【墓】 どこにも行けない ヴェルデ街娼がひとり殺されるぐらい、ごくありふれた出来事だ。 街灯に照らされる石畳を蹴り、夜を歩いて。 自ら暗がりへ手を引いてゆくのだから、どうしたって人目につきにくい。 行き過ぎた嗜虐性に嬲られることも。 或いはクスリを使われ躙られることも。 店に管理されていない分、危険はずっと多くある。 だからこんな風に綺麗な死に方をしたことの方が、きっと、ずっと珍しい。 それでも少年は街路に立つことを選んだし、多少の無茶は厭わなかった。 けれど、結局。苦しみを理解するには欠落が多すぎた。 その苦しみを解するまで、死んではいけないだろうと思っていた。 だから少年は、死にたくないと思ったことはなかった。 それなのに、最期のそのとき、確かに。 ――死にたくなかったな、と。 諦観の奥に、喪失の苦しみを抱いた。 (+8) 2022/08/18(Thu) 18:44:10 |