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【秘】 Ninna nanna ビアンカ → プレイスユアベット ヴィオレッタ「ふ、ふふ」 そのすまし顔に、なんだかおかしくなったように微笑う。 今度はあなたの匙が進む様子を、楽し気に眺めるよう眸を細めた。 「――はいはい。 まったく、ちょこちょこ溜めた金も多分パアだし。 財産とかいってのこせりゃいいんだけどね、身の安全にも何かと物入りだし……」 金を使ってまでするようなこと──"旅券"の手配やら、なにやら。 彼女が今まで、その体と女を切り売りして得た金は、それこそ彼女の血肉そのものだった。 普段の彼女はそりゃあもう、1ユーロたりとも無駄にしないと鼻息荒く節制に励んでいたものだ。 ――……外見を保つようなことに関しては、必要経費だと惜しまず散財する傾向もあったが。 だけど、消えた。 それらも、全て、埠頭から投げ入れた小銭のように燦々と散って、沈んでいって、 彼女の人生も血肉も全て残らない。 あるのはただ、あなたの中。こうして過ごした記憶だけ。 ↓[1/2] (-21) 2022/08/25(Thu) 20:27:34 |
【秘】 Ninna nanna ビアンカ → プレイスユアベット ヴィオレッタ↓ 「お願いね。 ……ヴィー。 ……ふふ 、……ふふふ、あはは、…は、は、は はっ!! 」名前と視線が、酒精の熱に溶けていく。 あなたの目をじい、っと見つめ返して── ビアンカはいきなり、甲高く鳴り響くクラッカーみたいに笑いだした。 涙まで浮かべて、グラスに僅かに残ったワインを揺らして。 「やっぱ今日デートってことにしない?」 少し身を乗り出して、にんまり、笑った。 [2/2] (-22) 2022/08/25(Thu) 20:29:41 |
【秘】 Ninna nanna ビアンカ → 家族愛 サルヴァトーレ「――うそばー…っか」 最後に君が見たのは、そういってにんまりと、笑う。 まぶしくて、さびしげで、 どこか誇らしげな、ひとりの娼婦の笑顔だった。 (-23) 2022/08/25(Thu) 20:33:30 |
【秘】 プレイスユアベット ヴィオレッタ → Ninna nanna ビアンカ>> ビアンカ 微笑いながら眺める視線に、 今度はこちらが唇を尖らせる番のようだ。 けれど、目が合えば。 ついくすくすと笑いが零れる。 もうそんな歳じゃないというのに なんて思いながら。 「残してあげる気だったのですね」 今までは黙って聞いているだけだったそれを、指摘する。 理由なんて、分からない。気が付いたら口に出していた。 回ったワインの所為かもしれないし、 今日は素直なあなたが口を滑らせるのを 期待してかもしれない。 ……あるいは、どこかで何かの予感を。 別れの予感を感じていたのかもしれない。 約束を結んだばかりだというのに。 [1/2] (-26) 2022/08/25(Thu) 23:05:38 |
【秘】 プレイスユアベット ヴィオレッタ → Ninna nanna ビアンカ突然笑いだすあなたに瞬きをひとつ、ふたつ。 それから、溜息をひとつ。 「……。……遠慮しておきます。 こんな酔ってばかりで、甘さの欠片もないデートなんて」 呆れの色も隠さずに、そんな事を言う。 本当は酔うのは嫌いじゃない。 酒に酔うのも、夢に酔うのも、楽しいから。 けれど、それは―― 「それに私はただの飲み会が良いんですよ」 あなたと、ですから。 男たちなんかじゃなくて、 友達 とだからこそ過ごせるひと時でしょう?そんな贅沢は、口にした途端消えてしまいそうで。 だから、ただ笑みを。 鏡映しの笑みを、あなたに返す。 [2/2] (-27) 2022/08/25(Thu) 23:07:05 |
【秘】 Ninna nanna ビアンカ → プレイスユアベット ヴィオレッタ「――私がさ。 金以外、何が残せる?」 子供みたいな笑顔の裏に、子供ではいられない現実がある。 「お金だけは、……お金だけは、……あげられるかもしれないじゃない。 せめて、そのくらいは──……」 ゆるやかな肯定とともに、グラスがくるくると回った。 その表面に映った自分の顔を、ぼんやりと眺めている。 ――素直だ。 きっと、酔いのせいもある。 どのみち、こんなことを彼女が言ったのはこれが最後。 「お金があれば、とりあえずは人生大分楽だし」 「…多分ね」 どこか自信なさげに、そんなことを言う。 その儚げな笑みを見るのも、その時が最後。 ↓[1/2] (-53) 2022/08/27(Sat) 0:39:30 |
【秘】 Ninna nanna ビアンカ → プレイスユアベット ヴィオレッタ↓ 「そ。ざぁんねん」 上ずった呼吸混じりの笑い声。 そこに失意の色はなく、あなたの笑みと鏡映し。 ――こうして酔い、浮かれるようななんでもない日々こそが、 女たちにとって何よりも現実的で、何よりも大切な夢だから。 「それじゃ、飲み会としてつづけまっしょー。 ねえねえ、メインディッシュメインディッシュ!」 おなかへったー、と騒ぎながら、グラスの縁をネイルがこんこんと叩いた。 お行儀がわるい。 [2/2] (-54) 2022/08/27(Sat) 0:39:40 |
【秘】 プレイスユアベット ヴィオレッタ → Ninna nanna ビアンカ>> ビアンカ 「えぇ、そうですね。 お金があれば、穏やかな生き方ができるでしょうね」 期待通りの素直な答えに、目元を緩めて。 あなたらしい現実を見据えた答えに、僅かに苦笑する。 そしてその通りだとゆっくり頷いて。 「でも、きっと。 あなたはもう色々なものをヴェルデさんに あげられていると思いますよ。 そうでなければ、ひな鳥なんて すぐ親の元を去るものですから」 いつかその子から伝えられるだろうから、 余計なお節介だと知りつつも、言葉を注ぐ。 穏やかな笑みと声に、ひと匙だけ。敬意を込めて。 [1/2] (-64) 2022/08/27(Sat) 14:30:11 |
【秘】 プレイスユアベット ヴィオレッタ → Ninna nanna ビアンカ少しも残念そうではない声に 口の端を僅かに上げる。 そう、この日々こそが辛い夜に見る、儚くも楽しい夢だった。 「はいはい、随分と賑やかなお客様ですね。 すぐ準備いたしますので、少々お待ちください」 催促の声にくすり笑って、席を立つ。 ついでにグラスをその手から救い出した。 「次は少し時間をいただきます。 その間に愚痴などあれば、聞きますよ?」 別のグラスに今度は赤ワインを注いで、手元に一つ。 あなたの前に一つ。こちらにはウィンクを添えて出す。 ここからはきっと、いつも通りの二人。 愚痴を零して、愚痴を聞いて、とるに足らない話をして。 慰めたり、笑い飛ばしたり、飾らない話を聞かせあう。 強くて弱い女たちの、 ささやかな、けれど大切な夢見る時間が今日も始まるだろう。 [2/2] (-65) 2022/08/27(Sat) 14:36:48 |
【秘】 Ninna nanna ビアンカ → プレイスユアベット ヴィオレッタ「そうかな」 自分でも、そうとは信じられなくて。 「……だと、いいけど」 ――けれど、そう信じたくて。 「…飛べるなら、さっさと飛んでほしいものだけど。 いつまでも籠の中にいたら、飛び方を覚えたって飛べなくなる。 ………ここはここで悪くないなんて、ほんとは思っちゃいけないんだよね」 友の穏やかな笑みに、ゆっくりと沈みこむように。 胸いっぱいの後悔と、一匙の郷愁を。 ただ一言、嫌いだと言い切るには──……女は、籠の中に長くい過ぎたから。 ↓[1/2] (-95) 2022/08/28(Sun) 7:21:05 |
【秘】 Ninna nanna ビアンカ → プレイスユアベット ヴィオレッタ↓ 「えっへへ、はあい」 グラスがその手をつい、と離れて。 ふらふらと頼りなく揺らしていた手は、 新しく注がれた神の血を待ちわびたようにくるくる回す。 「時間ね。それはもう、たっぷりと時間をかけてもらいましょうか。 いつもみたいに閉店時間を気にしないでいいんだから、 色々と話すことも聞きたいこともあるわけでさ──……」 ウインクには、ウインクを。 こちらの愚痴には、あなたの愚痴も聞きたいな、なんて嘯きながら、ワインを一口。 立場も生まれも違うけれど、今この時だけは、同じようにありたかった。 いつもどおり、いつも通り。 そのいつも通りこそが、 人生を賭して手に入れた最後の宝。 ――どのような時間が流れたとしても。 その日、彼女は最後まで、笑顔のままだ。 [2/2] (-96) 2022/08/28(Sun) 7:21:27 |
【秘】 プレイスユアベット ヴィオレッタ → Ninna nanna ビアンカ>> ビアンカ 「えぇ、きっと」 仕事道具を持ちだして頷く。 これまで聞いてきた愛情からの確信が半分。 そうであって欲しいとの願いが半分。 「……そうですね。 少しばかり居心地が良くても、 所詮は明日の見えない業界ですから。 今の騒ぎが終わっても、次に何があるかわかりません。 できるのなら、この籠から飛び立つべき、でしょうね」 ひな鳥も、親鳥も そう 叶うことのなかった 密やかな祈りを抱いて、微笑う。飛び方なんてとうに忘れた自分とは違うのだから。 [1/2] (-103) 2022/08/28(Sun) 21:15:21 |
【秘】 プレイスユアベット ヴィオレッタ → Ninna nanna ビアンカ「……それは盲点でした。 下手をすれば朝まで話すことになりそうです」 こんな夜が二度と訪れないと知らずに、 溜息交じりに――口元には笑みを湛えて――そんなことを言う。 「 まぁ……それも悪くないですけれど 」続く本音は調理の音に紛れさせて―― お酒とお料理。悪戯心に、愚痴や喜び。 色々なものを共有して、色々なものを分け合って。 今この時だけは、二人は同じだったのだろう。 それはきっと。 二人にとって大切なありふれた日常。 それはきっと。 二人が望んで止まなかった”普通”。 それはきっと…… ”Se”が許されるならずっとずっと続いたもの。 女が笑っていたのなら、もう一人の女も笑って。 最後まで笑ったままで、”またね”と言って別れた。 今日と同じ明日が訪れると信じて [2/2] (-104) 2022/08/28(Sun) 21:18:46 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ――――― AM03:22 ――――― 「――………ヴェル、 デ?」 自らの瞼の隙間に浮かぶ、涙の重さで目が覚めた。 ノイズまみれのように暈ける視界、肘や腰に残る鈍い痛み。 低く呻きながら体をよじろうとして、両手が頭の上で何かに引っかかったように動かないことにようやく、気付く。 ――気が付いてしまえば、あとは一瞬だ。 ノイズが補正されるように、周囲の様子が視界へと入ってくる。 「………は。 最悪」 恐らくは、ワンボックスカーの車内。窓は完全に目張りされていて外の様子は分からない。 自分は両手をダクトテープで拘束されている。 周囲には5人──いや、運転席含め6人の男性。 白人。武装はそれぞれが銃、あるいはナイフ。 顔は隠していない。 「………」 その状況を確認した時、 ああ、私は死ぬんだな、 と思った。 顔を隠す必要がないのだ、こいつらは。 (-136) 2022/08/29(Mon) 18:46:14 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-136 「起きたな」 男のうちひとりが、声をかけてくる。 それすらもおっくうに感じながら顔をあげつつも、 ばらばらになった記憶のピースをめくらのままにはめ込んでいく。 伝手をいくつかたどり、次の情報屋のところで向かおうと外出。 その途中、海岸公園の近くでタイヤが路面を擦る音。 咄嗟に振り向くと、無灯火の車が突っ込んできて、 衝撃、 …… そこまで。 多分、私は車ではね飛ばされて、朦朧としている間に拉致されたのだ。 そう現状を仮に理解しながら、なるべく声にベッドの中のような平静さを装って答える。 「はい、起きました。あの、服、自分で脱ぎましょうか…?」 お気に入りのフリルワンピースは、路面に擦れて裾の一部が破れている。 そんなこと気にしている場合では、もちろんない。 両足を僅かに組み替えて、スカートを自分で捲る。 太腿を見せつけるように、なるべく淫猥に、けれど下品で滑稽になりすぎないよう腰を上げて。 (-137) 2022/08/29(Mon) 18:47:03 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-136 >>-137 「……ッ」 「いた、…ちょ、…」 左右に控えていた男たちが何にも答えず、肩を掴み押し倒してきた。 金属の音。 ざぐざぐと。 ワンピースが乱暴に切り裂かれ、ガキに与えたクリスマスの梱包みたいにはぎとられていく。 「ゃ、脱ぎます、自分でやりま、すから…っいっ」 肌のあちこちをナイフの刃先が霞めて、喉がきゅうとしまって声が漏れる。 ――そんなことで怯えている場合ではないのに。 「抵抗なんてしません、しませんから」 「殴らないでください」 「立場はわかってます」 「口でも、解いてもらえば手でも」 「もちろん下も、ただ、準備してからのほうがもっと…具合がいいと思うので……」 震える唇をあえて噛み殺さず、ただ声だけはしっかりと届くように懇願する。 レイプされるなら、まだいい。 この場で即座に殺される可能性だってあるし、 なんなら殺してからの方が使いやすいと思っている可能性もある。 抗争下で、ファミリーはいつもよりあちこちに目を光らせている。 時間を稼げば、もしかしたら助かるかもしれない。 ないだろうけどさ。 意地を張って反感を買う必要なんて何もない。 (-138) 2022/08/29(Mon) 18:48:02 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-136 >>-137 >>-138 どんなふうにされたって、死ぬよりはずっといい。 くわえたナニを噛み千切るなんて、そうそうできるはずもない。 ただ、私は生きる。 生き延びることだけが、今できる抗いだ。 男たちの態度を見る限り、やっぱり私をばらして捨てるのが目的だったのだろう。 ただ、痛めつけたり、辱めたりすることも求められていたようだ。 一発適当に犯して、あとは殺しておしまい。――そんな判断をされては困る。 私は美人だ。少なくとも顔の作りはいいほうだし、外出するときはメイクを怠らないし、 魅力的に、蠱惑的に自分を見せる仕草くらいは心得ている。 「なあ」 「早めにな」 それでも、リーダー格らしい男に何人かの視線が向いて。 そいつが銃を下ろしたのを見て、安堵の溜息をつかずにはいられなかった。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ (-139) 2022/08/29(Mon) 18:49:07 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-136 >>-137 >>-138 >>-139 「んぶ、……っ、ぁぅ、…はぁ、……っ」 5人目の男が、覆いかぶさるようにして乱暴に腰を振っている。 顔が近かったので自分から唇を押し付けて、舌を絡めた。 そうしたら更に乱暴になる。体の中が押しつぶされそうになって思わず声が漏れて、けれど喘ぐようにその息を整える。 「ぁ、はぁぁ、…ああー………」 ときたま声を跳ねさせて、腕をばたばたと振って車体を叩いた。 男たちを警戒させない程度に、何度も何度も嬌声と物音を立てる。 多少は疑われているかもしれない、が。大体の男は、腰を振るたび上がる声にプライドを煽り立てられる。 「ふあ、…あ、あー……っ、……」 …こいつは他のやつより大きくて、かさがごりごりと中をこする。 粘膜のかさなりを何度も何度も引きずられて、奥底までを埋められて。 戦いで流した血のように溢れた蜜が、それすらも奪い去るようかきだされていく。 乳房を掴む手は不潔で、痛みだけがときたまはしって、 それでもそれら全てが性感にみえるよう演技する。 いつものことだ。 いつものこと。 お前たちが命を懸け札に食い扶持を稼いできたのなら。 私は、女と体を切り売りして生きてきた。 (-140) 2022/08/29(Mon) 18:49:54 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-140 周囲には四人目までが、腰を下ろして、持ち込んだ酒瓶を開けている。 散らばった私のワンピースの端切れで精液と体液を拭う姿を見て、タオルくらい持ってきやがれと心の中で悪態をつく。 どろどろと汚れていくお気に入りの服は、それでもまだ赤く染まっていない。 私は生きている。 私は生きてやる。 強く熱く犯されるたび、下腹部に力を込めてきちり、と男を締め上げる。 高揚も喜びも、幸福も何もない。 ただ、頭の芯がひんやりと冷えていて、脳の表面はアドレナリンで燃えていて。 「ゃあ、……あぁぁ、…っ」 一分でも長く、一秒でも長く。 ――そうしていれば、男のうめき声とともに、また中で吐き出される。 ずるりと引き出される感覚のあと、どっと疲労が全身を襲う。 それでも次。次、を待ち望むように顔をあげようとしたら、 「いっ、…」 ずきりとこめかみが痛む。思わず声と涙が漏れた。 髪を掴まれ、座ったままのリーダー格の男のところに引きずられる。 そいつはこちらに視線すら向けずに、端末でどこかに通話を始めた。 (-141) 2022/08/29(Mon) 18:50:29 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-141 「そっちはどうだ。……ああ、おう」 世界共通語ではなく、イタリア語。 僅かに北部の方の訛り、がある気がする。 男は電話先の――多分男――に横柄な口調で指示をしながら、 どこかどうでもよさそうにズボンをずらして、汚らしいナニを眼前に押し付けてきた。 大してやりたくもねえけど、他のやつらの手前やっておくか、みたいな態度。 「………」 それでもにこりと、あからさまに媚びる。 男の腿のうえに投げ出されるような恰好で、顔を寄せて、男性器を舐め上げる。 ちらちらと顔をうかがいながら、含んで、咥えて、犬のように奉仕して。 「ああ、ひとりでいい。連れ出してさらえ」 ――電話口から微かに聞こえる声に、目を見開いた。 微かに聞こえてきたのは、ジュリアの声。眠たげな口調だけど、ちゃんと私の教育通りにお客様を通そうとしてる。 こいつの電話口の先、多分手下がいるのは、 「Pollo Nero」。 私の店だ。 (-142) 2022/08/29(Mon) 18:51:46 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-142 ――――― AM06:29 ――――― 男はたんたんと、私の店の娼婦をひとりさらう命令を下していた。 そんな男のものを、私はまるで恋人のそれであるかのように口で慰めている。 「……もうすぐもうひとりくる。 そうしたら、逃がしてやるよ」 リーダー格の男が電話をきるなり、私を見下ろして口をゆがめた。 もうひとり来たら、そのまま殺されるのだろう。 目許だけにあいまいな笑顔を浮かべて返しながら、ぐちゅ、と唾液の音を響かせる。 「もうそろそろ朝じゃねえか。 まあ、俺も一発――」 男の中で、私はもう死体に見えているのだろう。 殺すことが決まって、注意をはらうこともなくどう扱ってもいい道具だ。 奉仕を続ける私の肩を掴んで引きはがし、硬くて痛い車内に転がして覆いかぶさってきて。 (-143) 2022/08/29(Mon) 18:52:33 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-143 「兄貴、今……」 「あ?」 運転席の男が、端末を手に声をかけてくる。 「ダニオのやつ、店の前で捕まったって…」 「……」 ぷは 、と。思わず、笑いが漏れた。不覚だけど、もうどうでもいい。 あいつら、うまくやったのだ。 じゃあもう、私は無理だ。 「おい」 「っぁぐ」 噴き出した私のこめかみを、男の靴が踏みつける。 苛立っただろう、そうだろう。 けど、もういいのだ。 あの子たちがうまくやったのだから、私は腹いせに殺される。 あーあ、もう無理だ。そう思うと、さっきまで、 「あんたのちんこを舐めてたの、ばからしくなってき」 がん 、と。顔面に叩き込まれた爪先に、言葉と息が飛ぶ。 火花がばぢばぢと目の奥底で飛び散って、叩きつけられた背中がとにかく痛い。 (-144) 2022/08/29(Mon) 18:53:51 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-144 「……っ、ぐ、……ぇほ……」 「死にてえのか」 「……」 どうせ殺すつもりじゃん。 「………どうせ、銃隠して店に入ったんでしょ? しかもあんたの手下、はじめましてでしょ…? あのね、一応、あんな場所で営業してんの。 ファミリーの関係者の顔くらい抑えてんの……」 そう、ジュリアは良くやった。 今日のカウンターは誰だっけ? ロメオだっけ? あいつも気が利くようになったなあ。 ただやられるだけじゃ、だめだよ。 教えたでしょ。うまくできたじゃん。 もう、私いなくてもいいよね。 ごめんね。 男が途中から、私の言葉なんて聞かず、車内に転がっていた鉄パイプを掴むのを見て。 ――私が残すひとたちに、喉の奥で謝りながら。 私は今度こそ、死ぬんだなあ、と思った。 (-145) 2022/08/29(Mon) 18:54:28 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-145 「――…………ざま、……み、ろ」 命乞いと嘆願の末。 その口許は、自らの身内が最後に残した勝利に、笑顔のように歪んでいた。 ――――― AM06:35 ――――― 「ぁが」 がづん 、と。肉を叩くとは思えないほどの硬い音が、また響く。 頭をかばうようにかかげた腕にぶちあたった鉄パイプが、骨を叩いてびりびりと震えている。 がづん。 「ぎぁ」 狭い車内では、振りかぶるにも限度がある。 それでも喧嘩に慣れている者には、いかに人を壊せるようにぶん殴ればいいかの知識がある。 がづん。 「げぁ、…っっは」 がづん。 「……っ」 がづん。 (-146) 2022/08/29(Mon) 18:55:36 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-146 がづん。 「ぎゃ、…ぁぁ、……ぁぁう…」 鳥が絞められるような、気持ち悪い声。 それが自分の喉から出ているとはいまだに信じられない。 既に視界はぼんやりと暈けていて、右のほうなんて精いっぱいひらいても半分くらいが真っ暗だ。 がづん。 「……、……っ」 どろり、と何かが零れたような気がした。 鉄パイプの先端が頭をかすめて、出血した――んだと思う。 脳みそくらい零れているかもしれないけど、だとしたらこうして考えている今はなんなのだろう。 ちがうのかな。ちがうんだろう。 なにが? ちが がづん。 「ぇげ、…ひ、……っひ、……は、…」 いびつなかたちにまとまりかけた思考が、衝撃でまた霧散する。 血反吐と歯の欠片を吐き出しながら転がって、もう痛みすら鈍り始めて、それでもただ苦しくてたまらない。 (-147) 2022/08/29(Mon) 18:56:33 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-147 「たす、……たすけ、……」 がづん。 「……」 ソニー。 用意してもらったのにね。ごめんね。 私が逃げればよかった。わかってる。 わかってるよぉ。ごめんね。あなたをもういちど、抱いてあげたかった。 トトー。 こんなになっても私のこと、綺麗っていってくれるかなあ。 ねえ、助けてよ。ねえ。何死んでんの? バカ。 きてよ。助けてよ。 がづん。 「たす、……や、…めぇ、てぇ…」 ルチア。お店行けなくてごめんね。 ジェラートおいしくて、…あなたのところでは私、なんだか素直になれて。 ああ、いきたい。いきたいよ。今度はモカ。エスプレッソ。 がづん。 「ごめ、なさ」 (-148) 2022/08/29(Mon) 18:59:00 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-148 ヴィー。ごめんね。あなたのお店にもういけなくて。 ヴィー、寂しかった。寂しかったの。あなただけが私のともだち。 あなたは助かって、あなただけは助かって。今どうしてる? ねえ、 がづん。 「ぇぇ、…ぅ、……ぅぇえ、……」 ヴェルデ。 愛してるよ。 愛してたよ。 私、あなたのためになれたかな。 私、あなたの、 がづん 。ごめ がづん 。 (-149) 2022/08/29(Mon) 19:00:43 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-149 ――――― AM06:50 ――――― ――男たちが何か話している。 ずきずきとした痛みはもう痛みなのかどうかもよくわからず、 ただ不可思議な電気信号として私の全身を焼いていた。 「もう死んだか?」 「生きてる。ほっときゃ死ぬだろ?」 「まあやっとくか」 おいおい。私の命だぞ。 そんな簡単に決めないで。 もう半分くらいになってしまった視界を動かす。 男たちが何かを手に、私の足を掴んで開かせていた。 まだやんのかな、と思う。 サービスはできないよ。勝手にやるなら、いいけど。 「おい、普通に」 「いや、これやったらどうなんのかって」 「どうなんだろうな」 捕まえた虫の羽をどうちぎるかみたいな会話。 まあ、今の自分の状況をもしみたら、きっととてもみっともない、潰れた蝶々みたいな有様なんだろうけど。 もういいよ、どうせ死ぬんだから。 さっさと―― (-150) 2022/08/29(Mon) 19:01:20 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-150 ずぐ、と。 そんなことを考えていたら、さんざんに痛めつけられた下腹部に、また別の痛みが走った。 「……っ、ぁ…」 「お、動いた」 「結構入るな」 最悪。最悪。最悪最悪。 多分こいつら、悪ふざけでものを突っ込んできた。 人の身体をおもちゃにする連中は、たいてい穴に何か突っ込みたがる。 ごつごつとして硬い何か。粘膜をがりがりと傷つけながら、ええと、これは、まあ、なんでもいいけどさ── 「ばん」 「ぇ」 Si Vis Pacem, Para Bellum。 がち、と撃鉄が落ちる音がして。 どうやら私の体内で、9x19mmパラベラム弾がはじけ飛んだ。 (-151) 2022/08/29(Mon) 19:01:58 |
【独】 Ninna nanna ビアンカ>>-151 ビアンカ・ロッカの体内で発砲された弾丸は腰骨を貫通し、脊髄を砕きながら体内を跳ねまわる。 骨に激突したことで弾頭が三つに砕け、それらが下腹部を中心に内蔵を著しく損傷させた。 「ぁ、あぁぁ、あぁ、ぁっぁあ、あ、あぁ、ぁぁあ、ぁ」 ビアンカはびくびくと痙攣するように、喉の奥から声のようなものをあげていた。 彼女の意識がその時あったかどうかは定かではない。 ただ体内で荒れ狂う銃弾が、その生命をずたずたに引き裂き、致命傷を与えたことは間違いが無かった。 「あ、……ぐぇ、ぇぼ、ぇお、……っっ」 「うわ」 「やべえ」 下腹部からの出血よりも早く。 びちゃびちゃと、その口からポンプのように鮮血が零れ落ちた。 ごとんと音がして頭部が傾いて、拘束されたままの腕と足がばたばたと跳ねて。 「……………ヴぇる、……でぇ………」 彼女の意識があったかどうかは、わからない。 多分、その場にいた誰も、意味のわからない名前をひとつ呼んで。 「……死んだな」 「すごかったな、カエルみてぇだった」 「じゃあ、書くか。書いたらバラして──…」 ビアンカ・ロッカは、死んだ。あとは、皆様の知るとおり。 (-153) 2022/08/29(Mon) 19:03:05 |
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