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![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → 傷入りのネイル ダニエラ悪人が嫌いだ。 人を踏みつけにして笑う悪人が嫌いだ。 嘲りも嫌いだ。 人を踏みにじり傷つけるそれが嫌いだ。 嫌い。嫌いだ。 がつん。 遂に響くのは硬い音。 握りしめた拳が貴方のこめかみを打つ音。 そこを殴られれば脳が揺れるはずだ。視界が揺れるはずだ。 襟首を締めあげた手を乱暴に離せば、背中や尻を打ち付けて椅子の上に落下するはずだ。 「わかるわけがないだろう」 「意味がわからない」 「お前」 「何のために警察になった?」 それでも倒れることなど許さない。 貴方が項垂れる、或いは椅子からずり落ちて逃れようとするなら、乱暴に右腕を掴んで引き上げる。 突然強く引かれた肩が嫌な音を立てたかもしれない。 しかし男には関係ない。 (-12) rik_kr 2023/09/27(Wed) 14:52:08 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → 黒眼鏡と とん。とん。と、とん。 速度は思考に伴って緩やかに。 視線は貴方のかんばせから落ちて手元に。 決して賢いとは言えない男だった。こういうところもまた。 僅かならまだしも、尋問中に被疑者からこうまで目を離すなどあり得ない。 思考に耽溺するなどあり得ない。言葉に乗せられるなどあり得ない。 あり得ないことをするのは、貴方に対し信頼とは呼べない何かがあるからなのだろう。 ────金属の音で、思考は引き戻された。 落ちた双眸が貴方に戻る。その時にも双黒輝いていただろうか。であるなら不審そうに眼を細めて、でなければやっぱり顔を顰めるのだ。不愉快そうに。自身の未熟を突きつけられたように。 (-13) rik_kr 2023/09/27(Wed) 15:13:02 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロそこまで頭が回らなかったのか、 それだけ貴方を侮っていたのか、 それとも必要ないと判断したか。 男は貴方の口を固定することはなかった。 だからその舌に噛みつくことだってできたろう。けれど貴方がした報復はそれ以下のもの。抵抗はそれ以下のもの。 柔らかな千草色が濡れてこちらを睨む。それだけ。 それでさえ男は笑って受け流した。喉を笑いがのぼった。 愛しさではない。愉しさだった。 指がするすると撫であげる。一度みぞおちあたりまで、そうして腹、下腹部。同時に頭を支えた手は耳朶を擽り、舌は舌を捕まえようと口腔内を這った。 何も言わない。 促すような言葉は必要ない。これは睦み合いではない。 ただ屈辱的な快だけを与える手が、そのままの速度で貴方の粋の形をなぞった。 (-15) rik_kr 2023/09/27(Wed) 15:50:37 |
![]() | 【秘】 法の下に イレネオ → 路地の花 フィオレ「それを言うなら。」 ざり。体重をかける。度に靴底が地面と擦れて音を立てる。 「黙秘の権利があると思っているのか。」 「お前のような悪人に?」 横向いて倒れた貴方の身体を、押さえつけた膝で地面に転がした。仰向けに、急所の多い腹が自分に正対するように。 「吐け。」 「それとも吐くか?」 ぐ、と。 重みが食い込む先は、貴方の腹だ。 (-17) rik_kr 2023/09/27(Wed) 16:03:40 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → リヴィオ変わらない態度。 あまりにも変わらない態度に、男は姿勢を崩した。 それは生真面目な男には珍しいことだ。決して姿勢の良いわけでもない男は、それでも大抵、おそらく自分にできる精一杯で背筋を伸ばしていた。 緩慢に背もたれにもたれる。顎を上げて視線だけ投げ寄越す。そうして息を吐いて、もう一度身体を起こす。 億劫そうに一度逸れた瞳は、再び貴方のかんばせに戻った。 「耳がついていないのか?」 「それは犯罪者の戯言だ。」 「証拠は挙がっている。」 「無駄な言い逃れはよせ。」 決めつけ。決めつけ。決めつけ。 男の口から出るのはそれだ。 尋問とはそういうもの。男の仕事とはそういうものだった。 貴方で、六人目だ。 (-18) rik_kr 2023/09/27(Wed) 16:21:15 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → 傷入りのネイル ダニエラニーノ・サヴィア。 その名前は知っている。 五人のうちの一人だ。 しかし。 その言葉に、男の瞳は揺れなかった。 貴方は悪人である。 彼も悪人であった。 あれはノッテを家族と呼んだ。 「庇い合いか?」 「もう遅い。」 「今頃治療を受けているだろうな。」 実際それは必要で、男が進言したものだった。 罪人であろうと不当な扱いをするのはよくない。 病人に治療は受けさせるべきだ。 さて、それを貴方がどう受け取るかはそちらの自由。脅しや冗句と聞いたかもしれないし、男の暴力によるものだと思ったかもしれない。 笑う貴方が不愉快だ。 余裕だと誇示して見せる貴方が不愉快だ ────誰かの顔が浮かんだ。 「含まれているよ。それがどうした。」 (-20) rik_kr 2023/09/27(Wed) 16:56:16 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → 黒眼鏡「お前は」 「何を言いたい?」 それは問いだ。 しかし外れた問いだ。無意味な問い。貴方の言葉を真っ向から受け止めないからこその問い。 貴方が何かを隠しているはずだと決めつけた問い。その態度は悪徳尋問官として全く相応しい、頭の固いものだった。 「俺の何を知った気になっている。」 不機嫌そうな表情。たん。たん。たん。叩く音が一定の速度を取り戻し始める。 思春期の子どもがするようなそれ。自分を理解した気になるなと突っぱねて身を護るそれ。似ているだけで似つかない、もっと暴力的な方法で爆ぜかねない敵意が貴方に向かって首をもたげる。 「俺が」 「そうしたいのは」 「 ノッテファミリー だけだよ。」たん。たん、たん。 苛立ちの罅が割れていく。心願が徐々に零れ出る。 「それに、俺に暴力を振るう趣味はない。」 「ノッテと同じにするな。」 (-24) rik_kr 2023/09/27(Wed) 17:27:13 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ求めるものを与えてやる。 それは今この瞬間、今この一瞬だけのもの。 熱に浮かされて踏み外し、正気に戻った瞬間嫌悪と後悔と慙愧が襲うようなもの。その布石。 手錠で戒められた手はさぞ不自由だろう。 自由ならばそれは男の身体に縋っただろうか。 行き場なく震える手は自分の身体を僅かも押し返すことがない。それだって愉快に感じられた。 湿った唇は離れれば僅かに音を立てた。そのまま男は貴方の耳元に囁いた。 「良いんですよ。」 「我慢しなくて。」 触れる手は無骨な男の手。 恋人のそれでなければ女のものですらない。 けれど同性同士だからこそわかるものもあるというもので。 この辺りかな。 張ったところに手を添わせて、そのまま。 耐えられないような強さで触れてやる。 (-27) rik_kr 2023/09/27(Wed) 18:13:35 |
![]() | 【秘】 法の下に イレネオ → 路地の花 フィオレ「先にそうしたのはお前たちだろう。」 成り立たない会話の応酬。 貴方もそろそろ気づくだろう。どうやらこの男は貴方を人間扱いする気持ちがそれほどない。 けれどそれには男の中で何か理屈があるらしかった。貴方の気にすることではないが。 「お前たちは」 ぐ。 「他者を尊重するのか?」 ぐ。 「しないだろう。マフィアだからな。」 ぐ。ぐん。 一定のリズムで圧迫される内臓。 さて次の責め苦をどうしようかと考える間の手慰み。 続く暴力を予見させる行動。カウントダウン、だったはずの、それ。 対する貴方の反応に、男は怪訝な顔をして動きを止めた。 薄暗い路地。表情は伺えず顔を寄せることになる。 発作か何かを起こしているなら厄介だ。まさかこの行為が、貴方の快に繋がろうとは思うはずもなく。 (-30) rik_kr 2023/09/27(Wed) 18:58:32 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → リヴィオ「曲がられちゃ困る。」 「俺が聞きたいのは真っ当な真実だからな。」 言葉は平行線。 それを男もそろそろ気づき始める。 では言葉でどうにもならないのならどうすればいいのか。 それも、男は既に知っていた。 間違った解答だ。 自然な仕草で立ち上がる。これから起こすことに対する緊張も高揚もそこには存在しない。 そのまま貴方の頭部に手を伸ばす滑らかさ。逆らわれるなどと、まるで考えていない動作。 けれど。 そこから先はそうはいかない。髪をぐいと引き掴み、しっかりと動かぬように固定する。 かち。 それは。 いつの間にか手にしていたナイフの、刃を剥き出しにする音。 鈍い色は白い室内灯を弾いて光った。光ばかりが清潔だった。 貴方が抵抗しないのならばそのまま貴方の側頭に添うだろう。 酷く冷淡に、残酷に。少し動けば切り込みが入る、その位置で。 「もう一度聞く。」 「マフィアと内通していたのか。」 「渡した情報は何だ。」 (-49) rik_kr 2023/09/27(Wed) 23:02:31 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡「は?」 予想外の騒音というのは人の意識を奪うものだ。 突然の哄笑に男は目を丸くした。それからぱちぱちと瞬きをする。見事な口上への拍手と同じ。しかしそれもまた、同じだけ。 表情はみるみる険しくなった。 侮られたという激昂が面を染める。 がたん。 何度目かの立ち上がる音。襟元の締まる感覚。「口を閉じろ。」 「俺はマフィアとは違う。お前たちとは違う、」 「同じにするな!」 それは男にとって侮辱であり、侮蔑であり、屈辱であった。 暴力を好む野蛮人だと思われるのも、悪党と形容されるのも、マフィアと同様に扱われるのも、何もかも。 (-69) rik_kr 2023/09/28(Thu) 8:40:45 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ「あはっ」 身体の下に震えを感じて男は笑った。やっぱり愉快そうだった。声ばかりは無邪気だった。 悪意なく他者を貶める、幼い子どものする笑い声だった。 一通り満足したらしい瞳が貴方の表情を確かめる。 悔しそうな様は心地いいらしい。偽物の上下関係を確かめるような暫しの間があるだろう。さて、と次の行動を考えつつ、最初の目的に立ち返る間だ。 この間は隙である。 離れた空間を利用して頭突きをするなり、自由な足で蹴飛ばすなり─────反撃をするなら、通るだろうが。 (-70) rik_kr 2023/09/28(Thu) 8:51:05 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → 傷入りのネイル ダニエラ男は信じている。 自分の信じる、正義を信じている。 それは酷く盲目的な様だ。酷く独善的な様だった。 この世で正しいものはひとつだけ。それは法である、という排他的な思想。警察とはそれに従うものであるという圧倒的な従順さ。 それがこの男を構成するほとんど全てだ。 全く全て、ではなく。 瞳に浮かぶのは暴力への高揚ではない。単に苛立ち。誇りを傷つけられたことへの厭悪。 「お前のような人間を」 「一時でも警察だと思った俺が、馬鹿だったよ。」 そこからは。 肉を撲つ音。 骨の軋む音。 貴方に器具を握らせる声。 共同作業だ。自らの爪を剥がさせたり。 それでも貴方は笑っていただろうか。 血と汗と涙に塗れても笑っていただろうか。 少なくとも、きっと。 男はきっと、笑っていたんだろう。 (-78) rik_kr 2023/09/28(Thu) 10:13:19 |
![]() | 【秘】 法の下に イレネオ → 路地の花 フィオレ口元が“N”の形を作った ────お前たちは違う。 それはこれまでも繰り返されてきて、これからも繰り返される否定。 しかし、その唇から音が発されることはなかった。 絡め取るように回される腕。それから柔らかい感触。 しまった、と思った時にはもう遅い。内側の粘膜にまで触れられ、それが口付けであると遅れて知る。 勝ち誇ったようなターコイズが近くで細まった。のを、見て。 男は、 その首を絞めた。 何よりもまず嫌悪。背筋から項までが総毛立つような不快感。その次に焦り。何かが仕込まれてやしないかという恐怖。油断した。まずかった。マフィアとはそういう生き物だ。 舌に噛み付くなんてそれなりの高等技術は思考に及ばない。まず飛び出すのは手。片手で貴方の首を押さえつけて絞めあげ無理矢理引き剥がそうとする。これは男の腕力だ。通常なら負けることはないだろうが。 (-80) rik_kr 2023/09/28(Thu) 10:56:12 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → リヴィオその名前にも男が揺れることはない。 信じている。警察を、正義を、善性を、彼のマフィアへの嫌悪を信じている。 信じているのだ。純粋に。この行為が真実正しいものであると信じている。 だから止まらない。止まらなかった。 刃の冷たさを内側に感じたはずだ。 ついで熱の感覚に近い痛みが襲う。 それは男が貴方に与えるもののはずだった。 緊張した身体に油断していた。緊張しているからこそ、抵抗はぎこちなくなるものだと思い込んでいたのだ。 ▽ (-82) rik_kr 2023/09/28(Thu) 11:22:20 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → リヴィオどん。 衝撃を感じたのはこちら。反射的に視線をやればかち合った。きっと貴方の瞳は激しく反抗に燃えて、それを裏付けるように歯を剥き出しにする。それで怯んだとは言いたくないが、見た事のない表情に一瞬動きが止まった。 がち。 骨と歯がぶつかる音。昨日も聞いた音。まずい、と思ったのはそれも反射だ。 髪を掴んだ左手を引き倒すように横に振った。 薬を飲んでいるとはいえ負荷がかかる。親指の軋む痛みに顔を顰めたが構わない。右まで奪われるのはまずい。 そうしてその抵抗が叶うなら。 貴方は男ごと床に倒れ込むことになるはず。急激に揺らされた頭はくらりと遠のくはず。隙ができるならばそのまま、動きを封じるように腕を固めようとするが。 (-83) rik_kr 2023/09/28(Thu) 11:22:29 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡「違う」 何が? 以前もこうなった。 「違う!」 ならば否定しなければならない。 堂々と。理路整然と、正しく。これは正義なのだから。 「如何なる手段を持ってしても聞き出せと命令だ」 吠える。 自分の頭で考えた、わけではない。 「したくてしているわけじゃない」 吠える。その嘲笑を掻き消したい。 どうあれ事実は事実であるのに。 「大体」「お前たちが」 「お前たちが何もしなければ」 「こんなことにはならなかった!」 吠える犬は噛まない。ならこの男は犬以下である。 貴方の口に手が伸びた。せせら笑う舌に向かって。閉じないなら引き掴んでやると。 他責の正義。 調和でも融和でもない排除の正義。 白と黒の黒を徹底的に焼き尽くす愚直な暴力。 男の手の中にあるのはどこまで行ってもそれだけだ。 (-84) rik_kr 2023/09/28(Thu) 11:59:27 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロぐらん、と。 貴方の頭が傾ぐのが見えた。見えただけ。 避けるに間に合わぬ近い距離。ごん、鈍い音と共に脳が揺れる。 「ッ────」 勢いはそうなかったはずだが頭骨は硬い。それは怯ませるには、かつ貴方の反撃の意志を伝えるには充分なものだった。 次いで蹴飛ばす足も入る。ずぐ、と男の硬い肉を、貴方は膝か脛かに感じたはずだ。しかしだからこそわかるだろう。 命中したわけではない。 男は目が良かった。 外している時の方が良いのだ。だから、反応が遅れることもなかった。完全な一撃として食らう直前、距離を取って避ける。 チ、と舌打ちが聞こえた。 一転、表情に不機嫌の影が差す。 (-88) rik_kr 2023/09/28(Thu) 13:40:14 |
![]() | 【秘】 法の下に イレネオ → 路地の花 フィオレくそ女、とは言わなかった。 それなりの自制、それなりの理性、それなりの当然の善性は、男にもあった。 この時は、まだ。 焦りで鼓動が逸る。それで思考が鈍くなり、貴方の首を押し付けるようにする力ばかり強くなる。はっと下を見れば酷く歪んだ顔があって、男はそれにも動揺した。動揺した自分に、それを催させた貴方にまた苛立ちが募った。 舌打ちがひとつ飛ぶ。ままならない思考とこの行為に対して。伴って男は貴方の上から退き、同時にその半身を蹴り飛ばした。 八つ当たりだ。 貴方の身体が再び砂利を擦って転がるだろう。壁にでもぶち当たればどこかしらが切れるかもしれない。しかしむしろそれを利用して、距離をとって立ち上がろうとすることは不可能ではない。かもしれない。 (-95) rik_kr 2023/09/28(Thu) 14:48:28 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡「マフィアが必要悪なわけがあるか」 「お前たちが必要悪なわけがあるか」 へらへらと笑う表情が嫌いだ。 楽しげに全て奪ったお前たちが嫌いだ。 それは骨の髄に染み付いた偏見からくる嫌悪だ。 「────アルバを亡くしたのはお前たちだろうが!」 笑う度にかかる息が、挟んだ指の間で震える濡れた肉が、自分と同じ温度が、不快だ。 見縊って笑う横面に拳を叩き込みにかかる。憤怒の衝動にかまけた渾身の一撃。成功すれば貴方は音を立てて転がってくれるか。その体躯に対しこの力ではまだ足りないか。少なくとも舌を噛むくらいはするだろう。 「黄昏抗争で何人が死んだ」 「アルバからの提案がなければ更に何人殺した?」 「お前たちの切った舵で警察との関係は悪化した」 「そうじゃなきゃこんな法案が施行される必要もなかっただろうなあ!」 椅子を立ち上がって回り込むのすら面倒で押し除ける。ぎぎぃ、摩擦で軋むような音が鳴った。 ────イレネオ・デ・マリアは、 ノッテファミリー が嫌いだ。 (-98) rik_kr 2023/09/28(Thu) 17:19:17 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡「そうだよ」 「ジジイの代の話だ」「俺の爺さんはアルバのソルジャーだった」 「アルバこそ必要悪だった」 「ノッテがバランスを崩した!」 不自然なまでの怒りで声は震えていた。嘲りに、侮りに、謗りに返す言葉は既になく、ただ貴方を黙らせようとするだけ。どうにかして抑えつけようとして、それが出来ずに手段だった暴力が目的化していく。起き上がらないのをいいことに胸元を蹴りつける。反撃がなされないのをいいことに腹を踏み付ける。足りない。 足りない。 秘密というほど隠す意思があるわけではない。 正体というほど裏表があるわけではない。 それでも、男の中にそう呼べるものがあるなら、そこだった。 50年の昔、この国に存在したもうひとつのマフィア。 アルバファミリーの忠犬。 その末裔。足りない、と踏み込んだ足とともに言葉は吐き出されたのかもしれない。それなら一層、その声は大きく届いたはずだ。 肩で息をした男はそれを聞いて一際大きく吸い込み、唸るような問いを呼気に乗せる。 「法案だと?」 「裏切ったのか? お前」「ノッテを?」 「マフィアを名乗っておいて?」 「風上にも置けない……」 (-107) rik_kr 2023/09/28(Thu) 20:18:20 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ「犯罪者がまともぶるなよ。」 たたん。靴底の音。 「躍起にならざるを得ないだろう。何度同じ説明をさせる。」 たたん。苛立ちの音。 「強引にでもしなければ後手に回る。」 「お前たちは嘘と隠し事だけは上手いからな。」 たたん。たん。 鳴らしながら貴方の様子を伺う。ふらついている。警戒している。 けれど難しい相手ではないな、と思った。それは半分事実であって、半分は状況も含めての侮りだ。 息を吐く。溜息のようだったろう。貴方への哀れみだ。 「自白剤がなかったのは不運でしたね。」 「続けます。座ってください。」 取った距離を一歩で詰めて、足首目掛けて蹴りが飛ぶ。 (-122) rik_kr 2023/09/28(Thu) 22:13:47 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → リヴィオそこで止めるべきだった。 制圧したいだけならそれでいいはずだった。 貴方が知っているこの男はそういう男だったはずだ。 間接に負荷がかかる。可動域とは真逆に向けて体重をかけられる。当然苦痛の伴うそれは、貴方の喉から呻き声を漏らさせもするだろう。 めり。 なまじ真っ直ぐに硬い部位ではないがために一撃でとはいかず、逃げないのであれば貴方はそれなりの時間苦痛に呻くことになる。ゆっくり、ゆっくりと断裂していく感触が伝わったかもしれない。 めり。り。 男は声を発さない。ただまだ少し荒いままの息を繰り返して、煮えた瞳で貴方を見つめている。 貴方を屈服させることだけを一意に考えている。やはりこんな仕事には向いていないことが明らかだ。 めり。 めり、 めき。 それでも。 それでもなお抵抗しないなら、いつかその腕も自然な反発すらなくすはずだ。だらりと左腕が垂れ下がれば、男はようやく安心したように息を吐いた。 (-144) rik_kr 2023/09/29(Fri) 0:47:24 |
![]() | 【秘】 法の下に イレネオ → 路地の花 フィオレ再び踏みつけにしようとした足はそのまま地に降ろされ土を蹴った。それは子どもの癇癪じみた仕草だった。 二度もあんな気色の悪い声を聴かされるのはごめんだ。 けれど男は子どもではないから、続く動作には悪意が込められて遊びがない。 裏路地の砂ぼこりが巻き上げられてぱらぱらと貴方の顔やら身体に降り注いだろう。荒く息をした口にも僅かに入り込んだかもしれない。浅い青の瞳に触れそうで咄嗟に瞑ったかもしれない。 男はその隙を狙う。 ざり。体重の位置を僅かに変える音。そのすぐ後。 丸まった腹を目掛けて蹴りが飛んだ。上手くいけば薄い腹に深く入るはずで。 加えて再び弾かれた身体はまりのように弾むはず。 「盛ったか?」 「何か。」 この国じゃサッカーは人気のスポーツだ。 蹴飛ばす以外に同じところはなく、全く愉快にはなれなかった。 (-146) rik_kr 2023/09/29(Fri) 1:10:45 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロよくよく素直な男だった。分かりやすい男だ。 犯罪者と声をかけられればあからさまに表情を変えたろう。顔を顰める。眉間に皺が寄る。 「拷問じゃない。」 「仕事です。」 詭弁だ。 物分かりが悪い人間の相手をしている。そういう億劫さでやれやれと首を振る。蹴りが避けられればまた口の端を引き攣らせた。たたん。落ちた靴底が音を鳴らす。 ガードが邪魔だ。 ならばそこを砕こうか。 次には左腕が貴方の腕を上から、同時に右膝は下から。上下方向からの勢いで骨に衝撃を食わせようと。 抵抗せずともこの暴力が止むことはなく、 抵抗すればなお止むことはない。 障害があれば人は乗り越えようとするもので、 男は殊更、そういう時に周りが見えなくなるたちだった。 目的がずれていく。 (-149) rik_kr 2023/09/29(Fri) 1:29:08 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡がちん。 それは男が自分の歯を打ち鳴らした音。噛み締めるだけでは足りずに、威嚇でもするように強く噛み合わせた音だ。 音を立てて沸騰するのは貴方の笑いだけではない。高温でぐらぐらと煮立っているのはこれもそうだった。比にならない怒り。不快や不愉快では片付かない圧倒的な憤怒。激情。心火が理性を薪にして燃え上がる。 ばきん。 横面を蹴飛ばした。 貴方が避けないなら、の話。 だん。 心臓の上を踏みにじる。 それも避けないなら、の話。 衝動的に、酷く冷静に、机の上に放ったペンを引っ掴んだ。 それも邪魔されないなら、の話だ。 「爺さんはな」「逃げてない」 「お前たちに愛想を尽かしたんだよ」 長身が遮る室内灯。 逆光の中でも歪んだ表情はよく見える。 貴方が結局そのままでいるのなら、男はそのまま馬乗りに体重を掛けるのだ。ウェイトではそちらに分があるのだから、この行動はやはり賢いとは言えない。 (-154) rik_kr 2023/09/29(Fri) 1:54:48 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ押し問答だ。 貴方は正しい。けれど男は肯わない。 その言葉をあくまで否定する。男にとって、これは正義の行いだった。 「正当な手続きを踏んでいる。」 その通り、踏んでいる。 机の上の書類こそその証拠。貴方の名前とその嫌疑、何をもってしても自供させよと令の刻まれたその紙面。 これは男の勝手な判断ではなく、 趣味や高揚を得る手段でもなく、 飼い主に下賜された仕事だった。 男の骨の抵抗。それがぐいと引き攣って僅かに薄れる感触。治る傷だ。問題ない。 けれど、だからこそほぼ同時。ほんの少しだけの時差での攻撃は避けきれず。 右頬に攻撃を食らえばぐるん! と顔が横向いた。ぐら、と視界が揺れてたたらを踏んだ。追撃がないのならそれは運よく踏み込みに変わるだろうか。必然的に低い姿勢、下から顎を狙って肘を振り上げる。命中すれば、そちらの視界もまっすぐなままではいられない。 (-162) rik_kr 2023/09/29(Fri) 2:37:59 |
![]() | 【秘】 法の下に イレネオ → 路地の花 フィオレびちゃ。 きっとそういう音。濡れた音が地面に散った。 同時にすえた臭いが立ち上り、男は厭うように距離を取ったろう。誰だって汚物で衣服が汚れるのは嫌だ。 ────それでもきっと、 ここにいたのが貴方ではなく一般市民であれば、 迷いなく助け起こそうとしたはずだ。 潰れた蛙のような声を上げて身を震わせる貴方を、視線で見下して男は眺めていた。 月色の目を丸くして見ていた。そうしてひとつ、静かに息を吐いた。ぱち、ぱち。瞬きは油断の合図であり、転換の印。 一度目の暗転の後、瞳はまだ貴方を見ていた。 二度目の明転の後、瞳は転がる注射器に向いた。 男が手を伸ばす。貴方が奪い取らないのであればそれを拾い上げるだろう。しゃがみこんで、針先を見つめて。 「使ったのか?」 誰に、と言わなかった。 むしろそれは、自分ではないと確信した落ち着きだ。 逸っていた鼓動は今は収まっている。体温の上昇や低下、発汗等もない。それに針を刺された感覚はなかったし、液状なら──思い出したくもないが──口づけで仕込むのも不可能だろう。 だからこそ。 だからこそ問う。 無辜の民を犠牲にしたかと問う。答えの見えた問いだ。 見えているから、畳みかけて問い質す準備は出来ている。 (-163) rik_kr 2023/09/29(Fri) 2:55:48 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → リヴィオ楽しいか、と問うたなら。 かかる力は強くなったことだろう。それは男にとって侮辱だった。 暴力を好む野蛮人。そう評されることを、男は好まない。 だから一層静かになった。 淡々と、粛々と、機械のように。貴方の身体を、悪いとも思わず痛めつけて。 そうして一際大きくなった声に嘆息した後、 男は、その頭に手を伸ばした。 金糸の髪に指を通す。 その下の頭皮に指を添わせる。無理矢理こちらを向けと首を回させる。 青い瞳は未だ閉じているだろうか。 閉じているならそれを無理矢理開かせることはしなかった。 男は自身の欲求を知覚していない。 浅い金色。月の色に似た瞳が、やや遠巻いて貴方のかんばせを眺めてから。 「楽しいわけがないでしょう。」 さて。 そう言った男は、どんな顔をしていただろう。 (-165) rik_kr 2023/09/29(Fri) 3:10:21 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ深く息をする。心拍を落ち着けようと試みる。 早く鳴るのは身体を動かしたからでもあった。刷り込まれた暴力、肌に感じる肉の感触でアドレナリンが分泌される。それから、やはり、怒り。 好んで従う者をこき下ろされたことへの怒りだ。瞳の温度がかっと上がった。 「くそ野郎はどっちだ」 「随分口汚くなりましたね」 貴方の言葉を男は一向に受け入れない。悪人の愚弄に乗らない。犯罪者の口車に乗らない。そんなものでは動揺しない。だって、法に従っているのはこちらだ。 言葉と共にゆるやかに落ちた視線が貴方の背後を浚う。机の位置を確認してそれを使おうとした思考は、きっと隙になった。 力を込めていなければガードにはならない。 攻撃後に緩めていた腕が蹴りを食らってそのまましなる。身体から離れていた分遠心力は強く、後ろ向きの動きに前進気勢を僅か削がれる。 舌打ち。また舌打ちだ。ガラの悪いのはこちらも同じ。徐々に苛立ちは募る。 どうすれば止まるだろうか。 あの口もうるさいな。 テーブルの縁の部分。あそこに叩きつければ止まるだろうか。思考と共にまた足を払いにかかった。 (-187) rik_kr 2023/09/29(Fri) 12:44:55 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → リヴィオ開いて閉じかける双の眼。一部始終を見届けて、男はふんと鼻を鳴らした。 それは酷く従順な様だ。 そうして男にとってはつまらない様だった。 ぐん。既に傷んだ腕を強く引く。折れた箇所が更に引きちぎられて周囲さえも傷つけただろうが、そんなこと男にとってはどうでもいいことだった。 抵抗しない貴方を引きずり上げるように椅子に座らせようとする。一度。二度。貴方がそれでもずり落ちるなら、ようやく諦めて手を離すだろう。それだって当然丁寧なものではないから、貴方は力の入らない腕を床に叩きつけることになるはずで。 その痛みに悶えている間に。 男は何かを取りに壁際に寄った。金属製のものが仕切り板に擦れる軽い音。顔を上げても背に隠れて見えないが────さて。器具を使う拷問と言えば、最もわかりやすいものがひとつ、脳裏を過ったかもしれない。 (-189) rik_kr 2023/09/29(Fri) 13:02:06 |
![]() | 【秘】 法の下に イレネオ → 路地の花 フィオレ肘の辺り目掛けてふるった。注射器を掴んだ手だった。立ち上がる仕草を妨害する。 というよりは、嬲りに偏ったような動作だ。 当たり所が悪ければ関節が非可動域に曲がり込んだかもしれない。或いは、使用済みの注射器の針が刺さったかもしれない。単にバランスを崩して、再び地面に顔から叩きつけられただけだったかもしれない。 血液の匂いはここにない。 ここにいるのは血に飢えた狂犬ではない。 「人を殺しておいてその態度か?」 「心が痛まないのか? これだからノッテってのは嫌なんだ。」 決めつけ。マフィアとはそういう生き物だ。 しかし今回はひとつだけ当たっている。貴方が人を殺したということ。 「黒眼鏡の命令か?」 問いながら自分の携帯を取り出す。 逃げない内に応援の要請。それから被害者の捜索が急務だ。相手をねじ伏せて少し落ち着いた頭は冷静な判断をしようとし、しかしそれは隙にもなる。 (-190) rik_kr 2023/09/29(Fri) 13:19:31 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ貴方の足を捉えた。 身体が崩れた。 その腕を、男は落ちる途中で取って、 身体の向きを変えさせた。 机の角に叩きつけるのは身体の前面。 自重と落下の速度で肋骨に傷を負わせようとする 成功するなら貴方は呼吸すら難しい激痛に襲われるはずで、 踏ん張れずに落ちるならさらに床でバウンドする形になる。 そうなれば当然噛み付く追い討ちで痛むはずだ。 男がこうまでするのはある意味で貴方のせいだ。 大人しくしていれば後遺症まで残す気はなかった。 なんて、身勝手な話。 (-252) rik_kr 2023/09/30(Sat) 1:44:46 |
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![]() | 【秘】 法の下に イレネオ → 路地の花 フィオレ半端に立ち上がった姿勢では男の頭の位置も低かったはずだ。 身体ごと突進すれば胸あたり、或いは運良く顔面に入ったかもしれない。がつん、ともどすん、ともつかない音が大きく鳴って、男の身体がよろめいた。 けれど、それでも。重みの差というものは大きく。 そもそも筋肉量だって随分違う。よろめく以上のことは起こらず、しかし目論見通り携帯は軽い音を立てて地面を転がっていった。 男が顔を顰めたのが至近で見えたろう。鋭い犬歯が剥き出しになり、チ、と舌打ちが寄越される。 苛立ちにかっと燃える瞳は金で、温度の上昇がよく分かった。 貴方は男の胸元に埋まっているだろうか。 未だに組み付いて離さないでいるだろうか。それをラッキーだなんだと思う遊び心が男にあったなら、こんな出会い方はしなかっただろう。 生真面目で四角四面で実直な男は、貴方の両頬を両手で掴む。 けれどそれは整ったかんばせを眺めるためでも、勿論口付けのためでもない。 「動くなよ」 ────ごん。 声の直後、仕返しとばかりに硬い音と感触が響く。 額と額を打ち付ける音。貴方は上を向いていたから、首にかかった負担も大きいはずだ。 それで腕が緩むなら突き飛ばして立ち上がるだろう。じんじんとこちらの頭も痛んでいるけれど、背に腹はかえられない。転がした携帯、或いは手錠 ──今は持っていないのだが── を探す隙を見せた。 (-255) rik_kr 2023/09/30(Sat) 2:07:53 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → リヴィオ男はこの仕事が好きだった。 人を助けることが好きだった。 悪い人間から人を守れるのが好きだった。 純粋な誇りに、今は既に別のものが滲んでいる。 椅子を蹴飛ばした貴方を、男は怪訝そうな瞳で見つめた。 随分と悪そうな具合を不審に感じた。殺すつもりはない。 身体を折るその仕草だって、一応の心配を誘っただろう。 だから。 だからこそ。 男はその実際を見ようとする。 掴んだ手は離さないまま、もう片方で上半身を軽く押す。それは顔を見せろという合図だ。 従わないならそのまま再び床に押さえつけられることになるだろう。強制的に背を床に付けさせてしまえば、背ける以外の抵抗はできなくなる。 ぐ。押す。彼女にも聞かれた問いだ。 「五人ですよ。」 ぐ。押す。彼女にも明かした答えだ。 「そうですね。」 ぐ。押す。もう終わった話だ。 「それがどうかしましたか。」 さて。 顔は見えただろうか。 (-259) rik_kr 2023/09/30(Sat) 2:20:59 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡小突かれれば丸めた背が更に前のめりになるだろう。 近づけた顔の位置が更に下がって、視線はずっと近くかち合った。 せせら笑う堅炭が間近に見える。嘲る漆黒が視界いっぱいに映って染めた。 「ならない」 ぐらぐらと煮える頭から考える前に声が出る。引き攣る程に震えた喉は思考より先に否定を返した。 「ならない」 「うるさい」「お前」 考える前に身体が動く。左の手が貴方の口元から鼻筋までに触れ、体重を掛けて瞼を押さえつけた。 「逃げるわけがないだろう」 「俺が!」 全て後手に回った理性の制止が効くはずもない。ペンを武器に握りしめた拳がついに振り上げられた。 にやついた笑みがずっと気に食わない。 見え隠れする怒りはもっと気に食わない。 お前に怒る権利なんてない。 平常に戻れとどこかが言った。 これが戻れるかと言い返す声の方が強かった。 振り下ろすのは黒の中心。 貴方の左の瞳に目掛けて。 命中せずともこれだけの勢い。それなりの痛みは伴うはずだ。 薄着の女よりも何よりも、 貴方の笑顔と言葉の方がこの男には効く。 (-263) rik_kr 2023/09/30(Sat) 3:41:15 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → リヴィオ絶え絶えの息に気を惹かれる。 様子を確認するだけ、それ以外の何かが男の瞳で閃く。 ぐ。幾度目かの力比べの結果は見えていた。力尽きるように倒れた貴方の腕から男はようやく手を離し、そのまま顎へと移動させる。 背けようとするのを無理矢理上向かせれば寄せた眉根の下の瞳に目が合った。 見たことのない歪み方をした貴方の表情が、男にとっては。 「ふ、」 愉快だった。 男は、貴方のことをよく知らない。 男にとっての貴方は、いつも何かよくわからないことに気を遣って、それでいて楽しそうでいる手のかからない先輩だ。 だから分からない。だから興味がない。 何故彼女を気にするかなんて気にならない。 気になるのはその顔色だけだ。 それがどう移り変わるのかは、興味があった。 ▽ (-265) rik_kr 2023/09/30(Sat) 4:11:38 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → リヴィオ更に、更に抑え込む。それ以上の抵抗がないように。貴方が目を逸らさないように。 それが叶ったなら、男は自らの顔を貴方の方へと寄せいって。 こつん、と。 額と額を触れ合わせた。 「許せない?」 「ダニエラのことが?」 「どうして?」 話してみろ。 聞かせてみろ。 眼前に迫った金色は、そう急かす。 (-266) rik_kr 2023/09/30(Sat) 4:11:52 |
![]() | 【人】 幕引きの中で イレネオまさに蜘蛛の子を散らすようだった。 監獄から吐き出されていく人、人、人。 早朝の白む空に照らされ、昇る朝日に祝福されるがごとく家路に着く。或いはそのまま遊びに赴き、それとも最早この地を捨てて遠くへ駆けて行こうとする面々は、疲弊しつつも各々どこか安心した顔をしていたのだろう。 これでもう終わる。悪人は討伐され、三日月島には平穏が戻るのだ。おめでとう、みんな、よくやった。おめでとう。 ぱんぱんと鳴るパレードの花火は拍手にも似て、奇妙にこの日を彩っていた。 しかし。 イレネオ・デ・マリアが牢を出たのは、それから随分後のこと。 日が再び落ち、また高く昇りきり、中天を過ぎた頃──── つまり、次の日の午後のことだった。 #AbbaiareAllaLuna (86) rik_kr 2023/09/30(Sat) 4:59:01 |
![]() | 【人】 幕引きの中で イレネオ突然の展開に署内は蜂の巣をつついたようになっていた。情報は錯綜してんやわんやの大騒ぎ。電話対応にも追われ会見の準備、やれあの証拠を持ってこい、やれあれを止めさせろ。末端も末端で仕事に勤しんでいた男が法の失効を知らされたのは、ナルチーゾ・ノーノの緊急逮捕が幕を下ろした後のことだった。 事後処理に駆け回った署内の人間の一人が取調室に飛び込んだのは、イレネオがまさに目の前の男の爪を剥ぎ取ろうとしていた時のこと。 謂れのない責め苦に悲鳴をあげていた被疑者は、その知らせにどれだけ安心したか知れない。彼は椅子から転がり落ちるようにして伝達者の元に走り、縋り付いて涙を流したという。 対する男は、当然法の失効に反対した。 これはマフィアやその協力者を先んじて取り締まることの出来る、画期的な法案だと主張した。いつもの生真面目さ、四角四面さ、愚直さで主張した。 しかし全ては終わったことである。 その言葉はひとつも聞き入れられることがないまま──それは皮肉にも、これまで犠牲者たちにしてきた態度と同じだ──男は一度落ち着けと犬小屋に戻された。 それはおそらく、暴挙の限りを尽くした愚犬に対する庇護の意味合いもあったのだろう。 混乱に乗じてどんな目に遭うかわからない男を野放しにするほど、この国の警察は終わってはいなかった。 #AbbaiareAllaLuna (87) rik_kr 2023/09/30(Sat) 5:01:35 |
![]() | 【人】 幕引きの中で イレネオまんじりともせず夜を過ごした男に沙汰が言い渡されたのは、次の日になってからのこと。 停職処分。 期限については追っての通達。 それは男にとっては重い、しかし見るものが見れば軽すぎる裁定だった。 どうしようもなく愚かで、それでも職務に懸命だった忠犬への、慈悲の意を含んだ処罰だった。 #AbbaiareAllaLuna (88) rik_kr 2023/09/30(Sat) 5:02:19 |
イレネオは、警察署を出た。16時を少し回っていた。 #AbbaiareAllaLuna (a24) rik_kr 2023/09/30(Sat) 5:02:39 |
![]() | 【人】 幕引きの中で イレネオ故に男は途方に暮れていた。 犬に出来ることは主人の意向に従うことだけである。 身を捧げた正義には手を離され、リードを握る者はいない。従った法は失効し、今や頼るものもない。 明るい陽射しの下に、男は憔悴しきった姿を晒した。 右を見る。牢に入る前と変わらない人並み。それは既に日常に戻りつつある。 左を見る。紙吹雪が散っていった。昨日あったらしいパレードの名残だろう。 後ろを見る。その門はいつもと変わらず、けれどこの男を追い出して閉じた。 前を見る。一般車両に紛れて通り過ぎた救急車を見て、思い出す声があった。 「バディオリは大丈夫なのか」 「彼なら病院へ」 「撃たれたのは肩だろう。命までは────」 ざり。 靴底が舗装された道を擦る。イレネオ・デ・マリアは知らない。 何故彼が負傷することになったか。 それでも。いや、それだからこそ。 足を向けたのは自宅ではなかった。 #AbbaiareAllaLuna (89) rik_kr 2023/09/30(Sat) 5:03:13 |
イレネオは、病院を訪ねた。16時を15分ほど過ぎていた。 #AbbaiareAllaLuna (a25) rik_kr 2023/09/30(Sat) 5:03:33 |
![]() | 【秘】 幕引きの中で イレネオ → 花浅葱 エルヴィーノ院内は清潔な空気で満ちていた。 容態は悪くないのだという。示された先の病室で、貴方は一人、未だに眠っていた。 その姿を認めた男は靴音を立てることなく近寄っただろう。 眠る姿をいつもの高みから見下ろす。上からではまだ遠かったので、すぐに腰あたりから折り曲げるようにして顔を寄せた。 色が白い。 けれど顔色はさほど酷くない。繋がれた点滴のおかげだろうか。 線が細い。 それでも今すぐ命を落としてしまうほどに儚くはないのだろう。 命がある。 たったそれだけの事実に、自分が酷く安心したことに気づいた。 男は更に腰を折り、頭の位置を下げる。肩口に顔を近づけたのは当然、噛み付くためではなかった。 顔を傾ければ僅かに上下する胸元が見えた。それでも足りずに手をかざせば呼吸を感じられた。未だ痕の濃い首筋に指で触れれば、生きている温度が伝わった。 しまいにくん、と鼻を鳴らして短く空気の匂いを嗅ぐ。血の匂いは僅かにもせず、ただ清潔な布の匂いと、その奥にほんの少しだけ消毒の香りの混じりを感じた。 貴方の負った傷は、遠からず治っていくのだろう。 それにようやく、心から安堵した男は上体を戻した。 #AbbaiareAllaLuna (-268) rik_kr 2023/09/30(Sat) 5:05:11 |
![]() | 【秘】 幕引きの中で イレネオ → 花浅葱 エルヴィーノ「エルヴィーノさん。」 無骨な指がさらりと頬を撫でる。 呟いた声を聞いた者は一人もいなかったはずだ。 男は暫くの間、そのまま貴方の傍にいた。 それは飼い主の目覚めを待つ愛犬の姿のようでもあったし、やはり貴方の眠りを守る番犬のようでもあった。 #AbbaiareAllaLuna (-269) rik_kr 2023/09/30(Sat) 5:05:40 |
イレネオは、病院を後にした。20時の少し前のこと。 #AbbaiareAllaLuna (a26) rik_kr 2023/09/30(Sat) 5:06:11 |
![]() | 【人】 幕引きの中で イレネオ帰路に着く足は酷く重く、億劫だった。 元より姿勢のいいわけではない男の背が今日は更に丸く俯いている。日の暮れた暗さを心細いとは思わないが、明日から過ごさなければならない日々のことを考えれば自然気は沈んだ。 幾日の間を何もせず過ごすことになるのだろう。 どれだけの時間に耐えることになるのだろう。まるで未決囚だ。 趣味も何もない、訪ねるような友人もいない不明瞭な空白を思えば、知らずうちに溜息が漏れた。 こつ、こつ、と石畳を鳴らす足音はいつか砂利を踏む音になる。 裏路地を通るのはいつも通りの癖だった。 なにも近道というわけではない。ただ、街灯のない細い道を帰宅がてらにパトロールするのはこの男のルーティンだった。 始めた頃には時々目にしたチンピラなども、最近はとんと見かけない。 良いことだ、と男は思う。きっと良いことだ。 だからこの帰宅ルートは、任を解かれた今日だって変えるつもりがなかった。 ────そして、それがいけなかった。 #AbbaiareAllaLuna (90) rik_kr 2023/09/30(Sat) 5:07:21 |
![]() | 【独】 幕引きの中で イレネオがつん。 衝撃。背後から突然横殴りに吹き飛ばされ、側頭を酷く打ち付ける。視界が白に黒にちらついて足はたたらを踏んだ。 何事かと状況を理解する前にもう一度衝撃。 がつん。 同じ部分を路地を遮る汚い壁にぶつけた後、酷い音を立てて身体が地面に転がる。揺れる。揺れる視界と脳。上手く立ち上がることが出来ずにただ酷く痛む頭に手をやった。誰だ。どうして。何が。 「こいつだ」 「イレネオ・デ・マリアだ」 耳鳴りで歪む中、それでも聞こえた声は知らないものだった。 「誰────」 聞く間は与えられない。 がつん。 #AbbaiareAllaLuna (-270) rik_kr 2023/09/30(Sat) 5:09:04 |
![]() | 【独】 幕引きの中で イレネオ三度にわたって硬いもので殴り付けられた皮膚が裂けて、側頭から頬にかけてを生ぬるく濡らしていく。 眼鏡はどこかに吹っ飛んでしまったらしい。おかげで薄暗い周囲でも先程よりはよく見えた。 路地裏の暗闇から染み出すように人影が三人。 各々何かを手に持って、それで、瞳はぎらぎらと燃えている。暴力への高揚と、標的への憎悪の色。 対する男の瞳もまた怒りに燃えていた。真っ当な激昂だった。 出血は既に瞳に混じって、これの視界を僅か塞いではいたが。 「一体なんなんだ」 「ふざけるなよ……」 それでも男は立ち上がろうとする。長身がぐらついて、睨め付ける金が浅い光を放つ。 しかしそれもまた許されない。地に着いた右手の指先に金属の平面が振り下ろされる。 その残像の形と音は金槌だろうか────気づいたところでなにもならない。 めき。 嫌な音がした。痛みに動きを止めた横面に目の前の誰かの蹴りが入った。 「なんなんだって」 「仕事だよ」 そう言った声は、笑っているように聞こえた。 #AbbaiareAllaLuna (-271) rik_kr 2023/09/30(Sat) 5:10:02 |
![]() | 【独】 幕引きの中で イレネオ「 が ふ 」肉を打つ音。内臓の深くまでを揺らす音。 「ゃ め゛ 、ろ」何かで叩く音。ぱきん。小気味よく硬いものが割れる音。 「い゛ッ……あ、ぁ、あ 、あ゛ 」ぶち。ぶちぶちぶち。なにかを千切る音。引き裂く音。 「── 、────!」 ごり。ごり。ごり。ごり。 硬いものを幾度も幾度も念入りに削る音に伴って、血液が土を濡らした。 初めに側頭部への打撃。 ついで指先の破壊。主に腹部を狙った殴打。 口に捩じ込まれる錠剤。重ねて手指の粉砕。 踏みつけにされて取り剥がされる爪が数枚。 無事だった左手は鋸歯の往復で切断された。 最後割れた瓶の破片を押し込まれたのは口腔で、 握り込まれるのではなく横面をまた殴られる。 自分がやってきたことに似ていると、気づく余裕はあっただろうか。 まだ鼠が紛れ込んでいたのか、善良な警官が義憤で情報を売ったのか、それとも。 #AbbaiareAllaLuna (-272) rik_kr 2023/09/30(Sat) 5:11:47 |
![]() | 【独】 幕引きの中で イレネオ────鼓動は随分緩やかになった。 ざっくり裂けた舌では言葉も話せない。 唸ろうにも流れ込んだ血液が喉にかかって咳き込むことしか出来ない。 立ち上がろうとすることさえ酷く億劫で、試す前に不可能だと本能が否定する。 全身の痛みは既に隙間なく身体の表面にも内側にもひしめいていて、最早これを痛みと呼ぶのかどうかさえ定かではなかった。 じゃり。 砂の擦れる音。自分の身が痙攣したのか、それとも誰かが踏みつけたのか。 かち。 硬いものが触れ合う音。自分の歯が鳴ったのか、それとも誰かが立てたのか。 血混じりの視界は光を失って赤くすらない。ただ黒く、白く、濁って靄がかった景色だけが、濡れた金色に映っていた。 それを酷くゆっくりと動かして。 それでも動くものを追おうとして。 震えた 瞳が、 #AbbaiareAllaLuna (-273) rik_kr 2023/09/30(Sat) 5:12:58 |
![]() | 【独】 幕引きの中で イレネオどす。 揺れた。 体内に冷たい衝撃。 これは彼らの仕事であって、男の仕事とは訳が違う。 男のそれはあくまで言葉を必要としたが、今のこれは、むしろ言葉があっては困るのだ。 命までを奪われることをようやく肌に染みて悟った。 鈍った思考ではそれを現実と受け止めるにも時間がかかった。 叫び出して暴れるような体力はこれっぽっちも残っちゃいなかった。 どす。 衝撃。 身体がまた重なる。吹き出す血は既に温度を失いつつある。それと共に当然命も零れ落ち、果てる意識の狭間にあえかな息をする。 どす。 最後の最後。 脳裏に過ぎった顔は、 母でも、父でも、祖父でもなかった。 #AbbaiareAllaLuna (-274) rik_kr 2023/09/30(Sat) 5:14:40 |
![]() | 【置】 幕引きの中で イレネオ猫みたいな人だった。 痩せぎすで、億劫そうで、いつも顔色が悪くて。 気まぐれで毛並みの悪い、野良猫みたいだった。 それでも。 瞳だけはいつも、いつも鮮やかに花やいでいた。 あの目が困って伏せるのが、嫌いじゃなかった。 ────好きな花くらい、聞いておけば良かった。 #AbbaiareAllaLuna (L1) rik_kr 2023/09/30(Sat) 5:16:45 公開: 2023/09/30(Sat) 5:20:00 |
![]() | 【独】 幕引きの中で イレネオ (-275) rik_kr 2023/09/30(Sat) 5:17:20 |
![]() | 【人】 手のひらの上 イレネオイレネオ・デ・マリアの遺体は見つからない。 一巡査長の身柄は行方不明として結論される。 その捜索も、程なくして打ち切られるだろう。 それはマフィアから警察への手打ち表明であり、 それは警察からマフィアに対するけじめであり、 狂犬が病理を撒く以前に駆除されただけのこと。 誰かが言ったように、署長代理にも法にも見捨てられ。 誰かが言ったように、道理と因果に従って。 誰かが言ったように、地獄に堕ちる。 狭い路地裏では空すら見えない。 負け犬が月に吠えることはない。 #AbbaiareAllaLuna 悪人は、等しく裁かれるべきだ。誰かが言ったように。 (91) rik_kr 2023/09/30(Sat) 5:20:23 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → アリソンに捧ぐ鐘 黒眼鏡張り詰めたものが一気に放たれる時のような衝撃。 貴方の抵抗ではなく、それは肉体の反射。弓なりに反る背中にバランスを崩し、転がる動作で男もまた振り落とされる。机の脚に鈍い音を立てて頭をぶつけると、茹だった頭はまたぐらぐらと揺れた。 ごろごろと転がる身体に手を伸ばす。捕まえられたかは知れない。振りほどかれるなら抱き竦めるようにしてしがみつこうとした。これは衝動的な執着だ。盛った犬のような荒い息を繰り返して男は貴方の身に覆い被さる。 許せない────見当違いの激情だけがそこにあって。 斃れた身体を仰向けに強いて追い打ちをかけた。 じゅぐ。 振り下ろす。 ぢゅぶ。 振り下ろす。 ずじゅ。 振り下ろす。 しまいには指を突っ込んで眼窩に残った部分を引きずり出そうとしたかもしれない。濡れて潰れた葡萄のようなそれは上手く掴めずに、もう何度目かの舌打ちが空気を裂いた。 ぐちぐちと微かになるいやな水音と男の息遣いだけが、しばらくの間狭い部屋に満ちている。 ────それが終われば。 男は貴方の口元を手で拭い、それを貴方の衣服に擦り付けた。 落ちついたらしく深く息をして立ち上がり、扉を開けて人を呼ぶ。 訪れた数人はその状況に驚愕の表情を見せもしたが、 深く追求することはなかったのだろう。 (-322) rik_kr 2023/09/30(Sat) 18:04:46 |
![]() | 【秘】 法の下に イレネオ → 路地の花 フィオレ強く打ちつけたことでずれてしまった眼鏡の位置を直すとか、 連絡のために携帯をまた拾い上げようとするだとか、 今は手にしていない手錠を咄嗟に探す仕草だとか。 そこここに充分な隙があって、男の手慣れなさを示していた。 雑に突っ込まれたそれを奪い取るのは難しくないだろう。 先程とは違いこの道は狭く、男は後ろを向いている。 振り向くのにかかる時間は、貴方の逃走に寄与するはずだ。 ────当然、男は追いかけるだろうが。 仕返しに砂でもかけてやれば、更に時間は稼げるだろう。 (-326) rik_kr 2023/09/30(Sat) 18:52:37 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ物が落ちるような気遣いのない音が足元で立った。 それはあなたが倒れ込む音で、遅れて絶叫が喉を震わせる。 対する男はそれを見下ろして、ことりと首を僅か傾げた。 「……はあ。」 ただひとつ、吐かれた息。 その吐息は一方的な暴行ではなく双方間での攻防に詰めていたものが解放されたようにも、やっと大人しくなったと言いたげな溜息にも聞こえた。 きっとどちらでもあるし、どちらでもない。それを男は自覚していない。 丸くなるさまが身を守ろうとするようで、頼りなさに男はまた口元を緩める。これだって無意識のことだった。 「手間のかかる……」 まるで人ではないものを扱うような言葉を貴方に投げつける。 随分苦労させられた。まるで手負いの獣だ。今日はもうひとつ予定があるのに、と思考が過る。 ────まあ、仕方ない。これも仕事だ。 口元に手をやって男は思考を始めた。貴方はもう抵抗できないだろう、そう信じ込んだ油断がある。試しに足で小突くくらいのことはしたかもしれない。死にかけの虫の、威勢のほどを確かめるような仕草だった。 仕事なのだから、遂行しなければならない。しかしこの状態ではもう、貴方からこれ以上話を引き出すのは難しいだろう。 痛みにあえぐ貴方は、話すどころか座ることすら困難そうだ。 ならば。 ならば、最善は。 ▽ (-365) rik_kr 2023/09/30(Sat) 23:35:57 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ貴方が狂った狼であるなら、これはもっとたちの悪いものだ。 ひとつ思いついた男は、貴方を放置して何かを取りに棚に近寄る。 貴方は、最後の力を振り絞ってそれを止めたかもしれない。 それとも、もうそんな余裕すら残っていなかったかもしれない。 どうあれ男はそれを振り払ったろう。酷く単純な、顔面に向けて足を振る動き。 そうして手に取るのは 金槌 だ。ぱん、ぱんと手のひらに打ち付けて感触を確かめる。男がしようとしていることは、とても悪趣味で無意味なこと。 それでいて残酷な次への布石。 再びの尋問が楽なものになるように、 貴方が二度と抵抗できないように、 その意志も行動も削ぐように ────四肢の内もうひとつを、砕いてしまおう。 (-366) rik_kr 2023/09/30(Sat) 23:36:13 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → きみのとなり リヴィオ熱い身体だ。 一人、いたな。そういうのが。 彼は治療を受けただろうか、と脳裏を過った。 受けたのなら、近くまた会うこともあるかもしれない。 歪む表情。 無敵とは程遠いその様子。 けれどそれを崩し切らないあたりが、この男の趣味の悪いところを擽った。 湿って熱い吐息が好かった。形のいい唇が引き攣るのが好かった。 ああ。 いいな。 片手は貴方の顎に。もう片手は転がしておいた器具に伸びる。 合わせた額はまるで慈しむような優しさでいて、愛情の発露のように鼻先が擦り寄せられる。 金色が海の底を微かに映している。 そして、そのまま。 貴方の震えを食らうように男の唇が押し付けられた。 丁寧さも何もない。欲情の荒っぽさもない。秘密を引きずり出そうとする求めもない。ただそれは、この男が、昼飯を食う時にするような仕草。 食に拘りのない獣が、食べられるものを見つけたから口をつけた。それだけの仕草だった。 ▽ (-390) rik_kr 2023/10/01(Sun) 14:54:09 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → きみのとなり リヴィオ「可哀想に。」 哀れむ声には愉快さが滲む。 もう一度軽く口づけて至近に寄せた。それからようやく身を離し、場違いな恭しさでその手を取った。 口を開く。閉じる。弧を描いた。もう一度、開く。 「ダニエラが」「心配ですか」 「それなら」 「貴方が頑張れば」 「ましになるかもしれませんね。」 嘘だ。 彼女の責めは、もう終わっている。 (-391) rik_kr 2023/10/01(Sun) 14:54:24 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ「貴方が悪いんですよ。」 ────なんて無責任な言葉! 厚顔無恥とはこのことだろう。男はあくまで正義を歌う。悪はそちらと貴方に押し付ける。 ぱん。ぱん、と小気味いい音が繰り返し立った。その間にも視線は貴方の下肢を這った。 品定めの視線。吊るされた肉を解体する肉屋の視線。作業ではなく、あくまで真剣に効率を求める目だった。 大腿骨は太い。肉も多いから難しい。 同様にふくらはぎも難しい。叩くなら脛か、足首か。ぱん。音が空気を裂く。 的は大きい方がいい。 穴から蛇を引きずり出すようにして、男は貴方の足を伸ばさせた。 抵抗するなら叩く。 叩く。 敬意も尊重もない。貴方は気遣いに値しない。男にはもうひとつ予定があり、貴方と過ごす時間は着々と終わりに近づいている。 腿の上に腰を下ろして固定した。 貴方の言葉も制止も聞く気はなかった。 一番手慣れた無骨な武器を男は振り下ろした。 ▽ (-395) rik_kr 2023/10/01(Sun) 15:44:59 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロがきん。ひとつ。 がきん。ふたつ。 がきん。 みっつ。がきん。 がきん。 (-396) rik_kr 2023/10/01(Sun) 15:45:59 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロこんなもの、尋問どころか拷問ですらない。 繰り返される真っ直ぐな暴力。 男はそれを仕事だと思い込んでいる。 貴方が悲鳴をあげる度に口角を上げた。 貴方が床を叩いて逃れようとする度に喉を震わせた。 それでもこれは楽しみのためになされているものではない。 あくまで。 あくまで、真摯に。 これは次の仕事のための布石。 次貴方と話す時の為の準備。 そうして金属面への抵抗が変わった頃。 貴方の様子を気にすることもない。男は最寄りでバスを降りるような身軽さで、貴方の上から退いた。 (-397) rik_kr 2023/10/01(Sun) 15:46:30 |
![]() | 【秘】 法の下に イレネオ → 路地の花 フィオレ路地裏を知り尽くしている程度では貴方に分があった。 それでも“このあたり”に限ればおそらく互角だった。 だから男は油断した。 だから男は隙を見せた。 自負があったから、思考が鈍った。 鼠程度捕まえられると思っていた。 窮鼠は猫を噛むのだ。 投げつけられた砂はさしてダメージにならなかった。 それでも物体が迫れば目を守ろうとするのは反射の動作だ。 立ち止まった隙に貴方は角を曲がったかもしれない。最後の力を振り絞って走ったかもしれない。それだけの時間はきっとあった。 入り組んだ路地は分かれ道が多く、そのひとつひとつを確認するだけで時間を取る。 貴方は逃げた。 男は追った。 貴方は逃げるためだけに走った。 男は、貴方が自分から逃げているのだと思った。 街に出るという選択肢を失念している。 だから。 男は貴方を見失ったのだろう。 建物の向こうから車の出る音だけが聞こえて、 ようやく気付いたころには遅かったのだ。 (-400) rik_kr 2023/10/01(Sun) 16:11:56 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → きみのとなり リヴィオ半端な抵抗はこれを煽るだけだ。 弱りを強調するだけの手はむしろこちらの勝利を知らせた。 取った手の熱さが愉快だった。冷たいよりよっぽどよかった。 命を甚振ることを、この男は楽しんでいる。 からん。音がして器具を床から攫った。 高尚な道具なんてない。手にした器具は飾り気のないペンチ。 貴方が耐えなければ、彼女の整えられた爪が、こんなもので台無しにされることになる。 もう終わったことだ。 従順な様を褒めてやりたくて、けれど空いている手がない。 仕方なくもう一度額を合わせてから、ゆっくりまばたきをした。 本当なんてここにはない。 提供された聴取内容も。 貴方が吐かされる“真実”も。 傍から見れば慈愛か、情欲に見えそうな男の態度も。 本当なんてひとつもない。ここにあるのは偽物ばかり ────痛みを除いて。 ▽ (-401) rik_kr 2023/10/01(Sun) 17:33:43 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → きみのとなり リヴィオはじめは右の小指から。 そこは彼女の宝物にもっとも遠い。 指先に単純なつくりの金属が宛がわれる。 塗り上げられた黒の表面がぐ、とひしゃげさせられる。 そして。 ば づん 。一気に、引き剥ぐ。 (-402) rik_kr 2023/10/01(Sun) 17:34:49 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → 月桂樹の花 ニコロ最後にもう一度だけ貴方の方を向いたかもしれない。 横柄に腰を折り、手を伸ばして前髪を掴んだ。 汗の浮いたかんばせ。涙は流れなかったかもしれないが、きっと滲んでいる。 濁る千草を目に映す。金が混じればまるで春のよう。色ばかりは明るく華やいで、それが酷く不似合いだった。 それで、男は満足したらしい。 最後にふっと息を吐いて笑う。次にはぱっと手を離した。貴方の頭部が床に落ちるごとんという音がしたかもしれない。 そのままやっぱり自然な仕草で────本当に、ただの仕事を終えて休憩に出る時のような自然さで────取調室の扉を開けて。 「救急車を。」 「少し暴れたので、手当が必要かと。」 やっぱり事も無げに、淡々と報告する声が聞こえた。 (-417) rik_kr 2023/10/01(Sun) 20:12:21 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → きみのとなり リヴィオ「 く ふ 」その声に。 男はぱっと口を抑えた。手の下の唇は笑みの形に歪んでいた。 自分の体温もかっと上がった気がした。それが男は不思議だった。 だけれど、それをただ不思議がる大人しさは生憎持ち合わせていない。 男が持っているのは、ただその情動に身を任せる愚かな素直さだ。 剥がされた小指の爪を眺める。裏を表を返して見る。白、黒、赤の三色が人工の光を弾いて光った。くく、く、と喉から笑いが漏れる。 喘ぐように息をする貴方に目を映す。 時折は咳き込み、逃避にもならないように身を震わせる貴方を見る。 瞳はそのまま。 貴方の顔に向いたまま。 男は次に手をかけた。 ▽ (-424) rik_kr 2023/10/01(Sun) 20:31:38 |
![]() | 【秘】 幕の中で イレネオ → きみのとなり リヴィオみち。 肉とその被膜が引き剥がされていく。 みち。みち。みち。 上下に裂かれる神経が悲鳴をあげる。 みち。みち。みち。みち。 壊れた玩具かなにかのように貴方が叫ぶ。 駄々をこねる赤子のように頭を振る。 「あはっ」 縋るように握り込まれる指。 瞳ごと溶けるように零れる涙。 男は笑っていた。 「はは…… ふ ふっ 、く」笑っている。 「 く ふ、ふ ふ、 あははっ、 あははは!」 壊されていく貴方の上で。 これはずっと、笑っていた。 笑っていた。 (-425) rik_kr 2023/10/01(Sun) 20:33:42 |
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