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【人】 火澄 七瀬ナイフから彼の指を剥がすことは難しかったでしょう。 ならばと私は、貴方の腕ごとを掴んで動かします。 貴方の手の分、隠れた刃。 胸を貫くには、深さが足りなくなっていました。 ならばと、刺すのは別の場所と。 「 …… 大好きですよ、禎光。 瀬名のこと、よろしくお願いしますね。 」 ──── それが、最期でした。 私は自身の喉に、刃の切っ先を突き刺しました。 (53) 2023/05/12(Fri) 11:35:30 |
【人】 火澄 七瀬吹き出す鮮血の熱が、鉄錆の匂いが、 貴方の手や顔を覆ったかもしれません。 人を貫く感触も、こびり付いて離れない。 …… 最後まで私は、 貴方にひどいことしかしませんでした。 でも見逃して貰えると嬉しいです。 全て忘れてしまうのですから。 最初から、全部無かったことに。 (55) 2023/05/12(Fri) 11:36:25 |
【人】 火澄 瀬名懐から取り出された刃の先が、 薄暗い湿った部屋で、歪に光を反射しました。 時間が止まったかのように全身が固まって、 後から冷たい汗が背中を伝って。 永遠のように長く感じた一瞬のうち、 禎光の声が響くと、その刃先を掴みました。 「 っ ……… 」 (59) 2023/05/12(Fri) 23:36:32 |
【人】 火澄 瀬名その手のひらから零れ落ちる紅に目を背けたくなり、 それと同時に、 決して背けてはならないと、 誰かの笑い声が聞こえたような気がしました。 (60) 2023/05/12(Fri) 23:36:34 |
【人】 火澄 瀬名「 七瀬っ …… 禎光っ …… ……っ……ふたりとも、だめだよ…… ナイフ、離して……ょ…… 」 震えるような私の声が ふたりの耳に届いても届かなくても その刃は七瀬の喉に突き刺さったのでしょう。 止まった時計の針が動き出したかのように 感覚のない足に伝達をしてふたりのもとへと駆け寄り、 七瀬のことを抱き抱えるように座りました。 (62) 2023/05/12(Fri) 23:36:41 |
【人】 火澄 瀬名「 なな …… ななっ、 せ …… ごめ …… ご っ… めんなさい …… 」 吹き出す生温い朱を纏って、 取り返しのつかないことだと知りました。 (63) 2023/05/12(Fri) 23:36:44 |
【人】 火澄 瀬名そもそもそれが、間違っていたのです。 私は……私たちは双子で、 互いのことは手に取るように分かっていたのに。 「 どこで …… 間違っちゃった、の かな… 」 (65) 2023/05/12(Fri) 23:36:50 |
【人】 火澄 瀬名ごめんなさい。 分からなくて。 私が、気が付いてあげられなくて。 私が苦しめていたのでしょう? 全て、独りで背負っていたのでしょう? ごめんなさい。ごめんなさい。 ごめんなさい。ごめんなさい。 ごめんなさい。ごめんなさい。 七瀬はしっかり者のお姉ちゃんで、 私はきっと、頼りのない妹で、 ほら ……… 今だって結局、 (66) 2023/05/12(Fri) 23:37:07 |
【人】 火澄 瀬名そう声を振り絞ると、 七瀬の喉元からナイフを抜き取り、 彼女の心の臓へと、 力いっぱいナイフを突立てました。 苦しむことなく、ひと思いにと言わんばかりに。 ** (70) 2023/05/12(Fri) 23:38:32 |
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