263 【ペアソロRP】配信のその先に【R18/R18G】
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[異変には気づかれなかったのか。
少なくとも気づいた素振りは見受けられないまま
飲料は彼女の体内に落ちていく。
内心で胸を撫で下ろした。
自分が好きだと言ったものを
拒まないのは知っていた。
親に従う雛鳥のように愛らしい。
大事で大切だからこそ、自分は彼女を……。]
|
お口に合ってよかった ……桃以外に好きなもの、ですか
[貴方です、の言葉は飲み込んだ。 うーん、と考えている間に 料理が運ばれてきて一度口を噤む。
空になった彼女のグラスには 先ほどとは別のボトルから 桃のジュースが再び注がれる。] (4) 2024/05/22(Wed) 11:20:53 |
| [前菜、スズキのカルパッチョを ナイフとフォークで一口大に切って 口に運ぶ合間に続きを話す。]
何でも食べますけど 甘い味付けのものが好き……、 かも知れません
[断定できないのは、食への関心が薄かったから。 スズキを口に含む。 ……うん。飲み込んで小さく頷く。 バルサミコ酢と言っていた、 この酸っぱい味付けも悪くない。
彼女に出逢うまではもっと酷かった。] (5) 2024/05/22(Wed) 11:21:40 |
[塞ぎ込んでいた自分は
配信を始めることで新たな世界と繋がった。
少しずつ行動範囲が広がった。
偶には家を出て外で何かしようと
思えるようになったし、
身体を──指を動かすためだけにしていた食事に
豊かで複雑な味を感じられるようになった。
中でもハツナという視聴者の影響は大きい。]
[最初の下手な食レポは
田中さんに頼んで買って来てもらった
コンビニスイーツのパンナコッタだったか。
喉越しは確かによかったものの
「美味しい」とはよく解らずに口にしていた。
その後、告知用SNSを開いた時。
オススメのタブには
自分が食べたものと同じものを食べたことを
嬉しげに報告する投稿があった。
不思議な感覚だった。
それは一度きりではなく。
よく動画を見てくれている人だったから
何度もそういったことがあって。
一つのメロディを複数のパートが追い掛ける
演奏形式のような心地の良さで。
偽だった「美味しい」の感想が少しずつ。
少しずつ、本物に変わっていったのだ。]
|
ハツナさんは、何がお好きですか? 食べ物でもそれ以外でも
ハツナさんのこと、知りたいです
[真っ直ぐに見つめて、問いを返す。 SNSにあげられたことなら隅々まで知っている。 恐らく好物だと思われるものは、 この後のコースに盛り込んでもある。
それでも、 知っていたことを改めて彼女の口から聴きたいし 知らなかったことは素直に知りたい。 知らないところがなくなるくらいきみを知りたい。*] (6) 2024/05/22(Wed) 14:36:53 |
[ソウマくんと同じ食卓を囲んでいる。
その事実だけでもう胸がいっぱいだった。
だってあのソウマくんだよ?
画面越しにしか逢えなかった憧れの人が
少し手を伸ばせば届いてしまいそうな距離にいる。
画面の中ではいつだって皆のソウマくんだけれど
今だけは、今この瞬間だけは
間違いなく私だけのソウマくんだ。]
| [そう言えば、今日は自分が知っている 彼女に比べると随分大人しいような気がする。 テーブルマナーはきちんとしているし 上品な服装や髪型がよく似合っていて 素敵なお嬢さんそのものだ。
ただ大人しいと言っても 楽しめていないという訳ではなさそうで 「幸せです」「美味しい」など 喜びの気持ちを真っ直ぐに伝えてくれるから こちらまで嬉しくなる。
普段の元気な彼女。 気品漂う今夜の彼女。 どちらにも惹かれてやまない。
彼女への想いが膨れ上がっていくのを 自覚するとともに むしょうにピアノが弾きたくなった。 言葉を話すのが得意でない自分の第一言語だから。] (15) 2024/05/23(Thu) 10:22:44 |
| [だけど今日は初めてのデート。 この時間だって何事にも代え難い。]
そう、てりやきの甘辛さが好きで……
……砂糖入りの玉子焼き? 伊達巻ではなく、玉子焼きも 砂糖を入れて良いんですか?
……それは食べてみたい きっと、絶対。好きな味です
[食べ慣れた方も出汁が効いていて旨いが 彼女が予想するなら、気に入るに決まってる。
自分でも知らなかった自分に幾つも 気づかせてくれる彼女がこちらを見れば その度に見つめ返して目をそっと細くする。 この席は彼女の顔がよく見えて良い。] (16) 2024/05/23(Thu) 10:23:15 |
| ……っ [好きなものを訊ね返すと もちろんに「そう」が続いたから 自分だと期待してドキッとしたが違った。 >>11 危ない。セーフ。危なかった。 面と向かって、それも不意打ちで告白されたら ハピバーガーでのロケの時以上に 情けない姿を晒してしまったと思うから。 反応速度の遅い表情筋に密かに感謝した。] (17) 2024/05/23(Thu) 10:23:34 |
| [彼女は桃とパンナコッタが好きだと言う。 好みが似ていて嬉しい。 豆腐、漬物、練り物、きのこは これまで余り意識してきたことがなかっ──、 いやいま好きになった。好きだ。]
ラザニア、ですか 自分には……、特にないですが とっておきがあるのは素敵ですね
[節目に必ず登場するから好きだと予想していた。 だけどそこまで特別なものだとは知らなかったから 狡いような気が、少しだけしなくもない。] (18) 2024/05/23(Thu) 10:24:01 |
| [今度こそ不意打ちに好きなものに挙げられた。 自分自身ではなく、ピアノのことだけれど。
……いや、自分自身のことも知りたいと、 彼女は言った?]
……どちらもありがとう その……、嬉しいです
[そう願ってくれるのは嬉しい、事実。 照れと戸惑いを半分ずつ浮かべて 顔を俯かせて 短く気持ちを伝えた。] (19) 2024/05/23(Thu) 10:25:13 |
| [前菜の皿が下げられ、次が運ばれてくる。 イタリアンの二品目はパスタ。]
……お呼び出しした理由、 気になりますよね。お話します
けど、良ければ、ハツナさんには お話より先に次の料理を温かい内に 召し上がって頂けたらと思います
先ほど自分には特別な料理は ないと言いましたが……、
今日からはこれになりそうです
[熱々のラザニアがそれぞれの前に置かれる。 貴方は、今日この日のことも とっておきに思ってくれますか。*] (20) 2024/05/23(Thu) 10:27:07 |
[コースがこの順番で良かった。
彼女の前に好物を提供できたから。
直にジュースに仕込んだ睡眠薬が回る。
己の長い両の腕は、崩れ落ちる前に
彼女の身体を支える事が出来た。*]
[ソウマくんは、
そんなこと訊いてどうすんだよって
突っぱねたり笑って流したり
不機嫌になったりしない。
茶化さないで、穏やかな声で
まっすぐに私の話を聴いて
ひとつひとつ丁寧に、
ちゃんと言葉を返してくれる。
それどころか、
ソウマくんから見たら
とことん素性の知れないだろう私にも
目を合わせてふわっと微笑みかけてくれる。
幸せすぎていっそ怖い。
うっかり『え、好き』とか
真顔で口走りそうな自分も怖い。
ていうか既にもう何回か言いかけてる。
さっきだって言いかけた。
……やっぱり優しいな、ソウマくんは。
家で好き放題に愛を叫んでいたのが
申し訳なく思えてくるくらいに。]
[昨日ちゃんとベッドで寝なかったから?
白桃ジュースを二杯も飲んでしまったから?
久しぶりにラザニアを食べたから?
ソウマくんに逢えて、安心したから?
ちゃんと昼寝しておけばよかった。
ううん、今日だけじゃなくて
普段からもっとしっかり寝ておけばよかった。
ソウマくんともっと一緒に居たいのに。
話したいこともまだたくさんあるのに。
どうしよう、身体に力が入らない。
目が開かない。]
|
……幸せそうに召し上がりますね
[ラザニアを美味しそうに頬張る彼女ほど 愛らしいものがこの世に存在するだろうか。 居やしない。 こちらまで幸せな気持ちになって、 いつまでも眺めていたくなる。 暫く見惚れてしまってから、 思い出したように自分も手をつけた。]
本当に、美味しいですね
[一番上のチーズはこんがり焼けているし 平たいパスタと二種のソースが何重もの層になっていて 料理に明るくない自分でも手間のかかるものだとわかる。 祝い事のたびにこの一皿を用意されてきた彼女は ご家族に大切にされていたのだろうと想像した。] (29) 2024/05/24(Fri) 16:31:01 |
| [互いの誕生日だとか、クリスマスだとか、 先の祝い事は二人でこの料理を頂こう。] 夢だなんて……、どうかしましたか? [ そう、夢は覚めるものだ。 ラザニアを半分ほど腹に収めたところで 彼女の方には異変が生じた。 どうやら効いてきたようだ。 膝に載せていたナプキンをテーブルに戻し 椅子から立ち上がる。 彼女の肌に火傷などさせられないし 彼女の髪を料理で汚させるわけもない。] (30) 2024/05/24(Fri) 16:32:02 |
| [彼女は何ひとつ悪くないのに謝罪を口にする。]
……いいんだ、抗わなくて
[暫くおやすみ、俺だけの眠り姫。] (31) 2024/05/24(Fri) 16:33:02 |
| [崩れ落ちそうになった身体を腕で支え そのまま横抱きに抱え上げた。 羽根のように軽くて吃驚する。 長い睫毛が伏せられた寝顔は美しい。 本当に物語のお姫様みたいだ。 ……などと間近にある顔を無遠慮に眺めていると 不意に目蓋が開いて。] えっ [いや、気のせいか? 目蓋が開いて目と目があった気がした。] (32) 2024/05/24(Fri) 16:33:26 |
| [規則正しい寝息が聴こえる。 家族に大事にされてきただろう彼女は 今日から自分がそうするのだ。]
……連れが体調不良のため 料理の途中ですが失礼します
タクシーの手配をお願いできますか?
[惜しまれるのはドルチェまでいけなかったことか。 ほかのどの祝いの投稿よりも嬉しかった 桃のパンナコッタを再現して貰っていたのだけれど。 "暁ソウマ"のその先の己を知ったなら 彼女はもうきっと作ってくれないだろうから。] (33) 2024/05/24(Fri) 16:36:08 |
[それでも良い。
きみにどう思われても構わない。
誰に狂っていると糾弾されようと
自分の愛し方で愛するだけ。
それが正しいと信じているから。]
華音……、俺だけの華音
愛
しているよ──……
[目蓋にそっと口づけて、
城とも監獄とも呼べる自宅へ彼女を連れ去った。**]
[愛とか、恋とか、よくわからなかった。
ソウマくんに出逢うまでは。]
[小さな頃から、はっきり言って
私は要領が良くはなかった。
私には3つ年上のお兄ちゃんがいる。
お兄ちゃんは私とは正反対、地元では
勉強でも運動でも右に出る人はいなかった。
私が数時間かけても理解できないような問題を
お兄ちゃんは、ものの数秒で解いてしまう。
私が一つのお手伝いを熟そうとする間に
お兄ちゃんは手際よく十を終わらせてしまう。
明るくて、友達も多くて、よくモテて
いつだって誰かに囲まれて笑っていた。
対する私は、泣きながら努力しても
お兄ちゃん以上になれるものは
ひとつもなかった。
年齢を重ねれば重ねるほどに
ケンカでも敵いようがなくなった。
そして、何一つ敵えない私を
お兄ちゃんはいつも小馬鹿にしていた。]
[『気にしなくて良いのよ、華音。
華音には華音の良いところがあるんだから』
ママはそう言って私を慰めてくれた。
一方で、
テストの成績でも運動会でも
褒められるのはいつもお兄ちゃんの方だった。
『お兄ちゃんは何でもよく出来るのにねえ』
『華音ちゃんは可愛いから、
ただそこに居てくれるだけでいいんだよ』
そういう台詞も、聞き飽きるほど聞いた。
遠回しに『役立たず』って言われてる気がした。
悔しくて、情けなくて、惨めで
言われる度に躍起になって、
でもひとつとして満足に身に付かないうちに
お兄ちゃんはどんどん先に行ってしまう。
ラザニアが好きなのは、こんな私でも
大切にされてる、って思わせてくれたから。
刻んで、煮込んで、重ねて、焼く。
幾重にも積み重なる手間暇を微塵も惜しまずに
私のためだけに懸けてもらえる時間が嬉しかった。]
[お兄ちゃんに勝ちたい。見返してやりたい。
ただそれだけの理由で受験した
お兄ちゃんの高校よりもレベルの高い高校。
私が合格した同じ年に、
お兄ちゃんは大学受験に失敗した。
そのまま、部屋から出て来られなくなった。
家では口は悪いし下品だし手も足も出るし
私の楽しみにしていたおやつまで食べちゃうような
最低の兄だったけれど、
どんなに馬鹿にされても
どんなに羨ましく妬ましく思っても、
心のどこかで尊敬もしていた。
だって実際、お兄ちゃんは凄かった。
頭が良くて足も速くて
話すのも、教えるのも上手かった。
自分の勉強も大変だったろうに、
私の勉強を見ようとしてくれたこともあった。
ずっと勝ちたいとは思っていたけど、
あんな弱りきった姿を見たかったんじゃなかった。]
[無理を押して入学した高校では、皆が皆
それぞれの夢にまっすぐ向かって
毎日真剣に勉強をしていた。
入学当初こそ名前も知らない先輩たちに
立て続けに告白されたりもしたけれど、
誰も私自身の話を聴こうとはしてくれなかった。
勉強ができないと、会話も続かない。
そのうちに飽きられて相手にされなくなった。
ついていくだけで精一杯だった私は、
自分の本当にやりたいことが何なのか
何もわからないままで三年間を過ごした。
他の何を捨てたって
全てを懸けたいと思えるようなもの。
そんな熱い想いを抱けるもの、
私には何もなかった。]
[ただなんとなく、毎日を過ごして
先生に勧められるままに大学を択んで
流されるままに一人暮らしを始めてみれば、
大学ってのは、やりたいことがないと
どこにも居場所が見つけられない。
生きていても死んでいても
変わらない毎日が淡々と通り過ぎていく。
くだらない色恋話が飛び交う大教室の中で
私ひとりが消えたって何の問題もない。
……なんか、疲れちゃったな。
私が何をどんなに頑張ったって
どうせなんにもならないんだから。
今日を終わりの日にするなら、
最期はピアノを聴きたいな。
パッヘルベルのカノン。
何も考えずに無邪気でいられた
あの頃に帰りたい。
動画を検索していて偶然見つけたのが、
ソウマくんのチャンネルだった。
配信を聴き始めて数秒、自然と涙が零れた。]
[一体どれほどの時間をピアノに注ぎ込んだら
一度も間違えないで、左右で違う指を動かして
こんなに綺麗な音が出せるようになるの?
凄く努力家で忍耐力もあって、
頭も良くて孤独にも強いんだろうな。
私とは大違い。
ピアノが好き……、なのかな。
でも何だろう、うまく言えないけれど
少しひんやりしていて硬質で
楽しそう、とは少し違うような……
鍵盤に向かう表情からは何も読み取れない。
ねえ、貴方は
完璧を求め続けて苦しくはないの?
毎週金曜日に生配信をしているらしい。
また来週も配信があるのなら、
もう少し頑張ってみても良いかなと思った。
翌週、初めて生配信を観た。
ピアノに向き合っている彼の姿を観て、
止めようとしていたはずの心臓がひどく高鳴った。]