【秘】 部隊長 シュゼット → 軍医 ルーク― 東棟側外壁 見張り台の机の中 ― [もし―――東棟側の外壁にある見張り台に赴いて、 そのタブレットを起動させることがあったなら。 中には殆どデータが無いことにまず気づくだろう。 使用された形跡があるのはただ一つ『ノート』と書かれた メモや手記用に使う者が多い、アプリケーションだ。 そのアプリの名前も、好みに応じて名前を変えられるのに、 初期の名前のまま、変更された履歴もない。 このタブレットの持ち主は、 相当、機械類を操作することに興味がないか、 機能の詳細について知らないのだと予測ができるだろう。 『ノート』にあるのもただ一ページ。 内容はどうやら、日記のようだったが――― この世界に居る者の日記にしては、何やら妙であったし、 見方によっては、暗号めいたものにも見えるものだ。] (-127) 2020/05/17(Sun) 20:18:10 |
【秘】 部隊長 シュゼット → 軍医 ルーク〇月〇日 今日から日記をつけてみようと思う。 はじめてで何を書こうか悩んだが、 馬鹿馬鹿しいと一笑されそうで誰にも話せていない 最近僕が見た夢のことを書いておこうと思う。 大地を、光が照らしていた。 僕は、その光がどこから来てるのかが気になった。 頭上にある、『太陽』だろうか。 いや。『太陽』にしては、何かがおかしい。 もっと。更にもっと上から、 大地が照らされているような、そんな感じだ。 上を見上げようとしたけれど、 場面が切り替わってしまい、できなかった。 そこで、ようやく僕は、これが夢だと気づいた。 (-128) 2020/05/17(Sun) 20:24:14 |
【秘】 部隊長 シュゼット → 軍医 ルーク また、僕は同じ場所に居るようだった。 今度は辺りは薄暗く、『夜』の刻限に思えた。 でも、それにしても、おかしかった。 辺りには、輝く光を放つ草花は一本も無かった。 今度こそ。 僕は、『月』を確認してやろうと上を見上げた。 ……目を疑った。 そこには、真っ暗な中に『月』の他に、 草の輝きとはまた違う、沢山の輝く何かが、 天に浮かんでいたのだ。 一体、なんだったのだろう。 頭上に、『太陽』『月』『輝く草花』以外に 光るものなんて、あるわけがないのに。 誰かに聞いてみたいと思うが、 そのためにこの話をするのも、悩ましいものだ。 それに、所詮は僕の見た、突拍子もない夢なのだから。** (-129) 2020/05/17(Sun) 20:26:06 |
【人】 軍医 ルーク[ 兎の部下たちは、毎日のように見舞いに訪れた。 歓談の雰囲気は、日を追うごとに和やかなものになった。 自分がいては冷や水をかける以外の何者でもないが、 勤務時間は勤務時間だから、席を外せないこともある。 そういうときは、その場にいた。 訪れるたびに胡乱な目を投げかける者もいた気がする。 自分たちの隊長に何かしたら只では置かない、 というところだろうか。 義手を取り外してのやり取りの時には、 ちらりと視線が其方に向かいはした。 それもまた、通常なら耐えられないような『痛み』を伴う 動作のはずなのに、 表面上、それが表れているようには見えない。 研究班の人に、細身のくせに馬鹿力の怪力兎と言われる―― というくだりで、 此方に部下のきつい視線が飛んだ気もするが、心外だ。 自分が言ったのは『莫迦』だけだ。 まあ、複数回言ったけれど。 阿呆、とも言ったけれど。 赤いうさぎの寝台を囲んでのそんなやりとりだとか、 屈託なさげな若い部下たちの表情、 感情豊かな女性の兵士の声、 そのようなものを聞くとはなしに聞きながら、 仕事の記録を付けている。] (389) 2020/05/17(Sun) 22:33:17 |
【人】 軍医 ルーク[ そして、兎が医務室を去る日の事。 検査についての問いかけに、決定事項を伝える。] 明日からだよ。 [ 任務に戻ってからも検査を止める理由は、何処にもない。 だから、これ以上引き延ばすことは出来ない。 この数日間ですっかりうさぎに懐いたぺんぎんが、 名残押しそうに足元に歩み寄るが、 その回復具合を喜んでいるのか。 がんばった! とばかりに両手を挙げてぱたぱたする。 頭を撫でられ、ぶどう味、という言葉に目を輝かせた。 はたしてどんなすばらしいあじが…! と、 喋らなくても目の輝きで、 誰にだって思っていることがわかるだろう。] (390) 2020/05/17(Sun) 22:33:29 |
【人】 軍医 ルーク次の検査は、薬は―― [ ふっと押し黙る。 此方の耳があるあたりに視線が向いたのは感じたが、 恐らく、何も読めなかっただろう。 何せ、普段は滅多にフードを下ろさないから、 覗こうとしても、耳自体見えなかったはず。>>18 この耳の形や色を知っている者は恐らく、 上官の前や顔の照会など、帽子を脱ぐ必要がある場に 居合わせた者だろうか。] 効果がない薬なら飲む必要はないよ。 経過次第かな。 [ 飲まなければならない栄養剤とは話が違う。 そう告げる声には、数日前このうさぎが担ぎ込まれて、 怪我も申告せず逃げようとしたり、 苦い薬に抵抗しようとしたときに見せた“怒り”――… 少なくとも、このうさぎはそう思ったらしいものは、 少しも含まれてはいないだろう。] (391) 2020/05/17(Sun) 22:34:13 |
【人】 軍医 ルーク[ 検査についての司令とのやり取りが、頭を過る。 部下たちとの和やかなやり取りも。 ――多分自分は、あの棚の中の瓶を、 どうすることもなく捨てるのだろうと思った。 作った理由も、捨てる理由も、わからない。 そんなものは、きっとない。 それにしても、ぷるぷる震える耳が実に分かりやすくて] でも、此方はあと一回分残っているね。 [ にい、と笑い顔の形を作り、 件の薬――AME015を差し出した。 飲み切るまではここから出さぬ、という 無言の圧を込めて。] (392) 2020/05/17(Sun) 22:35:28 |
【人】 軍医 ルーク[ 視界のすべてが赤かった。 炎は消し止められたようだ。 耳音で滴る水の音に、 ああ、流れている血だなと――そう思った。 辺り一面の瓦礫の山、 吹き飛んだ天井の向こうは、一面の闇だ。 誰かの声が聞こえる、誰かの動き回る音、 瓦礫をかき分ける音。 彼らの声が、ひとつも意味を為さない。 頭の中はぐらぐらと揺さぶられて、 目に飛び込んでくる景色も一秒後には捻じれ、 水にぬれて絞られる布のような心地がした。 身をよじり、身体を動かそうとする。 けれど、からり、と手元の破片が音を立てた、それだけで。 そうだ、繋いでいた手が、あったはずだった。] (394) 2020/05/17(Sun) 22:37:57 |
【人】 軍医 ルーク[ 首を傾ける。 小さな傷だらけの手は、確かにそこにあった。 自分の右手と、つないだままだった。 ――その手“だけ”が、あった。 動いた視界の先に、大きな瓦礫がある。 その下にあるものは――ああ、位置的にはわたしの脚か、と、 他人事のように、思う。 音のすべてが遠ざかる。 けれど、鼓膜は大丈夫。 視界に問題はない、赤いのは、血が入っているから。 そんな風に淡々と分析しながら、 駆け寄ってくる誰かの足音を聞きながら、 まるで、ピアノを弾いている指の上に 蓋を思い切り閉められたように、 自分の中に『何か』が致命的に断ち切れたということに、 気づいては、いた。 そのときは、それは両脚のことだと思った。 切れてしまった糸はそれだけではなかったということを、 病室で自分を診察した医師のカルテを盗み見て、知る。 ―― そのときも、もう、何も感じなかった。] (395) 2020/05/17(Sun) 22:39:33 |
【人】 軍医 ルーク [ ――… ] [ 目を覚ます。 最初に目に入ってきたものは、医務室の固い床と、] ……ぺんぎん…… [ そう、ぺんぎん。 目の前で此方を覗き込みながら、必死の様子でぺちぺちと、 頬を羽で柔らかく叩いている。 ああ、そうか、寝入った。 あと三時間もすれば、仮眠をとる予定だったのだけれど。 のろりと身体を起こし、揺れる頭を騙すように目を閉じて、 少し待ち、開く。] (396) 2020/05/17(Sun) 22:40:40 |
【人】 軍医 ルーク今夜は、勤務はない…… 起こしてもらったところ悪いけれど、 それは明日だよ。 [ そうじゃないそうじゃない、とばかりに ぺんぎんはぷるぷる首を振る。 しかし、この調子では明日の勤務に差し触るか。 食事だけでも、と、机の上の瓶を取ろうとしたところで、 ぺんぎんが机の上に飛び乗り、袖をぐいぐいと引く。 今日は何がしたいのだろう、一向に分からない。 手を止めて、とりあえず椅子に腰かけていると、 どこから調達してきたのか、 丸パンを一つぐいぐいと押し付けてきた。] ……食えと? 栄養なら、錠剤の方があるのに。 君のすることは、不思議。 [ 首を傾げるが、食べれば気が済むのだろうか――と、 千切って口に運ぶ。] (397) 2020/05/17(Sun) 22:41:35 |
【人】 軍医 ルーク[ まるで味がしないそれを飲み下せば、 久方ぶりの固形物に驚いた身体が全力で抵抗し、 飲んだものをそのまま吐き出させようとする。 ああ、吐いたら面倒だな――と、口元を押さえ、 机の上にあった瓶を片手で開け、中身をパンごと流し込んだ。 AME015。 味のない液体で、味のないパンを流し込み、食事を終える。 ぺんぎんは、ふー、と大きく息をついて、 机の上に座り込んでいる。 栄養剤の効果は抜群で、暫くすれば、 動くのに差しさわりがないくらいに体調も戻る。 これから徹夜が続いたときはこれを飲めばよいか。 自分用にも少しばかり発注しておこう。] (398) 2020/05/17(Sun) 22:43:01 |
【人】 軍医 ルーク[ 明け方近い時間帯、人気のない基地の中をゆっくりと歩く。 ひとりと一羽の、ゆっくりとした足音。 自室には向かわなかった。 この東棟の、外壁へと。 いつからだろうか、外壁を訪れて外を見るようになった。 目的は、大穴の『観察』。 毎日というわけではない。 ただ、あの大穴を見上げながら――時折、手を翳してみる。 天を眺めている。 夜目は効くが、視力自体はそこまで強くない。 生き物の影までは見えず、 天で発光する植物や苔の明かりは、少しぼやけていた。 見張りは外を見張っている。 内部寄りの見つかりにくい場所なら分かっていた。] (399) 2020/05/17(Sun) 22:44:11 |
【人】 軍医 ルーク[ やがて、『月』の時間が終わり、 『太陽』に切り替り始めるころ、 足元に壁面の、そして自身の影が差し、 それに追い立てられるように外壁を離れる。 立ち去り際、見張り台に寄ることにする。 この時間帯は、見張りは此処にはいない。 自分が立ち入る領域ではないのだが、 今朝見たものの記録を取るため、机を借りようと思ったのだ。 尤も、気づいたことなどそれほど多くはない。 只、あの大穴の向こうに何も見えないことに関する 仮説を一つふたつ――… 胸元のポケットに入れた用紙の束メモを取ろうとして、 ペンがないことに気付く。 ああ、寝ていた時に医務室に落としたのか。 今から取りに戻るのは面倒、申し訳ないが借りるとしよう。 引き出しを開ければ、そこにあったのは誰かの私物。 ノートや煙草だの双眼鏡だの、雑多なものだった。 そのくせ、見張り台だというのに筆記具は見つからない。 もしかしたらそれは他の引き出しにあるのかどうか。 手を奥に差し入れ、何か固いものに触れる。 なんだろう、と引き出してみれば] (400) 2020/05/17(Sun) 22:45:53 |
【人】 軍医 ルーク……タブレット。 [ 不用心なことだ、盗られたらどうするのだろう。 ひとのものを盗ったり読んだりする趣味はない。 そのまま奥に戻そうとして、 その手が止まったのは――見てしまったから。 赤い布の袋から覗く裏面の角にある、ひとつの『印』。 一見すると只の引っかき傷のように見える、それは。] ―――… [ 心臓が、どくりと鳴った。 これは、基地の人員に支給されているものだったはず。 発掘された遺失技術の産物の一つで、 何処かで大量に発見されたものと聞く。 ……いつ、どこで、 だれが? タブレットを取り出し、画面に指を滑らせる。 ロックがかかっている。 思いつくパスワードをいくつか入れてみるが、 どれもエラーに弾かれる。 当然だ、これを使っているのは――父ではない。 諦めきれずに、単語を無差別に入れてみても、駄目だ。] (401) 2020/05/17(Sun) 22:47:51 |
【人】 軍医 ルーク[ 恐らくは、発掘と研究に携わっていたのだろう。 発見されたそれらが回収されて、 期間を置いて実用に至り、基地に支給された。 父が居た頃、この地域で発掘されたものかもしれない。 だとしたらこの中身はとっくに初期化されて、 痕跡なんて、何も残っているはずがない。 そのまま袋に戻して立ち去ろうとして、ふと――… 魔が差した、というのだろうか、 あるいはある種の天啓だったのか。 不意に指先が綴ったのは、どうしてか。 先ほど自分が口にした、薬の名前。 ……棚の中にある、捨ててしまおうと思った、 それと同じ名前。 ――画面が、切り替わった。]* (402) 2020/05/17(Sun) 22:49:34 |
【秘】 軍医 ルーク → 部隊長 シュゼット―― 東棟外壁 見張り台 ――[ タブレットの中身は、殆ど使い込まれてはいないようだった。 まるで、まだ空のなにか。 そのまま閉じた方が良いと分かっているのに、 指先はどうしても、中にある何かを探す。 『ノート』 初期の名前のまま変更もされていないそれだけが、 使用の形跡があった。 導かれるように指で触れ、内容を開き、 そこに刻まれている内容に、暫しの間、押し黙る。 どうやら呼吸も忘れていたようで、 読み終わったその内容が信じられずに、 茫然とその場に佇む。 『断ち切られてしまった』感情は、役割を果たさない。 無くなったわけではないけれど、うまく繋がらない。 鍵盤はあっても、ピアノ線が切れたようなもの。 時折、思い出したように突拍子もない音を鳴らすだけ。 死んだと聞かされた頃はまだ心の中に滾っていた、 父への感情であるとか、過去の記憶であるとか――>>6 そういったものに突き動かされるようにしていた自分には、 やはり今でも、父の語った“別の世界”の話は、 途切れた先の何かを動かすものだったのだろう。] (-133) 2020/05/17(Sun) 23:20:49 |
【秘】 軍医 ルーク → 部隊長 シュゼット[ そのまま閉じようとして――… 凍るような、骨のような指が、自然と滑り出す。 (音を奏でないピアノを、 潰れた指先でなぞるように) (-134) 2020/05/17(Sun) 23:21:17 |
【秘】 軍医 ルーク → 部隊長 シュゼットはじめに、ごめんなさいを言わせてください。 日記を読むつもりはなかったのだけれど、 このタブレットはきっと、支給される前に、 父が発掘に携わって使っていたもののようです。 裏面の角に、引っかき傷のようなものがあるけれど、 それが印。 何か遺されている物がないかと思って、 中を開けてしまいました。 あなたが夢で見たという、 『太陽』よりも上にある、世界全部を照らすような光や、 『月』の刻限に空全体に散りばめられた光を、 わたしは想像することしかできないけれど。 昔、聞いた物語があります。 (-135) 2020/05/17(Sun) 23:22:53 |
【秘】 軍医 ルーク → 部隊長 シュゼット 『天』の向こうには、別の世界がある。 手を伸ばしても届かないような何かが、そこにはある。 その夜の刻限の光は、『ほし』といって、 まるで降ってきそうなほどに綺麗な、 宝石のような景色で。 そのひとつひとつには名前があって、 物語を持っているのだと。 もしまた夢を見たなら、 『ほし』と『ほし』を繋げば、 何かの形のように見えるのかも。 日記を読んでしまったお詫びに、 その物語と一緒に、 教えてもらった曲を入れておきますね。 『星』をめぐる歌だそうです。 わたしも、多くを聞いたわけではないけれど、 その中の一つが、『ほし』の話でした。 いま、とても不思議に思っています。 (-136) 2020/05/17(Sun) 23:26:55 |
【秘】 軍医 ルーク → 部隊長 シュゼット[ そうしてノートのアプリを閉じて、他のアプリを立ち上げる。 玩具のような、楽器。 初期から入っていたもののようで、 娯楽もある程度は必要ということか、 タブレットにはこの類の代物も、少しは残されている。 鍵盤をひとつひとつ奏でれば、 無機質な音の繋がりが曲になる。 それは、どこか素朴なメロディの繰り返しで、 遠い何処かを旅するような、そんな曲だった。 作成したファイルを、ノートのアプリの隣に出しておく。 そうして、画面を消した。 ――“思っています”と、自身の指がそう綴ったことには、 自分でも、気づかずに。]** (-137) 2020/05/17(Sun) 23:28:20 |
軍医 ルークは、メモを貼った。 (a57) 2020/05/17(Sun) 23:37:48 |
(a58) 2020/05/17(Sun) 23:42:55 |
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