「約束を破っちまったらなんか嫌じゃん。こういう仕事だから信用問題にも関わるしさ。
なんだったかな、トマトとビールとウォッカだった気がする……合ってたわ」

あなたと向かい合って座りつつ、小型の端末でスムーズに確認していた。

「へえ、香水にも色々あるんだ。香水ってキッツいやつばっかりかと思ってたけどそうじゃないんだな。
俺は一度試しに使ったことがあるくらいで全然だよ。仕事的にも性格的にも柄でもないじゃん？」

「…誠実な方だ」

いただきます、小さく呟いてから自分の分のグラスに口を付ける。
広がるトマトの香りとほろ苦さ。…案外好みかもしれない。
「飲みやすいお味ですね、」伝えながら頬が緩むのを感じる。

「種類と付け方によるかと思いますよ。僕は柔らかく香る方を好みますので、そのように。
…出会ったばかりですので、性格について言及はできませんが…、バーナードさんのお仕事なら、届けた際に香りを纏っていても問題ないようにおもいます」

近くにあったキュウリを見て驚いた猫みたいにびっくりした。

「ゲーム前にびっくりして死ぬかと思った。俺も声かけ行くか悩んで寝てたわ、結局起きたの昼過ぎ。おはよ！
なあ今暇してる？暇ならゆっくり話さねえ？」

/*お話しませんかー！

「ごめんごめん、そんなに驚くと思わなかった！おはよ！」

「いいよ〜オレもひま！
どうするかな〜座れるとこ？オレまだ部屋の場所よくわかんないんだよね〜」

/*あるある！お気になさらず！

誠実と言われるならまんざらでもない様子で「だろ？」と笑う。
自分の分も少し喉奥に流し込み、あなたの感想に頷きで同意を示した。

「ははあ、なるほどな。俺ももし使うなら柔らかいほうを選ぶと思うし、今度探してみっか。
性格については確かにそりゃそうだ。俺も印象だけで似合うだろうけどとか言ってたけど、お前の性格知ったら意見変わるかもだわ。なあ、『愛』が欲しいみたいな話があったけどアレどういう感じ？」

「座れるとこ、ソファかベッドかが一番楽なんじゃね？とは思うけど。ちょっと待ってろーシャトに部屋の位置関係教えてもらうから」

暫くの沈黙もといシャトへの連絡時間があって、そちらの端末にマップが送信される。
なかなかに部屋が近い気配がしているぞ。バーナードの近いの概念がバグっているかもしれないが。

「おっしゃ、部屋近いじゃん。そっち行くわ、部屋散らかってるなら今のうちに片付けとけ？」

近かった！きっとここに来るまで時間はかからないだろう。
即ち、猶予はない。

「ちょいまち片付けアダッ」
バサバサゴッ　紙をまとめる音のあとに小指が犠牲になった音があなたの元に届いただろう……

あなたの端末に突然連絡が飛んでくる。うるさいかもしれない。

「よ、ムルイジ。俺今めっちゃくちゃ暇なんだけどお前はどう？暇だったら暇な者同士のんびり話でもしねえ？」

/*お話のお誘いをしに来ました！が、何かしら不都合あったらスルーしていただいて構いませんので……！

「おっとこれは大丈夫じゃないやつ」

音を聞いて諸々察したらしい。部屋に向かう速度をほんのすこーしゆっくりにした。
とはいえ近いからまあ誤差の範囲ではあるのだが。現実は非情である。
ついでにあえて子どものような呼びかけをしながらノックノック！

「カーストールくーん！いーれーてー！」

淡い苦みを楽しみながら、貴方への答えを探す。
グラスの中の赤に視線を落としながら口を開いた。

「対価の事でしょうか。でしたら、その方の『愛するもの』を分けて頂いたり、一時的にでも『愛してもらう』。金銭や物品である場合も、寄り添い熱を分けていただく事もあります。

どれだけ得ても一時的なもの。…けれど、寂しさを紛らわすには良い」

「………このようなものですから、軽蔑される事も少なくはないですが。それでも、独りきりでいるよりは遥かに楽だ」

突然届いた連絡に驚いて、ちょっとだけ端末を取るのが遅くなってしまった。

「ハァイ、バーナード。奇遇ね、アタシも暇してたところよ。
お話ししましょ、……でもそうねぇ、折角なら顔見て話したいところだわ、如何？」


/* ワァイ嬉しいです！宜しくお願いします！

ガタッガタッシューー。

「……おまたせ！どぞ！」
とりあえず全部ベッドの下にスライドさせてきれいな部屋を作り出したカストルがドアを開けた。
完璧だ。

「軽蔑はしねえけど、なんだろ。愛って対価がいらないもんだと俺は思うよ。まあでもアレか、好かれたいとか誰かと一緒がいいとかってのは誰にだってあるわな」

自分なりに納得した様子で頷いている。
あなたの解釈と一致しているかは別かもしれない。

「若干親近感沸いたわ。なんかこう、別世界に生きるきらきらした生き物だと思ってたからさ。これくらい」

指先でちょっとを示している。

「やった、サンキュー。顔見て話すのも問題ないってか寧ろ大歓迎だわ。どうする？俺そっち行こうか？」

端末越しでも分かる弾んだ声が聞こえてくる。
あなたが来いと言えば飛んでいくだろうし、行くと言われればノニジュース^drinkあたりを準備して待っているだろう。

「お、間に合っ……たな！えらい！」

あえて色々見なかったことにする心積もりだ。
他者への思いやりの心。大事な精神だ。多分。

「急に悪かったな、んじゃこれどうぞ。お疲れ様の慰労も込めて？」

そっと牛乳^drinkを差し出した。

「まあね！」
優しさは少年の体面を救った。たぶん。

「わ〜〜さんきゅ！好きなとこ座って！」
歓迎しながら中に入るように促す。この部屋も他の標準的な部屋と同じく、ベッドやソファが置かれている。
……ソファの上には片付け損ねた楽譜が一枚残っている。

「……じゃあこっちに来てもらおうかしら。待ってるわ」

なんかとてつもなく嫌な予感がした気がする。このまま部屋でドリンクを準備させてはいけないような予感が…！

なので部屋にお呼びした。センブリ茶^drinkかミントティー^drinkを用意しようかと思うが果たして。

「はーい、お邪魔します！」

促されるまま中に入りソファに座る。家具自体は大体自分の部屋と似たようなものだ。
が、その上に置かれていた楽譜は自分の部屋にはないもので。

「……お、これお前の？見ていいか？」

「了解。んじゃちょっと待ってろよー」

あなたの予感は実際かなり正しかった。ナイス回避。
ちなみにその二つならバーナードはミントティーを選ぶがセンブリ茶だろうと出されれば頑張る。
何はともあれ暫くしてからあなたの部屋のドアをノックノック！

「よ。バーナードだ。宣言通り来たぜムルイジー！」

あっ。しまい損ねてた……。という顔。
「いいよ〜、……それなんだったっけ？」

もし読めるなら、それが昨日のバナナードの歌だとわかるかもしれないし、別にわからないかもしれない。歌詞は書いていないから。

「たぶん昨日歌ったやつのどれか！」

一方ムルイジはセンブリ茶を手に取り、淹れてみて、一口毒見をし、ミントティーを淹れ直したりしていた。
お口の中が苦い。

とかなんとかしていたら部屋に響くノックの音。
さほど待たせもせずにドアを開けて、部屋に招き入れるだろう。
因みに、まだ荷物もあまり広げたりはしていない、備え付けられたままの内装の部屋だ。

「いらっしゃいバーナード。来てくれて嬉しいわ」

楽譜に目を通した上ですぐに口遊む。脳内再生もできていたけどとりあえず歌ってみて。

「……あ！これ9割バナナの歌だろ！これ曲自体は本当にいいよな、なんか楽しくなる感じする。即興曲、後から全部残してんの？」

すぐ思い至った。そして問いを投げかける。