75 【身内】星仰ぎのギムナジウム【R18G】
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全ての手紙を届け終えて、そして受け取った。それから、まったくもう、とだけ呟いた。
「――あ……」
彼を見送った後、改めて思い出だらけの部屋を見た顔からは
自然と彼の余裕が、見得が、強がりが、剥がれ落ちて行く。
若草色の瞳が滲む。『これから』を認識することを恐れた。
両の手が震える。抑えようにも指先の感覚がない。
呼吸が乱れる。息をすることはこんなに難しかったっけ?
歯の根が合わない。おかしいな、まだ冬は来ていないのに。
いやだ、みたくない、わかりたくない、うけいれたくない、
だっておれは、おまえは、おまえの、
そう思いながらも思考を巡らせることはやめられない。
よく慣れた行いで、簡単に心が追い詰められていく。
「――シトゥラ。シトゥラ……」
呼ばれたらすぐ駆けつけると言ったのはお前だろ。
それなのに、こんなに呼んでいるのに、お前は来てくれない。
お前の手で大人のもとに連れて行かれた夜に、
大人のもとに連れて行かれる前に、お前のものになった時に。
俺のことをちゃんと見ててって伝えたし。
愛してる
って、お前に応えた、はずなのに。
「……でも、いいよ」
己のやるべきことは変わらない。
『知識』を求め、大人を利用するために近づこうとした少年は
己のことを"魔術師"と呼んだ。
大人に従う意味、大人に従う事情、与えられるモノの真実、
知る度に湧き上がる更なる興味と感情に振り回されながら、
より多くの『知識』を求めて他者と関わり『情』を得て、
――――そうして、『いなくなった』。
己が不和の種である事実は少年を苛み、
苦痛から逃れるために情を捨てようとするもそれは叶わず、
他者から差し出された手を結局は受け入れて未来を望んだ。
自分の望む未来など訪れない。
自分の心など変えようがない。
そうしてたったひとつに追い縋り、
だからこそこの先にある『地獄』をはき違えて。
ああ、けれど、そこで交わした約束を、
少年は決して破りはしない。それも誠意と、愛のため。
「俺は全部許すから」
『情』を知り、『愛』を知り、動けなくなった愚者のはなし。
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