【人】 中堅看守 アンタレス>>168 ナフ 「...そうか。」 貴方に爪が届いた時、男は何かを堪えるように眉を寄せた。...とはいえそんなことでは何も変わらないし変えられない。 男にとって肉を割く感触と、 赤 を浴びることになんの楽しさもない。痛みを得ることに、与えることに今は苦痛しかない。 嗚呼、やはり今日の票に自分を選んでよかった。 「ナフ、私は——」 続きの言葉は音にならない。 貴方の用いた刃は、確かに首に当てられる。叩きつけるように振るわれたそれでは、上手く首を切る事は叶わないだろう。 左の首、そこから右の胸か。なんであれ骨を断つ勢いであり、また綺麗な切り口とはいえない......男の身体は半端に繋がった状態になるのではないだろうか。 そして勢いよく貴方へ、男の 赤 が雨のように降り注ぐ。びくりと四肢を震わせ、呻く間もなく......ただ、男の瞳が濁るまでの間に、一瞬 貴方へと視線を向け、 それでも君に、感謝している。 音にはならない小さく紡がれた言葉。 どこまで言えたかは男にさえも分からない。 貴方が見えたかさえも。 音を立てて崩れ落ちたそれは、今はもう......ただの肉だ。 男の死と共に、全ての氷が跡形もなく『解けた』。 (170) 2021/10/13(Wed) 2:27:16 |