人狼物語 三日月国

95 演劇の村 第一幕


【人】 【鬼】 虎熊童子


「重要なのは……狼よ、重要なのは『桃太郎一行』であると言うことだ。『桃から生まれ』、『三人以上』の仲間を連れた『桃太郎』が、この『鬼ヶ島』に上陸することが重要なのだ」

 ゆらり、と。陽炎が揺れるように虎熊童子は立ち上がった。
 二十尺はあろう屈強な肉体に、針金を思わせる白髪。肌は海より深い青色で、天に向けた一本角が目を引く。
 彼は鬼の四天王が一角、大鉈の虎熊童子である。
 不思議な感覚であった。
 彼は産まれてからこの鬼ヶ島にやってくるまでの正確な記憶を有しており、そこに矛盾や不可解な点は存在しない。
 であるにも関わらず、まるで自分という命がつい先日誕生したかのような、そんな違和感を感じており、そして同時に、虎熊童子はある使命感を手に入れていた。
 近い将来、この鬼ヶ島に桃太郎という存在が仲間を引き連れやってくる、この虎熊童子を討伐するために。
 そいつらの相手をするのが自身の『役割』なのだと、虎熊童子は本能で理解していた。

「俺が相手にするのは『桃太郎一行』だけだ。俺を喰らいたければ、桃太郎の元へ行け。そして奴の仲間となるのだ。いいか狼よ、重要なのはそこなのだ」
 
(34) 2021/09/20(Mon) 22:43:08