【墓】 1年生 朝霞 純【現在・夢と現実の狭間で】 あなたって絵があんまり上手くないのね。 それとも私は化粧が崩れた顔ってイメージが強いのかしら? [どこかおどけたような声が聞こえる。] 最期なんだもの、迎えに来たわ。 [白靄の中、そちらを見ると、あの工藤さんがいた。 でも、顔は工藤さんそのものではなく、かといって綺麗な林檎でも砕かれた林檎でもない。 私の描いた、少し歪な林檎だったのだけれど。] さあ、私の手を取って。 誰かの死を悼むのもいいけれど、その前に少しくらい私との別れを惜しんでくれたっていいでしょう? [そう言った彼女の表情は変わらない。 でも私は、小泉さんの死を受け止める前に、少しだけ彼女に会いに行こうと思った。 夢が消える、彼女の肖像を見る機会もこれが最後。 分かってる、彼女はもういない、これは私の記憶の中の彼女。 でもちょっとだけ、夢を通して本物の彼女が、最期に私に会いたがって、私の記憶を通して話しかけてくれたのだと思ったから。 私は彼女の手を掴んだ。] (+178) かげ 2022/09/15(Thu) 22:45:41 |