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【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド君の趣味の調度品。 居心地よく調節された空調。 片付いてはいるが生活感のある部屋。 男はここが好きだった。 そういえば君は、彼の部屋に足を運んだことがない。 従順に口を開けて待つ君はやはり餌を待つ小鳥のようで、 そこに唇を合わせた男は親鳥のようにも見えただろうか。 君はこの男のキスをよく知っている。 この舌がどうやって君を求めて、どうやって暴いていくかを知っている。 腰を下ろしたソファは男二人が寝るには狭い。しかし身を寄せ合えば不可能ではないし、むしろその方がいい時もあるということも、よく知っている。 ほんの一瞬、熱が離れて。 君の腹の上で手が滑った。 「いい?」 返事は多分Beneだろう。 (-15) 2022/08/23(Tue) 23:24:16 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 愚者 フィオレロ祭りの少し外れ、閑静な街路で男は花を見ていた。 ここ数日、島の全体が文字通りお祭り騒ぎの雰囲気に包まれている。酷く活気に満ちて陽気なそれを嫌いではなかったが、浮き立ちすぎた空気は男の日課には不似合いだった。 花を選ぶ。菓子を選ぶ。装飾品を選ぶ。 愛する者たちに贈る様々を手に取る。それを手にした、口にした、身につけた彼ら彼女らの顔を思い浮かべる。笑う声を耳に思い出し、ぴったりのものがあればそれと決める。 心に寄り添うように、言葉を交わすように、なるべく雑音がないのがいい。 だから男はそこにいた。青のオキシペタルム────ブルースター────をその手に持って。 声をかけられれば緩慢にそちらを見、それから柔和に笑うだろう。 「Ciao.」 もう一度青い花に目をやる。 「そうなんだ。知り合いに子どもが生まれたもので」 (-33) 2022/08/24(Wed) 10:06:46 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → どこにも行けない ヴェルデたかが二年。数字にすればそれだけ。それでも少年期の一年は長く、ひとつの季節、ひとつの月でさえ濃密な時を孕む。 幼少期から少年期を経て青年になり、それから大人へとなる道程。変貌の時期を共に過ごしている。 傷だらけでみすぼらしかった捨て猫は、多少痩せ型ではあれど毛並みよく、涼やかに二本の脚で立って歩くまでになっていた。 だからだろうか。 君が呼んだ名を、男は訂正させようとしなかった。 戯れる愛称ではなく「サルヴァトーレ」と言うのを、嗜めようとしなかった。 真っ直ぐに名前を呼ぶその姿に、いつかたどり着くであろう大人の姿を見たからかもしれない。或いは小さな舌がはきはきと音を出すのを、その音が整然と並んで自分の名を作るのを、聞いていたかったのかもしれなかった。 「僕はちゃんと、三食の食事をするよ」 心配いらない、と。 ウインナーを齧って顔を少し顰めた。 「これ、思ったより辛いんだよね」 (-35) 2022/08/24(Wed) 11:37:55 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド「ふふ、─────うん」 「愛してるよ、ドニ」 蕩けるように、 甘く、 囁いて。夜を溶かすのだ。二人は。 █ メッセージにはすぐに返事があるだろう。『了解』とこちらも一言。その後に普段通りの天気や食事に関する話題がぽつぽつと寄越される。少なくとも文字の上では、男の振る舞いはいつも通りに見えた。 それからアジトでの報告を聞き、各々自分のすべきことを行う。 そこでもやっぱり男はいつも通りににこにこと皆の顔を見て回っていて、なんの代わりも動揺も見せない。 その平静さを君が疑うことはないのだろう。 そして、夜。 男は約束通り君のもとへと現れる。 普段通りの靴音を鳴らして、普段通りの服を身につけて、普段通りの笑みを携えて。 「やあ、ドニ。早いね」 「わりといい夜だ。祭りもまだ、十分賑わっているようだし」 特別なところは何もない。きっとこれも日常の一場面でしかないのだろう。 (-47) 2022/08/24(Wed) 18:13:03 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → いつかの夢 ヴェルデ「僕は幸福だよ、ヴェルデ」 愛されろ、という言葉にはそう返事を。 君の言葉を嫌ったのでも、否定したのでもない。事実男は満たされている様子だった。男が君を、或いは彼女を見つめる瞳に愛以外の何かが混じったことはなかったし、何か飢えた様子を見せることも、妬む目付きをすることだってなかった。 男はいつだって愛だけを与えて、与えて、与え続けた。 それしか知らないように。 それだけが呼吸のように。 だから、君の無責任な問いは、無鉄砲な言葉は。 案外、それが本質だったのかもしれない。 それでいて、見上げる君の視線を、ほら見ろとでも言いたげな顔で受け止めるのだ。 「……おや、優しいね。ヴェルデ」 「でも平気だよ。それってちょっと、かっこ悪いし……」 (-54) 2022/08/24(Wed) 18:38:00 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 愚者 フィオレロ「へえ。憧れて?」 君の言葉を聞いて、気になる単語を掴みあげる。それはある意味センシティブな問いだったかもしれないが、男が臆することはなかった。 「ああ、」 君に注がれていた視線が手元の花へと移動する。わざとらしく逸らしたのではなく、単純に話題のきっかけへと目が向いただけらしかった。その証拠に先程まで花屋と向き合っていた男の身体は今、開け放ち、受け入れるように既に君の方へと向いている。 「そうだね。月並みだけど」 男の口元が笑みを形作る。愛する者を思って、自然に零れたのだろうか。 「生まれた子が男の子なんだ。ベイビーブルー、男の子のラッキーカラーだよ」 「それから花言葉は幸福な愛……だっけ。ほら、この青。マドンナのヴェールの色をしているだろう」 そこで、もう一度視線をあげる。 弧を描く口元、やや眇られた瞳。いたずらっぽい笑いがそこにあった。 「……なんてね?」 「こんなこと、君も知ってるんだろ? わざわざオキシペタルムなんていうんだもの、ブルースターじゃなくてさ」 (-64) 2022/08/24(Wed) 19:11:25 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 陽炎 アベラルド男はアルバの顧問だ。 ファミリーの全てに心を砕き、配り、人となりを知り、交遊する。時にはボスの友人にすらなり、その言葉を否定すらして見せる。その立場は、概して幹部より重い。 であるというのに、男はまるで中間管理職のように熱心に動き回った。その姿はただの善人、或いは各々の兄、親、友人のようにも見えたろう。その親しげな様子を煩わしく思う者も当然いたけれど、概ね好かれている様子だった。 きっとそれは、君から見ても。そして、君も。 二人の振る舞いは思慮に欠けているのかもしれない。 それでも、止めておこうだなんて言わなかった。 「祭りで羽目を外さないなんて損だからなぁ。うっかり危ないところに踏み込まなきゃいいんだけど」 君の気遣いを、 ────それとも最後の畏れを、 男は受け取ったのかどうか。機嫌が良さそうに笑っては歩みを進めた。追いつくように、その歩調を早めて横に並ぶ。 (-70) 2022/08/24(Wed) 19:32:50 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 坑道の金糸雀 ビアンカ「そう? ────君が言うなら」 やっぱり、そう。 君はあの子を渡さないし、男も結局こう言うのだ。 寂しいと言うくせに、悲しいと言うくせに。 カタギにするだとかなるだとか、そういうことに関心はないらしい。 男は言葉を尽くした。女は多くを語らない。結局は、そういう戯れを楽しんで。 戯れが稀に真実を映すこともあったろう。 沈黙は金、雄弁は銀なんて言うけれど、それだけが全てでもない。 偉そうな格言は、大抵何の役にも立ちはしない。 「身に余る光栄だ、<cc dolcezza>お姫様</cc>」 最後まで止めない。 男は模範的な客ではなかった。客を待つ娼婦と話し込むことも多かったし、顔を合わせれば大抵出かけようと誘った。酷く親しげで馴れ馴れしく、いつだって恋人を呼ぶように君を呼んだ。 男は模範的な客ではなかった。それでも乱暴だけはしなかったし、君の見せる夢に溺れることもなかった。恋人役を冷静に愉しみ、その手を引いて逃げようなんて言うこともなかった。 「僕も愛してるよ、ビアンカ」 それでもこれだけは、真実。 朗らかに笑って手を振り、踵を返す。 女は娼婦だった。男はマフィアだった。 それはきっと、ありふれた話だった。 (-77) 2022/08/24(Wed) 19:59:06 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → ザ・フォーホースメン マキアート「それでもさ。子どもなんて、長いこと抱いていないから」 両の手に目をやる。大きな手をゆっくり握って、開く。 マフィアという組織に身を置いていれば、どうしたって生より死の話題が耳につく。やれ誰が死んだ、殺した、殺された、自分の組織のことではなくても、ないからこそ日常茶飯事だ。 だからこそ家族は新しい命の誕生を喜んだ。男も例外ではなく、きっと周り以上に。 喜びをよく顔に出す男だった。 寂しさも素直に口にする男だった。 「そう? それなら信じよう。君は僕に嘘なんかつかないし」 にこりと笑んでは、その身体を軽く引き寄せて。 軽く頬に口付けて、「君は偉いね」。 それから元通りの位置に収まって、アルコールを一口。 「聞きたいことはもう一つあってさ。君の可愛い後輩のことなんだけど────」 「どう、あの子は。先輩から見て?」 (-83) 2022/08/24(Wed) 20:15:37 |
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