灯守り 芒種は、メモを貼った。 (a57) 2022/01/17(Mon) 16:36:49 |
【人】 灯守り 芒種── 御手水 ── [ 芒種になって最初の会合も、こうしていたな、と 手洗い場の鏡の前、辛気臭い顔を眺めて思う。 もっともあの時は実際に内臓が出そうな程 ど派手に吐きまくっていたけれど。 慣れぬ酒の加減を誤り気分を悪くした不出来な娘と 若さ故の失敗を寛容に受け止め甲斐甲斐しく支える蛍 なんて老いぼれどもが思い描いた構図は 微塵もアルコールを受け付けなかったわたしの体質によって なかなか愉快な大惨事になったのは 黒歴史でもあり、気に入りの笑い話でもある。 今以上にただのお飾りとして、黙ってにこにこしていろと 命じられるまま、逆らうこともせず、息を殺して過ごした。 次々と知らない相手に挨拶をされ 普段知る顔とは打って変わって愛想よく話す年寄りの後ろで 文字通り、『黙ってにこにこ』し続けていれば 『大人しい子』で『緊張して』いて言葉が出ないのだと 『温かく見守ってやって欲しい』なんて 年寄りどもが庇うふりをして代わりに挨拶をし 勝手に会話に花を咲かせていた。 ] (406) 2022/01/18(Tue) 5:19:50 |
【人】 灯守り 芒種( わたし、いなくていいじゃない ) [ ここにも必要ないのだと再確認したようで 何もかもがばかばかしくなったわたしは 便器に顔を突っ込んで胃の中身をひっくり返しながら 酔っていかれた情緒でげらげら笑い転げて、 おしとやかな箱入り娘という 爺の求める飾りとしての役目を早々にぶち壊した。 面汚しめと罵られ、恥をかかされたと激昂した面々に なるほどそれが嫌がらせになるのかと学んだ結果…… ひとりで出歩けるようになった今がある。 来たかったわけではないが、来たくはなかった訳だが 爺の飾りにされるよりは幾分ましだと思っている。 ] (407) 2022/01/18(Tue) 5:20:16 |
【人】 灯守り 芒種── 回想 ── [ 先々代が最も芒種に相応しいと定めたのは 芒種を継いだ大叔父ではなく 無論蛍止まりの大伯父でもなく 傍系の早乙女に嫁いだ祖母だったそうだ。 それでも女に継がせる事はできないと 先々代は二番目の大叔父を選んだ。 灯守りに男も女も関係ないが そういう考え方の人だったらしい。 一番になれなかった先代は後継を 一番であった祖母の血筋に拘った。 祖母の息子に生まれた父をたいそう欲しがり けれど、灯守りの役目も、芒種を継ぐ血筋も なにもかもを放棄したかった父は、身代わりを作った。 先代が、血筋だけは満足する女との間に、わたしを。 母が誰なのかはわたしもしらない。 聞けば知る機会もあったかもしれないが 聞かなければ未だに知らぬままなのだから もし生きていたとしても、きっと 父と同じ思いで何もかもを投げ出し 外に嫁いだ誰かなのだろうと思い、探していない。 ] (408) 2022/01/18(Tue) 5:42:41 |
【人】 灯守り 芒種[ 父にとってのわたしは自分が好きに生きるための生贄で 先代にとっては男に生まれなかったことが気に入らないが 渋々納得している父の代替え品で 3番目にもなれなかった大伯父やその他 『芒種』になりたい雑多の枝にとっては 先代が引き取り育てる、先代に気に入られた 扱いの面倒な目障りな娘で。 幼い日、自分を取り巻く環境が なかなかにクソだな、と気付いたとき 一度はわたしも全てを投げ出そうとした。 父のように身代わりを用意もせず 従順なふりをして、先代には継ぐ気があるふりをして 先代がわたしに少しでも期待し始めた頃に 突然、姿を消してやろう、と。 聞けば父は血筋に関わらぬ惚れた女を娶ったそうだ。 そんな父のように自由になりたかった……わけではない。 やりたいことなんて思い浮かびもしなかったし それでも漠然と窮屈なここから逃げ出したかったし あとは、ただ、父が困ればいいと思った。 欲しいものを見つけ、手に入れた父が 何もないわたしには、羨ましかったから。 ] (409) 2022/01/18(Tue) 5:45:15 |
【人】 灯守り 芒種[ 逃げ出したところで生活していくあてもない。 自由はなかったが不便もないくらいに箱入りに育てられた 恵まれた小娘のわたしに一人で生きていけるだけの 能力や知識などなにひとつ備わっておらず けれどその頃から漠然と、 先代に送られることが業腹でかろうじて生きていただけで いつ死んでもいいと無気力に生きていたから、 あとさきなんて、何も考えずに逃げ出した。 散歩にでも行く気持ちで、ふらりと。 いつもどおりに耳鳴りみたいな雨が降っている中 傘もささず、履物も履かずに窓から逃げ出した。 もう少しましな出掛け方もあっただろうけれど あの時は今より若く、『かわいそうな自分』に 今以上に、そりゃもう心地よく酔いまくっていたから。 ] (410) 2022/01/18(Tue) 5:46:27 |
【人】 灯守り 芒種[ 鬱蒼と茂る森の中を好き勝手に散策して 無駄に健康だが軟弱な体をしこたま濡らしたおかげで さほど寒くもない日に器用にも低体温で意識を混濁させ 死なない程度に行き倒れていたはた迷惑な箱入り娘を 拾った人の良すぎるもの好きは『素敵な旦那様』なのだと 目覚めた時に傍にいたかわいらしい女性に聞いた。 表情豊かに、ふわふわと、綻ぶ花のように微笑む顔も おっとりとした穏やかな話し声も スキンシップが過剰でやたらと抱き締めてくる体温も 適度な距離を保つ世話係の愛想笑いしか知らぬわたしには 奇妙で、とても気持ちが悪かった。 しらないものは、怖くて、不快だ。 まるで別な星の生き物みたいで、気味が悪かった。 彼女は無知で恩人に無礼なわたしにも親切で優しく 着替え方すらままならない事にもおおらかで、 けれど甘やかすことなく、適度に雑に扱った。 必ず失敗すると分かっていても尚 手伝いにならない手伝いを任せられたりしたし 信じられない声量で喚く爆発物みたいな赤子を ちょっと見ていてと渡されたときは正気を疑いもした。 ] (411) 2022/01/18(Tue) 5:47:41 |
【人】 灯守り 芒種[ 赤子の扱いなんて当然知らない見ず知らずのわたしに おぼつかないあぶなっかしい手つきで抱かれただけで さいしょから、ぴたりと泣き止んだ赤子もまた 正気を疑う訳のわからなさで、気味が悪くて 女性と赤子が正真正銘の母子であると実感できた。 いろんな体液でぐちゃぐちゃな顔を、 この領域では余り見ることが叶わぬ太陽みたいに きらきらと輝かせて眩く笑うその無邪気な笑顔は わたしの影を濃く際立たせるようで、恐怖を覚えた。 どうせ花の名前なら、向日葵にしたらよかったのに。 柔らかな亜麻色の髪をもつ、茉莉と名付けられた女の子は 涎だらけの小さな手をよくわたしに差し伸べてきて 汚いなと、思いながらも、 その熱く湿った手に強く掴まれる気持ち悪さが、 なぜだか不思議と、そんなに嫌じゃなかった。 ……ものを知らないわたしは、わたしの正体を確かめもせず 親切心だけで世話を焼く女性を都合がいいと思いこそすれ 不自然と疑うこともしなかった。 ] (412) 2022/01/18(Tue) 5:53:50 |
【人】 灯守り 芒種[ 怖くて不快で気味が悪かった女性の優しさが わたしにとって心地よいものだと理解できるまで 女性にとっての『素敵な旦那様』は…… ……父は、わたしの前に、顔を出さなかったし 父が話をつけたお陰で 誰に探され連れ戻されることもなかった。 逃がさず、殺さず、保護しておいて 匿うていで恩を売って 愛情に飢えたわたしが容易く彼女たち母娘に懐柔されて 逆恨みをして危害を加えぬくらいに懐くまで。 賢いなぁと他人事みたいに思った。 クソ野郎なのはもとから知っていたし。 事実を知らなかった妻と、夫の間で 何やらひと悶着はあったようだが、それでも 『娘の姉』としてわたしを容易く受け入れようとした やさしく、おおらかで、おっとりしているようで なぜだか不思議と芯の強い彼女は やっぱりわけがわからなくて、 怖くて、こわくて、気持ちが悪かったけれど 慈しみを込めて柔らかく抱きしめてくれる 暖かな腕の心地よさを知ってしまったわたしには もう一度、不快だと思うことは、もうできなかった。 ] (413) 2022/01/18(Tue) 5:56:52 |
【人】 灯守り 芒種[ ある種の生存本能みたいに、或いは何も考えてないみたいに わけもなく無条件に、不思議と母親以上にわたしに懐いた 熱くて湿った重たいおかしな生き物は 今も変わらず、一度だって変わることなく わたしがまるで太陽であるかのように、 ひまわりみたいに真っ直ぐにわたしの後を追いかけてくる。 もうものを知らない子供でもなければ 生き方だって自分で選んで望み掴み取って 立派な一人前の灯守りになってもなお。 ほかの道も見つからず億劫になって成り行きで 『芒種』という名だけを継いで 怠惰にただの飾りで有り続ける 誇れるものなど何もないわたしを、盲目に慕って。 あの子が盲信する幻想みたいな『理想の姉』を いっそひといきに殺してしまえたら…… そうしてあのこがわたしに幻滅してくれたら きっといまよりずっと楽に息ができるのに。 取り繕うよりずっとずっと簡単であるはずの それが未だに、できずにいる。 あの日、伸ばされるちいさなその手の 心地よさを、知ってしまったせいで。* ] (414) 2022/01/18(Tue) 6:00:43 |
【独】 灯守り 芒種/* Q.いい加減誰かに話しかけては如何ですか? A.結構よ、間に合っているわ。 (意訳:誰が誰で誰と何処で何話してるかなんもわからん) (-130) 2022/01/18(Tue) 6:49:41 |
【独】 灯守り 芒種/* いもうとちゃんかわいいね。 かわゆ……ちかよらんどこ。 ゆきうさぎひろっていぢめたいなぁ。 だめかなぁ。だめだね。やめようね。 (-131) 2022/01/18(Tue) 6:51:27 |