君の部屋の扉の隙間から、すっと差し込まれる紙切れ。
或いは我侭で身勝手な甘え。
内容は以下。

『優しく探索上手なジョシュアへ
　もしも本日の探索や攻略中にを見つけたら
　どうかに譲ってくれないだろうか。
　出来れば毛並みの良い大型犬がいいけれど
　急ぎで必要なものだから我侭は言わない。
　
　一匹もいないならそれでもいい。
　一匹いるなら運が良く、いるなら上々だ。
　二人でどうにかしようとはしたけれど、
　ペットショップの犬しか見つからなかった。
　生憎、その日は通貨が足りなくて……。
　
　怒られると困るので添えておくが、飼うつもりはない。
　。
　尤も、電子の犬で証明は難しいだろうが　一応ね。
　
　出来ればでいいし、用途に賛同してくれるならでいい。
　見つからない可能性もあるから、無理はしないで。
　
　返信は不要だ。それでは、また。
　
　不出来な愛玩用のドゥーガル/カンマより』

――　手紙を置いた主はもう扉の近くにはいない。

部屋へ戻るか、何処かへ向かったのだろう。
一方的な甘えだけ置き去りにして、返答を期待しない。
叶えられても叶えられなくても構わない。ただのわがまま。

何もかもご自由に。君の好きにしてくれ。
こんなわがままは断る方がいいと言われればそれはそうだし
倫理的に問題があるのも確かなのだからね。

そんなわけで。ご丁寧に檻に閉じ込められ、
スコップによる切り傷からデータのかけらが漏れ出している、
それなりな毛並みの野良犬エネミーが部屋に届けられる。
その数は(11)^3D6匹ほど。

『探偵に探し物の依頼とは適材適所ってとこ。
　でも無傷で優良品ってわけにはいかなくて悪い。
　とんだ暴れ者しか見つからなくってさ……
　弱らせるために少しだけ虐めちまったっす。

　飼い犬を探す依頼を受けたときは、
　もっと良い子ちゃん揃いだったんだけどな。
　餌とか気に入ってたおもちゃでおびき寄せたりして、
　山の中や木の上まで駆けずりまわったっけ』

　そんな手紙も添えられたりして。
　用途については特に言及されない。
　ゲーム内なら。まあいいか。そんな程度の軽い気持ちで、
　力になれるなら……などと思ったのかもしれない。

ことん、ことん、ことん。

君の部屋の扉の傍に何かを積み上げて、
3/4オンスに執着する不出来な愛玩用は去っていった。

扉の傍に積み上げられたのは、小さな包みたち。
君の眼の色と良く似たリボンを巻いたそれらは
不出来な金貨ときっかり同じ重さだ。

お菓子の包みは20個。
チョコレート、キャンディー、ビスケット、
クッキー、グミ、ガム、他にもいっぱい。
君の想像力次第で緩く変動するお菓子達の山。
つまり中身はお任せ、お好み次第。

山のてっぺんを陣取る1個の中身は
ふわふわとしたハンカチタオルだ。
色合いは淡い水色。綺麗な空の色。

傍らにメモが一枚落ちている。

『もしも魂が見付かったら
　君にも分けてあげるね。』

夕刻よりも手前。
愛玩用が何処かへ出掛ける前に、
君の部屋の扉前に何かを置いていく。

置かれたのはタッパーだ。
小さなタッパー内に詰められた、赤黒い肉片。
中身は丁度3/4オンス。

エネミーだったものから摘出したものに過ぎないので
時間が過ぎれば消えてしまうかもしれないけれど。
それでも、そんなものが入っているタッパーを置いた。
君が見た時にもうデータが消えてしまっているならば、
そんなものが入っていたタッパーを置いた。
魂なんかじゃない。これはただの偶然の産物。
でも、愛玩用はそれが分からない。

メモは残さないが、

「見つかったよ。」

そんな声を扉越しに投げ掛け、
更に検証を重ねる為に。あと4匹分確かめる為に。
不出来な愛玩用は二人で何処かへ向かって行ったのだろう。