263 【ペアソロRP】配信のその先に【R18/R18G】
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視点:人 狼 墓 恋 少 霊 九 全 管
[異変には気づかれなかったのか。
少なくとも気づいた素振りは見受けられないまま
飲料は彼女の体内に落ちていく。
内心で胸を撫で下ろした。
自分が好きだと言ったものを
拒まないのは知っていた。
親に従う雛鳥のように愛らしい。
大事で大切だからこそ、自分は彼女を……。]
[塞ぎ込んでいた自分は
配信を始めることで新たな世界と繋がった。
少しずつ行動範囲が広がった。
偶には家を出て外で何かしようと
思えるようになったし、
身体を──指を動かすためだけにしていた食事に
豊かで複雑な味を感じられるようになった。
中でもハツナという視聴者の影響は大きい。]
[最初の下手な食レポは
田中さんに頼んで買って来てもらった
コンビニスイーツのパンナコッタだったか。
喉越しは確かによかったものの
「美味しい」とはよく解らずに口にしていた。
その後、告知用SNSを開いた時。
オススメのタブには
自分が食べたものと同じものを食べたことを
嬉しげに報告する投稿があった。
不思議な感覚だった。
それは一度きりではなく。
よく動画を見てくれている人だったから
何度もそういったことがあって。
一つのメロディを複数のパートが追い掛ける
演奏形式のような心地の良さで。
偽だった「美味しい」の感想が少しずつ。
少しずつ、本物に変わっていったのだ。]
[ソウマくんと同じ食卓を囲んでいる。
その事実だけでもう胸がいっぱいだった。
だってあのソウマくんだよ?
画面越しにしか逢えなかった憧れの人が
少し手を伸ばせば届いてしまいそうな距離にいる。
画面の中ではいつだって皆のソウマくんだけれど
今だけは、今この瞬間だけは
間違いなく私だけのソウマくんだ。]
[コースがこの順番で良かった。
彼女の前に好物を提供できたから。
直にジュースに仕込んだ睡眠薬が回る。
己の長い両の腕は、崩れ落ちる前に
彼女の身体を支える事が出来た。*]
[ソウマくんは、
そんなこと訊いてどうすんだよって
突っぱねたり笑って流したり
不機嫌になったりしない。
茶化さないで、穏やかな声で
まっすぐに私の話を聴いて
ひとつひとつ丁寧に、
ちゃんと言葉を返してくれる。
それどころか、
ソウマくんから見たら
とことん素性の知れないだろう私にも
目を合わせてふわっと微笑みかけてくれる。
幸せすぎていっそ怖い。
うっかり『え、好き』とか
真顔で口走りそうな自分も怖い。
ていうか既にもう何回か言いかけてる。
さっきだって言いかけた。
……やっぱり優しいな、ソウマくんは。
家で好き放題に愛を叫んでいたのが
申し訳なく思えてくるくらいに。]
[昨日ちゃんとベッドで寝なかったから?
白桃ジュースを二杯も飲んでしまったから?
久しぶりにラザニアを食べたから?
ソウマくんに逢えて、安心したから?
ちゃんと昼寝しておけばよかった。
ううん、今日だけじゃなくて
普段からもっとしっかり寝ておけばよかった。
ソウマくんともっと一緒に居たいのに。
話したいこともまだたくさんあるのに。
どうしよう、身体に力が入らない。
目が開かない。]
[それでも良い。
きみにどう思われても構わない。
誰に狂っていると糾弾されようと
自分の愛し方で愛するだけ。
それが正しいと信じているから。]
華音……、俺だけの華音
愛
しているよ──……
[目蓋にそっと口づけて、
城とも監獄とも呼べる自宅へ彼女を連れ去った。**]
[愛とか、恋とか、よくわからなかった。
ソウマくんに出逢うまでは。]
[小さな頃から、はっきり言って
私は要領が良くはなかった。
私には3つ年上のお兄ちゃんがいる。
お兄ちゃんは私とは正反対、地元では
勉強でも運動でも右に出る人はいなかった。
私が数時間かけても理解できないような問題を
お兄ちゃんは、ものの数秒で解いてしまう。
私が一つのお手伝いを熟そうとする間に
お兄ちゃんは手際よく十を終わらせてしまう。
明るくて、友達も多くて、よくモテて
いつだって誰かに囲まれて笑っていた。
対する私は、泣きながら努力しても
お兄ちゃん以上になれるものは
ひとつもなかった。
年齢を重ねれば重ねるほどに
ケンカでも敵いようがなくなった。
そして、何一つ敵えない私を
お兄ちゃんはいつも小馬鹿にしていた。]
[『気にしなくて良いのよ、華音。
華音には華音の良いところがあるんだから』
ママはそう言って私を慰めてくれた。
一方で、
テストの成績でも運動会でも
褒められるのはいつもお兄ちゃんの方だった。
『お兄ちゃんは何でもよく出来るのにねえ』
『華音ちゃんは可愛いから、
ただそこに居てくれるだけでいいんだよ』
そういう台詞も、聞き飽きるほど聞いた。
遠回しに『役立たず』って言われてる気がした。
悔しくて、情けなくて、惨めで
言われる度に躍起になって、
でもひとつとして満足に身に付かないうちに
お兄ちゃんはどんどん先に行ってしまう。
ラザニアが好きなのは、こんな私でも
大切にされてる、って思わせてくれたから。
刻んで、煮込んで、重ねて、焼く。
幾重にも積み重なる手間暇を微塵も惜しまずに
私のためだけに懸けてもらえる時間が嬉しかった。]
[お兄ちゃんに勝ちたい。見返してやりたい。
ただそれだけの理由で受験した
お兄ちゃんの高校よりもレベルの高い高校。
私が合格した同じ年に、
お兄ちゃんは大学受験に失敗した。
そのまま、部屋から出て来られなくなった。
家では口は悪いし下品だし手も足も出るし
私の楽しみにしていたおやつまで食べちゃうような
最低の兄だったけれど、
どんなに馬鹿にされても
どんなに羨ましく妬ましく思っても、
心のどこかで尊敬もしていた。
だって実際、お兄ちゃんは凄かった。
頭が良くて足も速くて
話すのも、教えるのも上手かった。
自分の勉強も大変だったろうに、
私の勉強を見ようとしてくれたこともあった。
ずっと勝ちたいとは思っていたけど、
あんな弱りきった姿を見たかったんじゃなかった。]
[無理を押して入学した高校では、皆が皆
それぞれの夢にまっすぐ向かって
毎日真剣に勉強をしていた。
入学当初こそ名前も知らない先輩たちに
立て続けに告白されたりもしたけれど、
誰も私自身の話を聴こうとはしてくれなかった。
勉強ができないと、会話も続かない。
そのうちに飽きられて相手にされなくなった。
ついていくだけで精一杯だった私は、
自分の本当にやりたいことが何なのか
何もわからないままで三年間を過ごした。
他の何を捨てたって
全てを懸けたいと思えるようなもの。
そんな熱い想いを抱けるもの、
私には何もなかった。]
[ただなんとなく、毎日を過ごして
先生に勧められるままに大学を択んで
流されるままに一人暮らしを始めてみれば、
大学ってのは、やりたいことがないと
どこにも居場所が見つけられない。
生きていても死んでいても
変わらない毎日が淡々と通り過ぎていく。
くだらない色恋話が飛び交う大教室の中で
私ひとりが消えたって何の問題もない。
……なんか、疲れちゃったな。
私が何をどんなに頑張ったって
どうせなんにもならないんだから。
今日を終わりの日にするなら、
最期はピアノを聴きたいな。
パッヘルベルのカノン。
何も考えずに無邪気でいられた
あの頃に帰りたい。
動画を検索していて偶然見つけたのが、
ソウマくんのチャンネルだった。
配信を聴き始めて数秒、自然と涙が零れた。]
[一体どれほどの時間をピアノに注ぎ込んだら
一度も間違えないで、左右で違う指を動かして
こんなに綺麗な音が出せるようになるの?
凄く努力家で忍耐力もあって、
頭も良くて孤独にも強いんだろうな。
私とは大違い。
ピアノが好き……、なのかな。
でも何だろう、うまく言えないけれど
少しひんやりしていて硬質で
楽しそう、とは少し違うような……
鍵盤に向かう表情からは何も読み取れない。
ねえ、貴方は
完璧を求め続けて苦しくはないの?
毎週金曜日に生配信をしているらしい。
また来週も配信があるのなら、
もう少し頑張ってみても良いかなと思った。
翌週、初めて生配信を観た。
ピアノに向き合っている彼の姿を観て、
止めようとしていたはずの心臓がひどく高鳴った。]
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