【人】 piacere ラウラ【マウロの部屋】 >>16 リカルド様 便箋に書かれているのは、仕事に対するメモ──アドバイスで。 床に転がるいくつかは書き損じたものなのだろうかと察せられる。 どうしてこんなものを?答えは……答え、は。 ──便箋に小さな雫の跡が作られた。 視界が滲む。 「……、っ」 己の感情に理解が追いつかず、口の端から震える吐息が漏れる。 それらが自身が零したものだと言うことさえも、信じられなくて。 近くにいる貴方に気付かれないように、 また 乱れてしまった呼吸を整えるために深く息を吸う。はく と口を動かす様は餌を求める魚のようで、何だか滑稽にも見える。 写真立てを握る力は僅かに強まり、1度落ちた雫は止められない。 顔を歪めることなく落ちていく涙は、本当に女の意思ではないように思えてしまうが……。 ゆっくりと、背が丸くなる。肩が震えることも抑えられない。 それから少しして、カタンッ と音を立てて写真立てがサイドテーブルに置かれた。 女は、……ラウラは──────。 (17) 2022/08/18(Thu) 17:49:34 |