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【秘】 天使の子供 ソニー → デッド・ベッド ヴェネリオ2月、花祭りの名残のある日和。窓の外には白い小花があちらこちらに散って見える。 いつかの日。遠く過ぎ去った春の日。 思い返すのは青年か、貴方か、どっちだったろうか。 ニュースにもならないような小さな話だ。 路地裏でたむろしているチンピラの一人が街から居なくなったという。 あるものは出稼ぎでも言ったんだろうといい、あるものは夜逃げでもしたかといった。 島の上から社会の益にもならない人間がひとりきり消えていったところで、誰も問題にはしない。 そんな誰かの名前なんて、誰も覚えていやしないはずだった。 いくつかある貴方の隠れ家の内、たかだかの駒であっても知れるような場所。 一つくらいは他のカモフラージュのために、近しい人間には明らかにしていたところがあったのだろう。 ちょうど貴方がそこに滞在していた頃、貴方が世話していたうちの子供が尋ねてきた。 子供、なんて言ってもとうに成人してから2年は経っていて、孤児院からは離れていて。 そのくせまだ日雇いやアルバイトを転々として身の置き所も定まらないような問題児だ。 ソレが意味のある言葉をやっと長く繋げて日々の報告だとかを向けてくるようになった頃から、 ずうっと貴方の手を煩わせてきた、ちょろちょろと周りをうろつくだけの、ただのガキだ。 「先生、居る? 留守かもな……忙しいって言ってたし、こっちには居ないかもな」 貴方が滞在している時に青年がちょうど訪ねてきたのは、おおむね偶然だったんだろう。 同じ組織の中にいるのでもない子供が貴方のスケジュールを把握しているわけもないし、 どこで今何をしてるか、だなんて聞ける相手を、知っているわけでもない。 気まぐれな生き物は、訪ねてみてから連絡すればいいか、なんて楽観的に考えてもいたのだろう。 インターホンを押して数秒。待つこともうしばし。貴方は顔を出してくれるだろうか、なんて。 そわついた素振りをして、窓に映した自分の顔を見ながら髪型を整えたりなんかしていた。 (-1) redhaguki 2022/08/24(Wed) 23:25:52 |
【秘】 天使の子供 ソニー → デッド・ベッド ヴェネリオ「!」 足音が聞こえて来たなら慌てて姿勢を正し、すぐに開くのだろう扉の前に直立に向き直る。 別にそれも大きな音じゃない。今までの多くのために培われた教育と資質の賜物だ。 それでも今、いつかの未来よりも一層立ち振舞いはあからさまなくらいにわかりやすい。 唯人、ごく普通に市井を生きる一般人とは一挙手一投足の洗練のされ方まで違えてしまってるくせにだ。 「ごきげんよう、先生」 扉の隙間から見えた姿にほとんど飛びつくみたいに、一歩踏み出して両頬にキスを交わした。 別に特別なものじゃない、ふつうに人々が交わすバーチョだ。右に一回、左に一回。 けれどもなんとなく緊張だったり落ち着かなさだったりの滲む動きはほんのり不自然だし、 それをごまかすために一度唇を歯のうちにぎゅうと巻き込んでから笑顔を作って見せもするし。 貴方に対してはどうにもばかばかしいほど隠し事の出来ない男が、誰某れからの刺客である筈もなく。 けれどそこまでわかっていたって、背に回したままの片手には目を留めるだろう。 ちら、と自分の背中に一度目をやってからそれを取り出すんだから、凶器であるはずもないのだが。 「コレ、花祭りの季節だからさ。その辺の枝折ってきちゃった。 忙しいトコごめん! どうしても先生に話したいことあったんだけど、ダメ?」 目の前に差し出されたのは白い小花をつけた木の枝だ。言う通り、勝手に折ってきたのだろう。 もちろん街路樹を傷つけるなんてのは良いことであるはずもないのだが、 チンピラ上がりの青年には、目先のこと以外はどうにも後回しにしがちなんだろう。 未だに、一生相手の背丈を越せそうにもない小柄な上背の上にくっついて見上げる顔は、 簡単に用事だけ済ませて帰るつもりはなさそうな、既に名残惜しそうなさみしげな表情をしている。 (-3) redhaguki 2022/08/25(Thu) 0:20:45 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 銀の弾丸 リカルド「そうだね。……でもオレだって、此処にいなかったらアンタの位置に居たかもしれない。 わかってる、オレが此処に居るのは蔑ろにされてるからじゃない、わかってる……」 伝わっていないわけじゃない。疑っているわけじゃない。 だからといっていつだって、納得出来るわけじゃない。納得したくない、わけでもない。 肩を押しやって添えられた手、その指にひきつったような力が込められた。 貴方が彼の隣に居るのは己とは何も関係はなく、逆も然り。けれど、羨ましいのは変わりない。 そしてその決定を疑ったり覆したり――彼の決定を間違いだと言いたいわけえでも、ない。 不意に背中に水が落ちた。一滴、それだけ。 読んでいる途中の本を曲げ広げるみたいにぐ、と背中に掌を押し当て、上体を下げさせる。 濡れたシャツの絡んだ腕はその上。後ろ手に腕を組んだような形で固定して、そのまま。 安くはないものの柔らかくて沈むようなソファに、肩と膝とで身体を支えさせる。 肩の力だけで立ち上がるにしたって、普段どおりに動きやすくとはいかないだろう。 「ああ、痛いのが好きだった? 知らなかったな、その情報は。 でも苦しめるためにやってんだからそんな気が楽になるようなことするわけないだろ。 ……煙草の、匂いがする」 背中に落ちる視線は痛く刺さるようなものじゃない、どこか、遠くの景色を見ているような。 薄く透けてしまいそうな曖昧で、何も見てやしないようなかすかなものだった。 ふ、と口にしたのはどこか肌に染み付いた残り香だったかもしれないし、錯覚だったかもしれないし。 背筋からするりと腰のほうまで上がってきた手は、尻肉を親指で押し広げる。 急に蹴りつけてきたり暴れたりしないように余った手で抑えながら、覆いかぶさるようにして。 つ、と舌先が触れる。まだその先を想像したこともないだろう窄まりを、尖らせた舌がなぞって。 皺の一つ一つを外側へと押しのけるように、ゆっくりと動かす。唾液が滴って跳ねる音がした。 深い呼吸が舌の付け根から落ちるように聞こえる音と重なるそれだけで、 見えないところで自分の身体に何をされているかっていうのは、感触を含め想像はつくだろう。 (-7) redhaguki 2022/08/25(Thu) 1:58:56 |
【秘】 天使の子供 ソニー → デッド・ベッド ヴェネリオ今も昔も、そんなふうに案じられているなんているのはいざ知らず。 心はとうにずうっと飽きもせず途絶えもせずに貴方のものだ。けれど相手はそうではない、と。 大人と子ども、相手にされやしないものだと内心仕方なく思いながらに追いかけ続けていた。 とっくの昔に捧げた心、それ以外の身体だとかっていうのはどう振る舞おうが構わないと考えていた。 今更操立てして他に目移りすることがないなんて示したところで、何か意味を成すわけじゃないのだし。 聞き方を変えれば長居はするなと嗜められているようなものなのに、大層嬉しそうに笑う。 それがなんとも得意げそうなのだ。別に自分の功績ではないんだけれど。 いつまでたっても子供っぽさの残るような仕草も、垂れ目の童顔の上では浮いても見えない。 あなたの前じゃいつだって、背伸びをしただけの子供だった。 跳ね回るように後ろをついて歩いて、当然のように開けられた隣に座って足を伸ばす。 ぽきりと折られた白い花の枝は、挿す花瓶も都合よく空いてるわけじゃないから、 適当にテーブルの隅っこに置き去りにされてしまう。季節の花を見せたかっただけなのかもしれない。 「そうなの? ちぇ……そのこと報告に来たんだけどな。 オレだっていつまでもあちこちほっつき歩いてるワケじゃないよ、ホント。 最近はバイトだって続くようになって来たし……」 隣にぴったり座っていたって尚身長差を感じるような小柄な体躯とは裏腹に、振る舞いはいっぱしだ。 いっぱしのチンピラだという意味でしかないけど。放っておきゃもっと始末に追えなかったろう。 心配をかけてばかりの生き物は、言い訳めいた言葉を吐くごとに段々と声を小さくする。 ちら、と怒られる気配を察したみたいに、上目遣いに貴方の目を覗き込むのだ。 「先生もやっぱ、……困ってた? オレがいつまでもフラフラしてるから……」 (-11) redhaguki 2022/08/25(Thu) 8:37:31 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 風は吹く マウロ「ん、」 きゅ、と眉根が寄せられる。抗議のようにも性感に落ち着かなさを覚えているようにも見える。 全てが演技なわけじゃない、得られた快楽を普段よりも深く受け取って、わざと弱気を曝け出している。 こんなところに連れ込んで、強気に出たところでそそらせることは出来ない、から。 自分から仕掛けたくせに文句の一つでも言いたそうな顔をして、深く深く息を吐く。 手先に誘導されて顎を上げ、絡み合う舌は相手に任せながらに時折顎の裏側をなぞった。 息の苦しいのをごまかすように、時折顎を引いて短い言葉を交わす。 「それ、好き、かも。もっと触って、マウロ」 甘えたように懇願して、時々額をこつりとぶつけた。堪らないものを伝えて、せがむよう。 布越しに擦れ合う陽物はだんだんと芯を持ち始めて、下着を引っ張る形の先に体液が滲む。 手の内で質量を増すごとにふ、ふ、と息が弾む。爪先が凹凸をなぞるとぞわりと背を震わせた。 恥じて怖気突いて、興が冷めてしまう前にと自分が先に下着の中から腫れた肉を取り出した。 充血して、亀頭は滴った先走りでじわりと濡れていて。望みを伝えるようにコツコツと腰を合わせる。 交差するように合わさった陰茎を片手で包む。筋張った指がふたつ、包み込んで擦りあげる。 互いの熱が混じっていくごとに、抑えが利かないみたいに腹筋に力が入った。 互いの頭のコントロールをすっかり相手に任せて、片手の指先を唾液ですっかりと濡らした。 片手は相手のベルトを緩めながらボトムの裾に入りこんで、さして自由の利かない空間の中で動く。 街路からのかすかな喧騒から隠れるように、ほとんど体勢は変えないまま。 そのくせこれからどうしたいか、表すように指は段々と裾から中へ、尻肉の間に入っていく。 尾骶骨を指が押し上げて、その下に捩じ込むように入り込んで。隠れた窄まりに、触れる。 長く、息を吐いた。 「……片足、ちょっと開いて」 (-28) redhaguki 2022/08/25(Thu) 23:07:20 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 銀の弾丸 リカルドたいそう大事にされていたのだろう男は、けれども背中に隠されていた時間が長すぎて。 大事にされていたのだということそのものが見えなくなって、離れて遠くなりすぎた。 分かる筈もない。随分と遠ざけられて、すり減って。そうして在るのが、今此処の彼岸だ。 薬というのは、弱いものほどセッティングが大事だ。集中できる環境が無ければ悪酔いするだけ。 そして強度が違えど機序は、通る神経は同じだ。薬効の危ういほど、対外的な補助は不要になる。 場が整えば、神経を走る感覚と融合すればするほど。一層脳が蕩けだす。 鼓動が打つほどにきっと、血の廻るように楽園が血管を流れるのは、最悪の気分だろうな。 口を開いて乾けば、唾液腺からつうと水気が溢れる。それを舌に伝わらせ、潤すように。 尻肉の間に鼻先を埋めるようにして、丹念に穴に舌を這わせて、馴染ませて。 そう簡単に熟れてくれるものじゃない体も、薬のおかげで真っ更よりかは扱いやすい。 しつこいくらいに舐めていればどうしたって何もしないよりかは受け入れやすくなるはずだ。 相手の声の調子が随分と変わってくるくらいになると口を放して、膝をの間に足を割り込ませる。 着衣のままの男は、ポケットからプラスチックの瓶を取り出した。手先に中身を出して、少し温めて。 粘度の高い温感ローションに塗れた指を、今しがた舐め解していた穴に擦り付ける。 少量から、量を増やして。門渡りに垂れるくらいには、いくらか指先をねじこんで。 「……ね、気持ちいい? ケツの穴舐められて、ほじくられてさ。 イヤそうにするわりには随分よく鳴くよね。興奮してるワケ? コールガールにでもいじらせてた? ああでも女避けがちなんだっけね」 相手の事は相応に調べていた。普段のスケジューリング、弱み、嗜好や交友関係に至るまで。 一端のソルジャーよりも余程重要な立場だからこそ、噂は立ってしまうものだ。 だからこうやって揚げ足取りのように論う材料には、事欠かない。 言い返す元気はまだあるかな。ゆるゆるとかったるく動く指は優しいのに、口先は下品なものだ。 (-31) redhaguki 2022/08/26(Fri) 0:24:59 |
【秘】 天使の子供 ソニー → デッド・ベッド ヴェネリオ「はあい……オレに出来っこないよそんなの。先生くらい背が高けりゃな。 でも先生も着こなすって感じじゃあないよ。たまにシワ取りきれてないじゃん」 返事はするけれど、やはり青年はいわゆる優秀な子供ではなかった。手先は器用だが、頭は並だ。 荒事ばかりが運ぶわけではない世界に混ぜ込むための人材を作る施設の中では、評価は良くも悪くも。 身体能力では劣っていても頭の良さで青年を上回って見込まれた人間のほうが、それなりに多かった。 だから、望まれるような一人前の姿は……ちょっとだけ、自信がない。 「……いじわる」 説教じみて耳に痛い言葉から逃れるように、低い位置にある頭は貴方の肩に埋もれた。 肩口というにはもうちょっと内側、胸板につながる辺りのところに、少し固めの髪がうずくまるよう。 子供じみた仕草をするにはもう大人に過ぎる。昔から、怒られるとよくこうしていたのだろう。 いつまでも子供のつもりで居る、わけではない。自分の年齢に相応しい振る舞いを弁えてないわけじゃない。 甘やかされるのを期待しているのが半分。甘えてもいい相手だと思っているのが、半分。 心臓の音と体温を感じて、うまく詰めきれない距離をどうにかしてしまおうとしているのが、ほんの僅か。 「オレも先生といっしょがよかったな。また会いづらくなる…… 先生のお菓子だって最近食べてない気がする。味忘れちゃうよ。なんかない?」 言葉にしてみると思い出したように、ぐうと腹が鳴った。条件反射が早すぎる。 これだけ寄り添っていたくせに現金な目は急にきょろきょろと部屋の中を見回す。 わがまま放題に振る舞うのは、貴方に随分甘やかされて育ってしまったからなんだろう。 同じような季節の、木に成る花に近しいようで違う独特の甘い香りのせいかもしれない。 この時期、一部の観光地や街路樹には、机に今転がされているのと同じアーモンドの花が咲き誇っていた。 花祭りの季節、別にそれを目にするのは珍しいことでもなんでもなかった。 (-32) redhaguki 2022/08/26(Fri) 0:47:38 |
【秘】 天使の子供 ソニー → ザ・フォーホースメン マキアート小さな椅子の基部とクッションとが、重みで引っ張られて軋んだ。よく働いてくれるものだ。 きし、きしと小さく耳に立つ音に合わせるように、喉奥から弾む息が漏れる。 呑み込まれる感覚にひく、と眉を動かし、喘鳴のような声が絡むように混じった。 直接的な快ではなくとも、額に柔らかな感触を受けると幸福感で腹筋に力を入れる。 「んァ、やば……も、出しちゃいそう。 もちっと、格好つけさして、よっ」 相手が貴方とあっては、自分のペースに合わせて余裕綽々にとはいられない。 すねたような文句を飛ばしつつ、腰に巻き付けた腕を引き寄せてホールドする。 辛うじて伸ばした爪先を起点に、自分の体を持ち上げるようにして下から突き上げる。 締め上げられるたびに耐え難いものに縋るように引きつった声を上げ、上がってくる何かを塞き止めた。 汗の絡んで柔くなった髪が、互いの体が跳ねる度にくしゃくしゃになって揺れる。 「すっげぇ、気持ちい。死んじゃうかも」 今の状況にあっちゃ縁起でも無い言葉だ。 自分で言ってしまってから自覚したのか、なんだかやけに可笑しくて笑ってしまった。 椅子の軋む音がどれだけ続いたか自分自身ももうじきの限界を感じ始める。 左の下腕で抱いた腰の重心を任せ、顎で胸板を押すようにちょっとだけ隙間を作る。 腰の動きだけでぐ、と神経の先に感じるとっかかりを引っ掛けるように刺激し続けながら、 余らせた手で相手の性器を包み、追い詰めるように扱き上げる。 息が弾む。まだイカされないうちにと、自分に相手を追いつかせるように前後から責めたてて、それで。 (-35) redhaguki 2022/08/26(Fri) 6:43:46 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ「……半分は、もう見つかってるから」 人の魂はどこに宿るのだとか、怒られるかも知れないだとか。考えないわけじゃない。 けれどもうまく答えが出なかった。相手からしてみれば呆れるようなものかもしれないな。 死んだ人間の処分に困る、なんてことは今までなかったのだ。困るほど選択肢に迷いがなかったから。 「望まないかも知れない、けど、これでいい。もう充分辱めを受けた、だから。 これ以上きれいにしてやれないなら、もうこれで、いい」 滔々と流れるような言葉はテープレコードのような無機質を孕んでさえいる。 拙い頭を動かしはして、考えるだけはして、その結果だ。他に思い浮かばなかった。 わかっている。わからないわけじゃない。貴方が本来敵対する人間なのも。 狭き門を潜る門を閉ざす行いだということだって、ちゃんとわかっていて、それでも。 暗がりの向こうを指差す。そこには白いバンの輪郭が浮かんでいた。時折街を走る、花屋の配達車だ。 こんな場所、こんな用事にも関わらず乗り合わせてくるなんてのは見るからに冷静じゃない。 どんなに頭を巡らせたところで、とうに錯乱し切って頭は壊れているのかも知れないな。 貴方がついて歩いてくるなら男はバンの扉を開いた。後部座席、小さな花びらが点々と散るその中に、 男物のジャケットを着せられた、女の上半身がやわらかいブランケットの上に寝かせられていた。 夏の三日月島は穏やかだ。死臭が満ちて、水気を含んだそれは既に状態も悪くなり始めている。 貴方が今朝方のニュースをアジトで耳にしていたなら、アルバファミリーの庇護下にある女が一人、 抗争の混乱の中でひどい死に方をしたのだという話を聞いていたはずだろう。その、片割れ。 海の匂いのかすかに混じり、髪には真水で洗いきれなかった塩がほんの少し残っていて。 それでもなんとか小綺麗にまとめて、顔の化粧を薄くやり直してやって。裸の体を隠してやって。 今貴方に、彼女にとって縁のない人間に引き渡す直前までは、礼儀を尽くされていたのだろうそれは、 このまま警察に引き渡したならこの男が犯人だと断定されかねないくらいには手を加えられていた。 → (-37) redhaguki 2022/08/26(Fri) 8:17:53 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ胸元の皮膚を削ぎ取るように与えられた傷は、すっかり血が抜けてから出来たものなのだろう。 そこに何が刻まれていたのかだって、件の報せを聞いていたなら察しがつくはずだ。 可能な限りに整えて、与えられた侮辱を覆い隠して、あまりサイズの変わらない上着を着せられて。 それでも凄惨だ。耐え難く、おぞましい。人の悪意の残り香がある。 そういう、用事だ。 「見つかるなら、逆ならよかった。けれどそうならなかったなら、見せるべきじゃ、ない。 女たちに追い打ちをかけるわけにはいかないだろ? わざわざそんなこと、さ、 ……どうするの、移動したほうがいいの」 空笑いが声に混じった。努めてなんでもないと振る舞おうとしたのは、失敗した。 男女の情愛では無いこそすれ、目の前の彼女と男の間にはそれなりの心の通い愛があったのは、 ばかばかしいくらいきちんと整えられた彼女の有様を見れば、貴方にもなんとなくわかるだろう。 呆然と眺めるのをやめて、貴方に指示を仰ぐ。 (-38) redhaguki 2022/08/26(Fri) 8:18:22 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 銀の弾丸 リカルドかわいそう、と他人事みたいに口の中で呟いた。音になっていたかはわからない。 捨鉢な頭の中で、これが理不尽であることはわかっていて、されど止める理由もない。 小暗い高揚が胸の内を占めている。散々に虐げたことで、怒りそのものは収まった。 けれど、最初から怒りのためにこんなことをしているわけではない。 探しているのだ、 を。だから、狂人の行いだと言われたのだし、その謂れは正しいのだ。 碌な理屈も持ち合わせちゃいないのだから、感情が冷えたところで止まるわけでもない。 一度きりでそうそう具合がよくなるわけでもないが、薬は様々な助けにはなるだろう。 筋肉を緩めたり痛みを誤魔化したり、互いにとって都合がいい。それが喜ばしいかはさておき。 指先をねじ込んで開かせ、どれぐらい緩んだかを確かめ、頷いた。 「アンタの仲間たちはどう思ってくれるもんかな……少なくともアンタを知らない連中は。 本当は不誠実な人間だった、って。そおう思ってくれたなら、オレも気分がいいんだけどな」 代わりに手を動かすのはやはり僅かばかり燻る悋気だ。いつからか、貴方が羨ましかった。 仰ぎ見る誰かの隣にいられることか、それとも見たこともない親と同じポストにあることか。 もしかしたらそこに、理想的なものを見出していたのかもしれない、だからこそ。 ベルトを緩め、ボトムの前を寛げる。体裁だけでもそれらしく、とはしない。必要がないから。 緩く立ち上がりつつあった熱に指を添えて擦り上げて、陰惨な欲動を陽物に集める。 薄く滴りのあるうちに、今しがた押し開いた後孔へと亀頭を無理矢理ねじ込んだ。 皮膚であったり肉であったりのひきつるような感覚があった。ぐ、と息を詰まらせる。 深呼吸をして痛みを誤魔化する。人並み程度の大きさだが、それでも呼吸が苦しくなるほど。 ゆっくりと腸壁に馴染ませるように、男根を押し込んでいく。 (-48) redhaguki 2022/08/26(Fri) 22:53:30 |
【秘】 天使の子供 ソニー → デッド・ベッド ヴェネリオ相手がどう感じているかだなんて知らぬままだ。手の届かないものと思っているから。 だから天上に向かって手を伸ばしている、何度も。幾度となくそれを繰り返してきた。 これだってその延長線で、響いているとは思わなかったから空振りし続けているつもりなのだけど。 「わかった、わかった。ちゃんとやる。別にやる気が無いわけじゃないってば。 ……待つ!」 やりとりだけならそれこそどうしようもなく大人と子供だ。 片付けの出来ない子供が急かされるみたいなやりとりの末に、差し出されたキャンディに視線が寄る。 唇に触れる透き通った甘味を、口づけるみたいに受け入れてから。 ばく! と指ごとかじった。実際にかじり取れたのは当然飴玉だけだ。してやったり、悪戯の成功した子供みたいに笑って見送る。 多少こうやって上回らせてみせてやれば、案外落ち着いて待ってみたりもできないわけじゃないのだ。 手持ち無沙汰に、伸ばした足を揺らしながら相手が帰ってくるのを待つ。 「まだ全然寒いけどもうちょっとで春が来るんだなあってわかるから、花祭り好きなんだよね。 母さん達からもちょうどこの時期に花が届くから…… あ、そうだ。もう一個報告あんだよね」 まだ、ガラスランプのシェードに細かな罅が入る前。内側の灯りがむき出しになって壊れる前。 いつだかの青年は、今の男よりもずっと素直で、明るくて。寂しそうな翳りなんてのもなかった。 他の誰かに傷つけられる前に貴方を殺さなければならない、なんて追い詰められたりも、しない。 キッチンの方に向かう背に、張った声を投げかけつつ思い出したように声をあげる。 言ってみてから、なんだかにやにやと。けれども仔細な話は相手が戻るまで待とう。 (-51) redhaguki 2022/08/27(Sat) 0:05:31 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ最初から本当に友達になりたくて近付いていたわけではない。最初は偶然から。 或いはいつからか男は貴方の素性を探って、ひとつの失われた者に近しいものを見つけたから。 甘やかな絆を築くつもりではなくなってしまったのだから、貴方の瞳に映る色も。 男にとっては知ったことではないし、その逆も同じだ。 此処で何を説かれたところで、何を変えられるわけじゃない。きっと納得しない。 罅の入ったまま幹を育てた植物はいつまでもその内側に傷を残したままに育つ。 いつか傷ついたままの幼いままの心は、他人の言葉で納得するほど良い人間ではない。 「……逃がそうとしてたんだ。こいつが面倒見てた子供と一緒にさ。 こいつらはオレたちの争い事なんかとは殆ど関係ない身分のやつだから。 自分は何処にも行かない、ここに残るなんて言うもんだから、どうにか説得しようとしてて。 逃がすつもりだったんだ。どっか遠く、別の生き方の出来る場所まで……」 説得しなければならないということは、彼女の望みとは違えたもので、勝手な押し付けだった。 それを喜んだかもわからない、けれどそうすべきだと思っていた、それは全て破綻したが。 相手にとっては少しも関係のない話は、同情を買うつもりというでもないのだろう。 後悔だとか、無力感だとか。耐えきれないものと向き合えば吐露せずにはいられなくなる。 死体はころりと分厚い毛布の中に転げて、座席から少しも身じろぎせず降りようとしない。 幅の圧迫痕のある両手首の先にある爪先には、新しく塗られたネイルがエナメルのように輝いていた。 中身のないからっぽの胴体は、頭は、折れた骨と伴う肉は直しきれずにそのままで、 その凄惨さが軽減されたわけではなく、ギャップが余計に物悲しいものを思わせた。 大事にしたかったのだ。友達のつもりだったから。それも手遅れなら全てが無意味だ。 相手の答えが欲しい訳では無い、けれど。壁と話して溜飲を下げられるものでもなかった。 → (-61) redhaguki 2022/08/27(Sat) 13:10:06 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォわかった、と頷いて運転席に乗り込む。助手席は空いているから、座れやするだろう。 そこにもいくらか花びらが落ちている、干からびたものはなくて新鮮なもので。 まともに体と頭が動いているうちは、きちんと掃除されていたのだとわかるだろう。 裏の顔と表の顔が混在する。つい最近まではそういう場所ではなかったのだ。 エンジンキーを回せば、少し古びたエンジンが起動し始めた。ギアを入れて、夕闇の中を走り出す。 手はハンドルとギアを行き来して、その間に狙われたなら簡単にとは言わずとも殺されていただろう。 片方が何も出来ないのが理由で、どちらも血を流すことはなく車は走り続ける。 都市部の郊外から郊外へと抜けていく道中は、誰に邪魔されることもなく静かだっただろう。 今も尚互いのファミリーを狙う問題が解消されていない今であっても。 「ビアンカを、こいつを狙ったのがアンタらじゃないのはわかってる。 ……そう構えなくていいよ、疑ってるわけじゃないから。他はともかく。 アンタが、オレがやったことをどれだけ知ってるかもはわからないけど」 そろそろようやくはっきりと、言外に己が何者であるかを明かした。 本当なら、普段ならそんな無意味なことはしない。幾らでも黙ったまま取り繕う方法はある。 迂回せずに会話を続けることが気怠くなったのかもしれない。もうそんな必要さえないから。 さして車は走り続けたわけでもなかったろうに、長い長い道中。 ぽつぽつと時折口を開いた時に出てくる言葉は、以前よりも迂闊にさえ思えるものばかりだ。 相手がそれを気にすることはないだろうから、ただただ事実の羅列でしかないのだろうけれど。 (-62) redhaguki 2022/08/27(Sat) 13:10:30 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 銀の弾丸 リカルド「いいんだ。どうせもう会いには行かない」 しばらくは。この時にはまだそれくらいのつもりで、本当に二度と会えないとは思っていなかった。 知っていたならばもう少しくらいは考えた行動が出来ただろうか。それとも、余計に錯乱していたか。 互いに知ることの出来ない朝日の色を、想像したところで意味がない。 けれど相手の感じていたように、素のままの自分を見せていたのは、たった一人にだけだ。 手が届かないと思っていて、見上げるばかりだと思っていて。 手に入るなんて思っていたならもっとずっと、何もかも振り切って何でも出来ただろうに。 二人分の体重と身悶えを受け入れて、柔らかいソファが大げさなくらいに音を立てる。 初めは殆ど強引にこじ開けているようであったのも、ごくゆっくりと引き抜いて、押し込んでを繰り返すごとに段々と少しくらいは身動きがとれるようになってきた。 流し込まれた潤滑液を絡めて、体の中をぐらぐらと茹だったような熱が動くの感じるのだとしたら、 神経に由来する快だけでなく、痛みや単純な体温の上昇のためもある。 信号の全てを撚り集めて錯覚させたなら、それはそれは随分と脳を揺さぶるものだろう。 脳髄を突き抜けて飛び出すような快楽も、異常なほどに目の前を眩ますような昂揚感も。 精神論の一本で耐え足掻こうともままならないから、それは罪であり、薬なのだ。 「どんだけ吠えたって外には聴こえやしないから、安心してよ。スタッフにも少し騒ぐと伝えてある。 ……こんなのさ、味わったことないでしょ? クセになっても困らない状況で、良かったね」 空間を押し広げて奥まで突き込み、雁首の抜けそうになるまで腸壁を引きずる。 肉がぶつかるたびに、流れ落ちる液体が卑猥な音を立てた。それも耳に入ってるやら、どうか。 元々こうした行き過ぎた行いが好きな訳では無い。自分の気分を乗せるために、上体を傾ける。 背中を見下ろして、短い髪を指で梳いて。過剰に巡る血流の為に赤く染まるだろう首筋に触れる。 シャツ越しの肌が、背中に寄せられた。 → (-79) redhaguki 2022/08/27(Sat) 22:02:54 |
【独】 天使の子供 ソニー果たして本当はあの日、自分はどうしたかったのだろう。 誰かに殺されるくらいならと恐れて、焦って。その前に自分で手をくださなければならないと思った。 それが叶わず指が震えるのなら、どうか殺して欲しいとさえ考えていた。 けれども結局は、向かい合う誰かに何を伝えるのも尻込みしてしまって、喉がつかえて。 何も言い出せず逃げるようにその場を後にしてしまった。 振り返ってもう少しだけでも言葉を交わしていれば、己の意思を伝えていれば。 何か違う結果を手にしたのだろうかと、今になってもそう思う。 それは敬愛だったし、性愛だったし、甘やかな思慕であったのだろう。 なんだってよかった。傍に在れるならどんな形であってもよかった。 それが壊れるのも、一度突き放されたように距離が離れたのも怖かった。 舌先に僅かに残った薬が己を錯覚させる。求めるものはこの場にはない。 けれども増幅された共感は、夢見る思いをほんのすこしだけ表層に押し出した。 (-78) redhaguki 2022/08/27(Sat) 22:03:06 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 銀の弾丸 リカルド「、ずっと。こうしたかった」 腕を回し、自分よりも背の高い体を抱き寄せる。そうだ、多分これくらいだ。 微かに鼻に触れる甘い匂い、煙草の匂い。虚しいだけの錯覚を後押しする。 一度決壊し掛けたものがつんと鼻の奥をなでて、少しだけ声を震わせた。 ほとんど自分が満足するためだけのピストンを繰り返しながら、肩に頭を埋める。 首筋に、やけに控えめな浅い鬱血痕が残された。唇は柔らかい。 「先生、」 (-80) redhaguki 2022/08/27(Sat) 22:06:24 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 風は吹く マウロ触れる位置にあった顔の距離が離れれば、ようやく息がしやすくなる。 けれどもなんだかそれも寂しがるみたいにちょっとだけ追って顎に顔をくっつけた。 潤滑も足りず未だ浅く触れているだけの指は、感触で相手が初であるのは理解したらしい。 「ダメ? 体験、してみたくない?」 けれどもそれでは退かず、追い縋る。大した意味はないんだけれども。 どうせするなら、という欲求が半分ほど、 殺すのならば不利な姿勢は取りたくないのが半分ほど。 そんな我侭ぶったようなやりとりをしている間にも手の甲は動いて、ボトムの後部をずらす。 素肌に感じられる外気の気配だって、酒気に追いやられてあまり気になるものじゃないだろう。 指を動かしやすくなったのなら、ポケットから個包装のローションを取り出して封を開ける。 やたらにビビッドなピンクの液体を指先に絡めて、相手の下肢の付け根に押し込んだ。 この日の為に持ち歩いてるのだかいつもなのだかは知らないが、遊び慣れた様子なのは確かだ。 前は相手の手先にまかせて、指は肉の輪に染み込ませるように動かす。 柔く馴染ませて、その先の行いが苦しくないように。時折、違和感をごまかすようにキスを重ねる。 しばらく指が一本入るくらいまで捩じ込むと、片腕で相手の膝を担ぎ上げた。 後ろを向かせるよりかは恥ずかしい格好じゃあないだろう。背中は少し擦れるかもだけど。 男の方が背は低いから、相手が片足を調節してさえくれればさほど苦しい体勢ではない。 「……ガマンしてるんだったら、遠慮しなくって、いいよ」 どちらが女役かというのを変えるわけではない。けれどもし相手が何かこの交合に引け目があるなら。 それを弾き飛ばせるくらいには、何もかも忘れられるくらい楽しんだほうがいい、そうだろう。 (-83) redhaguki 2022/08/27(Sat) 22:59:58 |
【秘】 天使の子供 ソニー → グッドラック マキアートケラケラと笑う声は気の緩みのせいかもしれない。笑って喉が震えるのが耐えられず慌てて息を整えた。 ひとりで取り残されるのはいやだ。だから、相手にも手を伸ばす。 時折鼻を抜けてくうくうと鳴く声が、背伸びして振る舞いきれずに甘く空気を揺らす。 こうした行いの為よりかは仕事のためだろう爪が掠るのを、ため息のような喘ぎが迎え入れる。 「、は。……カフェえ……」 そのくせ返す声と言ったらなんとも弱々しくて、すがりつくみたいにしようもない。 この男はよく名前を呼ぶ。甘えて、追い縋って。狂おしく感じているのを知らせるみたいに。 わかりきった患部を何度も押し込むようにぐりぐりと責め立て、均整の取れた体を掻き抱く。 どちらもおそろかにせずにというのは難しくて、それでも男なりに頑張ってみせる。 姿勢と身長差のせいで顎下ばかり見える視界、その先を柔く唇が吸い上げる。 その頃にはちょっとばかし気遣いも頭の外に追いやられて、夢中になっているかもしれない。 押し返すように、包み込むように陰茎に刺激を与える中の蠕動に眉を寄せて、 捉えた快感を逃してしまわないように身をよじらせて。 「っ、ふ……!」 ひときわ弱々しい声を上げて、背筋が震えた。薄いゴムの中へと精液が放出される。 幹の中を通り開放される感覚に息を途切れさせながら、振れてしまいそうな呼吸を整えて。 何度か腹筋にぐっと力を入れてからようやく体を脱力させた。 なんだか、悪いことをしたあとの子供みたいに瞼を絞り、おそるおそる相手を見る。 (-85) redhaguki 2022/08/28(Sun) 0:00:26 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 鳥葬 コルヴォ独り言、独り言だ。決して同情して欲しかったわけではない、では何を求めていたのか。 言った当人とてこれといった展望のあるような話ではないのだろう。 けれどもこれ見よがしに突き放されたなら、それを侮りとしてとったのかもしれない。 男が反応したのはどの言葉だったろう。ひょっとすると流れるような跳ね返しの全てか。 ハンドルを切り、カーブを過ぎて真っ直ぐな道を前に見据えたところでちらとミラーを覗いて。 頭の位置を確認すると、上腕と手首を固めて反動で打つように、 相手の顔に向かって裏拳を放った。 「……口の利き方に気をつけろよ、根暗野郎。掃除屋なんだろ。 オレにはいい、でも他人の結果については利いた風な口して語るなよ」 尤もらしく言葉を付け足したところで結局のところ相手の言葉が癪に障ったに過ぎない。 ただ、執拗に突き放されるように幾重にも渡って重ねられたなら、耐えられなかったのだろう。 線引だって行き過ぎればただの対外的な嘲りだ、そう言いたかったのかもしれない。 ただ、車中でそれ以上相手に手を出すことはなかったろう。お返しも一発なら看過したかもな。 段々と地平線向こうの太陽もまた、深く深く見えない向こうへと潜っていって。 アスファルトを照らす光は月光のそれに変わりつつある。 最早誰を相手が手掛けたか、なんてのは仔細に問い詰めるべき対象ではなくなっていた。 漠然と憎悪はある。けれどもそれを上回って無力感が強かった。 今更何をしたところで状況に変わりがない、そう骨身に滲みすぎてしまったから。 倉庫の中へと車を乗り入れ、都合の良いところで停める。運転席をおり、後部座席を開けて。 半分しかない女の死体を、ごく丁寧に抱えあげて目線で指示を仰ぐ。 既に肌の下の肉は腐臭に変わりつつあった。発見場所は水辺に近かったから。 それでも決して、粗末には扱わない。その後は切り刻んで燃やすのを了承しているくせに。 目に見え、己の手の内にあるうちだけは丁寧に扱おうと、そうしていた。 (-88) redhaguki 2022/08/28(Sun) 2:04:57 |
【秘】 天使の子供 ソニー → デッド・ベッド ヴェネリオどれくらい会えなくなって、どれくらい態度が変わって。 少しずつ変質していく互いの距離がどんなものになるかなんて、想像もしていない。 足を揺らして相手が帰るのを待ち望む仕草は、なんだかんだと今と変わらないことを期待している。 「好きだよ。散る花でもオレにとってはひとつひとつが思い出。 思い出せる記憶はなくても、それそのものが大切なんだから」 季節ごとに贈られる花は青年にとっては両親の思い出だった。 その時はそう思っていた。 一人息子を手放し、便りも少ない薄情にも思えるそれを、青年は大事に受け取っていた。 親というものの存在する人々に囲まれた環境ならまた受け取り方は違ったかもしれない。 皆にとってその思い出なんてない孤児院の中だからこそ、大切だと思えたのだ。 本当はとうにそこには、見たこともない二人の男女の意思は消え去っていたとしても。 焼き菓子の、まだふんわり鼻先をくすぐる甘く香ばしい匂いに頬を緩める。 煙草の匂いに、甘い匂いに、珈琲の匂い。いつからかいつだってそれを求めていたのかもしれない。 不良少年の口先から香るシガリロの煙が何を内包しているか、貴方は気付いていただろうか。 「一応さ。一人前になるわけだしさオレも。タトゥーパーラーでちょっと一筆入れてもらったんだよね。 ……見る?」 報告そのものは別段変なものでもないし、多少やんちゃではあるもののありふれた話だ。 行儀や品性は悪くはあるものの、年若い人間としてはそうした証を欲しがるものなのかもしれない。 それとして、なんだかにやにやといたずらの一つでも考えているように笑っていて。 貴方が見る、とも見ない、とも返事をしたかどうか、 ベルトに手を掛け、ボトムの内掛け釦とホックを外すと指を引っ掛けてぐっと大幅にずらす。 腰骨の外側右、下着を履いたら隠れてしまいそうなところに。 白で花房を塗った花の意匠が彫られているのを見せつける。 ちょうど部屋に転がされている、祭りの主役とおんなじアーモンドの花だ。 見えているのはタトゥーだけ。他に余計なものは見えてやしない、が。 (-90) redhaguki 2022/08/28(Sun) 2:37:02 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 銀の弾丸 リカルドこれ程に優しくする必要なんてのはない。丁寧にするということは身体的にも隙が出来る。 わざわざ拘束した腕を己の胸の下に敷いてしまって、縋り付くみたいに腕を絡めて。 ぎゅうと貴方よりも軽い体重を伸し掛けた体は、ぼんやりと体温の上がった手で体に触れる。 汗をかいた髪に、首筋に寄せられた唇は花に指を添えるみたいに柔らかい。 「先生、……好きだ、愛してる。ずっと、ずっと。 好きだった。あなたがオレに優しくしてくれた時から、ずっと」 終ぞ面の向かって言う事の出来なかった言葉が、震えた涙声と共に吐き出される。 伝える相手を違えている。これから男は貴方を殺すのだ。だから伝言というわけでもない。 もしも、だとかたらればを思えば、息をするごとに胸に抱いた熱が溶け出すのを抑えられない。 そのくせ、腕に絡んだシャツを解けという声には無言だけがはねのけるように返る。 単純に抵抗を恐れたのか、相手が伸べたそのものを退けたのかも自分でわからないくせに。 頭の奥底ではわかっている。相手が自分の愛しい人でないことも、口に出来ない己が悪いのも。 肌の上を熱っぽい指が這う。撫で竦めて、全てを掌の内に集めるみたいに掻き抱く。 甘くまとったベチバー、アンバー、キャンディアップル。融け込むように首筋を汗が流れる。 「 ヴェネリオ 、――……」普段は口にしない彼の名前を呼んで、耳朶に声を滑らせて。 はふ、とかすれたような声混じりの息が弾み、合わせるように何度も腰を打ち付けた。 女のようには柔らかくなくたって、きつく扱き上げられ続ければ下腹部に溜まる快は大きく。 随分と長くあったような交合の果てに、奥の奥まで腰を押し付けて体をまるめて。 凍えたようなかすれ声と共に、腸内の行詰りへと長く長く吐精した。 それが終わったにも関わらず、背中にしがみつくように頭を擦り付ける。 固い髪質の束がくしゃくしゃに押しつぶされている感触があった。 (-94) redhaguki 2022/08/28(Sun) 6:50:51 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 銀の弾丸 リカルド長く吐いた息はひと呼吸ごとにおさめられる。次第に平時の落ち着いたものとなっていった。 ぐらぐらと煮えたような熱を過ぎれば眼の前のある光景は至ってシンプルだった。 身を守るもののない体と、薬に溺れて熱く火照った背があるだけ。 どうして分かっていて身一つで来たんだろうな、なんてことは身勝手な男にはわからない。 会話らしい会話なんてのも、激高ののちには殆ど交わせやしなかった、なんてのもまた勝手な話だ。 言いようのない感情が目の端で汗と混じるのだって、見つめ直して考えやしない。 「……アンタがおとなしいから、工作の必要も少なさそうだ。 楽に仕事できて助かったよ、リカルド。それがお望みだったんなら何より」 いつ、何どきのうちであったなら貴方にとって納得の行く話が出来たのだろうかな。 或いは最初から対話を求めるならもっと別の人間だったらよかったのかもしれない。 託されたものを手放していれば、傷つかずに済んでいた? 細工したベルトから、片手に収まってしまうような大きさのデリンジャーを取り出す。 今の時代においては小型化が進んでいても威力は十二分にある、とはいえ。 こうした穏当なシチュエーションで手にすることを想定していなかったら、 もっと隠しようのない口径を手にしてこの場を訪れて、貴方に向けていたかもしれないのに。 そうしたら一人にすることはなかったし、そうしなかったら三人揃って肩を並べられはしなかった。 汗で湿った髪を指先で梳くように撫でる。 その感触の消えぬ内に、金属質の感触が突きつけられて。 「さようなら、リック。 案外さ、そのピアスも似合ってたよ」 軽薄な一言と入れ替わるように、軽い銃声が響いた。ステージはまだ音楽に包まれている。 フロアを揺らすミュージックは兇弾さえ知らぬふりをして、いつまでも熱狂し続ける。 すぐさま誰かが助けに来る、なんてその時の男は知らなかったし、今でさえそれを認識したかどうやら。 少なくともそれでおしまい、お別れ。その時点では確かに、互いの顔を見た最後だったのだ。 (-101) redhaguki 2022/08/28(Sun) 20:40:52 |
【秘】 天使の子供 ソニー → グッドラック マキアートそろそろと息を吐いて、もたれかかる体を急かして起こすようにあちこちにキスをする。 痕がつかないくらいの戯れだけど、後戯を欠かしたくないくらいの感慨はあるらしい。 やたらに派手にではないにしろとくとくと騒ぐ心臓が落ち着いた頃に相手も離れ、 そして叱りつけるような目線と交差したなら、逃れるみたいにぎゅっと目を瞑った。 「ごめんってば。仕事邪魔した分はなんか払う、なんか奢る。 駅前んとこにあるパン屋でさあ新しいしょっぱい系のデニッシュ出たからそれで許して……」 相手も了承済みの戯れであるとはいえちょっとやりすぎたのは否めない。 ふにゃふにゃと言い訳じみたことを宣いながら、だらけたみたいに腕をだらりと垂らした。 相手が退いてくれれば最低限服を着て片付けはする、ただすぐにそうとは言わないだけ。 気の済むくらいまでもうちょっとくっついていたいことを、わざわざ口にはしないだけ。 「……ここシャワ〜ってどう通ってけるんだっけ……」 余韻もそこそこに口をついて出たのは、色気もなんにもありゃしない質問だった。 相手が全く考えもなしに、対象的に考えなしの話にノッてくれるわけはないので、 多分手頃なところに都合よく身支度を整えられる場所はあった、はず。 萎えた男根が自然と抜けて解放されたなら、ゴムも縛って撤収準備だ。 建物の外、街を囲む喧騒とは一切無縁の、お互いにとってはわりかしありふれたやりとりだ。 何を見るわけでもなくちらりと扉の向こうを見てから、額へのお返しにと肩口にキスをする。 「なんか。なんも変わんなきゃいいのにな」 本当はそう言う口の呑気さとは裏腹に、どこかに無力感を抱え続けていて。 けれどこの時間のうちだけは忘れられていた。貴重な時間だったのだと思う。 足首にボトムと下着の引っかかった間の抜けた格好をして、椅子にだらりと体を預けて。 そんないつかの、まだ何も起こっていなかったうちの日々の話だ。 (-112) redhaguki 2022/08/28(Sun) 23:21:49 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 風は吹く マウロ狭い路地の、他人の視線が通わないうち。 遠くに聴こえる花火の音が大気を震わすたびに息を詰まらせる。 担いだ足を揺すって体を合わせるたびに上がった息が混じり合う。 身動きの取れないなりに押し付け合うように擦り合わせて、抱き合った体がぶつかり合う。 時々かつかつと当たる鼻っ柱に浮いた血の気であったり、腹筋を掠る熱の感触だったり。 混ざり合う熱を確かめるたびに荒く息を吐く。夏の夜気に、浮かされたみたいだった。 息を詰まらせ、吐き出して。互いに上り詰めて、その後だ。 余韻の残る内に胴をぴったりと寄せて、名残惜しむみたいに服越しの肌を重ね合う。 視界を奪うためであるなんてのは、今までの様子からしたら想像し辛いかもしれない。 身じろぎして、視界の外で腕を動かす姿もここまでのことがあったら、他にも想像の選択肢があった。 あちこち動く手は貴方の着衣を正す様子もあったし、納得させるに足る理由があってしまった。 少しまだ鼻の天井の方から甘ったれた声で鳴きながら、ぽつぽつと口を開く。 「……オレはさ、昔友達がいたんだ。四年くらい前かな。 この街で殺された。本当は、行方がわからなくなったって聞いてたけど。 そんなわけないだろうって調べてる内にさ、誰だかにやられたってわかって。 しんどかったな。何も知らずに過ごした時間があるのが余計にしんどかった。 アイツが苦しんだことを無視して生きていたような気がしてさ」 ほんの僅か、眉をひそめて囁くような声で語るのは己のことだ。 この路地を訪れた時にほんの少しだけ話したことの続きなのだろう。 同情に足る話ではあるんだろうが、けれどもどうして今口にしないといけないのだろう。 片足は担いで、壁を背中に押し付けたまま。貴方よりも背の低い男は言う。 → (-119) redhaguki 2022/08/29(Mon) 1:11:51 |
【秘】 天使の子供 ソニー → 風は吹く マウロ「数日前、アイツの仇が死んだ」 ありふれた自動拳銃が胸に突きつけられる。貴方の組織が取り扱っているものだ。 一番値段と性能のバランスがよく、下っ端にも持たせるような手頃なタイプ。 言い切る前に銃口が宛てがわれ、言い終わる頃にトリガーが引かれた。 サイレンサーを通した音はやけに滑稽に聴こえた。 「身勝手な話だと思わないか? あの男はジャンニを消したことを清算していないのに。 アウグストが居なくなったなら誰がそのツケを払ってくれるんだ?」 担いだ膝を相手に押し付けるようにして距離を離す。半ばパワーボムみたいに相手を突き飛ばした。 代わりに反動で路地の向こう側へと後ずさって、相手の様子を確認する。 これだけ見たらそう、一見通りすがりに単純に襲われたように見えるだろう? 酒の匂いも火照った体も、急速に現実感の内へと引き戻される。 少しの時間、手応えを確認したなら手にした銃は元持っていたようにしまい込まれる。 「……ああ。案外気分は晴れないもんだな。……やっぱ本人じゃないとダメだ」 独り言のように呟いた男は、身支度を整えながら路地を出ていく。 今までの親しげな様子が全部別人によるものだったみたいに、淡々とだ。 通りでファイヤーワークスの打ち上がる音が聴こえる。 砂利を踏む足は音も無く、白けた夜闇に消えていく。 (-120) redhaguki 2022/08/29(Mon) 1:13:42 |
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