要さえないから。 さして車は走り続けたわけでもなかったろうに、長い長い道中。 ぽつぽつと時折口を開いた時に出てくる言葉は、以前よりも迂闊にさえ思えるものばかりだ。 相手がそれを気にすることはないだろうから、ただただ事実の羅列でしかないのだろうけれど。 (-62) 2022/08/27(Sat) 13:10:30 |
【秘】 グッドラック マキアート → 天使の子供 ソニー「こんな、ッ!ことで─── ハァ、死んだら、恨むからな……」 なんてことを口走るんだ、と叱るようなニュアンスを込めて。つられて苦笑をするものの、力強い突き上げに耐えかねて直ぐに表情はだらしなく崩される。 アナル全体から奥の一点まで甘い痺れを訴え始めたころ。散々嬲られたところを包み込まれる感触がすると、ひゅ、と息を呑む音がした。 腰を逸らそうとしても今度は杭のように突き込んで前立腺を擦るそれが許してくれないどころか、より一層絶頂へと押しやってきて、肌を打ち付け合うたびに気が狂うような射精欲が込み上げてくる。 「んはァッ、あっ、あぁ゛! わか、った、わかった、から……ぁン!」 天を仰ぎ、甘い善がり声で鳴かされる。こんなの直ぐにどうにかなってしまいそうだ! ただその中で、意図をなんとなく察する。向こうも限界が近いのだろう、背中に整えられた爪を突き立てたり掻き抱いたりして、一身に受ける快感への抗議としておいて。 けれど相手の顔を立たせるべく、抗わず瞼を閉じて腰から全身までに駆け巡るエクスタシーを懸命に拾い上げようとする。 蕩けきった声で名前を呼び、イキそうなことを何度も伝え、情欲に突き動かされるまま可愛らしく吠えた。 (-71) 2022/08/27(Sat) 19:55:49 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニーあなたの素性にも、その腹の底にも、大して興味は無かった。 仮令何者であったとしても、もう誰も懐に入れるつもりは無くて。 初めから、これは何処までもそんな薄情な人間の言葉なのだから。 そのようなものが、誰の心に留まるなど期待するはずもない。 何れにしても、確かな事といえば。 あなたが何者であっても、掃除屋にとっては重要な事ではなかった。 あなたは死者の前で無粋な真似をするような人間ではなかった。 今はただそれだけが判れば十分だった。 「だが、何も得るものは無かった。」 「あんたも、あんたが手を差し伸べてやろうとした相手も。 少なくとも、あんたの思ったようなものは、何一つとして。」 死者は黙して語らない。 少なくとも、凡そ大半の人間にとってはそうだ。 ともすれば、それ以外の何かは得ていたのかもしれない。 それでも、あなたがそうして描いた望みの通りにはならなかった。 だから生者にとっては、今ここにある事実だけが全てでしかなく。 日常の中、薄っすらと死の気配が漂う車内は、静かなものだった。 死者は何も語らず横たわり、及ばなかったあなたの思慮を物語る。 後には破綻した願望の跡と手遅れの悔悟ばかりが虚しく転がって。 心の軋むようなその独白を、慰めるようなものは何処にも居ない。 その疵に寄り添うようなやさしい答えなどありはせず、 けれど、物言わぬ屍体や壁と言うには幾許か聞く耳を持って。 それを聞き届けるものだけが、確かにそこにあった。 (-72) 2022/08/27(Sat) 20:02:00 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー対話とも、一方通行の話ともつかない距離感の助手席で。 夕闇の中、目的地へと着くまでの、長くも短い道中の事。 取り繕わないあなたの言葉を聞いて、息吐くように笑った。 「俺があんたの仕出かした事を幾つか知っていた所で、 今更何にもなりやしませんよ。 起きた後に何をしたって、そこには何の意味もありはしない」 「後には何も残らない。たった一つ、俺達の、後悔を除いて。」 持ち込まれた遺体に何ら関わりが無いのは、言うまでも無い事。 あなたが何をしていたとて、何もしないのも本当の事。 無い仮定として、あなたが唯一の友人を殺めていたとしても この掃除屋はきっとここで何をしようともしなかっただろう。 「…そうは言っても、腹の底も知れない人間の前で、 ちっとも構えもしないなんてのは。 それはそれで、却って疑わしいもんでしょう?」 なんてのは、今のあなたの様子を鑑みれば 随分と皮肉の利いた言葉になってしまうのだろうけど。 たとえば付け入る隙があれば、誘い込むような怪しさがあれば。 魔が差す事は、或いは猜疑が首を擡げる事はあるだろう。 掃除屋は、相手が身内であっても、それ以外であっても。 何れにしても、同じだけの線を引いていた。 互いにそれをしない為の均衡は、必要なものだった。 事ここに至ってしまえば、それも不要なようだったけど。 (-73) 2022/08/27(Sat) 20:02:31 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー「結局は。さっきも言ったように、後は時間潰しなんだ」 「俺はこの後どうなろうと構いやしない。 あんたも、そこの知り合いを連れて帰ったら…… その後は、どうなるんだかな。」 回りくどく取り繕う事を止めたあなたの言葉は、 もはや殆どそれなりの事をしていると白状したようなもの。 そこには幾らかの差こそあれど、それはこちらも同じ事で そして今している事も、互いに随分と勝手な事だろう。 いったい、自分勝手に行動を起こしたツケというものは。 果たして誰にとって、どれほどのものになるのだろうかな。 結局の所、掃除屋もあなたに答えを求めてはいない。 互いに何を語った所で、恐らく殆どは互いに殆ど関係の無い話でしかなく、 だから何れに答えが返って来ようと、或いは何も無かろうとも。 きっとじきに二人と一人を乗せた車は目的地へと着いて、 そうしてきっと、この夜もまた、一つの死が葬られる。 名もなき烏の仕事場たる僻地の廃倉庫。 広くがらんとした庫内には、あたかもそこがガレージであるように 花屋のものとは違う、一台の商用バンが乗り入れられている。 暗い夜に、内部全てを照らせるだけの灯りは随分と目立つものだから。 灯されるのは幾らかの作業灯だけ。 薄暗く、人の営みの気配の感じられないその場所は、 ともすれば、その倉庫そのものが、一つの棺のようだった。 (-74) 2022/08/27(Sat) 20:03:21 |
【秘】 デッド・ベッド ヴェネリオ → 天使の子供 ソニー噛まれた指をわざとらしく痛そうに振って立ち上がった。 冷蔵庫に入っていたのは男の得意料理。あえて教えてもいないが主食であり娯楽のひとつであるのは既に知られてもおかしくはない。 もっとも仕事ですら分け与えているのは20年来の友人と直属の部下ぐらいであり、プライベートでの付き合いなんて当の昔に潰してる上に、今では足を揺らして座っている子供ぐらいとしか面と向かって話さないのをきっと彼は知らない。 電話で今では何でもすむ、聞かれてもいい内容だけを話すのは厄介だが少しでも接点を作らないことが他人に疑われない秘訣だ。 伝えてやる機会なんて早々ないだろう、関係はないと言うにはあまりに冷たいがこれから離れ離れになっておかしくないのだ。向こうもファミリーからノッテの悪態をどれほど吹き込まれるかわかったもんじゃない。 「ブラーヴォ、ソニー。 相変わらず花が好きだなお前は、祭りならどこでも花が見れるだろ……まあ暖かくなってくるこの時期は嫌いじゃねえけどよ」 食べかけのタルトタタンを取り出し調理台の上に乗せ、一人分を綺麗に切り取れば残りの半人前は全部自分用に。 食事代わりにもしている甘味は、林檎の蕩けた甘味が凝縮されたような琥珀色をしていて作りなれているのがよくわかる。 「なんだ、まだ何かあったのか? 思い付かないな……教えてくれ」 表情からしていい報告なのだろうか。 お互いの機嫌や回りの視線を気にしなくていい最後の時間かもしれない、そう思っていた男は努めて気さくに。普段通りと、名残惜しさを含めて再び隣へと向かう。 銀のフォークを並べる頃にはその顔を覗き込もうとした仕草を抑えて、時間をかけて挽かれた珈琲へと手を伸ばしていた。 (-77) 2022/08/27(Sat) 21:21:28 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 銀の弾丸 リカルド「いいんだ。どうせもう会いには行かない」 しばらくは。この時にはまだそれくらいのつもりで、本当に二度と会えないとは思っていなかった。 知っていたならばもう少しくらいは考えた行動が出来ただろうか。それとも、余計に錯乱していたか。 互いに知ることの出来ない朝日の色を、想像したところで意味がない。 けれど相手の感じていたように、素のままの自分を見せていたのは、たった一人にだけだ。 手が届かないと思っていて、見上げるばかりだと思っていて。 手に入るなんて思っていたならもっとずっと、何もかも振り切って何でも出来ただろうに。 二人分の体重と身悶えを受け入れて、柔らかいソファが大げさなくらいに音を立てる。 初めは殆ど強引にこじ開けているようであったのも、ごくゆっくりと引き抜いて、押し込んでを繰り返すごとに段々と少しくらいは身動きがとれるようになってきた。 流し込まれた潤滑液を絡めて、体の中をぐらぐらと茹だったような熱が動くの感じるのだとしたら、 神経に由来する快だけでなく、痛みや単純な体温の上昇のためもある。 信号の全てを撚り集めて錯覚させたなら、それはそれは随分と脳を揺さぶるものだろう。 脳髄を突き抜けて飛び出すような快楽も、異常なほどに目の前を眩ますような昂揚感も。 精神論の一本で耐え足掻こうともままならないから、それは罪であり、薬なのだ。 「どんだけ吠えたって外には聴こえやしないから、安心してよ。スタッフにも少し騒ぐと伝えてある。 ……こんなのさ、味わったことないでしょ? クセになっても困らない状況で、良かったね」 空間を押し広げて奥まで突き込み、雁首の抜けそうになるまで腸壁を引きずる。 肉がぶつかるたびに、流れ落ちる液体が卑猥な音を立てた。それも耳に入ってるやら、どうか。 元々こうした行き過ぎた行いが好きな訳では無い。自分の気分を乗せるために、上体を傾ける。 背中を見下ろして、短い髪を指で梳いて。過剰に巡る血流の為に赤く染まるだろう首筋に触れる。 シャツ越しの肌が、背中に寄せられた。 → (-79) 2022/08/27(Sat) 22:02:54 |
【独】 天使の子供 ソニー果たして本当はあの日、自分はどうしたかったのだろう。 誰かに殺されるくらいならと恐れて、焦って。その前に自分で手をくださなければならないと思った。 それが叶わず指が震えるのなら、どうか殺して欲しいとさえ考えていた。 けれども結局は、向かい合う誰かに何を伝えるのも尻込みしてしまって、喉がつかえて。 何も言い出せず逃げるようにその場を後にしてしまった。 振り返ってもう少しだけでも言葉を交わしていれば、己の意思を伝えていれば。 何か違う結果を手にしたのだろうかと、今になってもそう思う。 それは敬愛だったし、性愛だったし、甘やかな思慕であったのだろう。 なんだってよかった。傍に在れるならどんな形であってもよかった。 それが壊れるのも、一度突き放されたように距離が離れたのも怖かった。 舌先に僅かに残った薬が己を錯覚させる。求めるものはこの場にはない。 けれども増幅された共感は、夢見る思いをほんのすこしだけ表層に押し出した。 (-78) 2022/08/27(Sat) 22:03:06 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 銀の弾丸 リカルド「、ずっと。こうしたかった」 腕を回し、自分よりも背の高い体を抱き寄せる。そうだ、多分これくらいだ。 微かに鼻に触れる甘い匂い、煙草の匂い。虚しいだけの錯覚を後押しする。 一度決壊し掛けたものがつんと鼻の奥をなでて、少しだけ声を震わせた。 ほとんど自分が満足するためだけのピストンを繰り返しながら、肩に頭を埋める。 首筋に、やけに控えめな浅い鬱血痕が残された。唇は柔らかい。 「先生、」 (-80) 2022/08/27(Sat) 22:06:24 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 風は吹く マウロ触れる位置にあった顔の距離が離れれば、ようやく息がしやすくなる。 けれどもなんだかそれも寂しがるみたいにちょっとだけ追って顎に顔をくっつけた。 潤滑も足りず未だ浅く触れているだけの指は、感触で相手が初であるのは理解したらしい。 「ダメ? 体験、してみたくない?」 けれどもそれでは退かず、追い縋る。大した意味はないんだけれども。 どうせするなら、という欲求が半分ほど、 殺すのならば不利な姿勢は取りたくないのが半分ほど。 そんな我侭ぶったようなやりとりをしている間にも手の甲は動いて、ボトムの後部をずらす。 素肌に感じられる外気の気配だって、酒気に追いやられてあまり気になるものじゃないだろう。 指を動かしやすくなったのなら、ポケットから個包装のローションを取り出して封を開ける。 やたらにビビッドなピンクの液体を指先に絡めて、相手の下肢の付け根に押し込んだ。 この日の為に持ち歩いてるのだかいつもなのだかは知らないが、遊び慣れた様子なのは確かだ。 前は相手の手先にまかせて、指は肉の輪に染み込ませるように動かす。 柔く馴染ませて、その先の行いが苦しくないように。時折、違和感をごまかすようにキスを重ねる。 しばらく指が一本入るくらいまで捩じ込むと、片腕で相手の膝を担ぎ上げた。 後ろを向かせるよりかは恥ずかしい格好じゃあないだろう。背中は少し擦れるかもだけど。 男の方が背は低いから、相手が片足を調節してさえくれればさほど苦しい体勢ではない。 「……ガマンしてるんだったら、遠慮しなくって、いいよ」 どちらが女役かというのを変えるわけではない。けれどもし相手が何かこの交合に引け目があるなら。 それを弾き飛ばせるくらいには、何もかも忘れられるくらい楽しんだほうがいい、そうだろう。 (-83) 2022/08/27(Sat) 22:59:58 |
【秘】 天使の子供 ソニー → グッドラック マキアートケラケラと笑う声は気の緩みのせいかもしれない。笑って喉が震えるのが耐えられず慌てて息を整えた。 ひとりで取り残されるのはいやだ。だから、相手にも手を伸ばす。 時折鼻を抜けてくうくうと鳴く声が、背伸びして振る舞いきれずに甘く空気を揺らす。 こうした行いの為よりかは仕事のためだろう爪が掠るのを、ため息のような喘ぎが迎え入れる。 「、は。……カフェえ……」 そのくせ返す声と言ったらなんとも弱々しくて、すがりつくみたいにしようもない。 この男はよく名前を呼ぶ。甘えて、追い縋って。狂おしく感じているのを知らせるみたいに。 わかりきった患部を何度も押し込むようにぐりぐりと責め立て、均整の取れた体を掻き抱く。 どちらもおそろかにせずにというのは難しくて、それでも男なりに頑張ってみせる。 姿勢と身長差のせいで顎下ばかり見える視界、その先を柔く唇が吸い上げる。 その頃にはちょっとばかし気遣いも頭の外に追いやられて、夢中になっているかもしれない。 押し返すように、包み込むように陰茎に刺激を与える中の蠕動に眉を寄せて、 捉えた快感を逃してしまわないように身をよじらせて。 「っ、ふ……!」 ひときわ弱々しい声を上げて、背筋が震えた。薄いゴムの中へと精液が放出される。 幹の中を通り開放される感覚に息を途切れさせながら、振れてしまいそうな呼吸を整えて。 何度か腹筋にぐっと力を入れてからようやく体を脱力させた。 なんだか、悪いことをしたあとの子供みたいに瞼を絞り、おそるおそる相手を見る。 (-85) 2022/08/28(Sun) 0:00:26 |
【秘】 銀の弾丸 リカルド → 天使の子供 ソニー会いには行かないという言葉に、 器用そうに見えるのに、本当の貴方はとても、不器用な人間だなと思った。 それはあの方も、自分も同じだ。 誰か一人でも器用に動けていたなら、今このような事態にはなってはいなかっただろう。 ――だけど、そうなってしまった。 もう何処にも引き返せやしないのだ。 「は、ぁ、っあ”、あっ」 まるでイイ所探されているかのようなゆっくりとした動きに、身悶えした。 もっと、感じる間もなく痛みだけを与えてくれれば、こんなに苦しむことはなかったと思うのに。 貴方が、俺に良くする理由がわからなくて、混乱して、尚もその意識は快楽の海に溺れていく。 潤滑油を頼りに、中でごり、と何かを抉るように擦られれば、一際大きく鳴く声が上がっただろう。 もうそこに、普段の仏頂面の幹部候補など居やしない。 本来ならば排泄期間である場所が、濡らされて受け入れている。 雄を受け入れてきゅうっと締め付ける様は、雌にでもなってしまったかのようだ。 響く音も、擦れる感触も、痛みも、優しさも。 楽しんで性行為をしたことなどなかったから、それは正真正銘今まで感じたことがなかった快感で、頭の中をどろどろに溶かされている気分だった。 ▼ (-86) 2022/08/28(Sun) 0:08:15 |
【秘】 銀の弾丸 リカルド → 天使の子供 ソニー恨みと嫉妬をぶつけられているのはわかっている。 自分が欠片でも好かれているとは思っていない。 自分が向けた好意にもにた感情と同じ物が返ってくるのではと思うのは、烏滸がましい、独りよがりな思考だ。 髪を梳かれ、温かい何かを背中に感じた。 それまで体の自由を奪われ、身悶えして捩ったり跳ねたりするだけだった体だったが、 包み込むようなそれが、腕であることに気づいた時には、はた、とそのの動きを止めて、 何が起きたのかとぼんやりした頭で考えたが、首筋を吸われて落とされた言葉に 今、背中にぴったりとくっついてきた男の目に、自分が何に視えているかを理解してしまった。 ――本当に、悲しいくらいに、 想いの一方通行しか、ここには存在していない。 「―――……、腕を解け。 これじゃ、お前の頭を撫でてやれないだろう」 あの人ならば、きっと、そうしてくれるだろう? (-87) 2022/08/28(Sun) 0:09:14 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ独り言、独り言だ。決して同情して欲しかったわけではない、では何を求めていたのか。 言った当人とてこれといった展望のあるような話ではないのだろう。 けれどもこれ見よがしに突き放されたなら、それを侮りとしてとったのかもしれない。 男が反応したのはどの言葉だったろう。ひょっとすると流れるような跳ね返しの全てか。 ハンドルを切り、カーブを過ぎて真っ直ぐな道を前に見据えたところでちらとミラーを覗いて。 頭の位置を確認すると、上腕と手首を固めて反動で打つように、 相手の顔に向かって裏拳を放った。 「……口の利き方に気をつけろよ、根暗野郎。掃除屋なんだろ。 オレにはいい、でも他人の結果については利いた風な口して語るなよ」 尤もらしく言葉を付け足したところで結局のところ相手の言葉が癪に障ったに過ぎない。 ただ、執拗に突き放されるように幾重にも渡って重ねられたなら、耐えられなかったのだろう。 線引だって行き過ぎればただの対外的な嘲りだ、そう言いたかったのかもしれない。 ただ、車中でそれ以上相手に手を出すことはなかったろう。お返しも一発なら看過したかもな。 段々と地平線向こうの太陽もまた、深く深く見えない向こうへと潜っていって。 アスファルトを照らす光は月光のそれに変わりつつある。 最早誰を相手が手掛けたか、なんてのは仔細に問い詰めるべき対象ではなくなっていた。 漠然と憎悪はある。けれどもそれを上回って無力感が強かった。 今更何をしたところで状況に変わりがない、そう骨身に滲みすぎてしまったから。 倉庫の中へと車を乗り入れ、都合の良いところで停める。運転席をおり、後部座席を開けて。 半分しかない女の死体を、ごく丁寧に抱えあげて目線で指示を仰ぐ。 既に肌の下の肉は腐臭に変わりつつあった。発見場所は水辺に近かったから。 それでも決して、粗末には扱わない。その後は切り刻んで燃やすのを了承しているくせに。 目に見え、己の手の内にあるうちだけは丁寧に扱おうと、そうしていた。 (-88) 2022/08/28(Sun) 2:04:57 |
【秘】 天使の子供 ソニー → デッド・ベッド ヴェネリオどれくらい会えなくなって、どれくらい態度が変わって。 少しずつ変質していく互いの距離がどんなものになるかなんて、想像もしていない。 足を揺らして相手が帰るのを待ち望む仕草は、なんだかんだと今と変わらないことを期待している。 「好きだよ。散る花でもオレにとってはひとつひとつが思い出。 思い出せる記憶はなくても、それそのものが大切なんだから」 季節ごとに贈られる花は青年にとっては両親の思い出だった。 その時はそう思っていた。 一人息子を手放し、便りも少ない薄情にも思えるそれを、青年は大事に受け取っていた。 親というものの存在する人々に囲まれた環境ならまた受け取り方は違ったかもしれない。 皆にとってその思い出なんてない孤児院の中だからこそ、大切だと思えたのだ。 本当はとうにそこには、見たこともない二人の男女の意思は消え去っていたとしても。 焼き菓子の、まだふんわり鼻先をくすぐる甘く香ばしい匂いに頬を緩める。 煙草の匂いに、甘い匂いに、珈琲の匂い。いつからかいつだってそれを求めていたのかもしれない。 不良少年の口先から香るシガリロの煙が何を内包しているか、貴方は気付いていただろうか。 「一応さ。一人前になるわけだしさオレも。タトゥーパーラーでちょっと一筆入れてもらったんだよね。 ……見る?」 報告そのものは別段変なものでもないし、多少やんちゃではあるもののありふれた話だ。 行儀や品性は悪くはあるものの、年若い人間としてはそうした証を欲しがるものなのかもしれない。 それとして、なんだかにやにやといたずらの一つでも考えているように笑っていて。 貴方が見る、とも見ない、とも返事をしたかどうか、 ベルトに手を掛け、ボトムの内掛け釦とホックを外すと指を引っ掛けてぐっと大幅にずらす。 腰骨の外側右、下着を履いたら隠れてしまいそうなところに。 白で花房を塗った花の意匠が彫られているのを見せつける。 ちょうど部屋に転がされている、祭りの主役とおんなじアーモンドの花だ。 見えているのはタトゥーだけ。他に余計なものは見えてやしない、が。 (-90) 2022/08/28(Sun) 2:37:02 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 銀の弾丸 リカルドこれ程に優しくする必要なんてのはない。丁寧にするということは身体的にも隙が出来る。 わざわざ拘束した腕を己の胸の下に敷いてしまって、縋り付くみたいに腕を絡めて。 ぎゅうと貴方よりも軽い体重を伸し掛けた体は、ぼんやりと体温の上がった手で体に触れる。 汗をかいた髪に、首筋に寄せられた唇は花に指を添えるみたいに柔らかい。 「先生、……好きだ、愛してる。ずっと、ずっと。 好きだった。あなたがオレに優しくしてくれた時から、ずっと」 終ぞ面の向かって言う事の出来なかった言葉が、震えた涙声と共に吐き出される。 伝える相手を違えている。これから男は貴方を殺すのだ。だから伝言というわけでもない。 もしも、だとかたらればを思えば、息をするごとに胸に抱いた熱が溶け出すのを抑えられない。 そのくせ、腕に絡んだシャツを解けという声には無言だけがはねのけるように返る。 単純に抵抗を恐れたのか、相手が伸べたそのものを退けたのかも自分でわからないくせに。 頭の奥底ではわかっている。相手が自分の愛しい人でないことも、口に出来ない己が悪いのも。 肌の上を熱っぽい指が這う。撫で竦めて、全てを掌の内に集めるみたいに掻き抱く。 甘くまとったベチバー、アンバー、キャンディアップル。融け込むように首筋を汗が流れる。 「 ヴェネリオ 、――……」普段は口にしない彼の名前を呼んで、耳朶に声を滑らせて。 はふ、とかすれたような声混じりの息が弾み、合わせるように何度も腰を打ち付けた。 女のようには柔らかくなくたって、きつく扱き上げられ続ければ下腹部に溜まる快は大きく。 随分と長くあったような交合の果てに、奥の奥まで腰を押し付けて体をまるめて。 凍えたようなかすれ声と共に、腸内の行詰りへと長く長く吐精した。 それが終わったにも関わらず、背中にしがみつくように頭を擦り付ける。 固い髪質の束がくしゃくしゃに押しつぶされている感触があった。 (-94) 2022/08/28(Sun) 6:50:51 |
【秘】 銀の弾丸 リカルド → 天使の子供 ソニー例え紡がれる言葉が自分へのものではなかったとしても、その声色は甘く震えて耳の奥に響くようだ。 頭の中が真っ白になっていくようで、どこかに連れて行かれてしまうような気分になる。 「ふ、あっ、んんっ」 快楽に堕ちた瞳には、何も映らない。 ただ、その頬に触れた硬い髪に頬ずりをしてやるだけだ。 受け止めたそれは愛ではなかったけれど、貴方とのこれまでを否定しやしない。 あれはあれで、駆け引きをちゃんと、楽しんでいたから。 でも、今はただ。熱くて、気持ちがいい。 奥を突かれて苦しいのに、たまらない。 名を呼ぶ囁きに、異常な熱がこもった。 ――馬鹿が……俺は、リカルドだ 否定する言葉は口からは出て来ない。 代わりに、絶え間なく嬌声と肌がぶつかる音が部屋の中に響かせて、頬を涙が伝って流れた。 それでも本来なら立ち上がるべき自分のそれは、そういう事なく萎えたまま。 何かせせり上がってくるような感覚が、体をぶるりと震わせている。 もう代わりでも、恨みでもなんでもいい。 ただ、どうか最後まで離さないでいてほしいと、ただそれだけを願って。 「っふ、は、あ、ゃ、ああ―――――っ」 長い吐精を腹の奥に受けながら、全身を強張らせ、震えるように弛緩する。 男を受け入れるのは初めてであったのに、後ろだけで深い快楽に達した身体の力が抜けて、背中にすり寄る頭を自由にさせている。 もう、身体の何処にも、力が入る余裕はなく、 ただ、静かに目を閉じて全てを受け入れていた。 (-97) 2022/08/28(Sun) 16:44:29 |
【秘】 グッドラック マキアート → 天使の子供 ソニー気遣いとか、そもそも身体の動かし方から何も考えられなくなってきて、ただ目の前の男との交わりに同じく夢中になり、目の前がちかちかとしてくる。 より快楽を貪ろうと、気づけば右手の人差し指を自分の乳頭に這わせて弾いて。腸内を圧迫されるたびに喉を使った嬌声がそのまま押し出されていく。恥ずかしくて抑えよう、なんて試みようとすることももうない。 「は、ソニー、いい、もっと……」 顎に舐るような感触にじわとした熱が胸に籠る。歪な形ではあるものの、赤子をあやすような心地でより一層抱きしめたくなって。 だけどせめてもの矜持で邪魔はしないように力は込めず、けど、離れたくはなくて縋りつく。 「あ゛、イッ、……は、ぁあ゛、!」 咳の混ざる、微かに枯れた喘ぎののちに全身を強張らせて精を吐き出した。 そのまま汚れるのも厭わずしな垂れかかり、余韻に浸って。 やっとの思いで身体を離したかと思えば眉間に皺を寄せて、ポーズではあるけれどあからさまに怒ってる、みたいな。とはいえ仕方ない奴だな、という受容の姿勢も見せている。 いちど、深々とため息を吐いて。けれど慈しむような口づけを、額にまた落とした。 (-98) 2022/08/28(Sun) 20:05:29 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 銀の弾丸 リカルド長く吐いた息はひと呼吸ごとにおさめられる。次第に平時の落ち着いたものとなっていった。 ぐらぐらと煮えたような熱を過ぎれば眼の前のある光景は至ってシンプルだった。 身を守るもののない体と、薬に溺れて熱く火照った背があるだけ。 どうして分かっていて身一つで来たんだろうな、なんてことは身勝手な男にはわからない。 会話らしい会話なんてのも、激高ののちには殆ど交わせやしなかった、なんてのもまた勝手な話だ。 言いようのない感情が目の端で汗と混じるのだって、見つめ直して考えやしない。 「……アンタがおとなしいから、工作の必要も少なさそうだ。 楽に仕事できて助かったよ、リカルド。それがお望みだったんなら何より」 いつ、何どきのうちであったなら貴方にとって納得の行く話が出来たのだろうかな。 或いは最初から対話を求めるならもっと別の人間だったらよかったのかもしれない。 託されたものを手放していれば、傷つかずに済んでいた? 細工したベルトから、片手に収まってしまうような大きさのデリンジャーを取り出す。 今の時代においては小型化が進んでいても威力は十二分にある、とはいえ。 こうした穏当なシチュエーションで手にすることを想定していなかったら、 もっと隠しようのない口径を手にしてこの場を訪れて、貴方に向けていたかもしれないのに。 そうしたら一人にすることはなかったし、そうしなかったら三人揃って肩を並べられはしなかった。 汗で湿った髪を指先で梳くように撫でる。 その感触の消えぬ内に、金属質の感触が突きつけられて。 「さようなら、リック。 案外さ、そのピアスも似合ってたよ」 軽薄な一言と入れ替わるように、軽い銃声が響いた。ステージはまだ音楽に包まれている。 フロアを揺らすミュージックは兇弾さえ知らぬふりをして、いつまでも熱狂し続ける。 すぐさま誰かが助けに来る、なんてその時の男は知らなかったし、今でさえそれを認識したかどうやら。 少なくともそれでおしまい、お別れ。その時点では確かに、互いの顔を見た最後だったのだ。 (-101) 2022/08/28(Sun) 20:40:52 |
【秘】 風は吹く マウロ → 天使の子供 ソニー一瞬、性器に触れていた腕を上げて 唾液に汚れた口元を袖で拭う。 そうしたところで、再開されればそれは意味を成さないのだが。 甘えるのが上手な男だ、と顔を摺り寄せる君を見て思う。 何となく、後頭部を支えていた手で襟足の辺りを撫でつけた。 「……チ…1度だけだ。終わったら、忘れろ……」 素直に頷くには、羞恥心とプライドが許さなくて。 口からはそんな言葉が出るけれど、君の触りやすいように少し足を動かしてやる。 何処に触れたいのか、どういった体勢でいれば楽になるのかくらいはわかる。 羞恥は酔いに任せることで紛らわせて、君が用意周到すぎるくらいである様子に 元々それ目当てで誘ったのかと思うくらいだ。 はあ、と熱くなった息を吐きだして。君のしたように、2つのそれを握って気分をたかめていく。 前に気を向けて、後ろに力が入りすぎないように。 時折貪るように自分からも君の唇を奪って、男は行為を止めろと言うことはない。 どうせこの昂りを治めるのは容易でない。であるならば、もう好きにしろと君に体を許している。 だから今は 互いに、満足するまで。 (-107) 2022/08/28(Sun) 22:33:21 |
【秘】 天使の子供 ソニー → グッドラック マキアートそろそろと息を吐いて、もたれかかる体を急かして起こすようにあちこちにキスをする。 痕がつかないくらいの戯れだけど、後戯を欠かしたくないくらいの感慨はあるらしい。 やたらに派手にではないにしろとくとくと騒ぐ心臓が落ち着いた頃に相手も離れ、 そして叱りつけるような目線と交差したなら、逃れるみたいにぎゅっと目を瞑った。 「ごめんってば。仕事邪魔した分はなんか払う、なんか奢る。 駅前んとこにあるパン屋でさあ新しいしょっぱい系のデニッシュ出たからそれで許して……」 相手も了承済みの戯れであるとはいえちょっとやりすぎたのは否めない。 ふにゃふにゃと言い訳じみたことを宣いながら、だらけたみたいに腕をだらりと垂らした。 相手が退いてくれれば最低限服を着て片付けはする、ただすぐにそうとは言わないだけ。 気の済むくらいまでもうちょっとくっついていたいことを、わざわざ口にはしないだけ。 「……ここシャワ〜ってどう通ってけるんだっけ……」 余韻もそこそこに口をついて出たのは、色気もなんにもありゃしない質問だった。 相手が全く考えもなしに、対象的に考えなしの話にノッてくれるわけはないので、 多分手頃なところに都合よく身支度を整えられる場所はあった、はず。 萎えた男根が自然と抜けて解放されたなら、ゴムも縛って撤収準備だ。 建物の外、街を囲む喧騒とは一切無縁の、お互いにとってはわりかしありふれたやりとりだ。 何を見るわけでもなくちらりと扉の向こうを見てから、額へのお返しにと肩口にキスをする。 「なんか。なんも変わんなきゃいいのにな」 本当はそう言う口の呑気さとは裏腹に、どこかに無力感を抱え続けていて。 けれどこの時間のうちだけは忘れられていた。貴重な時間だったのだと思う。 足首にボトムと下着の引っかかった間の抜けた格好をして、椅子にだらりと体を預けて。 そんないつかの、まだ何も起こっていなかったうちの日々の話だ。 (-112) 2022/08/28(Sun) 23:21:49 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー掃除屋というものは、依頼者を取り巻く諸般の事情に対して 如何なる理由があったとて、何を言うのも褒められた事ではない。 常ならば当たり障りのない相槌を返して、それで終わる事。 けれど今そうしなかったのは、どうしてだっただろう。 何を仕出かすかわからない、という後ろ向きな信用は続いている。 随分な言い方をしている自覚も。そうなる事も予想はしていた。 さりとて予想していて何になるでもなく。一度、鈍い音の後。 口の中で呟くように、遅れて広がる鈍痛に小さくぼやきを零した。 「……気は済みました? 他人に知ったような顔をされたくなかったのなら、 あんたはそれをもっと大事にしまい込んでおくべきだったよ」 「それともあんた、俺に何か期待してたんですか?」 その後にもう一度耳障りな言葉を吐いて、今はそれだけ。 何も死者の眠るすぐ傍で口論をしようってわけじゃない。 それは直接的な暴力も同じ事で、報復に手を出す事もなかった。 わかっている。それがもはや内に抱え切れず分水嶺を越え、 心の内から零れ落ちてしまった苦悩の表出でしかない事を。 摩耗しきった精神や思考に正論は何ら正の影響を及ぼさない。 そこに何を求めていたかなんて、あなたにさえ不明瞭な事だろう。 求めるものも、今よりもう少しましな道も、きっとわかりやしないこと。 それをわかっていて、態とその事を考えさせるような事を言う。 もはや正しさでは救われも納得もできやしないのだとしたら。 そんな思考の袋小路に行き着いた時、あなたは何を選ぶのだろう。 やがては自分と同じような考えに至るのだろうか。或いは、それとも。 (-114) 2022/08/28(Sun) 23:58:47 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー今は取り留めの無い思考に考えを巡らせる猶予も無く。 それから程なくして、配達車は目的地へと辿り着いてしまう。 助手席から降りて、男が腕の中に抱え上げたものを見遣る。 既に幾らかその中身を失ってしまった、華奢な女の上半身。 仮に今ここにあるのが全身であれば、話は違っただろうけれど。 けれど半分だけのそれは、解体するまでもないと判断した。 先に倉庫内に停められていた方の商用バン。 特別用向きもなしに連れて歩くには持て余す道具の最たるもの。 火葬車のバックドアを開け、炉内から火葬台を引き出し、 先に炉に火を入れて、男の抱えた遺体を火葬台に寝かせた。 そうして遺体を横たえた台は炉内へと収められ、 それきり火葬炉の扉は重く閉ざされて。 それが彼女の姿を見た最後の光景になる。 火葬に掛かる時間は焼かれるものの体格や体重に左右される。 女性の、それも上半身だけであれば、そう長い時間は掛からない。 たとえ既にその遺体が朽ち始めていたとしても、 火葬炉というのは、焼かれる臭いは殆どしないようにできている。 やがて、きっとまだ夜が深まり切らない内に扉は再び開かれる。 炉と焼け残った灰から幾らか熱が去った頃。 (-115) 2022/08/28(Sun) 23:59:26 |
【秘】 鳥葬 コルヴォ → 天使の子供 ソニー灰と、幾らか残った骨は台の上から容れ物に移される。 骨壷なんて上等なものは無いから、何とも無骨な保存缶の中。 ただ淡々と納められて、あなたの方へ差し出された。 「どうぞ。連れて帰るくらいはするでしょう」 受け取らないなら、掃除屋の方で"処分"されるだけ。 少なくとも、それはあなたの望む事ではないだろう。 未だ目に見えて、あなたの手の内に戻るものだから。 「それで。先に用があった方は済んだわけですが。 あんたはどうしたいんでしたっけ?」 受け取るにしても、受け取らないにしても。 仕事は済んだとばかりにもう一つの用は切り出される。 あなたは最初に、自分より先に用事がある、と そう言って彼女の事をこの掃除屋に任せたものだった。 であれば結局、それだけが用向きの全てではないのだろうと。 (-116) 2022/08/29(Mon) 0:00:08 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 風は吹く マウロ狭い路地の、他人の視線が通わないうち。 遠くに聴こえる花火の音が大気を震わすたびに息を詰まらせる。 担いだ足を揺すって体を合わせるたびに上がった息が混じり合う。 身動きの取れないなりに押し付け合うように擦り合わせて、抱き合った体がぶつかり合う。 時々かつかつと当たる鼻っ柱に浮いた血の気であったり、腹筋を掠る熱の感触だったり。 混ざり合う熱を確かめるたびに荒く息を吐く。夏の夜気に、浮かされたみたいだった。 息を詰まらせ、吐き出して。互いに上り詰めて、その後だ。 余韻の残る内に胴をぴったりと寄せて、名残惜しむみたいに服越しの肌を重ね合う。 視界を奪うためであるなんてのは、今までの様子からしたら想像し辛いかもしれない。 身じろぎして、視界の外で腕を動かす姿もここまでのことがあったら、他にも想像の選択肢があった。 あちこち動く手は貴方の着衣を正す様子もあったし、納得させるに足る理由があってしまった。 少しまだ鼻の天井の方から甘ったれた声で鳴きながら、ぽつぽつと口を開く。 「……オレはさ、昔友達がいたんだ。四年くらい前かな。 この街で殺された。本当は、行方がわからなくなったって聞いてたけど。 そんなわけないだろうって調べてる内にさ、誰だかにやられたってわかって。 しんどかったな。何も知らずに過ごした時間があるのが余計にしんどかった。 アイツが苦しんだことを無視して生きていたような気がしてさ」 ほんの僅か、眉をひそめて囁くような声で語るのは己のことだ。 この路地を訪れた時にほんの少しだけ話したことの続きなのだろう。 同情に足る話ではあるんだろうが、けれどもどうして今口にしないといけないのだろう。 片足は担いで、壁を背中に押し付けたまま。貴方よりも背の低い男は言う。 → (-119) 2022/08/29(Mon) 1:11:51 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 風は吹く マウロ「数日前、アイツの仇が死んだ」 ありふれた自動拳銃が胸に突きつけられる。貴方の組織が取り扱っているものだ。 一番値段と性能のバランスがよく、下っ端にも持たせるような手頃なタイプ。 言い切る前に銃口が宛てがわれ、言い終わる頃にトリガーが引かれた。 サイレンサーを通した音はやけに滑稽に聴こえた。 「身勝手な話だと思わないか? あの男はジャンニを消したことを清算していないのに。 アウグストが居なくなったなら誰がそのツケを払ってくれるんだ?」 担いだ膝を相手に押し付けるようにして距離を離す。半ばパワーボムみたいに相手を突き飛ばした。 代わりに反動で路地の向こう側へと後ずさって、相手の様子を確認する。 これだけ見たらそう、一見通りすがりに単純に襲われたように見えるだろう? 酒の匂いも火照った体も、急速に現実感の内へと引き戻される。 少しの時間、手応えを確認したなら手にした銃は元持っていたようにしまい込まれる。 「……ああ。案外気分は晴れないもんだな。……やっぱ本人じゃないとダメだ」 独り言のように呟いた男は、身支度を整えながら路地を出ていく。 今までの親しげな様子が全部別人によるものだったみたいに、淡々とだ。 通りでファイヤーワークスの打ち上がる音が聴こえる。 砂利を踏む足は音も無く、白けた夜闇に消えていく。 (-120) 2022/08/29(Mon) 1:13:42 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ貴方は、男が何を失ったと感じていて何が残されていると感じているかなんて、 別段わかりゃしないんだろう。当たり前だ。表層上の情報以外知り及ぶ手段はない。 誰と、どんな関わり合いをしていたかなんてのを探るなんてのは警察の役目だ。 けれどそう、幹部候補であった男やその幼馴染らの事情までは探り当てることは出来なくても、 この数日間のうちに貴方の顔見知りはどれだけ失われたか。 その中にはやけに慣れたような手口で殺された人間がいくらか居たかもしれなかっただろう? はだかの体は、着せられた男物のジャケットごと火葬車の中へと消えていく。 これ以上誰にも辱められることのないように、世界の目を覆うように彼女の体が消えていく。 もしも、引き渡すに値する誰かが生きていたならば彼に渡すことも出来たろうに。 順番を違えたから、もしくは共に逝くことの出来なかったから、こうするしかなかった。 男は中も見えやしない車をじっと、無防備に思えるくらい只々に見つめていた。 何もかもが灰になってしまうまでは、傍に在ろうとするみたいだった。 やがて、夜にさえなってくれない内にあらわれた残響が容れ物へと移されるのを見たならば。 男は首を横に振った。とはいえ、これから起こることを考えたのなら結局は己で持ち去るのだろうけど。 今は、受け取らない。今は、手を塞いだりはしない。 「……今は、いい。そう、用事が、あるから」 歯切れが悪い。今までだったらもう少し滑らかに言葉を交わし、弄していくらでも誤魔化せたろうに。 火葬車から一歩離れ、倉庫を見渡す。誰もいないのを確認したのか、或いは言葉を探していたのか。 一歩。適切な間合いを取るように横にずれた足は、やはり少しの足音も立てやしなかった。 「ずっと追っていた男が、死んだ。 仲間も、友達も。おそらくきっと、父さんと母さんも。 ……ほかの何にも渡したくないくらい、好きだった人も、多分。 人は前向きに生きろって言うんだろうな。生きていく先に何かを見つけて、ってさ」 → (-121) 2022/08/29(Mon) 1:58:06 |
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