情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 エピローグ 終了 / 最新
【人】 転生者 アウローラ[ あれから季節がひとつ過ぎて、 学園内の景色もすっかり冬の装いとなった。 わたしたちは、というと相変わらずで。 わたしは学園の生徒として普通に授業を受けて。 彼はそのあいだ、暇を見つけては 図書館でよく本を読んで過ごしている。 このままいくと、わたしが卒業するまでには あの図書館の蔵書を全て 読み終えてしまうのではないかしら…。 他にも、お互い時間があるときに料理を作ったり お休みのときには二人で何度か、 街や郊外の森に出かけたりもした。] (1) 2022/05/25(Wed) 22:53:49 |
【人】 転生者 アウローラ[ 少しずつ、重ねられていく穏やかな日々。 そして少しずつ、彼について知っていることが 増えていった。 粥とお菓子以外の料理を作るのが実は苦手なことも 都合が悪かったり面倒なことは笑って誤魔化そうとすることも、 世界を破滅させることに対する拘りは、結局のところ、 「自分を召喚した、誰かの願いを叶えるため」で。 ……今まで彼をこの世界に喚んだ人たちは皆、 既に此の世にいないということも。 ] (2) 2022/05/25(Wed) 22:54:20 |
【人】 転生者 アウローラ[ ……もし、望みが叶うなら。 わたしの知っている彼が彼のままで在てくれたらと、 そう、願わずにはいられない。 あのひとたちが幸せでいられる「美しい物語」が 続いてほしいと思っているのは変わらない。 ――…でも、それとは別に。 彼の冷たくて、あたたかな掌に、…離れがたい。 離したくないと、その気持ちを抑え難く感じている。 ] (3) 2022/05/25(Wed) 22:58:04 |
【人】 転生者 アウローラ……星を、見ていたんです。 [ マグカップから紅茶を一口啜る。 そうして見上げた空には、濃淡を描く藍色の空と 銀粉と雲母を散らしたような星々。 「私」の元居た世界では、普通に街で暮らしていたら 絶対に見ることのできない光景が この世界では当たり前に存在している。 わたしの故郷でも、王都でも、それは同じ。 ] 子どもの頃、先生に教わったんです。 「夜の星は、亡くなった人たちの魂で 今も遠い彼方から私たちのことを ずっと、見守ってくれているんだよ」って。 (34) 2022/05/27(Fri) 23:35:31 |
【人】 転生者 アウローラ……小さい頃のわたしにとって、 愛とは星のようなものでした。 真っ暗な夜の闇の中、きらきら輝いて わたしの心を温かく照らしてくれるけれど。 ……でも、決してこの手が届くことはない。 [ どれだけ、背伸びをして手を伸ばしても 懸命に飛び上がろうとしても、 あの輝きに、手が届くことはなかった。 ] だから、憧れました。 星の輝きに、愛に、それに触れたときの温もりに。 誰かを愛して、そして愛されたとき、 それはどれだけ温かくて、眩しくて。 ……素敵なもの、なんだろうって。 [ 小さな頃、夢に見ていた遠い世界でも 終ぞ触れることの叶わなかった願い。 ] (35) 2022/05/27(Fri) 23:36:34 |
【人】 転生者 アウローラわたしは、選ばれませんでした。 この世界の誰かに愛されるような、 そんなニンゲンにはなれませんでした。 でもね。 あの夜、貴方に出逢って、 わたしは、自分の物語を自分で綴ることを知りました。 誰かの幸せを祈るのと同じくらい、 自分自身のことを選択することの大切さを 教えてもらいました。 貴方と共に綴った時間は わたしにとって、かけがえのないものです。 [ そしてこれからもきっと。 わたしにとって、かけがえのない星であり、道標。] (36) 2022/05/27(Fri) 23:41:47 |
【人】 転生者 アウローラ[ だから。 ] もし、今もわたしの願いを叶えてくれるというのなら。 これからも、学園を卒業してからも、ずっと。 わたしと、一緒にいてほしいんです。 [ 自分なりの一世一代の告白に、 果たして返答は、あっただろうか。 たとえなくても、そのまま彼の肩に頭を預けて、 すやすやと寝息を立て始める。 まぁ間違いなく怒られるだろうけど、 でも、彼はなんだかんだ面倒を見てくれるだろうなんて、 ―――…そんな甘えに瞼を閉じながら、 すやりすやりと、狸寝入りをする。 ]** (37) 2022/05/27(Fri) 23:47:21 |
【雲】 転生者 アウローラ―― 翌日/学園にて ―― [ それは、いつものように授業を終えて 図書館へ立ち寄ろうと考えていたときのこと。 ] 『アウローラさん』 『……ちょっと、いいかしら?』 あ……。 [ 突然話しかけられて、言葉に詰まった。 ] ……マティルダ様。 (D0) 2022/05/28(Sat) 7:07:19 |
【雲】 転生者 アウローラ『話があるの。 貴方たちに関する、大事なことよ。 一先ず、わたくしと一緒に来て下さらないかしら? 人払いはすませてあるから、安心して』 えっと……、…はい。わかりました。 [ ……いろいろ、思うところはある。 さっき、彼女は『貴方たち』と言っていた。 それはつまり…わたしだけではなく、 彼のことも既に把握しているということだろう。 嫌な予感はする。 けれど…とりあえずわたしのほうに選択権はない。 いつのまにか強く握りしめていた掌を 緩く開いて息を吐く。 そうして、彼女に促されるまま、踏み入れたのは。 学園内にある小さな礼拝堂。 ] (D1) 2022/05/28(Sat) 7:08:13 |
【雲】 転生者 アウローラ[ 人気のない、だけど手入れの行き届いた礼拝堂の中を ステンドグラスから差し込む淡く色づいた光が照らしている。 その中の一席に優雅に腰掛けると、 こちらにも座るようにと、傍らの席を手で指し示す。 ] 『単刀直入にいうわ。 …貴女、転生者なのでしょう?』 …っ。 [ 席に座るのとほぼ同時に言われた言葉。 覚悟はしていたはずなのに、 反射的に身構えてしまった。 それが表情にも出ていたのだろう。 こちらを安心させるようにと 彼女の表情を柔らかくなるのがわかった。 ] (D2) 2022/05/28(Sat) 7:09:17 |
【雲】 転生者 アウローラ『そんなに緊張しないでほしいわ。 何もとって食べようというわけではないもの。 ……ただ。 いいえ、寧ろといったほうがいいかもしれないわ』 [ そういうのと同時に、彼女が深々と頭を下げる。 戸惑うわたしの言葉を遮るようにして、彼女は言葉を続けた。] えっと…。 『ごめんなさい』 [ 彼女の艶やかに色づいた唇から発されたのは わたしとしては意外な言葉だった。] (D3) 2022/05/28(Sat) 7:10:29 |
【雲】 転生者 アウローラ ……! [ ――…そうして、彼女は言葉を続ける。 自分もわたしと同じ転生者であること。 何れ、自分が闇の精霊に取り憑かれ 破滅の道を歩むであろうことを悟った彼女は そうならないために攻略対象の不幸な過去を変え、 彼らの愛と信頼を得た。 だけど、それだけでは本当に 運命を書き替えられたかはわからない。 何れ、わたし…『本来の物語の主人公』が出てくれば 書き換えた物語は修正されてしまうかもしれない。 そしてそうなったとき、自身の破滅は 避けられない運命になってしまうかもしれない。 ] (D5) 2022/05/28(Sat) 7:12:10 |
【雲】 転生者 アウローラ[ マティルダの…彼女の前世は、 嘗ての「私」以上にこのゲームに詳しかった。 『夜明け告げるは星の唄』の、少なくとも本編には 登場人物全員が救済されるルートは存在しない。 本来の物語上で、悪役であるマティルダが、救われることはない。 いつだって、彼女は孤立し自身の心の中に闇を育て、 そしてラスボスである闇の精霊を此の地に召喚し、 愛する王子や世界を危機に陥れる。 ……だから、彼女は。 主人公と物語の悪役の 『物語の役割』そのものを入れ替えようとした。 『攻略対象の彼らを癒し愛される公爵令嬢』と 『嫉妬心から嫌がらせをし、 やがて孤立して破滅の道を辿る 平民出身だけど特別な女の子』へ。 そう、シナリオを書き換えた。 最初から全てを作り直すのではなく、 予め存在した運命の通りに、物語を紡ぎ直す。 そのほうが万が一があったときに、 予測と修正がしやすいから。 ……そんな、理由で。 彼女はわたしに 『悪役としての役割』を押しつけたのだという。] (D6) 2022/05/28(Sat) 7:14:24 |
【雲】 転生者 アウローラ[ わたしから嫌がらせを受けているように 攻略対象や周囲の人間たちに見せかけて。 わたしに関して良くない噂を広めて。 教師たちにも同じように手を回して、 そうして、わたしの周囲から人がいなくなるよう仕向けた。 わたしが、光の魔力を持っていることで 他の人たちが迂闊に手を出せなくなることも見越したうえで。 そうして、わたしが本来の彼女と同じように 孤独と絶望から世界の破滅を願うよう仕向けたのだと そうして、闇の精霊ごとわたしを倒して、 ゲームの結末通りの大団円…犠牲を極力少なくした、 最大多数の幸福を、描こうとした。 ] (D7) 2022/05/28(Sat) 7:16:28 |
【雲】 転生者 アウローラ…。 [ 言葉に詰まる。 それはつまり、この学園でのわたしが経験した全ては 彼女によって仕組まれていたということで。 ] …どうして、 (D8) 2022/05/28(Sat) 7:17:43 |
【雲】 転生者 アウローラ[ ―――…今、そんなことをわたしに教えるのか? 此方の呟きに、彼女は続けた。 …最初に感じた違和感は、 星燈祭の後にわたしを見かけたときのこと。 本来のゲームならあの時点でマティルダは 闇に取り憑かれて、半ば自我を失い ただただ、周囲の人間たちへの嫌悪を深める そういう 生き物 になっているはずで。 わたしもきっと同じようになっているはずだと 彼女は考えていたらしい。 ……でも、あの夜の後に廊下ですれ違ったわたしは それまでと何も変わらないように見えたのだと。 そうして、彼女は考えた。 アウローラもまた、自分と同じ転生者なのではないか、 特別な存在なのではないか、と。 だから、闇に取り憑かれることもなく、 正気を保てているのではないか、と。 ] (D9) 2022/05/28(Sat) 7:18:27 |
【雲】 転生者 アウローラ[ 彼女は……悪役令嬢はわたしにいう。 主人公を物語の犠牲にしようとしたのは 自分と同じ転生者だと知らなかったから。 知っていたら、わたしを 自身の物語の生贄にしようとはしなかった、と。 だから……『ごめんなさい』と。 ] …。 [ そう言って涙を零しながら頭を下げる彼女に、 なんていったら、わからなかったけれど。 それ以上に、彼女が続けた話には 更に言葉を失うことになった。 ] (D10) 2022/05/28(Sat) 7:19:39 |
【雲】 転生者 アウローラ[ 物語の進行は止められない。 最初にこの物語を書き換えたマティルダにさえも。 近く、攻略対象たちによる断罪イベントが発生する。 それによって物語の悪役は裁かれる。 大切なことは真実ではなく、誰かが悪役として裁かれ、 そして悪役を皆で滅ぼして大団円。 そこまでの、道筋なのだと。 ―――…よって、生贄が出ることは避けられない。 大団円は皆が望むものだから。 誰にも、止めることはできない。 ] (D11) 2022/05/28(Sat) 7:20:59 |
【雲】 転生者 アウローラ『だから、ね。貴女をその生贄から外すことにしたの』 『筋書きはこう』 『闇の精霊に取り憑かれた平民の女の子を助けるために、 王子や公爵令嬢たちは皆で協力して闇の精霊を倒しました。 そして、闇の精霊に囚われていた女の子を助け出し、 みんなでハッピーエンドをむかえました。 めでたし、めでたし…ね』 [ 切れ長の瞳に真珠のような涙を煌めかせながら、 華やかな笑顔で、艶やかな唇で 彼女が口にした物語は、 わたしにはとても堪え難いものだった。 ] (D12) 2022/05/28(Sat) 7:23:20 |
【雲】 転生者 アウローラ…アルカード……!! [ 反射的に礼拝堂を飛び出そうとした その手を白い繊手が掴む。 見た目に反したその力の強さに、 反射的に其方を振り向けば。 ] (D13) 2022/05/28(Sat) 7:24:43 |
【雲】 転生者 アウローラ[ ―――…彼女は、微笑っていた。 悪意なんて欠片もない、純粋に善意に満ちた きっと誰もが美しいと形容するだろう笑顔。 だけど、その笑顔は 『わたし』を必要としていない笑顔だった。 わたしの意志も、願いも、選択も、 なにひとつ、尊重するつもりのない笑顔だった。 ……それが当たり前であるかのように。 ] (D14) 2022/05/28(Sat) 7:26:27 |
【雲】 転生者 アウローラ『どこへいくの?』 『大丈夫。 貴女を捕らえている闇の精霊を倒すために 皆、力を合わせて戦ってくれているはずよ。』 『貴女も知っているでしょう? 王子様方もわたくしの義弟も、皆とても強いわ。 わたくしと一緒にいれば、皆、貴女を守ってくれる。 貴女を受け入れて、大事にしてくれるわ。大丈夫』 『この戦いが終わったら、学園の人たちにも きちんと説明しないといけないわね』 『闇の精霊はわたくしたちが倒しました。 皆安心して、アウローラさんとも仲良くしてね…って』 (D15) 2022/05/28(Sat) 7:28:15 |
【雲】 転生者 アウローラ……っ!!? [ 「肌が粟立つ」という言葉を、 今、この瞬間ほど感じたことはなかった。 ] はなして…ッ 離してください!! わたしは、わたしは……!! [ 言いながら掴まれた手を振りほどこうとしたときだった。 ――…パチンッ、と強く何かに弾かれるような感覚と同時に、 マティルダの手が離れた。 それを確認するのと同時に、わたしは礼拝堂の扉から 外へと一目散に駆け出した。 ] (D16) 2022/05/28(Sat) 7:29:18 |
【雲】 転生者 アウローラ[ 迷う暇なんてない。 彼は、アルカードは無事だろうか? ] アルカード……! [ マティルダは言っていた。 闇の精霊を倒すために戦っていると。 彼が強いことはわたしだって知っている。 だけど、胸騒ぎがするのを止められない。 だって、彼がどれほど強くて恐ろしい災厄であったとしても。 ―――彼は必ず封印されてしまうのだから。 どうか無事でと、内心で祈りながら 誰もいない、図書館までの道程を駆け抜ける。 ]* (D17) 2022/05/28(Sat) 7:29:56 |
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 エピローグ 終了 / 最新