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人狼物語 三日月国


258 【身内】冬融けて、春浅し

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【人】 葛切 幸春

[緩やかな速度の所以を知らずとも、二人の時間が増えるのならば否やはなく。眺める横顔の中、薄く笑みを刷く口唇へ焦点を添えて目を細めた。運転の最中に手を出す程不道徳ではなくとも、エレベーターで最後に交わした口付けの感触を思い出すように自身の唇へ触れる。扉の開く最後まで情を示してくれる誠実さも、彼の人柄を指し示すようで愛惜しかった。
キーホルダーを残した女性達とも、そうした逢瀬を楽しんだのだろうか。有るか如何か不明だと言っていたアルバムは誰も見ていないと思いたいが――
己も大概、嫉妬深いと自嘲する。]


 ああ、いや。すまない。大丈夫だ。


[柔らかな促し、頭に触れる手に現へ意識を戻す。]


 俺よりあんたの方が疲れている筈だ。
 運転も世話になって、……身体の方も。
 今夜はよく休んでくれ。


[一日穏やかに過ごしたとて、昨夜の負担は未だ残っている事だろう。目線をそっと身体の線へ添わせて、自然と脳裏に描き掛けた彼の艶姿。今思い返すには場が悪いと 首を振るって目を瞑った。]
 
(25) 2024/05/12(Sun) 20:09:13

【人】 葛切 幸春


[その内にやがて己の依拠も見える筈。駅からの利便性と、その中でも家賃の低さを重視した安いアパート。
男一人の暮らしだ。住めればそれで良いと、これまでは特に気にも留めていなかったが、高層マンションとは比べるべくもない住まいに些か気不味さを覚えもする。]


 上がっていってくれ、と言えたらいいが……何の持て成しも出来なくてな。


[微かに眉を下げて苦笑し 過ごす時間の終わりを惜しんだ。
だが車が付近に辿り着いた折、別れる前にふと――少しだけ待っていてくれるか≠サう言い残して 二階の一部屋に暫し姿を消すだろう。*]
 
(26) 2024/05/12(Sun) 20:13:47

【人】 靖国 冬莉



 ん、それなら良かったわ。

 何、お前さんこそ疲れただろう、……後始末までして。
 お互いゆっくり休もうな。


[触れる指先の その髪質の感覚は最早馴染みのあるものと化しており、———— 趣向で無しに、五感も全て 彼自身を馴染ませることができたら。僅か数舜の触れ合いの後に、手は空を切って ハンドルへと舞い戻る。他者を思い遣る言葉に、彼らしさを覚えながら 薄く笑みを敷いて 部屋の中で彼の指し示した場所の近くに辿り着く。周囲の景色に対して既知だったのは、此処までだった。]


 成る程、……駅が近くて良いな。


[告げられた彼の住居へと視線を向ければ、小さく頷きを入れて 傍の駐車場へと入り込む。装飾を排したシンプルな建物は機能性のみを意識したような佇まいで、最小限に身持ちを整える自身としては好ましい ————いや、彼が此処に住んでいる、その事実だけでも 酷く魅力的に見えるのだから盲目なのだろう。彼の指示で空いているところへと止めながら。]


 気にすんな、お前さんの処を知りたいと急に強請ったのは俺だ。
 ……次は此処に来ればいいか、お前さんを誘うときは。


[なんて苦笑する彼をルームミラー越しに一瞥しつつ、柔く笑みを零せば 車体は白線の中に入り込み エンジンを止めた。]
 
(27) 2024/05/12(Sun) 22:02:10

【人】 靖国 冬莉



 ん?……いいよ、幾らでも。


[彼の言葉に 緩く頷きながら、階段を上る彼の背を見送る。規則的な音の後にやがて、影一つ見えなくなって。ふと、運転席の中で 周囲を見渡す。———この景色を、何時も彼が見ながら 世俗に呑まれているのだと思い起こせば また一つ 知らない彼を理解できたような気がして 自己満足に耽った。

返事を待ち遠しく思ったのは、初めてだ。


 先刻の彼の柔らかい素面に、きっと 日常を少しずつ己が侵していることに 喜悦が滲み出ていく。彼を構成する一つ一つを知りたいと、———あわよくば それに自身を滴らせたいと思う強欲さに自嘲を浮かべながら 彼の帰り≠待つ。* ]
 
(28) 2024/05/12(Sun) 22:03:15

【人】 葛切 幸春


[少し口の端を弛めて軽く首を振る。恋人と睦み合った後、託された肢体を気遣う事を疲れと思う筈も無い。口数多く語りはしないがそう伝わればいいと目線を交わし―――辿り着いた駐車場で車が完全に停まった後、ハンドルを握る手指をするりと一度撫ぜ、礼を言って車を降りた。]


 ……此処まで来て貰うのは悪い。
 あんたの所まで俺が行くさ。


[車でなくて悪いがな。@U導したのは来客用の一角であり、自身が借りている駐車場は無い。その場に残した彼が、頭の中で如何思っていたかを知る所ではないが。至って普通と云うよりも若干古びた建物でさえ在る。部屋を守る唯一の鍵は当然ディンプルでもなく、極一般的なシリンダー錠だ。彼の住まいのセキュリティに比べたら頼りないと言うべきかも知れないなと頭を過った考えに少し笑って扉を潜った。]
 
(29) 2024/05/12(Sun) 23:23:30

【人】 葛切 幸春


[幾許かの間。
階段を下りる音を響かせて、再び駐車場に戻った時に彼は如何していたか。運転席側の窓を覗き込むように数度ノックして帰りを知らせ、]


 ……これを。
 あんたも、受け取ってくれないか。
 そう使う事はないかと思うが……俺の気持ちとして。


[掌の上、銀色の鍵を差し出した。*]
 
(30) 2024/05/12(Sun) 23:24:15

【人】 靖国 冬莉


[頬杖をつきながら 景色を眺めている中で 硝子越しに響く規則的な音に 視線を向ければ 降りてくる彼の姿に緩やかに笑みを傾けて出迎える。ノックに、窓硝子を開けば 言葉と共に 差し出される彼の手。
 それは、つい先ほどの自身と同じく 彼の領域を侵すためのもの。受け取ることに初め、躊躇していた彼が 自らの意思で 手渡すそれは 日陽に照らされて 柔く暖かみのある色味を放っていた。]


 ………嬉しいねぇ。


[自ずと素直に 込み上げる感情のままに言葉が出てしまう。受け取っては胸元へと運び、きゅうと握り締めた。これは、これまで 周囲に溶け込まんと己を排して藻掻いていた 愛する人からの、信頼の証だ。そして、退路すらも自らの手で絶った、覚悟の顕れ。]


 幸春。


[思いのままに顔を寄せようとするも、俗世の中で彼はきっとそれを善しとはしないだろう。彼を見上げながら ふわりと笑みを深めて。]
 
(31) 2024/05/13(Mon) 0:01:56

【人】 靖国 冬莉



 じゃあ、また着いたら連絡するよ。
 ……また会うまで、無理すんなよ?


[手のひらの中の鍵をキーケースに仕舞い込み、 顔を上げて 別れの挨拶を紡ぐ。彼はどんな表情をしているのだろう。目を細め、その愛おしい顔を目に焼き付けては、エンジンを掛けた。後ろ髪の引かれるままに、———されど 続いていく関係の中での信頼の元で ハンドルを動かしていく。]
 
(32) 2024/05/13(Mon) 0:03:42

【人】 靖国 冬莉



[未だ空いた窓から 頬を擽る風に、僅かな陽気を覚える。それは心情故なのか、それともこの先の季節への兆しなのか。何れにせよ、きっと互いにとって 息のしやすい日々になればいい。
 冬が融けて、春浅し。緩やかに閉じていく窓硝子の先にある木々の枝、その先端には桜の蕾が芽吹いていた。*]

 
(33) 2024/05/13(Mon) 0:09:02

【人】 葛切 幸春


[差し出した鍵を、喜びと共に受け取って貰えた事に安堵し──己が躊躇った二度の折、彼の心情は如何だったのかと改めて思う。

それでも此方の選択をその儘受け入れてくれた優しさに、この先で報いて行きたいと願いながら。胸許で大切に握り込まれた鍵を、その柔らかな笑みを描く相貌を、細めた眼差しで暫し眺めた。]
 
(34) 2024/05/13(Mon) 0:35:45

【人】 葛切 幸春


 あんたも。
 ……気を付けてな。


[眦を和らげて、短い言葉に有りっ丈の愛惜しさを込めた。

エンジンの音に、一歩 足を退く。
窓硝子に掛けた指先だけが、惜しむように遅れて離れた。緩やかに発進する車に軽く片手を挙げる。やがて道を曲がって見えなくなるまで――否、その音が聴こえなくなるまで、ずっと。その場に立っていた。]
 
(35) 2024/05/13(Mon) 0:37:27

【人】 葛切 幸春


[暫し噛み締めた余韻を、近くを通る人々の話し声に区切って首を振る。再び階段を上って部屋に戻る最中、建物の脇に咲く桜の木が小さな蕾をつけているのを知って足を止めた。目を細める。
嗚呼そうだ。いつの世も――――]
(36) 2024/05/13(Mon) 0:40:00

【人】 葛切 幸春



    [優しい冬の隣に、春が在る。**]
 
 
(37) 2024/05/13(Mon) 0:40:43
 




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